ハズレ職業と呼ばれた商人
王城を出た悠真は、ゆっくりと街を歩いていた。
石造りの建物。
行き交う人々。
見たことのない服装。
聞いたことのない言葉。
そこは間違いなく、元いた世界とは別の場所だった。
「本当に異世界なんだな……」
改めて実感する。
数時間前まで、いつものように店舗の確認をしていた。
売場の状態。
商品の発注。
スタッフの配置。
そんな日常から、一瞬でこの世界へ来た。
人生とは、本当に何が起こるか分からない。
しかし。
悠真は立ち止まっている暇はなかった。
異世界に来た以上、まず必要なのは生活基盤だ。
住む場所。
食料。
金を得る手段。
「まずは、この世界を知らないとな」
悠真は周囲を観察する。
露店では食料が売られている。
武器屋には冒険者らしき人達が出入りしている。
防具屋。
薬屋。
宿屋。
商売をしている店は多い。
「需要はある」
悠真は小さく呟いた。
人がいる。
生活がある。
困りごとがある。
ならば、商売が成立する可能性はある。
コンビニの仕事でも同じだった。
その地域に何が必要なのか。
お客様が何を求めているのか。
それを考えることが、商売の基本だ。
そんな時。
一軒の大きな建物が目に入った。
看板には見覚えのある文字。
【商人ギルド】
「商人ギルド……か」
悠真は看板を見上げる。
「まずは、ここから情報を集めるのが良さそうだな」
扉を開ける。
中には多くの商人がいた。
大量の商品を運ぶ者。
契約書を確認する者。
依頼を受けている者。
そこには、この世界の商売の中心があった。
「いらっしゃいませ」
受付にいた女性が声をかける。
「ご用件をお伺いします」
「商人登録をお願いしたいです」
悠真が答えると、受付嬢は少し驚いた。
「商人登録……ですか?」
「失礼ですが、商人証はお持ちでしょうか?」
「いえ」
「この世界に来たばかりなので」
その言葉で、受付嬢の表情が変わった。
「もしかして……召喚された方ですか?」
悠真は苦笑する。
「やっぱり分かるものなんですね」
受付嬢は頷いた。
「過去にも、勇者召喚に巻き込まれた方はいました」
「ですが……」
少し言葉を選ぶ。
「召喚された方の多くは、元の世界の力を持っているわけではありません」
つまり。
自分は特別ではない。
それは王城でも言われたことだった。
「商人として登録することは可能です」
「ただし、商人は信用が全ての職業です」
「身分を証明する商人証が必要になります」
悠真は頷く。
「お願いします」
簡単な確認が行われた。
名前。
職業。
経歴。
そして、商人としての意思。
受付嬢は最後に尋ねる。
「なぜ商人になろうと思ったのですか?」
悠真は少し考えた。
そして答える。
「人が必要としているものを届ける仕事だからです」
「商品を売るだけなら、誰でもできます」
「でも、本当に必要なものを届けるには」
「相手を見る力が必要だと思っています」
受付嬢は少し驚いた顔をした。
しばらくして。
一枚のカードが差し出される。
「神崎悠真様」
「これで正式に商人ギルド所属となります」
商人証。
この世界で、悠真が初めて手に入れた身分証だった。
カードを受け取った瞬間。
頭の中に声が響いた。
【条件達成】
【商人としての資格を確認】
悠真は目を見開く。
【神授スキル】
起動準備を開始します。
「……今のは?」
周囲を見る。
しかし、誰も反応していない。
聞こえているのは、自分だけ。
受付嬢が不思議そうに尋ねる。
「どうかされましたか?」
悠真は少し迷った後、首を横に振った。
「……いえ」
まだ分からない。
この力が何なのか。
自分に何をもたらすのか。
ただ一つだけ分かることがある。
自分は今。
この世界で初めて、
「商人」として認められた。
ハズレ職業。
戦えない職業。
そう呼ばれた商人。
しかし。
その商人の力が、
やがて世界を変えることになる。




