第二十話 おっちゃん、ガンバル
俺たちは思案していた。
魔物を倒すにしてもアイアンリザードではリスクが高すぎる。かと言ってロックリザードは全て狩り尽くしてしまったし。
「装備もないですもんね…。」
思いつきと勢いでここまで連れてきたけど、困った。
「僕達、サポートはなんとかなると思うけど、結局はおっちゃんが倒さなきゃいけない。」
装備ということで剣士さんの剣を貸してもらったけど、重くてとても扱えそうになかった。軽くて扱いやすくてなおかつアイアンリザードを倒せる武器か。
先の部分をアイアンリザードの鉄クズで少し反った包丁のような形にする。そして柄の部分はロックリザードの剥ぎ取りクズを使って中を空洞に、2m弱のパイプのような形にする。形は薙刀みたいな感じ。
「これでどうですか?」
「なんとも器用なものだな。
どれどれ。」
おっちゃんはそれを受け取ると軽く振って確かめている。
「おお、長いぶん少し扱いずらいが、これなら何とか…。」
武器として機能するか、それが問題だ。
「何か試しに切ってみましょうか。」
俺がそう言うと、
「コイツでどうだろう。」
ハイトさんは1匹の息絶えたアイアンリザードを運んできた。
「おお、準備がいいですね。」
「これからアイアンリザードでレベル上げをしようと思ってたとこだったからね。」
そうだ、別に素材回収しなくてもレベル上げるために戦ってもいい。
「こんな無茶ができるのも君のポーションのおかげだけどね。」
そう、普通の冒険者はそんなリスクをおわない。もしそんな事をして大怪我をしたり、体の一部を失ったらもう、冒険者として稼げなくなってしまう。人生は長い。でも、冒険出来なくなったらそこで終わってしまうんだ。ほとんどの冒険者は本当に安全な自分より格下の相手と戦い、少しずつ少しずつ実力をつけていくんだ。
まあ、逆をいえば、リスクをとってる冒険者はメキメキと実力をつけていく。
そういう一部の冒険者が、若くしてAランク、ゆくゆくはSランクの冒険者になる。
「やってみますか。」
おっちゃんはゴクリと唾を飲み込むと、小さく頷いた。
そして、
ゴロン…。
アイアンリザードの首は、いとも簡単に胴体から離れた。
「「「「………………。」」」」
誰か何か言って!
「さ、頑張りましょう。」
おっちゃんの手は仔犬のようにふるふる震えていた。
「ヒトシくん、衝撃的すぎてなんと言っていいか分からないけど、これはヤバ過ぎないか?」
ですよねー。
俺はおっちゃんから慌てて薙刀をひったくると先端の形を変えた。
少し厚ぼったく、切れ味は悪くなったはずだ…。
ストン…。ゴロン…。
さっきよりは、いいかなー。
なんて。
「えっと、もうこれで行きましょう。」
「「「「……………………。」」」」
「フリージングダスト!」
周囲の温度が急激に下がって床、天井が白く覆われる。
「今です!」
「お、おうっ!」
低温で動きの緩慢になったアイアンリザードに薙刀の一撃が振り下ろされる。
ストン、ゴロゴロ…。
「だいぶ慣れてきましたね。」
「うん、それに加えてその武器があれば。僕達のサポートは大分減らせそうだね。」
「そ、そうか?いい感じか?」
「はい、でも油断は禁物ですよ。
相手は魔物なんですから。」
そう、経験を積んだ冒険者でも油断や焦りで大怪我をしている。
冒険とは常に危険と隣り合わせなのだ。
「わ、分かった。慎重にだな。」
そして、狩りは順調に進み。
誘い込まれるのを待つのではなく自ら行動しアイアンリザードを倒すようになった。
しかし、もう二時間以上もぶっ続けでやっている。そろそろ限界か。
「一旦休憩にしましょうか。」
「っあぁ…。そうだな。」
おっちゃんは深く息を吐いた。
これが初めての戦闘なのによくやっている。
「凄いですね。ここまで頑張れるとは思いませんでした。」
「おう、強くなってる実感があるからな。慣れないながらも、充実感があって、気分は悪くない。」
おっちゃんの顔は疲れの色が濃く出ているものの清々しい笑顔だ。
「恐らくはD級冒険者並のステータスにはなったと思うよ。」
「そ、そんなにかぁ…。」
おっちゃんしみじみ。
「なんだな。最初は何がどうなるか不安だったが、ありがとな、ヒトシ。」
「ハイト君達も本当にありがとうな。」
ブルーレインの協力なくしておっちゃんをここまで鍛えることは出来なかった。
「ありがとうございました。」
俺もハイトさんたちに向かって頭を下げる。
「いやいや、こちらこそありがとう。」
ブルーレインのメンバーもニコニコだ。
なんで?
