第318話 相克
来週の更新は遅れるか休みます(・・;)
「うおぅっ!? さ、左舷被弾っ!」
「艦長っ、やべぇ! コントロールがっ……!?」
「ぶ、ぶひいぃっ!? か、慣性制御ぉっ! 右舷スラスター調整で姿勢を維持! 何とか堪えるんですぞ!」
小さく、すばしっこく、目立った攻撃力を持たない。
ただそれだけの理由から狙われることもなく、かといって蚊や蜂の如くチクチクと連合艦隊の邪魔していたディルフィンがとうとう捕捉され、勢いよく墜落を始める。
「うわわわわわっ!? 不味い不味い不味い不味いっ、艦が傾き出してるよぉ!?」
「こ、この感じっ、普通じゃねぇぞ!」
「フェイのやつが重いんだ!」
「ダメだっ、お、墜ちるっ……!?」
「もももっ、持たせるんですぞっ! それが操舵手でしょぉっ!? ぶひいぃんっ、そ、総員っ、何かに掴まってぇ!!」
『砂漠の海賊団』からのベテランオペレーターや少しずつ経験を重ねてきたジョンも手を尽くすが、バランスを崩したことが災いした。
船首と甲板に引っ掛けるようにして確保していたシヴァトの重量が足を引っ張り、船体がつんのめるような急角度へと陥ってしまった。
MFA顔負けの推力を誇る各スラスターの抵抗も虚しく、浮上は叶わず。
「「「「「うわああああああぁぁっ!?」」」」」
「ぶっひいいぃぃんっ!?」
そうして、あわや付近の荒れ地に体当たりを噛ますかという直前。
『フーッ……おいおい……アタイがあんだってぇ……?』
目を覚ましたらしいフェイが機体を動かし、船腹へ。
『ぶ、ぶひっ、フェイ氏っ!? 大丈夫なんですぞぉ!?』
『こんな幼気なレディに……失礼な連中さね』
驚くジョンに呆れた口調で返しつつ、密着させた艦とシヴァト、両の装甲が軋み、歪んでいくほどのエネルギーを真下に放出。ミサイルのように墜ちていたディルフィンは地面スレスレで持ち直した。
「「「「「うぎゃあああぁっ!?」」」」」
艦内で浮いていた搭乗員の身体は慣性の法則で一斉に壁と床に叩き付けられ、ブリッジ内ですら血飛沫が舞う。
「ぐえぇっ!?」
「ぐううぅっ、ば、バカっ、ベルトしないからっ!」
「おいっ、操舵手が吹っ飛んでった! だ、誰か動けるやつぁ居ないのか!?」
「す、推力安定っ……!」
「俺がやっ……おっ、コントロールが戻った! 動くぞ!」
「フェイの支援があっても上がれないよっ! 艦長っ、どうする!?」
「ぶぎぃっ!? 舌噛んだっ、舌噛んだぁっ!? ベロ失くなってないっ!? ねぇ誰か答えてほしいんですぞぉ!」
殆どの者は緊急用のシートベルトに肉を食い込ませ、幾つかの骨が折れ砕けるだけで済んだものの、助からないレベルの怪我人も出ている。
加えて……上空。
少しずつでも減っていっていた筈の『ターイズ連合』の艦隊が明らかにその数を取り戻していた。
否、違う。
思わずパニックになりながらも激を飛ばし、望遠モニターを艦長席から手動で作動させ、ジョンは気付いた。
「ぞ、増援……!? 別働部隊っ……いや、旗艦らしき艦影っ……! ライ氏が先行した為に置いていかれた本隊の艦隊っ……!? ほ、ホントに不味いんですぞっ、ヤバいんですぞ! メイ氏っ、早くシキ氏をっ……!」
マナミが合流したのか、大規模な艦隊戦に移行していた『メサイア』までもが息を吹き返し、帝都は放ったらかしで撃ち合っている。
普段なら敵対勢力だが、今この場では……
焦りと不安がそんな腰の引けた、ジョンの思考を後押しした。
『何とかして上昇するんですぞ! マナミ氏も恐らく望んでない状況っ、上がりさえすれば修復してもらえますぞ!』
「な、何とかったって……!」
「どうしろってのよ!?」
艦内がああだこうだと言い合いを始める中、フェイもまたコックピット内で頭部から血を流し、パイロットスーツとシートを赤く染めている。
『はぁ……はぁ……う、くっ……こ、これだから素人は……簡単に、言ってくれる……この機体が特別じゃなかったら……とっくにお陀仏してたってぇのにさ……』
一瞬だけ回線を開き、てんやわんやのブリッジを見れば小言だけで黙らざるを得ない。
溜め息すら出ない事態に気が遠くなりつつも、「女王との決着付けてないのに……し、死ねるかってんだ……」と呟いた銀短髪の少女はもう一踏ん張りだと、血で滑る操縦桿を握り直し、自分の色で見辛くなった周囲モニターを見つめるのだった。
◇ ◇ ◇
飛行形態に変形した銀灰色の機体が改めてディルフィンの船腹を押し上げるべく接触する頃。
