第二十一話 川魚サンド
「相変わらずふざけたヤツらだ。」
ダンテさんは怒り心頭だ。
俺はギルドに戻って剥ぎ取り屋の悪行を暴露したところだ。
「アイアンリザードの流通ルートなんだが、隣国のロマチェスに流そうかと考えている。」
「隣国ですか。」
「ああ、ある程度需要もありこちらよりは高値で買い取ってもらえるはずだ。」
「でも、隣国となると流通コストが 。アイアンは重いしかさばるし、それにあの量ですし。」
ダンテさんが言うには、街道が広く、大型の荷馬車が使える。向こうの買取価格が高い、ただ量を運ぶとなるとやっぱり一週間以上の準備が必要。と言うことだった。
「だが、1番問題なのは…。」
「商会の妨害が入ること。」
「まあ、商会=国だけどな。」
通常の国外への流通ルートは
冒険者→ギルド→商会→国外
か、
冒険者→商会→国外
の、ふたつである。
しかし、商会に何らかのトラブルがあった場合、ギルドかそれを代行することがある。
普段は荷馬車のサイズで通行料が決まるが、ギルドが代行した場合、積荷の価値で通行料の追加徴収が発生する場合がある。なんと言うか、商会と国に都合がいい謎システムだ。
「事前に申告して、通行料を取り決めればそれも防げるが。」
それで時間がかかるんだろう。しかも商会が口を利けば、許可を先延ばしにして妨害もできる、という訳か。
「時間かけて1度許可を取ったとしても、難癖つけられて面倒そうですね。」
「まあ、そういう事だ。」
ダンテさん苦笑いである。
「一つだけ、当てが無いわけじゃ無いんだが。こいつが一癖も二癖もあるやつでな。どうだ、会ってみるか?」
「それしか選択肢はなさそうですし、紹介して貰えますか?」
「わかった、今紹介状を書く少し待っててくれ。」
ダンテさん最後の手段みたいな、言い方だったな。どんな人物なんだろう。
俺はとりあえず時間をもてあましたので1階ロビーにおりた。
「お疲れ様でした。大変ですね。」
俺を見つけたシェロルさんが話しかけてきた。
「なんだか毎回何かが起きますよね。
冒険者って大変。」
「ヒトシさんはやることが大きいですからね。
その分、抱える問題も大きくなるんですね。
私もサポートしますから、頑張りましょう!」
うん、元気もらった。頑張れそうだ!
ぎゅー…。
あ、お腹が鳴った。
「クスクスっ。その前に腹ごしらえですね。」
「ですね。あ、兵舎の前に美味しい屋台があるんですよ。食べたことあります?」
「いいえ、初めて聞きました。
あんまりそっちの方には行かないもので。今度…。」
「じゃあ今から買ってくるんで食べてみてください。絶対気に入りますよ!」
俺はギルドを出ると兵舎のある方へと向かった。
「お、いたいた!」
「あ、お兄さんお久しぶりー。
今日はちゃんと小銭持ってきたー?」
相変わらず人懐っこい笑顔だ。
「ちゃんと持ってきましたよ。
また店じまいの時間だね。」
「おにいさん、ねらって来てる〜?
なんて嘘嘘。また来てくれて嬉しいよ。」
「美味しかったからね。」
「お、ありがとー!
どんどんみんなに紹介してよー、
もっともっとお客さん増やして自分の店持つんだから〜。」
「了解、じゃあ、紹介したいから今日は5つもらおうかな。」
「OK。ちょっとまっててねー。」
あ、そうだ。俺はカバンの中から余っていたオーク肉を取り出す。もちろん薬草に包んであるからいたんでいない。
「これさ、俺が扱ってる肉なんだけど、試しに食べてみて。んで、良かったら買ってちょうだい?」
こぶし大のオーク肉の塊をカウンターに置き、包んである薬草を広げる。
「ん〜?なになにー?」
パンに野菜を挟む作業を続けながら首だけこっち向きだ。
器用である。
「はぇー、薬草に包んであるよ。生肉?高級だねー!そんなの高くて買えないよー。」
「まあ、食べるだけ食べてみて。
そんなに高くは卸さないから、検討してみて。」
「うん、ありがと〜。
多分無理だと思うけど食べてみるよー。」
やっぱり生肉は高級なのか。足も早いしね。流通も保存も発達してないこの世界じゃ納得だ。それこそ魔法でなんとでもなりそうだけど、そうもいかないか。
「お待たせー。」
パンは小さなバスケットに入れられていた。
「持ってくの大変でしょ?途中で落としてもあれだし、カゴは今度来る時に返してくれればいいよ。」
「ありがとう。
えっといくらだっけ?」
「今回もお代は結構。
またまた余り物だしね。」
バスケットの中には野菜山盛りの川魚サンドが5つ入っていた。
「ちゃんと紹介してよねー、
それと、こんな高級なお肉もらっちゃったしねー。」
そう言うと薬草に包み直し、今日の稼ぎの入ったショルダーポーチの中へしまった。
「大事なものはこっち!えへへー。」
どうやら気に入って貰えたようだ。
屋台を後にして、ギルドに戻る。
シェロルさんは受付業務中。
「えっと、すいません。」
別の受付カウンターの職員さんは空いてるな。
事務作業をしている職員さんに話しかける。
「あ、お疲れ様です!
依頼達成の報告ですか?」
シェロルさんとは対照的な、快活で可愛らしい印象の子だ。
「あ、私アヤと言います。
ヒトシさんですね。シェロルから話はよく聞いてますよー。」
何を聞いているんだろう。変な事じゃなければいいんだけど。美人さんを驚かせて喜んでる変態おじさんとか?
そんなんだったらもうこの街で生きていかれない。
「ぞ、そうなんですか?
なんだか恥ずかしいですね。
あ、そうだ。これ…。」
俺はバスケットから川魚サンドを2つ取り出す。
「あー!これあそこの屋台のですよね。」
どうやらアヤさんは知っているようだ。
「時間が無い時、たまに買いに行くんですよ。
すぐ食べられるし、美味しいしで言うことなしですよね。」
知ってるなら紹介にはならないけど、
「良かったらどうぞ。シェロルさんの分も。」
「シェロルもこれ好きなんですよ!」
あれ?さっき知らないって…。
何で嘘ついたんだろう?
聞き耳を立てていたのか、シェロルさんがビクッとなっている。
「シェロルはこれ3個はペロリですよ。ああ見えて、結構食べるんです。」
シェロルさんは顔を赤くして横目であやさんと俺をチラチラ見ていた。
「そうなんですね。女の子が美味しそうに食べるのってなんかいいですよね。」
シェロルさんは耳まで真っ赤になって活動を停止した。
隣の冒険者さん、受付嬢のいきなりのフリーズに困惑してます。
「そうなんですよー。ほっぺに食べかす付けて、美味しいね美味しいねって。もう抱きしめたくなっちゃうでしょ?」
あやさんの追い打ちが止まらない。
「あ、すいません仕事中でしたね。俺もダンテさんのところに戻ります。」
冒険者さんも困っていたので、ここら辺で切り上げよう。
「はい、ありがとうございます。
これからもシェロルの事よろしくお願いしますね。」
シェロルさんが放心状態で沈んでいく。
「シェロル?!どうしたの?
ちょっと後ろで休んでて。
申し訳ありません…。」
アヤさんは、シェロルさんの異変に気付くと咄嗟に隣の受付に変わって入った。
プロである。天然系の…。




