017. 映画館の甘い匂いに惹かれて
喧噪に溢れた街中の一角にある静寂と暗闇を保つ映画館のシアターの中で、相馬洋子は友達とゆっくり映画鑑賞していた。
友達が好きな作品の映画化らしく付き合いで見ていたものの、自分には今一つ面白いと感じなかった。
用を足すと言ってシアターを出て、少しスマホをいじってから戻ろうかと思案しているとある男子とすれ違った。
「あっ」
洋子はつい声を上げてしまった。これで会うのは三度目だったか。
その男子は洋子が声を上げた直後、怪訝な顔を向けた。
「す、すみません、びっくりさせちゃって」
「いや、別にいいですけど」
男子は事もなげにそう返した。
(暇潰しに少し話してみようか)
洋子は興味本位で男子に問いかけた。
「この前私のスマホを拾ってくれた方ですよね」
「ん? ああ、そんなこともありましたね」
「やっぱり。この所よく会いますね」
「そうですか?」
「バスのこと、憶えてませんか」
「バス……ひょっとして中で転びかけた」
「そうなんだけど、そう言われるとちょっと恥ずかしいかな」
「バスの中で大惨事になりかけた」
「そんな大げさにしなくても」
「バスの中で異常な事態に見舞われた」
「バスジャックじゃないんだから」
「これ以上適切な表現はちょっと思いつかないです」
「山ほどあると思うんだけど」
初対面から思っていたが、男子は中々の変わりも……個性溢れる人物らしい。
折角だしと、洋子は名前を尋ねることにした。
「私は時雨中の相馬洋子。貴方の名前、教えてくれない?」
「青蘭中の五月雨蓮真って言います」
「そう。よろしく」
青蘭中学校は洋子の通う時雨中学校の隣の学区にあたる。洋子の家から自転車で行けばおよそ20分で着くぐらいの距離だ。
洋子はもう少し喋ろうかとも思ったがあまり長く席を空けると流石に友達も心配させるかもしれない、とシアターに戻ることにした。
「引き留めてごめん、じゃあまた」
「はい、それじゃあ」
そうして二人は別々のシアターに戻っていった。
洋子は蓮真とまた会うような気がしていた。