シキ達の戦場は空から地上に移っていた。
「このっ……卑怯者っ! 王を自称するなら正々堂々と戦え!」
「クハッ、目糞が言うことぉっ!」
自らの母艦と同じように急降下からの地上直前で軌道変更。戦火にある帝都内を魚が泳ぐが如き速度で飛び回り、ガキンガキンと獲物をぶつけ合う。
理由は一重に魔力量の差。
ほぼ近接一辺倒のシキとオールラウンダーかつ無尽蔵に属性魔法を放てるライとでは手数に壁がある。
前者は360度以上を警戒し続けながら限りある魔力を節約して戦わなければならず。
後者は空中戦ならば自由に【紫電一閃】も使える。レールガンも属性魔法も撃ち放題。そのくせ、敵からの反撃は少ない。
必然的にシキは場所の変更という選択を取り、敢えて向こうが戦い辛い都内に誘い込んだ。
「傲りだなっ、クソ勇者! 自分ほどの人間が本気を出せばと無意識に他者を下に見るっ!」
「そんなことっ!」
大通りの開けた直線ならいざ知らず、世界最高峰のMFAを装備しているシキ相手ではライの方も行動が制限される。
狭い空間だ。稲妻化も出来なければ遠距離攻撃を放ったところで瓦礫の雨を招くだけ。
シキが定期的に建物を破壊して妨害を図るのも嫌がっているようだった。
「では何故、直接のトドメに拘るっ!? この帝都ごと俺を狙えば良かろうものをっ……! 持ってる奴の発想なんだよそれはっ!」
「だから何もするなってっ!? 所詮この世は〝力〟だと世界を狂わせたその口でぇっ!」
魔障壁の代わりか、『風』で造られた結界が紫炎の乗った爪斬撃を、そして大小様々な礫すらをも弾く。
そうして……入り組んだ道を、建物群の中を問答しながら抜け、反転しながら、あるいは真正面から斬り、蹴り、刺して、撃つ二人が辿り着いたのは半壊した帝国城。
「形式がなんだ気持ちがどうのとっ、下らんことを気にする余裕あったればこそ!」
未だ燃える庭……ルゥネの遺体がその炎に飲まれゆく光景を尻目に城内へ。
「非合理こそが人間足る所以だっ! お前やロベリアのように人を機械の部品に変えようとする冷徹な心こそが!」
さながら神殿のように明け透けとなりつつも支柱は無事らしい。外の様子が見える廊下を駆け、出入りを繰り返しながら吼える。
「既存の体系に嫌気が差しっ、革命を志した者に道理を説くかッ!」
ここでレールガンを使えば完全に崩れるとわかっているのだろう。
ライは武装を聖剣だけに集中。器用に身体を捻り、壁を蹴って跳ね、追ってきた。
「人殺しを美化する男が何を言うッ! 何をしたところで人の本質は変わらない! 世界が変わったところでまた新たな支配者が台頭するだけだろうがっ!」
何世代も前の皇帝が建造させたというこの城には特殊な呪術……所謂、『呪い』が掛けられている。
それはありとあらゆる魔法の妨害術式。魔力や魔粒子はそのままに、何らかの事象へと至るその道を外部から阻害し、霧散させる。
スキルである《光魔法》の白翼は健在なようだったが、羽根を飛ばすようなことがあれば生き埋めになってでもという気迫は知れたこと。
「だったら! 別々の土地を、別々に統治すれば良いっ! 事実っ、それで世界は平和を保ってたじゃないかっ!」
元は螺旋階段があったのであろう縦長の空間で敢えて下から斬り上げてきたライに対し、シキは義手の添えた刀剣で受け、後退ならぬ上昇の後、直ぐ様逆噴射を掛けて刃を返す。
「仮初めの平和を……なァッ!」
「くっ……!?」
普通に防ごうとすれば間に合わなかったところを、聖剣に流した魔力を魔粒子に変換することで剣の交わりを可能とされ、ガキイィィンッ……! と、派手な金属音と火花が散った。
辺りの火の光と花火のように鳴り響く砲撃音、流れ弾による地響きの中。
二人は互いに上下に分かれ、再び背面の推力を全開に衝突する。
「一方的な価値観と〝力〟で他種族を虐げ追いやりっ、あまつさえ欲を出して俺達を招いたッ!」
「増長は認めるさっ、だから滅んだッ!」
「武装蜂起を起点とした戦争によってだろうがっ!」
「これ以上争う理由がないと言っているっ!」
ギリリと押し合うような鍔迫り合いを同時の蹴りで終わらせ、二度三度と壁を伝ってスレ違い様に斬り合っているうち、塔のような造りの戦場が崩れ出していく。
「結果的に見ればお前が正しいのかもしれないっ! 今の人々には新たな『教え』が必要なのかもしれないっ!」
とうとう天井がバラバラになって落ちてきたのを良いことに、それすら足場にして剣戟を続ける。
