第十六話 イリのお願い
-ロックリザードの洞窟キャンプ地-
すっかり意気投合した二つのパーティは
夕食を共にした後、話し合いの席を設けた。
明日からの狩りについてと、もうひとつの事についてだ。
「ヒトシのことだが。深く詮索しないでもらいたい。」
「ああ、あの怪力での大量運搬はすごいけど、
それにしても早すぎる。物理的に不可能です。
それに実力も僕達よりも確実に上。
おまけにあのハイポーションとか呼んでいるあれです。」
「ああ、効果がまるで違う。その上付与効果まである。」
「あんな薬は王都でも見たことがない。
いえ、あったとしてもC級の僕たちなんかでは、
いえ、B級でもA級でも手にすること何てできない。」
「…そういう訳だから本人が話したがらない以上
詮索はしないと約束してくれ。」
「わかりました。約束しましょう。」
その日の夜剥ぎ取り場は倍に増設され、
倉庫も作られ剥ぎ取り師も倍になった。
日に日に狩る量が増え更にはもうひとパーティ増えた。
これでも足りないかもしれないな…。
そしてアパートも増設。
仕切りの分の素材が足りなそうだったので
二部屋分をひとつにして一階と二階で5人寝てもらう。
「すいませんがブルーレインの皆さんはこちらで
二人と三人でひと部屋ずつでお願いします。
明日手に入れた素材で仕切りともうひと部屋作りますので。」
体育館ほどもある剥ぎ取り小屋と、アパートに唖然とするレインのメンバー。
「これを一人で?」
「はい。そうですよ。」
「ヒトシ君、きみは…。
いや、ありがとう。運搬と剥ぎ取りも頼む。二割ましだ。」
「差をつけるのはよくない。同じにしましょう。」
「そう…、だな。じゃあよろしく頼む。」
「そうだアイアンリザードの売り先の件だ。
商会に半分ギルドに半分と言うことになった。
それから面倒かもしれんが俺らとブルーの分は分けて数えてくれ。」
「わかってますよ。そう思って倉庫も四つに分けてます。
運搬も別々にやりますから。ただ目印をつけてくれると助かります。
はい、まとめた物にこれを…。」
クロスには鉄のプレートを、レインには石のプレートを渡す。
「束ねてこれをつければいいんだな。」
「はい、お願いします。」
「それじゃお休みなさい。」
「ああ、また明日。」
みんなそれぞれに挨拶を済ませ、部屋へ戻っていく。
俺も剥ぎ取り小屋に戻って明日の出荷の準備をしよう。
「あれ、イリさん?」
部屋の窓から誰もいなくなるのをうかがっている。
そーっと手招きするイリさん。
「どうかしました?」
「あの、ヒトシさんにお願いがあるんですけど。」
「なんですか?」
「わたしに、その。
ポ、ポーションの作り方を教えてくれませんか?」
これは困った。俺も知らない。製造法はスライムのみぞ知る。
困った顔をする俺をイリさんは違う意味で捕えたのか、
「すいません無理言って。忘れてください。」
「そういうことじゃなく、教えてできるものじゃないんだよ。」
「それが必要なんです。私の旅の目的と言うか…。」
言い淀むイリさん。
「うーん、わかりました。」
俺は手のひらを出し、
「イリさん手を出してください。」
「こうですか?」
ぽよんっ。
「わ、わっ!?
白い、スライム?」
現れたのは手のひらサイズのスライム。
「こいつには薬草なんかを調合する力があります。
薬草を食わせて、水の中に入れておくと勝手に作ってくれます。
水の量とか薬草の量とかは自分で試してみて下さい。」
イリさんはスライムをしばらく見つめ、
嬉しそうに抱き締めてから胸の谷間にしまった。
谷間で嬉しそうに揺れるスライム。
ああ、意識を移せば俺もあの感触を。
いかんいかん。
「ありがとうございます。大切にします。」
イリさんは正面からグッと俺に近づき背中に手を回し、
頭を俺の胸に押し付け、ぎゅっと、抱きついてきた。
そして小さな声で、
「おやすみなさい。」
そして、うつむいたまま離れ。部屋に戻っていった。
…。
ドキドキした。すげードキドキした。
これは抱きしめ返すべきだったのか?
今夜は眠れぬ夜になりそうだぜ。
翌朝、イリさんは何事もなかったように元気な笑顔を見せてくれた。
少し、まぶたが腫れているようにも見えたけど。
「ヒトシ、急な話だが俺達は今日最終の馬車でここを立つ。」
「え?」
「イリの目的が果たせそうなんだ。一刻も早く国に返してやりたい。」
昨日言ってたあれだね。
「そうなんですね。」
「はい、ヒトシさんのお陰で、私の旅の目的は果たせそうです。
私の国はターラム。いつか来る機会があれば是非声を掛けてくださいね。」
「おまえも…、いやなんでもない。」
「はい、お別れですね。とても寂しいです。」
「そうだな。俺達もだ。
報酬の方はギルドに預けておくが。
ヒトシはどうする?」
「そうですね。俺も剥ぎ取りが終わったらここを発ちます。」
「そうか。急ですまないな。短い間だったけど楽しかった。
冒険者を続けてればまた会うこともあるだろう。
さ、最後の狩りだ。バッチリ稼いで旅の資金を稼ぐぞ。」
「「「オォ―。」」」
これでもう終わってしまうんだな。
頑張れば頑張るほど別れの時間が早く来てしまう。
いや、これでよかったんだ。
目的を急いでいたみたいだし。
それが早く達成できるんだ。喜ばないと。
夕方、運搬をしているとアーロンさんに呼び止められた。
「ヒトシ、少しいいか?」




