第14話 岩の巨人
「ボスを倒しに行く?」
俺は道路を走りながら宝江先輩にそう質問した。いきなりボスを倒しに行くと言われても理解出来るわけがない。でもボスと言うからにはさっきのゴブリンなんかよりも強いことはほぼ確定だろう。
「なかなか強そうな奴が近くに湧いたらしいんだよね。だから僕たちは今からそいつを倒しに行く」
「俺達2人だけなんですけど大丈夫ですか?」
「僕がいるからまぁ大丈夫でしょ。取り敢えずまた君に近接メインで攻撃して貰う。今度は僕も援護射撃するから頑張ってね」
強そうな奴という言葉に翔は若干不安を覚えるが岳斗の余裕そうな表情を見るとその不安も薄れていた。
俺としたことが、しっかり緊張感を持て、戦闘中に油断しないようにしないと。でもなんか宝江先輩の表情を見るとなんだか緊張がほぐれてしまう。その表情は余裕に満ちたような顔で圧倒的な強者感を感じる。
そんなことを考えている翔の目の前にそれは姿を現した。
「岩?」
目の前にあるのは住宅街の道路には似つかない巨大な岩だった。その岩はまるでそこに落ちてきたかのように地面に食い込んでいる。さらに周りの塀や家の壁が岩を中心に壊されていることから落ちてきたというのはほとんど確定だろう。
「武田君、あれが例のボスだ。見た感じロックゴーレムっぽいね」
「ロックゴーレムってあんな大きさでしたっけ」
ロックゴーレムのことは訓練場に置いてあった教本に書かれていたのを読んだことがある。そこには直径1m程の大きさで成人男性の半分くらいの身長と書かれていたが、目の前にある岩の塊は少なくとも直径4mはある。
「変異種……か、たまにいるんだよねこんな感じに巨大化する奴。めんどうだな~」
これも教本に書いてあったことだが、魔物には変異種と呼ばれる特殊な個体が存在する。変異種は体が大きかったり魔力を帯びていたり特殊な能力を持っていたりするらしい。そのため討伐難易度も通常個体に比べてかなり高いことが多い。このロックゴーレムも巨大化の変異種なのだろう。
「ロックゴーレムの変異種……動きませんね。なら──先手必勝っ!」
翔が大剣を鞘から抜いてロックゴーレムへと走り出す。背後では岳斗がやれやれと呆れた顔をしていたが翔は見向きもせずに前だけ向いて走り続ける。ロックゴーレムまで残り数mというところまで近づいたが動く気配はない。
寝てるのか? でもそれなら都合がいい。
翔はロックゴーレムの手前で踏み込んでジャンプする。そしてロックゴーレムの巨体に向けて体の重心を乗せながら勢いよく大剣を振り下ろした。
大丈夫、岩なら叩き斬れるはずだ。この大剣に身体強化を合わせれば岩を砕き斬るだけのポテンシャルはある……と思う。
「ハァッ!!」
しかし振り下ろした大剣がロックゴーレムの体を真っ二つにすることはなく、表面の岩肌を少し削ることしか出来なかった。そして、思いっきり振った反動が大剣を伝って俺の腕に響く。初めて感じる痛みで正直泣きそうな程痛い。今にも大剣を手放してしまいそうだが両手だけは集中して大剣をしっかりと握る。
翔は痛みに耐えながらもロックゴーレムの体を蹴るようにして後方まで退がる。
「──っ痛」
この痛みにも少し慣れてきた。でも、まだ腕はプルプルと震えている。慣れてきたとはいえこの状態だとしばらく全力で大剣を振ることはできなさそうだ。
「硬かったねぇ、腕大丈夫そう?」
表情は冷静を保っているが笑いを堪えきれないようで煽りにも似たような声色の声が翔の耳に突き刺さる。
この人内心大爆笑なんだろうな……確かにちょっと調子に乗って先走った結果がさっきのじゃ笑われて当然だわ。あぁ……恥ずい、穴があったら入りたい……。
──ズズ。
「「──っ!」」
今、一瞬だけどロックゴーレムの体が動いた? それにさっきから若干地面が揺れているようにも感じる。
先程の翔の攻撃は確かに表面を少し削っただけの小さなダメージだったが、打撃で生まれた波はロックゴーレムの岩の体を伝わり核にまで届いていた。そして、それが原因で眠っていたロックゴーレムを起こしてしまった。
