第十七話 アイアンクロスとの別れ
「ヒトシ、少しいいか?
イリの事だ。あいつの旅の目的についてだ。」
「はい、俺も気になってたんですけど、聞いていいものか迷ってたんです。」
「いいに決まってる。いや、聞くべきだ。
あいつの国ではここ何年か疫病が流行っていてな。
致死性は低いんだが、体の自由を徐々に奪っていく厄介な病だ。
あいつの家族も罹っちまって、高い薬を買えば治せないこともないそうなんだが。
そんなもの買えるのは貴族が大商人くらいだ。
冒険者になって上級の依頼をこなしていけば買えない額じゃないんだが。
もちろん一人じゃ無理だ。仲間が必要だった。
それをたかだか10才の女の子が一人で冒険者ギルドにやってきて。
手当たり次第に冒険者たちにお願いして回ってるんだ。
助けて下さいって、お願いしますって。
もちろんそんな厄介者どんなパーティでもいらないさ。
俺達もそのころは駆け出しの冒険者で
世界に名を轟かせるくらい有名になってやると躍起になっていたんだが、
自分には治療士の才能があるからパーティに入れてくれだとさ。
最初は断ったんだが、その一生懸命さに負けてな。
あれから9年だ。なかなか金は貯まらなかったがランクも上がってきて、
いよいよ稼げる時期に入ったんだ。
そこにきて家族全員が病にかかっちまったって連絡があってな。
隣国との戦争の噂もある。
とにかく早く稼いで帰ろうってなった時にヒトシと会ってな。
ヒトシのがんばりで俺たちの20年分の稼ぎにはなりそうで、
とにかく薬を買えるだけ買って帰ろうとなっていたんだが、
その時にあのポーションだろ。
ヒトシの事は詮索しないとみんなで決めていたし、
作り方を知ってしまったらすぐにでも帰らなきゃならない。
ヒトシと過ごす楽しい時間が終わってしまう。
ヒトシと別れなきゃならない。
あいつはそんなこと言わないが相当葛藤しているように見えた。」
それで昨日のあれか。
イリさんの方を見ると…。
今日も汗をかきかき一生懸命だ。
…
「さ、今日の狩りはこれで終わりだ。」
装備を確認し、引き揚げ始めた。
「イリさん。」
それに続こうとするイリさんを引き留め、
俺は思わず抱きしめていた。
「俺はいつもイリさんと一緒です。
何かあったらそのスライムに相談してください。
きっといいことが起こりますから。」
「ヒトシさん。私、頑張りますから。もっともっと頑張りますから。」
「イリさんはもう十分頑張ってますよ。
今のままでいいんですよ。きっとうまくいきます。」
「はい、はい、ありがとうございます。
やっぱりヒトシさんはヒトシさんです…。」
しばらく泣き続けるイリさん。
「さ、行きましょう。みんな待ってます。」
帰り道はアイアンクロスそれぞれの故郷のこと、
家族のことについて話しながら楽しく帰った。
「それじゃ、またな。」
「はい、また。」
「驚かされっぱなしだったが、楽しかったぜ。」
「今度は私にもご馳走させて。」
「ヒトシさん。また、また必ず会いましょう。
そのときは成長した私を見てください。」
「はい、楽しみにしてます。」
また泣き出しそうなのか、下を向いてしまった。
レイラが肩を抱く。みんな笑顔だ。いいパーティだな。
俺は馬車が去るまで見送った。
その数ヵ月後、遠くの国で疫病や戦争を鎮める
聖杯の女神一行と呼ばれるS級冒険者が活躍し
名を轟かせるのだが、それはまた別のお話。
…
「すまない、ヒトシくん。僕たちはまだ狩りたいんだが。」
そうだった。ブルーのみんなはまだ来たばっかりだった。
これはどうにか考えなければ。
各階層に素材回収箱をセット。
箱を剥ぎ取り小屋に繋いで素材が転送されるようにしてと。
剥ぎ取り料はの徴収は帰還したら出口で請求書を渡して精算か、買い取りからの天引き。
あとは剥ぎ取った素材を荷馬車引き渡し用倉庫にまとめておいて出荷の準備は完了。
ポーション販売所なんかも作って。アパートは無料解放。
ダンジョンも区画を区切って。ギルドでの予約制にしよう。
準備が整うまでにあと何日か掛かりそうだな。自分でも狩るか。
あとは身分証明として入るときにギルド証を預かって、討伐タグと交換。
これでかなり効率化できるんじゃないか。
ブルーレインのメンバーに相談して。
あと、ダンテさんにも協力してもらわなきゃ。
ちなみにギルド買い取りでロックリザードは銅貨10枚。
アイアンリザードは銀貨1枚である。
剥ぎ取りは銅貨2枚にして、馬車運賃は一往復銀貨3枚2往復で5枚。 一度に50匹運べるので2往復で100匹。運賃は一匹銅貨5枚か。
ロックリザード10枚 - 剥ぎ取り2枚 - 運賃5枚 = 銅貨3枚
差し引き銅貨3枚。これにダンジョンからの運び出し賃一匹3枚を入れると、トントンになる。各方に交渉しても銅貨一枚の儲けくらいだろう。
これを運び出し無料。
剥ぎ取り銅貨一枚。
馬車年間契約で2往復4枚にしてもらう。
これで利益が出る形が整った。
なんとロックリザード一匹で銅貨5枚。
銅貨一枚200円とすると。約1000円の利益だ。
一時間で二匹倒すだけで6時間で12000円の稼ぎだ。
これは流行るな。
剥ぎ取り銅貨二枚でもいいかも。
素材回収ボックスはドラム缶を半分に輪切りした位の容器に
無限収納スライムを入れておく。
そこに倒したリザードを入れると剥ぎ取り小屋に送られる仕組み。
翌日ブルーのみんなに説明すると、すぐに理解したのか喜んで狩に出掛けた。
そして剥ぎ取り所には次々とロックリザードが送られてきた。
うん、上手く行きそうだ。
たまに様子を見に来て、意見を聞いて改善していこう。
一日様子を見て、少し倉庫を大きくしたり
会計士のクローンを生成し、剥ぎ取りの領収書を作成させたり、
受け付け清算小屋を作ったり。
ロックリザード剥ぎ取り屋開店準備を終え、
ブルーレインの皆に挨拶をして一旦帰路についた。
この先にトラブルが待ち受けているとも知らずに。




