019. 発行部数100万超えたとか超えないとか
使われなくなって久しい空き教室において、蓮真は一人本を読んでいた。
日の光を明かりにしており薄暗いが、人の声がほとんど聞こえない静かな一室であり蓮真にとっては落ち着いて本を読むのにうってつけのスポットとなっている。
読書に没頭している内にがらりと扉を開ける音がしたので見てみると、清野深言の姿があった。
「どうも」
「ああ」
互いに軽い挨拶を交わす。前髪を切り揃えたショートボブに凛々しい切れ長の目をした小柄なその女子は蓮真の近くの椅子に腰を下ろした。
この空き教室ではどういう経緯か不明だが机は大体隅に追いやられ、中央にて椅子が色々な方を向いて雑に配置されていた。蓮真と深言の席は相手の座っている姿勢を互いに横から見る位置関係だ。
深言は蓮真の手にある本に目を向けた。
「『エイトビート大暴落』ですか」
「そうだな」
「奇遇ですね。私も今日同じ作者の本を持ってきてたんですよ」
「ん」
蓮真は返事をしつつ、深言も本を鞄から取り出すのが見えた。
「『寄席ハイヤーモンク』か。確か『ビー大』の後に書かれたんだっけ」
「ええ。『ビー大』が面白かったので次回作もと思って」
「ほう、俺も次はそれ読むか」
「今は私が借りてますのでその後で」
深言が持っている本は図書室所管のもののようだ。
その後二人はどちらからともなく読書に入った。
二人の呼吸の音と本をめくる音だけが空き教室を占め、互いに自身の読む本の世界を楽しんでいた。
やがて最終下校時刻を知らせるメロディが流れ、蓮真と深言は顔を上げた。
「もう帰りの時刻ですね」
「だな」
二人は本を鞄にしまった。
蓮真はその後掃除用具入れに向かい、箒と塵取りを取り出した。
「あ、掃除するのですか」
「勿論。これをバットに野球ごっこする気はないぞ」
「そんな小学生みたいな…じゃなくて、わざわざ掃除を?」
「使ってるんだからたまには綺麗にするさ。誰も掃除してないみたいだし」
蓮真が最初にこの教室を訪ねたときはひどいものだった。塵が所狭しと飛散し、机や椅子の上に埃が積もらない所は無かった。蓮真が換気と掃除をしばしば行ったから今のように何とか使える状態にまで回復したのである。
「そうですね。でしたら私も」
深言も掃除用具入れにある箒を手に持った。
それから二人で空き教室を掃除した。二人とも分担して手際よく行ったのもあって早くに終わり、いそいそと鞄を手に教室を出た。
そのとき、深言が蓮真の方を向いた。
「今度『ビー大』の話でもしましょう」
「ん」
蓮真が頷いたとき、深言の口元が緩んだように見えた。




