第八話 甘いはちみつ
ロックリザードの剥ぎ取りを終え、アーロンさんに事実を伝えたけど。
なんだか、分かって貰えてなかった。
「この量だと馬車一往復じゃどうやっても一日じゃ間に合いませんよね?」
「確かに、一日二往復は可能だ。だがまず、剥ぎ取りが終わった素材を見せてくれないか?」
俺は剥ぎ取りをしていた岩陰にみんなを連れて行った。
「おい、アーロン。マジで終わってるぞ。こんな大量のリザードをどうやって。」
「バズ、それは聞かない約束だぞ。」
「おおそうだった、すまん。つい驚いちまって。」
バズさんは重鎧の戦士。身長こそ大きくないが、
がっしりとした体つきでみんなの頼れる盾役だ。
「すごい丁寧にくり抜いてあるわ。討伐の時付いた傷も判らない位になってるし。
これはプラスで査定が付くわね。」
レイラさんが素材の剥ぎ取り具合を見て褒めてくれた。
「ヒトシだけにやらせるな。みんなで積み込むんだ。
念の為と思って2台馬車を用意しておいたけど、明日、もう2台追加だな。
これは大仕事になるぞ。剥ぎ取り士の方にも声をかけておかないとな。」
そのあと馬車にみんなで積み込み、作業を終えて眠りについた。
「ヒトシ、明日も頼むぞ。」
「はい、おやすみなさい。」
-スライムベッドの中-
さて、これから魔力稼ぎのために奥まで潜りますか。
大した相手じゃないから、スピード重視だな。
スプリンター、機動力に優れ高速での移動攻撃が可能。
ものの10分で昼間の狩場を取り過ぎ、狩りが始まる。
さ、ここからだ。スキル、加速、風刃。素材を集める必要はないから、とにかく倒そう。
10体のスプリンターは僅か15分で600匹を討伐。敵から敵へ瞬間移動のような動きでウィンドエッジを放ちながら進んでいく。ロックリザードから吸収できる魔力は150~200。
すぐにスプリンター生成の分は取り戻せそうだ。
少し進むとロックリザードとは色合いの違う魔物が現れた。アイアンリザードか。
ためしにウィンドエッジを放ってみるが一撃で倒すまでは行かないみたいだ。
直接攻撃に切り替えた方が早いか。
いや、一回斬鉄を付けよう。
斬鉄は金属系や、硬質の殻皮を持つ魔物に有効なスキル。
もっと固い奴も奥にいるかもしれないし。付けておいて損はないはず。
ウィンドエッジを再び放つ。今度は何の抵抗もなく風の刃が鉄の皮膚をすり抜けた。
アイアンリザードの魔力は300~400。
スプリンターの斬鉄は付与に5000。付けないという選択肢はないな。
ロックリザードの洞窟は、分かれ道も少なく、少人数での高速移動が効率的。
さて、こっちの攻略はスプリンターに任せて、
剥ぎ取り士さんに剥ぎ取りのコツでも聞いてこようかな。
-剥ぎ取り士キャンプ地-
「すいません。」
あれ、留守かな?誰もいなそう。護衛のキャンプ地にでも行ってるのかな?
少しくらいなら素材見せてもらってもいいかな。
「あ、あったあった。あれ?これ傷だらけじゃん。こんなだったけ。
最初の頃の奴だから結構手こずってたのもあったからな。傷も付くか。
くり抜きは流石に綺麗にしてあるし。
でも、見ただけじゃこれと言って学べるところはないか。残念。」
素材をもとの場所に戻し、寝床に戻る。
一時間後、アイアンリザードを2000匹位討伐し、さらに奥に進むと、
今度はシルバーリザードが出てくるようになった。
斬鉄のお陰か、ウィンドエッジで十分倒せる。
当たり所が良ければ一撃か。そうでなくても二撃目で倒せる。
少し効率は落ちるけど。魔力600相当。かなり美味しい。
三時間後、シルバーリザードを4000匹倒すと今度はミスリルリザード。
何だろう、倍なのかな?
ミスリルまで来ましたよ。奥に行くごとに硬度が増していくね。
さすがにウィンドエッジでは倒すのに時間が掛かる。
直接攻撃の方が効率がよさそうだ。スパリと一撃で真っ二つになるミスリルリザード。
まだまだいけそうだ。
さすがに直接攻撃だと少し時間を取られる。
でも魔力1000は美味しい。
五時間弱を掛けて8000体倒すとさらに奥には黒く怪しく光るリザードが。
アダマンリザード。え、こんなとこにアダマンさんいていいんですか?
確かにかなり深くまで来たけど。アダマンタイトってかなりレアな物質じゃないのかな?