俺がそんな顔をしていると、
「僕達は僕達で、連携の訓練ができたし、何よりも、楽しかった。」
「そう思ってくれたなら良かったです。」
もう少し続けるか話し合った結果、おっちゃんから辞退の申し出があった。
そりゃ、おっちゃんにも仕事があるし、何よりみんなの時間を割くのが申し訳ないと。
と、言うわけでダンジョンの外までおっちゃんと二人で帰ってきた。
「ヒトシありがとよ。力もついたし、荷物の積み下ろしがかなり楽になるぜ。みんな驚くだろうな。」
と、言うとおっちゃんは豪快に笑った。
「これ、ありがとよ。」
おっちゃんが持っていた薙刀を返す。
それを受け取り刃の部分を丸く錬成し直す。
「はい、これで危なくないですね。」
刃の付いた武器を扱う。これは素人にとってはものすごく神経をすりへらす行為だ。
「護身用に使って下さい。」
「い、いいのか?
軽くて扱いやすいとは思ってたんだが…。
これなら危なくないし、助かる。」
おっちゃんは安堵したような、喜色の笑みを浮かべた。
棒を受け取ったおっちゃんは、素振りをしている。どことなく、緊張が抜けた、自然な素振りだった。
さてと、剥ぎ取り屋の傷、アイアンリザードの買取の件、何とかしないとな。
俺はダンジョン内の素材回収ボックスをハイトさんの提案があったように、横長に拡張すると王都へ転移した。
ダンジョンから王都までの道のりはこの荷馬車で2時間と少し。最近は毎日この道のりを二往復。
荷主も、気のいい冒険者たちで、こっちとしても楽しく仕事が出来ている。しかも、ひとパーティで一日に荷馬車を10台以上走らせる、とんでもないヤツらだ。王都でも噂になっている。
そしてそのパーティのリーダーが言うには、運搬役として雇った男がすごいのだと言う。が、どう見ても普通の男だ。そして、詮索はするな、と念を押された。まあ、これは冒険者の中では当たり前で、俺もそこまでするつもりは無い。
んで、そいつは俺をおっちゃんと呼ぶ。
こう見えて俺はまだ20代半ばだ。
まあ、あいつらにとっちゃそうなのかもしれんが少しショックだ。まあ、悪気があるわけじゃ無く、親しみを込めて、だろうからいいんだが。
そんなある日、もう1組のパーティを乗せてくることになった。気難しそうな、ちょっとお高く止まったリーダーだ。最初は狩場について揉めたようだが、2日目になると、2組で効率よく駆り出した。荷馬車が足りなくなったので急いで応援を呼んだ。
そして、入れ違う形で最初のパーティが依頼を終えることになった。なんでも、国に帰るらしい。
運搬役の男は、とても寂しそうにしていた。
が、次の日その男はとんでもないことを提案してきた。
「レベルアップに興味は無いですか?」
俺は言葉が出なかった。真意が分からなかった。
そして、ダンジョンの中へ連れていかれ、恐ろしく切れ味のいい槍のようなものを渡された…。
ーーーーーーーー
王都への道のりの半ば、少し深い森を抜ける。
森の中はいわゆる悪路だ。が、最近少しずつ走りやすく均されてる気がする。誰がやっているかは分からないが、冒険者が依頼しているのかもしれない。
不味いな。あれはゴブリンか。3、4、5。
5匹もいる。
いつもよりスピードが出ているせいで止まってやり過ごせそうにない。
「止まれっ!止まれっ!」
カランッ…。
ん?これだ!運搬役の男に貰った槍をダンジョンを出た時に先端に鉄の塊の付いた棒に変えてもらったんだ。こいつで何とかするしかない!
