016. 早く帰らないと新商品の企画会議が
清野深言は放課後の校内を一人で歩き回っていた。
というのも読書の最中、誰にも気を遣うことなく一人で読書に集中できる場所を求めていたからだ。
図書室も静かだが、時折もっと静寂な空間で過ごしたいこともある。そういう場所が校内にあれば昼休み等に活用させてもらおうと思っていた。
深言の通うこの青蘭中学校は一昔前には一学年十クラスを超えることもあったというマンモス校だったらしく、現在は空き教室がそこかしこに存在する。
深言は空き教室の中でも特に生徒や教師が足を運ばないようなところを調べた。
そうしてとある空き教室に目を付け、下見をすべく教室の扉を開け足を踏み入れると一人の生徒がその教室の席に座って悠々と読書していることに驚いた。
(あれ、この人は)
深言は空き教室にいる生徒がしばしば図書室で見かける男子と気付いた。
男子は教室の出入口で止まっている深言を訝しげに見ていた。
そして少し考える素振りを見せると座っていた席を立って深言がいるのとは反対の出入口に向かった。
「あ、あの」
「ん?」
深言が男子の意図を察して慌てて呼び止めると男子は深言の方を振り向いた。
「別に出ていかなくて大丈夫ですから」
「いや、でも」
「本当に大丈夫です」
「そ、そうか。それなら」
男子は少したじろいだ様子ながらも、先ほど自身が座っていた席に戻って腰を掛けた。
深言としては自分が追い出したようでいたたまれなくなるよりは、という思いもあったがそれ以上に訊いてみたいこともあった。
「ちょっといいですか」
「ああ、いいよ」
「貴方も本が好きなんですか?」
「好きだけど」
「どんな本を読んでました?」
「そうだな……」
深言は男子の読書における趣味や嗜好を知りたかった。今まで彼が図書室で読んでいた本を見ても深言の趣味と合っていることが多く、ひょっとしたら話も合うのではと期待していた。
深言の友達とは本以外の話題で談笑することはあっても本に詳しいのは深言ぐらいであり、自分からその話に切り込めなかった。
男子は自分の好きな作品について語りだした。果たして深言が好きなものと大方一致していた。深言が読んだことの無い本の話もあり、そのタイトルについては自分の記憶に刻んだ。
「悪い、用事があるからそろそろ帰らないと」
「あ、すみません」
男子がそう言って席を立った。同じく隣の席で座っていた深言は最後にこう尋ねた。
「貴方の名前を教えてもらっていいですか」
「五月雨蓮真、一年。君は?」
「私は清野深言。一年です。同学年だったんですね」
「そうだな」
深言は男子の学年がわからず、先輩でも失礼にならないよう敬語を使っていた。
次からはどうしようかな、と深言は帰り際に考えていた。