「いずれは誰かがやらねばならぬことっ! 腐ったミカンは周囲を巻き込む毒だっ! だから焼くっ、だから殺すっ、だからぶっ壊すッ!」
瓦礫を蹴って飛ばし合い、躱し、それごと斬って返し……魔障壁も魔法結界も儘ならない現状で生傷を増やしながらも剣と剣を、剣と義足のブレードを交差させる。
「そのやり方っ、お前が否定した聖神教と同じだっ! 聞こえの良いことばかり並び立てておいてっ、歴史の過ちを繰り返しているのはお前なんだよっ!」
「汚れ役だろうが何だろうが必要だからやろうというのだっ! 正義の執行が貴様らの専売特許ではないことを教えてやるっ!」
戦闘の余波、衝撃、そして降り注いだ岩屑で落盤した地面が全体の倒壊を呼び込めば横に空いていた穴に飛び込み、砲弾が直撃したらしい跡地へと出てしまう。
が、そこは慣れ。
熱が入っている手前、口調こそ体裁を気にした魔帝モードになりながら、補助にしか使ってなかった浮力を即座にメインに据えると、シキは四肢合わせ六刀一手で以て攻めに転じた。
「外科手術が必要な患者にっ、先ずは体質改善から始めましょうなどと抜かすアホが居てたまるかっ!」
フック気味に放った爪に振動赤熱剣が輝く二連下段蹴り、硬い義手による手刀、勢いそのままの刀剣薙ぎ払いは微力な光を纏った剣でのガード、翼を使った降下に手首を狙った蹴りでの後退と全て不発に留まらせられる。
「その医者を自称しっ、内臓も腐ってるからと取り除くバカが居てたまるかっ!」
どうあっても分かり合えないと理解していながら、尚も言い争うのは認められない現実……曲げられない信念故。
「「このっ……!!」」
と、同時に後ろに退がり。
「道理の通じぬっ……」
「聞き分けのないっ……」
と、謗り合い。
「「ガキがぁッ!」」
遂に取り出された最終兵器の射線上から外れるように、炸薬を連続炸裂させて肉薄したシキはライの両手を押さえ付けながら、そして、脆くなった壁に更なる穴を空けながら城内に飛び込んだ。
放たれた超威力の弾丸が背後の合切を吹き飛ばし、飛び散った破片が二人の身体に突き刺さっても、「ぐうぅっ……!?」、「がはぁっ!?」と呻くのみ。
一つ二つ三つ四つと部屋や廊下のソレを、頭突きと蹴りを交互に入れ合って越える。
「ぐふっ……!? お、お前はいつもいつもっ! 何で俺をわかってくれないんだっ!?」
「ぐぁっ!? 言ったろっ、現実を見ろとっ……! 俺達はもうこっちの人間なんだよっ!」
「昔からっ……あぐっ!? そうっ……だっ!」
「お前こっ……ぐはぁっ!? 」
そうして今度は玉座の間へと突き抜けた。
両者の手にはいつの間にか獲物は無く。
青痣と腫れた頬、血濡れた身のままに飛び、二人で床を抉りながら殴って、蹴って、罵る。
「勝手に付いてきてっ、いつだって俺の隣に居てっ……! なのに何でこの世界に来た途端っ……!」
「まだ性善説を信じてやがるのかっ! だから実の妹にすら見限られるっ、お前こそわかれよっ!」
そうして止まれば跳ねるように飛び起き、義足のブレードが右腕と右翼を、翼から放たれた白い光の羽根が唯一残っていた左手を奪った。
「「ぐああぁっ……!? あああぁぁぁッ……!!」」
悲鳴から咆哮へ。
心が折れかけない激痛で意識を保ち、なけなしの推進力で押した双方の拳が顎と腹を打ち抜く。
ここで漸く装備の差が出た。
ライは的確に骨を砕かれた上に脳を揺らされ、シキはMFAの硬い装甲によって〝光〟の魔力だけは免れた。
「あがぁっ……!?」
「カハッ……!?」
しかし、悶絶したのも束の間。
片や左翼を広げ、片や込み上げてきた血反吐を相手の目玉目掛けて吹きかける。
「うぎいぃぃっ!? はぁっ……! はぁっ……! ひ、人の犠牲を前提にする者っ……自分の命すら軽んじる人間の言うことなんてっ……!」
魔族にとって一発で致命傷成り得る魔力状のビーム弾幕はあらぬ方向に飛んでいった。
「ふーっ……ふーっ……! 地続きの悪がっ……垂れ流す……ざ、戯れ言なぞ……!」
その隙に、シキは機械の右手首をドリルのように回転させ、振りかぶった。
さあトドメ。
終幕。
という、まさにその瞬間。
ライの放出したエネルギーが本格的な呼び水となり、城が盛大な音を立てて瓦解し始めた。
ぐらりと揺れた足場のせいで揃って横転。穿突は外れ、未だ残存していた白翼の輝きも失われる。
「くっ……!」
「クソっ……たれ、がっ……」
最早、立つ気力も尽きた二人の影を巨大な瓦礫の影が覆い尽くし……




