018. 土佐犬をイメージしました
「五月雨君」
「どうした」
「一体何するつもりなの」
休日の午前、愛花は蓮真から遊びに誘われて変電所の近くまでやってきた。この辺りは通学路から少し離れ、人があまり通りかからない。
そんな所にやって来た愛花が蓮真の姿を突っ込んで唖然とした。
学校で普段から見かける制服姿の彼の背中から白鳥のような翼が生えている。頭の上には黄色く輝く輪っかが浮いており、さながら天使のようである。
天使姿の男の右手にはステンレス製の物干し竿が握られており、平然と佇んでいた。
というわけで冒頭のような質問をしたのだが、
「ビーチバレーをしようと思って」
「ビーチバレーが何だか全然わかってないでしょ」
案の定理解不可能な答えが返ってきた。
「他の遊びしない?」
「ん、じゃあこれはどうだ」
蓮真は手に持っていた物干し竿の中央を両手で掴み直した。
「今度はどうするの」
「まあ見てろ」
そう言われて少し様子を見ると、蓮真は竿を両手で雑巾絞りのように捻り始めた。
「え」
愛花が呟くも構わず蓮真は竿の節々をどんどん捻っていった。捻る際にアルミ缶を潰すのを何倍にも豪快にしたような音が立ち、捻った箇所は綺麗に圧縮され、連結されたウインナーのような形状になっていた。
「ええええええ⁉」
愛花が叫ぶのも気にせず蓮真は竿を捻った箇所で折っていった。
捻った箇所同士をクロスさせ、そこを繋ぐようにまた捻り、どんどん竿を加工して漸く一つのオブジェが出来上がった。
「犬」
「い……犬?」
「おう、簡単なものだけどな」
加工された竿は確かに犬の形をしていた。
見た目や工程はバルーンアートでよく見る犬のようであったが、それって金属の棒でも簡単に作れるものだったっけ……?
愛花はステンレス製の細長い犬を見つめながらひたすら考え続けた。
「さて、もう帰るか」
「えっもう」
「うん、もう」
「私何で呼ばれたの……」
犬のオブジェを細部まで満足気に鑑賞していた蓮真は暫く経った後にそう言った。
他の遊びをする気も今日はこれ以上無かった、つまりは飽きたので後は家でのんびり過ごそうと思ったのだ。
愛花は脱力感を漂わせていたが、
「あ、ところで五月雨君」
「ん?」
「連絡先教えてもらってもいい?」
「ああ、いいけど何で?」
「いや、知らないと不便だし。今日の遊びに誘ったのも一昨日の教室でだったでしょ」
蓮真は愛花の電話番号やらメールアドレスやらを知らない。そのため直接顔を合わせている間に一緒に遊びに行くか訊いたところ、愛花は一瞬間を置いた後「いいよ」と返したのだ。
確かに今後も連絡を取り合うかもしれないし、互いに知っておいた方がよさそうだ。
「えーと、IDは?」
「ID?」
「ああ、これこれ」
と言って愛花は自分のスマホをこちらに向け、無料通話アプリのアイコンを指さした。
どうやら無料通話アプリで連絡するのに必要な情報を尋ねているようだが、
「俺、これやってないぞ」
「えっそうなの、どうして?」
「何となく」
「えー……もういいや、なら電話番号とかメルアドとか」
「ああ」
こうして蓮真と愛花は連絡先を交換した。




