番外編9.アクサンの末路/力仕事
(アクサン視点)
私は今、目隠しをされて縄で縛られて猿轡をかまされて馬車に乗せられる。これでは抵抗もできない。なんでも、イカゾノス家の時のように暴れられても困るからだというのだ。……ここでもワカマリナ迷惑をかけられるとは、どこまでも疫病神だ!
「アクサン……」
母上の声だ!
「アクサン、ごめんなさい……私が、もっとしっかりしていれば……」
「馬車を出せ、罪人をさっさと鉱山に連れていけ」
父上の声……だが、とても冷たく感じる。母上と違って怒りを感じる。私に声もかけるつもりがないのか? もう息子じゃないと言っていたし当然か……。
「さようならアクサン……元気でね」
私も何か言いたいが猿轡のせいで声も出せない。惨めだ……。
「アクサン殿下」
これは、エリザの声だ! あいつまで……
「お元気で」
流石に耳を疑った。あのエリザが私に声をかけたのだ。あんなに邪険に扱った挙げ句婚約を破棄することになったのに……。
元部下たちと同じような気持ちなのか嘲笑うためかは分からないが、あのエリザが……。
心の中で動揺する私だったが、深く考える前に馬車が動いた。手足が縛られた私は馬車の中で転がる。頭をどこかにぶつけても馬車は構うことなく速度を上げる。
ああ、恨めしいな。目隠しさえなければ、猿轡さえなければ、見送りに来てくれた人たちを……もう、いいや。
◇
私が連れて行かれた場所は、本当に鉱山だった。
「こ、ここが……」
私は絶句した。目に入る全ての男たちがボロボロの服を着ているし、髪も髭もボサボサだったのだ。しかも、殆どのものが暗い顔で笑っていない。
「こいつが新入りか」
「っ!?」
私の目の前に屈強な男が現れる。どうもこの男がここの責任者のようだ。
「さあ、働け。ここでは俺がルールだ。さっさと仕事をしねえと鞭でぶつぞ」
「なっ!?」
男の手には本当に鞭があった。しかも血がついているじゃないか! くそ、この私よりも上のつもりか!
「私を誰だと思っているんだ! フューシャ王国の第一王子アクサン・フューシャとは私のことだぞ!」
男に負けぬように怒鳴るように叫んだが、男は鼻で笑った。近くで見ると迫力あるなこいつ。
「ああ、知っているぞ。浮気して婚約破棄されて馬鹿なパーティーをしたうえに、逆恨みして更に馬鹿なことをして平民どころか罪人になってここに来た馬鹿野郎の最低野郎だろう?」
「そ、それは……!」
嘲笑うように男が言いだしたが全て事実だ。反論できない……。
「ふん、お前がしてきたことくらい耳に入っている。責任者として罪状は知る義務があるからな。いいか、ここでお前に口答えすることは許されん。それどころか人権もないし、豚や牛、よくても馬のような家畜と同類なんだよ」
「か、家畜……」
こ、この私が、家畜? 家畜と同じだと!? 頭に血が上るほどの怒りが湧き上がるが、それもすぐに恐怖で消し飛ぶになる。
「おっと、口答えするなら鞭が来るぞ?」
「くっ……!」
「酷い時は俺の拳が来るかもな。おりゃあ!」
「うわ……!?」
信じられないことに男は岩にめがけて拳を放ち、岩を粉々に砕いたのだ。そこそこ厚い岩を粉々に……! 私は恐怖を覚えてその場にへたり込んだ。多分、顔も真っ青だろう。
「ひいいいいいい……」
「分かったな?」
「わ、分かった……最初はなにをすればいい?」
「あっちでに石を乗せる荷車があるから運べ。石を乗せて運べ。それを繰り返すんだ。鉱山の内部を掘るのは明日教えてやろう。さあ、早くいけ!」
「分かった……」
言われた通り、鉱山から石を運び出す事にした。男が怖くて抵抗も反論もする気が失せた。
◇
鉱山での仕事は力仕事しかない。初日でそれを思い知った。その日だけで大変な苦労をさせられた気になったのだ。
しかし、本当の苦労は翌日から始まった。朝から寝るときまで仕事をさせられたからだ。石を運んだり、新たに鉱山の内部を掘らされたりと初日とは比べ物にならない苦労を強いられたのだ。




