第15話 天より一撃に込めて
翔「それじゃ、行ってきます!」
そう言って翔はロックゴーレムに向かって走り出す。
走って向かってくる翔に気づいたロックゴーレムは腕の部分である巨岩を投げつけてくる。先程と似たような状況だが今回は明確に違う点があった。それは翔がその攻撃をしっかりと警戒していたこと、そして……。
この攻撃で俺の能力を理解する。
タイミングを合わせて翔は地面を蹴って飛んでくる巨岩をゆとりを持って軽々と飛び越えた。
やっぱりだ……。
俺の能力は物体の重量を操作することが出来る、能力の概要を説明された時は物体と言われたことで無意識の内に物限定と勘違いを起こしていた。でも今ので確実に理解した、この能力における物体とはこの世に物理的に存在する物全て、すなわち俺自身の体もその物体に含まれる。
正面から巨岩を避けたのは俺自身の体を軽くできるかの検証。
これから俺がやろうとしていることには高さが必要だ、それも建物程度の高さではない、ならば俺自身の力で跳べばいい。戦徒会の制服に付与された身体強化のおかげで今の状態でも通常以上の跳躍力があるがそれでもまだ足らない。しかし、自身の体を軽くできるとわかったのならばもはや身体強化など関係ない。跳ぶではなく飛ぶ……俺の能力ならそれがきっとできるはずだ。
翔「おっと……危なっ……」
考えることに集中しすぎて避けるのが一瞬遅れた。ちゃんと敵に集中しなくちゃ。
翔は自身の能力について考えながらも少しずつロックゴーレムとの距離を詰めていく。すでにロックゴーレムとの距離は30mを切っていた。
翔が近づいている間にも後ろでは岳斗がライフルで援護射撃をしていた。その弾丸は的確に路地から飛び出てきたゴブリンや道路を走って近づいてくるゴブリンの頭を撃ち抜いている。
宝江先輩がいなかったら俺、ゴブリンに囲まれてロックゴーレムにこんな集中することなんてできなかっただろうな。本当に宝江先輩には感謝しかない。
そう言えばあのロックゴーレム、何回も腕の部分の巨岩を投げつけてきてるけどその岩はどこから現れているんだろう。某ゲームみたいに地面を掘って取り出してるわけではないはず、なんせそんな都合のいい岩がゴロゴロと地面に埋まっているわけがない。
次の瞬間その疑問の答えを翔は一瞬で理解した。
ロックゴーレムが腕の巨岩を投げた後、辺りの砂や瓦礫が不自然に浮いて固まり、腕を構成する巨岩となった。
なるほどね。本体の岩がクソ硬かったのに腕の岩が投げて地面とぶつかっただけで簡単に砕けるのは周りの残骸が集まってできたものだったからなのか。地味に投げてくる岩がまだらな色だったのも周りの瓦礫を使っていたからか。
うん、納得がいった。
なら、投げてくる岩だったらこの大剣でも斬れるのかな。
俺は一瞬そんなことを考えるがすぐにその考えを捨てる。
いやいや、流石に猛スピードで飛んでくる岩を斬るなんて怖すぎるでしょ。
そうこう考えている内にロックゴーレムとの距離は10m近くまで近づいていた。
ここまで近づくとロックゴーレムも岩を投げるのをやめて近づいてきた翔を排除するために腕を振り回すように攻撃し始めた。
何度も迫りくる攻撃を間一髪ながらも翔は避け続ける。そしてただ一つのその攻撃を待ち続けた。
翔「来たっ……」
その攻撃は腕を振り上げてからの振り下ろしだった。
ドゴンッ!と巨大な音を立てて腕の岩が地面にめり込む。
バックステップでそれを避けた翔はすぐに自身の体を軽くしてから地面にめり込む岩を足場にロックゴーレム本体の巨岩に飛び乗った。
ロックゴーレムは上に乗った翔を振り下ろそうと暴れ始めるがその時にはすでに翔はロックゴーレムの上にはいなかった。
ロックゴーレムの本体に飛び乗った瞬間、すぐに俺は真上にジャンプする。そして……。
今だ! 心の中でそう叫びながら俺は自分自身と大剣に対して能力を発動する。
その瞬間、翔と大剣から重さが消えた。
徐々ではなく変更。
重量の操作と言ったら物の重さがどんどん重くなったり軽くなったりと徐々に操作するイメージがあるがこの場合は変更、俺本来の重さを減らすのではなく0に変更する。そうすることで重力による抵抗が無くなりジャンプの勢いを少しも殺すことなく真上への推進力に変えられる。
無重力状態となった翔はジャンプの勢いのまま等速的に真上へと昇っていく。
やがて丁度いい高さまで昇った翔は今度は徐々のイメージで自身の重さを超微細に戻していく、そうすることで重力が体に働き速度が徐々に落ちていく。やがて速度が完全に止まった瞬間に翔は重量の増加を止める。それにより空気とほとんど同じ重さになった翔は上昇も落下もせずに空中で静止する。
