014. テレパシーを覚えるべきか
「おはよう、五月雨君」
朝、登校して教室の机に鞄を下ろした蓮真にそんな声が掛かった。
声の主は中田愛花だった。ショートヘアで顔つきに幼さを感じる丸い目つきの少女で、席は蓮真の隣だ。
「おう」
「ちょっと話いい?」
「ん? 何だ」
「この前の猫の木彫りのこと。あれ妹に見せたらすごい気に入っちゃった」
「そうか」
「私も可愛いと思ってたしそりゃそうだよねって」
愛花はやや表情を綻ばせた。姉妹というのは好きなものとか感性が似るものなんだろうか。
「ところで、あの猫を寝転んでる姿にしたのってどうして?」
「どうして、とは?」
「いや、猫のポーズって座ったり丸まってるのが多いと思うけど何でわざわざ寝ている姿にしたのかなって」
「占いに出てたから」
「え?」
「寝てる猫の彫刻を作ると今日は最高の運勢になるとテレビで」
「出るわけないでしょ、そんな五月雨君のためだけのようなメッセージが」
「あと開いた目を彫って塗るのがメンドくさ……難しそうだったから」
「メンドくさいって言いかけたよこの人」
愛花は呆れ顔になりながらも言葉を続けた。
「でも、私に作ってくれたんだもんね。改めてありがと」
「ああ、別に」
「ふふ」
何がおかしいのか愛花は含み笑いをした。
その後愛花は友達の元へ移って談笑していたが、放課後にまた蓮真に話しかけてきた。
「ね、五月雨君って普段何してる?」
「何って……主には食事や睡眠だな」
「うん、私の聞き方がよくなかったね」
愛花は無機質な声音になったがすぐに元の調子に戻す。
「ネットの配信動画見たりマンガ読んだりはしないの?」
「あんまり無いな。他のことで時間潰してるし」
「へえ、例えば?」
「カヌーで近所の川を下ったり」
「え」
「気球で富士山まで飛んで行ったり」
「ちょっと待って」
「シロナガスクジラに乗って下関海峡を横断したり」
「いや、どういうことなの」
「そんな妄想をしてる」
「全部フィクションだった⁉」
愛花は少し疲れたような表情になった。
「はあ、まあいいや。でもさ」
机の上にある通学鞄を持った愛花は蓮真の方を見ずにこう言った。
「もし外で遊ぶなら私も誘ってね」
そうしてそそくさと教室を出ていった。
蓮真は愛花の連絡先を知らないのだがと不思議がった。