重そうな岩の塊が持ち上がって胴となり、一回り小さな岩がそれを支える足のように体が形成される。見た目は某オープンワールドゲームに出てくるイワ◯ックそっくりだ。だが、起き上がったその巨体は翔の想像を遥かに超えた大きさだった。
「全長6mちょいってところかな。こんなにでかいのは僕も初めて見たなぁ」
6mを超える巨体は翔の体どころか周りに立っている家の屋根よりも高い。
まさに岩の巨人って感じだな、俺の攻撃は基本的に剣の重量を利用した高威力の振り下ろしがメインだ、だがここまでの巨体となってくると奴の上を取るのも難しいな。
翔が考え込んでいるとロックゴーレムは岩でできた右手を上げて翔目掛けて振り下ろしてきた。流石に腕を上げるまでの時間が長かった上、翔自身も攻撃を警戒していたので余裕を持って攻撃を躱すことができたが、攻撃の威力が高く地面に衝突した瞬間にアスファルトの破片が広範囲に勢いよく飛び散った。翔はそれを大剣を盾のようにしてなんとか防いだ。しかし、盾にした大剣が翔の視界からロックゴーレムを隠したその一瞬。
「!?」
大剣を構え直そうとした時、視界に映ったのは目の前まで猛スピードで飛んできている巨大な岩の塊だった。
あいつが岩を投げてきた? 岩の塊はすでに俺の眼前まで迫っている、回避するだけの余裕も無い、直撃すれば確実に死ぬ。俺は反射的に目を閉じた。
しかし岩の塊が俺に直撃することはなかった。でかい音が聞こえて目を開ける、すると岩の塊は俺の目の前で砕け散っていた。
「危なかったー、なんとかギリギリで防げてよかった」
よく見ると先程のゴブリンとの戦闘時に岳斗が展開したのと同じ透明な障壁が翔の目の前に展開されていた。飛んできていた岩の塊はこの障壁に当たったことで砕けたのだ。
翔がそのことを理解し岳斗への感謝の気持ちが生まれるよりも先に思ったこと、それは……。
こいつ、俺が剣を盾にして視界から外れた瞬間を狙って岩を投げてきやがった。ゴブリンみたいに無闇にやたらに攻撃しているわけじゃない、しっかりと状況を判断して俺の反応できない瞬間を狙っている。つまり、こいつには……。
「知能がある。なるほど、巨大化に加えて知能持ちときたか。なかなか厄介そうだけど、何か策は思いついたかい?」
「策って言われても」
俺の全力の振りは表面に小さな跡程度にしかダメージを与えられなかった、となると振りによる攻撃で倒すのはほぼ無理だろう。ならどうする、大剣を振るしかできない俺があいつにダメージを与える方法。
いや、考えてみればあるじゃないか……振る以外でも剣で敵にダメージを与える方法が、それも俺にしかできない考えるだけでも馬鹿だろと言われそうな単純かつただの振り下ろしより高威力な攻撃が。
「ちょっと、やってみるか」
翔の顔に笑みが浮かぶ。その笑みは覚えたての事を誰かで試してみたくてしょうがない子供のようであった。
「何か思いついたみたいだね。サポートは任せてくれ、君がやりたいようにやるんだ」
宝江先輩はまだ俺にチャンスをくれるようだ、ならばその期待に応える為にも、今の俺に与えられた役目、あの岩の巨人を討伐するという役目を全力でこなさなきゃな。
そして俺はいつも通り、千里のように元気いっぱいの声で返事をした。
「はい!」
こんにちは如月ケイです。
まずは、投稿遅れてすみませんでした。完全に忘れて爆睡してました。
さて、初参加のイベントであるコミティア153が明後日まで迫ってきました。印刷所への入稿なども終わって準備はできてると思うのですがまだ不安が取れません。当日は東5ホール さ23a『かいごう』で待ってます。海百合中戦徒会の本は持っていきませんが私の作品を読みたいという方はいつでもお越しください。その他の情報はX(Twitter)@Ky_Februaryで発信していますのでフォローよろしくお願いします。
ではでは~。




