013. 一番のこだわりは背中の丸み
「中田、ちょっといいか」
それは放課後のことだった。教室にて皆でさようならと挨拶を言って部活に行こうとしたところで、愛花は蓮真に声を掛けられた。
隣の席であっても蓮真から愛花に話しかけるのは初めてであり何の用か純粋に気になった。
「どうしたの?」
「とりあえずこれを見てくれ」
蓮真はそう言うと通学鞄の中に手を突っ込み何かを取り出した。
愛花が注目すると、それは猫の彫刻であった。
「え、それどうしたの」
「この前木彫りの猫を彫る話をしたろ」
「あ、そうだったね」
言われるまで忘れていた。蓮真は構わず続けて
「それが昨日完成した」
「え、これを五月雨君が」
愛花は猫の木彫りを改めてまじまじと見た。
猫はデフォルメされたマスコットのような造形ではなく、写実的に整えられていた。眠っている猫をモデルにしているらしく、その姿はごろりと体を横にしており目は気持ちよく閉じられていた。
愛花はその愛くるしい見た目にたちまち見とれてしまった。そうしていると蓮真が
「ほい、これ」
と愛花に言った。愛花は一瞬呆けたが、すぐに察しがついた。
「これ、まさかくれるの?」
「? 最初からそのつもりだったが?」
「いや、そんな当然のように言われても」
正直先ほどまで蓮真が木彫りを作ることも忘却していたのであり、あまり話についていけてないのだ。
確かに猫の木彫りが欲しいみたいなやり取りもしたような記憶もあるが、本当に作ってくるとは当時夢にも思ってなかったしましてや自分にくれるという期待も特になかった。
大体こう言ってはなんだが普段からさほどの交友も無い。まともに接したのは授業中や下校時に偶然あった数回ぐらいのことで愛花は蓮真がそこまでしてくれる理由もよくわからなかった。
愛花が頭の中であれこれ考えていると、蓮真が言った。
「この前片付けを手伝ってくれたお礼」
愛花はきょとんとした。何ともシンプルな理由だった。
薪の片付けは少々きつかったが愛花からすればそんな気にする程でもなかった。でも蓮真は律儀にお返しを用意してくれたのか。
愛花はふっと笑った。
「ありがと、そういうことならもらうね」
愛花は笑顔で蓮真の手の上で寝ている猫を優しく掴んだ。
「でも大変だったんじゃない、この猫ちゃんを作るの」
「いや、ゴールデンウィークの期間だけで済んだぞ」
「ちょっと待って、まさかゴールデンウィークの休み全部使ったってこと⁉」
「ああ、そうだが?」
愛花は呆れてしまう。貴重な休暇を彫刻作成に全て使う学生とは全国にどれだけいるか。
(とはいえ私のために作ったんだよなぁ……)
愛花は改めてそのことを振り返る。
「何か……ごめんね」
「何に謝ってるかは知らんが別にいいぜ」
「そう……」
「じゃ、引き留めて悪かったな」
「いいよ別に、それじゃまた明日」
こうして蓮真は家へ向かい、愛花は部活に向かった。
気候は暖かさを増し、春は本番を迎えていた。