翔「高いな、でもここまで高ければ丁度いい」
重さの無い大剣の切っ先を真下に向ける。そして今度は大剣だけに能力を発動させる。
ジャンプと同じように変更のイメージ、今度は減少ではなく増加で。
俺は真下のロックゴーレムに向かって大剣を投げ下ろす。そして大剣が俺の手を離れる瞬間に能力で大剣の重さを増加させた。
翔「貫けぇぇぇ!!!」
投げ下ろしによる初速と一気に増加した大剣の重力加速によって大剣は目にも留まらぬ速さで落下していく。
そして、落下する大剣は見事にロックゴーレムの本体である巨岩に命中し、その中心である核を貫いて地面にまで深々と突き刺さった。
核が貫かれた瞬間ロックゴーレムから無機質な悲鳴のような音が鳴り響き、それは遥か上空の翔の耳まで届いた。
岳斗「おお……やるね」
これには後方から援護していた岳斗も感嘆の声を零した。
実は、岳斗は翔がロックゴーレムを倒すことは出来ないと考えていた。それは単純な翔の実力不足、経験不足から考え予測した岳斗が出した結果だった。
しかし、翔はこの予測を覆しロックゴーレムを討伐するという結果を出して見せた。
戦いを何度も経験してきた戦徒会3年の予想を入学したばかりの1年が超える、それはある意味では偉業でもあった。
縋り付く何かも無く空中を浮遊している俺はその高さに恐怖していた。
別に高所恐怖症という訳ではないがマンションレベルの高さを無防備に浮遊するのにはかなりの恐怖が伴った。
俺は少しずつ能力で自信の重量を戻しながら地面へとゆっくり降下していく。ある程度の高さになった所で完全に能力を解除して地面に着地した。
俺は着地してからすぐにロックゴーレムの残骸に向かった。
そこにあったのは真っ二つに割れた巨大な岩で、二つに割れた巨岩の間の地面には俺の投げ下ろした大剣が柄まで深々と突き刺さっていた。
俺は全力でそれを引き抜こうとしたが大剣はびくともしなかった。
岳斗「あちゃ〜、そこまで刺さってたら抜くのはキツイね〜。後で校風委員の人が来るだろうからその人に頼んだ方がいいよ」
剣を抜こうと奮闘している翔に岳斗はそう言いながら近づいて来た。
翔「宝江先輩! 俺やりましたよ! 見てました?!」
ロックゴーレムを討伐できた翔は若干興奮状態だった。
これまでにないほどの強敵を倒せたのだから興奮するのも当然であった。
岳斗「見てた見てた、でも一つ言いたいことがある。君自分の重さを軽くして浮いてたよね、あんな高さにいたら本当なら風に飛ばされてるからね。今回は僕が壁で風を防いでたから空中で静止できたのをしっかりと理解してね。じゃないと次やった時に後悔するよ」
暗い笑顔でそう言い放った岳斗に対して翔は「ハイ」とか細く答えることしかできなかった。
岳斗「さて、君へのお説教はこの辺にしておいて周りの奴をとっとと倒そうか」
俺はすぐに周りに目を向ける。俺たちの周りには複数体のゴブリンが囲むように包囲していた。
しかしゴブリンは一定の距離を保ったまま不自然にそれ以上近づいてこない。
岳斗「周りに壁張ってるからね。これ以上は近づけないよ」
よく見ると立方体の薄い色の壁が俺たちの周りを囲っていた。それは俺を何度も守ってくれた宝江先輩の壁と同じものだった。
岳斗「その剣抜けないよね、予備とか持ってる?」
翔「持ってないです」
岳斗「そうだよね、じゃあ仕方ないか」
そう言って岳斗は左手を真上に向ける。その瞬間、周りにいるゴブリンが各々、薄く透明な壁でできた立方体に閉じ込められる。
岳斗「武田君、少しグロいから目を閉じてて」
そう言われて翔はすぐに目を閉じる、そして何も見えない暗闇の中、聞こえたのは今まで聞いたこともないような肉肉しさのある音だけだった。
目を開けていいと言われて翔が目を開けると目の前には先ほどまでのゴブリンは存在せず血溜まりだけが広がっていた。
どうも~如月ケイです。
最近書くペースが少し早くなって嬉しいです。
というわけでこの章の目玉でもある翔の覚醒がやっと書けました。でも覚醒したとはいえ翔は今後ももっと強くなりますよ。しかしそれは今後の話で。
さて、今回の15話で第2章は完結です。さっそく3章に続かせたいところですがこの後は幕間が数話挟まります。いわゆる日常パートと言うやつですね。
それではこれからもこの作品を呼んでくれれば幸いです。
ではでは~。