011. 良い塗料を求めて
ある土曜日の午後、繁華街では雑踏や雑音が入り交じり種々の店が賑わっていた。
相馬洋子はそんな街を一人でぶらついていた。たまにこうして友達と一緒では買いづらい個人的な趣味のもの等を買っていくのだ。
洋子は気ままに色んな店を出入りし、お小遣いで買える物を手に入れた。
買い物もひと段落したところで洋子は街中にいた一人の男子を目に留めた。
記憶違いでなければこの前バスの中でカニかまを生で備えていた男子である。少しぎょっとしたが無視すればいいか、と洋子は何食わぬ顔で目を逸らした。
洋子はついでにスマホを見ようとポケットから取り出そうとするが、手が滑ってスマホが地面をカツンと叩いた。
その勢いで洋子のスマホは地面をスライドしていき、ちょうど近くを歩いていた人の前で止まった。
そう、例の男子の前であった。男子はその場でしゃがみスマホを拾い上げると洋子の前にスマホを差し出して
「はい、どうぞ」
と穏やかに声を掛けてきた。洋子は慌ててスマホを受け取った。
「あ、ありがとうございます」
洋子はお礼を言いながらこの前も似たような返事をしたなとどうでもいいことを思った。
男子はそのまま歩き始めてあっという間に洋子の視界から消えていった。
この前は中々強烈な印象を彼に持ったが今日は至って普通の格好であり、この前のことは夢か何か見てたのだろうかなどと洋子は街で遊んでいる間に時折考えを巡らせていた。




