幕間『とある受験者のパニック』
幕間『とある受験者のパニック』
私は遂にこのオルドー王国王立魔術学校へやってきた。
と言ってもまだ来ただけだ。入れたわけじゃあない。
この王国で一番の魔術学校へ入るには一週間も続く煩わしい試験をパスしなきゃならない。
学校敷地内第一棟の正面ホールには魔術師志願の身の程知らずどもが雁首揃えてアホ面を晒している。
下ろし立てのローブに宝玉の付いた杖を見せびらかすボンボン、死ねッ!
整えられた髪をこれ見よがしにかき上げるブス、死ねッ!
馬鹿みたいな魔力垂れ流しながら『ええー?俺ってそんなにすごいー?』みたいなドヤ顔晒すクソ野郎、死ねッ!
あっ!なんだあのブスッ!イケメン侍らせてチヤホヤされやがって!
どーせフードの下にゃ尖がった嫌味な耳が隠れてんだろ!
クソ耳長がブスの癖に調子に乗りやがってブスの癖にブスの癖にブスブスブスブスブスブスブスブスッッッ!!!
ハァハァ……
今に見てろよ。
お前ら全員落第させてやる。
この私の魔術によってなぁ!!
よーしよしよし、<<無限希釈の因果獣>>。出番はもうすぐだぞ。
不可視の呪文を身につけ、私の意のままに敵のテスト用紙を偵察して破壊工作を行えるお前は最高のスパイだ。
お前だけが私の友達だよ……
この世の主人公気取りでいい気になってる奴らは全員、私の魔術で地獄に落ちろッ!
故郷で私をコケにし腐った連中同様、まさか己が落第するとは微塵にも思っていない奴ら全員を破滅させてくれるわァっ!
ハァハァ……
言っておくけどこれは私の正当な権利なの。
これは戦争なんだ。
よく言うだろ、受験戦争って。
戦争なのだから勝利の為の全ての手段は正当化される。
だから私は何も悪くない。
私の魔術を見破れない連中が間抜けな甘ちゃんなんだ。
魔術師としてシビアで正しいのは断然私の方だ。
世間の厳しさを教えてやる私に感謝しろ。
おっと、魔術学校のボンクラどもが奥から出てきたな。
<<無限希釈の因果獣>>をローブの懐に潜ませて……と。
これから私の栄光の道が開けるんだ。
入学試験をトップで通過し、学校でも輝かしい成績を修めて煌びやかな宮廷魔術師になるんだ。
いや、工房を開くのも良いな。
私の作った秘薬や魔法道具をイケメンの冒険者達や貴族達がこぞって買いにくる……フヒヒ。
よし、工房を開くことにしよう。
私の素晴らしい才能をせまっ苦しい王宮に埋もれさせておくなんて世界の損失だ。
フヒヒ……凡才どもめ、この私に感謝しろ。
未来の偉大な女魔術師たるこのフェールケ・モーリス様の踏み台になれることをなぁ!
「えー受験者の皆さん、お待たせしました。これから入学試験の本受付を開始します」
き、来たっ。
お、お、落ち着け私。
だだだっ大丈夫だ。
私には<<無限希釈の因果獣>>がいる。
故郷の推薦試験でもばれなかったんだ。
だ、だ、大丈夫だ。
友達を信じるんだ。
「お手数ですがカンニング防止のために身体検査を行いますので、書類受付のあとは男女別に奥へお進み下さい」
……………………なっ
なァンだとォォォおおおお!!!!
ふ、ふざけるな!!
これは不意打ちだ!騙まし討ちだ!
な…なんて卑劣な奴らだ!
お前達には良心と言うものが無いのか!?
まだ何もやってない善良な受験者を端から疑ってかかるなんて、人として最低だぞッ!
こんなのあんまりだ!
どうして私ばっかりこんな仕打ちを受けなければならないんだ!
この世には神も精霊もないのか!?
し、しかしどうするッ!?
ここで迂闊に引き返して魔術学校を出れば『あいつはカンニングするつもりだった』なんてあらぬ疑いを掛けられてしまう!
私の清純な乙女のイメージが台無しだ!
心無い輩に無実の罪を着せられて一生後ろ指を刺されるなんて御免だッ!
最悪、試験に落ちてもそれだけは回避しなければ……!
どうする!?
ど、どうにかして<<無限希釈の因果獣>>を隠さないと……!
!
……なあ、知ってるかい<<無限希釈の因果獣>>。
東方の沼地の国に住んでるリザードマン達はね、“シノビ”っていう、ちょうど君みたいな敏腕スパイ集団を持っているんだ。
そこではね、卒業試験で訓練時代の相棒と一対一の殺し合いをさせられるそうだよ。
それは“シノビ”として生きる覚悟と過去との決別を意味する儀式でもあるんだ……
そんな目で見ないでくれよ<<無限希釈の因果獣>>。
私だって辛いんだ。
でも私はお前の尊い犠牲を無駄にはしないよ。
お前なら……分かってくれるよな……?




