第五百三十話 消せない愛は痛むけど
巫女対戦式ドラフト会議。
最終日に出場する四組がお助けカードを三枚選ぶ。
カードから呼び出された者はサポートメンバーとなり、一試合につき十分間協力が可能。
サポートメンバーは巫女以外であれば所属や種族を問わない。
ただし当日出場予定の選手は敗退後でなければ呼び出しは不可能とする。
投票は四組が同時に行い、同じ者が選ばれた場合は抽選になる。
指名された側が断ると投票は次のフェイズに進み、全ての組がカードを三枚得るまで続く。
「交渉の時間を三十分設けますのデ、質問があれば今のうちにドウゾ」
活躍できなかった選手へのチャンスだと話すマジシャンには不信感しかない。
商品の宣伝のためだとハッキリ言われた方がまだマシだ。
「時間の無駄ですね」
「あたくしには必要ありませんわ」
優勝候補筆頭の桃太郎様と女王様は案の定下らないと切り捨てた。
だが主催側もこれぐらいは想定済み。興味を示さない二人が確実に食いつくであろう情報を提示する。
「カードは五枚捨て札にスル事で、指定したダークヒーローを相手に差シ向ける特殊効果があります」
同じガチャを回す者として聞き捨てならないセリフに両者が即座に反応した。
「つまりカードを奪えば自由に制裁タイムを起こせるという事ですね?」
「ハイ」
「捨てたカードは次の試合でも使えますの?」
「モチロン」
それぞれの質問にマジシャンが張り付いた笑みで答える。
この瞬間お助けカードの認識は、サポートアイテムではなくサムライ召喚札と化した。
同時に明日の試合がカード争奪戦となる事が決定したのだった。
「ご納得いただけたようデスので交渉タイムを開始シます」
事態が完全に飲み込めないまま無常にも制限時間のタイマーが動き出す。
再起動した俺はとりあえずリコちゃんにお伺いを立てた。
「ど、どうしよっか?」
「とにかくクリノの所に行くべきよ」
おかわりガールはゲットしたラーメン、醤油・味噌・とんこつの三種の食べ比べに夢中の様子。
ラキさんもいるしトラブルの元は置いていこう。
ところが向かった暗殺者ギルドのテーブルには先客がいた。
「おや、女王陛下には必要ないという話でしたが聞き間違いでしたか」
「あたくしがどの駒を選ぼうと勝手ではなくて?」
そう、接触したくない人物ナンバーワンの桃太郎様と独裁女王が火花を散らしていたのだ。
バランスブレイカーのヨハンさんを野放しにはできないとの考えからだろう。
互いの指名を断るよう要求する二人を尻目に、俺とリコちゃんはテーブルの反対側へ向かった。
「俺に目を付けるとはやるじゃねえか」
「盗賊に用はないから」
グルダさんを素通りしてやってきた妹にクリノちゃんの肩が跳ね上がる。
ハイ・ポーションの副作用からは回復しているらしく、普段通りの態度でちょっと安心した。
「さてと。言いたい事は山程あるけれど、まずは無事でよかったわ」
罵倒の嵐に備え、身を縮めていたクリノちゃんは思わぬ気遣いの言葉に顔を上げる。
「で、何があったのか洗いざらい話してもらおうじゃない」
とはいえリコちゃんの追求が止まるはずもなく、容赦のない尋問に再び顔を伏せた。
暗殺者ギルドから出場する事になった経緯、誘拐を指示した黒幕の正体など疑問は尽きない。
せめて本拠地の場所ぐらいは聞いておきたいところだ。
「ここなら暗殺者ギルドの奴らも手を出せないだろ。大会中は運営が守ってくれるって」
「ダメです」
助けを求めるよう促しても首を横に振るばかり。
ギュッと握った手を震わせ頑なに情報の開示を拒むのだった。
「ふうん。兄様や私達にこれだけ心配をかけておいて?」
プレッシャーに耐えて頷く彼女に対し、リコ捜査官は冷静に逃げ場を潰してゆく。
「こっちはサトリを呼んでも構わないけど」
「!?」
自白剤で強制的に吐かせてもいいのだと脅され、慌てて自分の口を塞ぐ。
身内同士の恫喝にマジシャンのストップは入らない。
グルダさんに目配せして助けを求めるも、自分で何とかしろと傍観の姿勢を決め込んでいる。
「そのぐらいにしておいてくれ」
涙目になりながら必死の抵抗を続ける彼女に救いの声が響いた。
「ヨハンさま!」
「暗殺者ギルドのトップは代替わりした。巫女を亡き者とする誤った思想と共に」
勧誘合戦の決着はついたようで大物達はテーブルを離れている。
引き下がる気配を見せないリコちゃんを制し、ヨハンさんが淡々と告げた。
「明日になれば全て分かる。他に用がないなら時間は有効に使うんだな」
クリノちゃんの手を取って席を立ち、これ以上明かすつもりはないと会話を打ち切る。
断言しよう。ベールの下は恋する乙女の眼差しになっていると。
そのまま移動しようとした二人だったが、今度は別の人物が立ち塞がった。
「じゃあついでに教えてくれてもいいわよね。アタシのタケをどこにやったのかも」
目を血走らせて絡んできた魔女を見てクリノちゃんが小さな悲鳴を上げる。
つーかアタシのタケって何?
もしかしてギルドマスターの責任感からじゃなく、個人的な感情で動いてたんですか??
「行きましょ」
繰り広げられる恋愛模様に混乱しているとリコちゃんに太ももを叩かれた。
「癪だけどヨハンの言う通り自分達の試合を優先するべきね」
「いいのかリコちゃん」
「どうせ明日には分かるんだから。それより誰を勧誘するか考えないと」
リコちゃんは自分の感情より前に進む事を選んだ。
彼女の頼もしさに感動している場合じゃない。俺も勇者として勤めを果たさなければ。
「だったらコオリに声かけとこうぜ」
俺達が勝って女王様チームが敗退すればコオリをサポートメンバーに加えられる。
クリノちゃんとの対戦で取られないためにも、イケメンはキープしておく必要がある。
ちょうど一人みたいだし、俺が頼めば二つ返事で了承してくれるはずだ。
「ごめんね。悪いけどお願いは聞けない」
けれども俺の望みはコオリ自身の言葉によって拒否されたのだった。




