第90-5話 Day2昼:あれもこれも加減が大事
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「なにするのー?」
「うーん、なんというか、元気になるおまじない? みたいな感じよ」
どうせ今この場ではバレない。なら、今この場を切り抜けるために、昼間だろうがなんだろうが、そんなことはお構いなしにあれはやるべきだ。
真昼間からやりたくはなかったし、既に疲れているのに輪をかけて疲れるし、掟破りだし、後々怒られるかもしれないし。
そんな嫌な気持ちを全て飲み込み、一度手放した妖狐の体をもう一度抱き抱えた。
それから 手に力を込めた。
物理の力ではなく、魔法の力。
すなわち魔力を。
そう、あれとは、すなわち魔法のことだ。あんまり昼から使う予定はなかったけれど、今は魔法の力に頼らざるを得ない。
少し集中する。世界から音が消え、光が消え、代わりに魔力だけが視えるようになる。
魔力の移動、想像の創造。
それらは時間と空間の制限を打破するために。
小さい体で補いきれない魔力を世界から回収し、創造した容器に注ぎ込む。
一滴、また一滴と、しずくのように魔力をかき集め――
よしっ。セットアップ完了。
私は、ありったけの力を放出した。
『基礎治癒魔術!』
魔法を解禁した私に怖いものはない。
基礎治癒魔術に関しては、ノルンに対してたまに行うので(怪我をさせるとカルトラに怒られるので)、もはや治癒方法としてはこっちの方が慣れている。
ただしよく考えると、これは人間用の魔法。魔物にも効くのだろうか?
『知らね。効くんじゃない?』
念の為、神様に尋ねると、曖昧な回答だった。
「あら、ご存知ではありませんのね」
『残念だけど、君たちの信仰する神様はそこまで完璧じゃないんだよね。教義にも書いてるよ』
「信仰していませんが」『してよ』「ヤダ」
そんなことを心の中であれこれと討論している間にも、治癒魔術を受けている妖狐は体をモゾモゾさせていた。
治癒魔法を受けた時に感じる、痛いというかこそばゆいというか、そういう独特の症状によるものだろう。
ただ、今回は引っ掻かれる様子はない。
ふっ、ついに私も加減が分かるようになってきたらしい。
ホクホクとした気持ちで、私は魔法を続け――
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『ほら、調子乗るからそういうことになるー』
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「なんでか知らねーけど、こいつ、すげーピョンピョンしだしたぞ」
「私がま……おまじないをかけたのですから、そりゃ元気に……ちょっとまっ、本当にものすご元気ですわね」
その妖狐は、おそら完全に傷が癒えた。
ただ、完全というと百パーセントを想像するが、どうやら今回はそれ以上だ。
私が抱えている手を離すと、それはもう、傷なんてないかのようにピョンピョンと飛び跳ねた。
その様子は、まるで……いやどう考えても、昨日の夜よりも断然元気で、ダイナミックな躍動感である。
あー、やっぱり。多分、というか間違いない。これは百じゃなくて、百二十でもなく、百五十から二百ほど。
うん、やりすぎた。
基礎治癒魔術は人間の基礎体力を外部から魔力で補うことで、傷の回復を極早にする、という仕組みだ。
非常に便利な魔法なのだが、ただ一つ、注意点がある。
基礎治癒魔術は、度を超えた使用が御法度とされているのだ。
御法度とされる理由は二つ。
一つ目は、魔力で強制的に人間の体力を回復させ続けても、人間としていずれ壊れること。
ただ、この説明は省略しておこう。今回は関係ないし、話すと専門的な話になりますので。
今回の問題はおそらく二つ目の方。
こっちは専門的ではない。むしろ子どもを持つ親の方が詳しいんじゃないか? と思うほど単純な理由。
「おい、こいつ元気すぎないか!?」
「ダメです、動きすぎてて、それを見てたナーコさんの目が回り始めました!」
「あれー、回る世界が廻って見えるー」
そう、めっちゃ元気になるのだ。
ものすごい、という言葉では表現できないほど、元気になる。単純に元気になりすぎて、手がつけられなくなってしまう。
それはもう、これが原因で犯罪が起こるレベルで。
「やっちまいましたわ。とりあえず、この子にはどこかに行ってもらいましょう。シッシ、どっかいきなさいな」
これ以上ここにいられても色々破壊しかねない。そう思い、私は早急に妖狐を手で追い払った。
妖狐はピョンピョンと飛び跳ね、ついでに私の腕に肩にと飛び乗り、そのままジャンプ、それから大の大人も飛び越えられないような川を飛び越え、森の中に消えていった。
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色々あったが、窮地を脱することはできた、という結論になった。というか、その結論に決めた。
大人に見つかることなく、妖狐を対処した。
彼らに妖狐の正体がバレることもなく、先生や施設にバレることもなく。
少しばかり加減を間違えたせいで、ちょっとややこしいことになっているけれど、この瞬間を問題なく切り抜けられた。
今はそれで十分、そう自分を言いくるめ――
『ねぇ君。現実逃避とは随分と調子がいいようだね。君が目を背けているから言っちゃうけど大丈夫?』
「ねぇ神様。違うのよ。わかっていることをわざわざ言わなくてもいいのよ?」
――たかったが、神様は見逃してはくれないようで。
いや違う。目を背けたわけじゃなく、あとで見るリストに入れただけ。今は考えたくないだけ。
そう、ちょーっと面倒なことは、あとで考えたいだけなの。
ただ、神様はそんなこともお構いなし。
私が思考を放棄していたことを、神様はしっかりと言語化してみせた。
『あの妖狐、どうするの? 昨日も苦戦してたのに、その数倍元気な状態だけど? てか無理では?』
「私が知りたいですわよ!!!」
そう、私は今から処理しなくてはならない魔物を、バカみたいに元気にしてしまったのだ。えっ、何してるの? バカじゃん私!?
目を背けたくなる現状に、一応目を向ける。
妖狐は昨日より元気だ。もちろん、流石に昨日の策は通じない。現在有効な策はない。
一方私は、先の行動でかなり疲労が溜まっている。夜までに魔力が回復するかも微妙だし、全力ダッシュしたおかげで足の疲労も最高潮だ。
うん、状況は最高である。
もはや討伐は無理筋なのでは? そう言いたくもなるが、そうはいってもやらなくちゃならない。私がやらないと一体だれがやるというのだろうか。
とはいいつつ……
えぇぇっっと、マジでどうしよっかな?
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