馬たちは少し動揺しているか。
だが大丈夫だ。
そのまま速度を弛めて。
今だ!
ズドンッ!
は?ゴブリンが吹っ飛んだ!?
「行ける、行けるぞ!」
俺は気分が高揚していた。なんたって目の前の危機を自分の力だけで乗りきったんだから。
この森さえ抜ければあと1時間安全な街道を行くだけだ。
ん?後ろから馬の足音が追いかけてくる。
荷馬車ではないな。
「止まれーっ!」
これは、
盗賊だ。
前に回り込まれた!
「足止め用にゴブリンまで用意したのに危うく森を抜けられるところだった。誰だよ森の中は道が悪いから荷馬車はすぐ捕まるとか言ってたヤツは…。」
「悪かったな!」
「げっ、お頭、聞こえてました?」
「しっかりな。まあいい。
おい、積荷をよこしてもらおうか。」
価値の高いアイアンリザードを狩り始めて日が浅い。まだ盗賊に目をつけられることは無いと思っていたが。やけに耳の早い盗賊がいた。護衛はやはり付けるべきだったか。
「こ、こいつはロックリザードです。売っても大した価値にはなりません。」
「あ?そんなことは聞いてねぇんだよ。
おい、積荷を調べろ。」
「はいよぉ、お頭。」
聞く耳持たないか。仕方ない、好きなようにやらせるか。
「邪魔だ、どけ!」
盗賊の手下が俺を手で押し退ける。
あれ?今こいつ俺の事押したよな?
「あぁ?!抵抗しやがって!どけって言ってんだよ!」
俺は抵抗なんかしてない。こいつ、非力なのか?
「うわっと!反撃か?ナメやがって!お頭、こいつ命が惜しくないみたいですぜ。」
俺は軽く押し返しただけだ。こいつ、弱いぞ?
「下手な正義感は寿命を縮めるだけだ。
無駄な抵抗はせずさっさと積荷をよこせ。」
そんなつもりは全くないのだが…、
うおっ、おかしらと言うだけあってデカくてやっぱり強そうだ。これは素直に従おう。
「ぐっ…。てめっ…。」
???
俺は何もしてない。
お頭も思ったほどの力じゃないな。
グンッ!
「ぐあっ!」
おお、つかまれた手を肩で押しただけでバランスを崩した。デカい図体の割に大したことないぞ。
「こいつ、御者じゃねぇ!騙された!なにが護衛もいない満載の荷馬車だ!クソッタレ!」
「いやいや、御者だ!俺はただの御者だ!」
やばい、なんか勘違いされてる。
「うるせぇ!1人でこの人数相手に勝てると思ってやがるのか!?やっちま…え?」
「お頭?!お頭が一撃でやられた!?」
「こ、こいつやべーぞ!クソがァーー!」
とっさにお頭の腹を棒でつついてみたが、やっぱり大したことないぞ。
そして、
ドスッ、ドサッ!
こいつも。
「今回だけは見逃してやる。そして他の盗賊仲間にも伝えておけ、ここの街道を通る御者は、危険だとな。」
「ま、マジでやべーぞこいつ…。
何でやられたのか、まるで見えなかった。」
「気が変わらないうちにさっさと行け!」
「は、はいぃ〜!」
何とか凌いだなぁ。
一時はどうなるかと思ったが、大したことない盗賊でよかった。これもレベルアップのおかげだな。
みんなに自慢してやろう。
そしてヒトシにこの棒売ってもらって皆に持たせよう。
こうしておっちゃんと呼ばれた御者とその仲間たちの伝説が始まったとか始まらなかったとか。
ちなみにおっちゃんの実力は冒険者でいえば既にCランクの上位の方に入ります。
ブルーレインも急激に実力を上げたため、自分たちとおっちゃんを比較してDランクと判断したようです。