とりあえず一匹攻撃してみる。固い音がして、欠片が飛び散る。何回も、何回も叩きつける。
ヒュン。
あ、首を切られた。
白いしぶきが飛び散る。
ま、それくらいじゃ死なないけどね。
離れた首はすぐに元に戻り攻撃を繰り返す。徐々にヒビが入り。ザクリと深く突き刺さった。
ふう、ミスリルとは比べ物にならない位固い。こりゃ倒すのに苦労しそうだ。
魔力稼ぎならミスリルの方が効率がよさそう。
おっと、もう朝か。誰か起こしに来たみたい。
探索は終わりだな。
「ひとしさーん。ひとしさーん?あれ、居ないのかな?」
本体に意識を戻す。起こしに来たのはアイアンクロスの治療士イリさんだ。
明るい茶髪の柔らかい癖っ毛が首の辺りでクルっと内側にカールしている。
少し気だるそうな瞼の目つきをしていて少しおっとりしているが、
いつも汗をかきかき、みんなに頑張って付いて行こうと一生懸命な頑張り屋さんである。
ふんわりとした雰囲気と体型。食べるのが何よりも好き。
昨日オーク肉を焼いた時も、一番目を輝かせて食いついてきていた。
胸の膨らみも中々のモノだけど、クリーム色のローブに包まれて全てを見ることはできない。
あ、気付かずに通り過ぎて行った。スライムベッドに隠密効果を付けて見えなくしているからね。
「おはようございます。イリさん、こっちですよ。」
「ひぁっ!」
まさか通り過ぎた場所から声がするとは思わなかったのか。
驚いて転んでしまった。
昨日もよく転んでいた。あと頭をよくぶつけてた。
それからみんなに置いて行かれそうになったり、ロックリザードの下敷きになったり。
おっとりマイペースなドジっ娘さんで、パーティのマスコット。
「ひとしさん、ひどいですよー。」
立ち上がろうとして…、あぁ、転んだ。
支えようと手を伸ばすけど、勢い良く起き過ぎてこちら側にダイブ!
女の子の匂いに混じって、ほのかに香る汗の臭い。
うん、昨日も頑張ってた。
そしてふわふわした柔らかな感触。
女の子ってどうしてこんなに柔らかいんだろう。
あれ?この状況って、勇者か?幸運の効果か?
この中にどなたか、勇者様はおられませんか?
幸運を持った勇者様はおられませんか?
ラッキースケベです!ラッキースケベが起こりました!
キャビンアテンダントさんも大慌てである。
…残念ながら、勇者様はおられませんようです。
「ローズマリーと、ラベンダーかな?」
思わず、におい袋の中身を聞いてしまった。
べつに、体臭を嗅いでいた訳では無いですからね。
「あ、えと、すいません!」
イリさんは慌てて起き上がろうとする。
ダメダメ!こういう時慌てて体を起こそうとすると…。
思った通り、再びつんのめりローブが捲れ上がって、
ふっくら柔らかなお尻があらわになってますよ。
今日はピンクですか。
顔と顔も吐息が掛かるほど近づいてまして、おじさんはどうしていいか分かりません。
ま、さすがドジっ娘さんと言ったところですね。期待を裏切りません。
ありがとう。
ひょいと担ぎ上げローブの裾を整えてあげました。うん、紳士。俺、紳士。
そして、思う事は。ちゃんと中にズボンをはこうね。
「すいません、ホント、ドジなんですー。」
顔を赤らめ俯く。しょんぼりさんだ。
「いいんですよ。きっとそこもイリさんのいいとこなんですから。」
「そんなことないです。みんなにもいつも迷惑かけてるし。」
「でもそのことでみんな怒ったりしないんじゃないですか?」
「さすがに命に関わるようなときは怒られますけど。
それ以外ではみんな優しいです。」
「それはね、イリさんが頑張り屋さんで、いつも一生懸命なのをみんなわかってるから。
そういうところも含めて、イリさんを認めてくれているって事じゃないですかね。」
「…そう、なんですかね。だったらいいなぁ。」
「間違いないです。外から見てればよく分かりますよ。いいパーティです。」
「ありがとうございます。今日も頑張りますのでよろしくお願いします。」
目に涙を溜めながら、大きく元気なお辞儀。少しは元気出たかな?
「あ、そうだ。朝ごはん一緒に食べようと思って、呼びに来たんです。
一緒にどうですか?」
「はい、では準備して向かいます。」
「昨夜は美味しいお肉ごちそうになったので、今朝は私の“とっておき”をごちそうしますね!
早く来ないと私が全部食べちゃいますからね!」
元気になったみたい。元気に駆けて行って、
…やっぱり躓いた。
期待を裏切らない素晴らしさ!うん、ピンク。
ズボンをはきましょう。
焚火の前で朝食。
イリさんのとっておきとは、はちみつだった。
甘くて濃厚。パンに塗ったり、お湯で溶いて飲んだり。
「イリがはちみつを出すなんてな。ヒトシ、相当気に入られたな。」
「ふふふ、昨日の肉の魔力のせいですね。」
「ヒトシ、悪魔みたいな笑顔だぞ…。」
おっと、いけない。さわやか笑顔だぞ、ヒトシ。
「イリさん、あとでもっと美味しいお肉上げますからね。」
「え?もっと美味しいお肉…。楽しみにしてます!」
お目目がキラキラで眩しすぎるぜ!
「おいおい、ヒトシ。これ以上イリに食わせて美味しい体作りの手伝いをするのはいいが、
もし依頼中に食料に困ったらパーティ全員で食っちまうからな。」
パーティ内に笑いが起こる。
「もう、アーロンさんの意地悪!」
イリさんは頬を膨らませてご立腹だ。
「アーロンさんにはもうはちみつあげませんから。」
「イリ、悪かったよ。許してくれ。」
「もう、ヒトシさんの前で。恥ずかしいなぁ。」
「お、イリもついに異性を気にするお年頃か?」
「バズ、あんたもやめなよ。本当にはちみつ貰えなくなるんだからね。」
「おっとそいつはまずい。イリのはちみつは俺らの元気のもとだからな。」
イリさんは膨らんだ頬を元に戻すと、少し照れたのかモジモジしていた。
イリさんは皆の為にはちみつを用意していて、皆はそんなイリさんのはちみつが大好きで。
はちみつは甘くて、温かさに包まれていて、まるでイリさんのいるこのパーティのようだった。




