第五百二十九話 彼は何処へ行った 答えられることもなく
「宇宙を舞台とした第十二試合は本日の最後を飾る、実にエキサイティングな戦いでしたね」
銀河をバックに繰り広げられた海賊チームと女王様チームのスペース・バトル。
目まぐるしく動く戦局は、勇者の木剣を使いこなすイケメンの有能さを存分に知らしめた。
「優勝候補を相手にラキチームも奮闘したのですが、惜しくも敗退となってしまいました」
ビジュアル抜群の美少年の活躍をたっぷりカメラに収めたのだ。視聴率も安泰といっていい。
会場からは以前にも増して女性達の熱い視線が注がれていた。
今日の試合だけでイケメンガチ勢が何人生まれてしまうのか、うらやましい限りである。
「メンバーの半数が勇者ではないという点も驚きです。冒険者ギルドの人材の厚さがうかがえます」
「今後も良い関係を続けてゆきたいものですな」
倒した全員が氷結フィニッシュだったため残虐シーンの捏造は行われなかった。
ラストアタックを女王様が決めていたら、マジシャンが串刺しエンドを演出したに違いない。
「明日は準決勝と決勝をお届けします。追加ルールとギミックも登場予定ですので最後までお楽しみを!」
おい待て聞いてないんだが。締めの挨拶にサラッと重要情報をブチ込むんじゃない。
「選手の方々には特別なプログラムがありますので、誘導に従って進んで下さい」
抗議の声を上げようとすると案内役のマッチョメン達にやんわりと制止された。
既に観客は退場を始め、試合場は明日に向けての調整に入っている。
一般席に残っているのは俺達のみ。仕方なく案内役の男達に従い参加者席を降りてゆく。
「お腹すいたんだけどー。ご飯まだー?」
文句を言いながらついてくるペコリん坊。尻をつつくな尻を。
しかし不機嫌だった顔は目的地に近付くにつれ、だんだんと明るくなっていった。
「食べ放題だー!」
試合場の地下には昨夜の立食パーティの規模を遥かに上回る、バイキング形式の会場が用意されていた。
現地の食材を使った豪勢な品々の他、馴染み深い世界各国の料理やチャンサンの高級中華屋台まで。
宴の席を見れば巫女対戦に参加したほぼ全ての人達が集まっている。
「セバス様、こちらです」
和食コーナーに目を奪われていたところでラキさんに呼ばれ、ハッと我に返る。
テーブルではキャプテン達とチェッツさんが同席しており、中央には冒険者ギルドの札があった。
さとりが騒ぎ出す前に手早く中華まんの盛り合わせを持たせ、ひとまず席につく。
ジューシーな肉まんにチーズがとろけるピザまん。肉厚のチャーシューまんに海老入り海鮮肉まん。
あんまんはつぶあん・ごまあん・栗あんの豪華三種類だ。俺はおにぎりセットを確保した。
「体調とか平気なんすか?」
「問題ありません」
解凍が早かったので他のメンバーにもこれといった不調はないそうだ。
元気に海鮮や肉料理を平らげる男共の横で、ギルドマスターの魔女が仏頂面で酒を飲んでいる。
側には空のボトルとグラスが積み上がっていた。
「チェッツさん、荒れてるっすね」
小声で聞いた俺にラキさんが無言で奥のテーブルを指す。
会場の隅にひっそりと設けられた席には、因縁の相手である暗殺者ギルドの札が堂々と掲げられていた。
席にいるのはもちろん、ギルド代表として出場しているヨハンさん達三人組。
「クリノ!」
「待ちなさい」
姉の姿を見つけ、立ち上がりかけたリコちゃんをラキさんが引き止めた。
運営が許可を出すまで他の陣営との接触は禁じられている。
無視して突撃したチェッツさんは謎のバリアに阻まれ、魔法が封じられたとの事。
同じ目に遭いたくなければ大人しく待てとのありがたいご忠告だ。
「それでヤケ酒に走ってるんすか」
「タケの行方を吐かせようと話も聞かずに行きましたから」
冷めた眼差しを送る彼女とは逆に、俺はギルドマスターの情の厚さに感動していた。
暗殺者ギルドに連れ去られた仲間を救うため、トップ自らが先陣を切って動いたのだから。
「えー、バナナもらいに行けないじゃん」
お前は自分勝手な理由で厄介事を起こそうとするんじゃない。リコちゃんの自制心を見習え。
それにしても何のためにこれだけ大勢の人間を集めたんだ。
明日の説明をするのなら敗退した選手は当然として、ギルドの関係者を呼ぶ理由もない。
さすがにダークヒーローはいなかったが、商人ギルドや魔女のユリカ様まで参加している。
「まさかデスゲームとか始まったりしないよな」
ただのルール説明会にしては不穏な要素が多過ぎる。
疑心暗鬼になりつつ肉味噌おにぎりと浅漬けを堪能していると、チャイムが鳴り会場の照明が落ちた。
「レディース&ジェントルマン」
ステージ上には死のゲームの主催、もとい巫女対戦の公式アンバサダーのマジシャンが立っていた。
半ば予想通りともいえる人物の登場に皆が食事の手を止め身構える。
中華まんをあっという間に食い尽くし、次の獲物を求めて席を立った飯狩り族を除いて。
「本日はお願いがあッテお集まりいただきました」
サッカク・マジシャンが指を鳴らすと各テーブルに絵柄のないカードと封筒が現れた。
一人につき一セット。人数分が用意されているものの、罠を警戒してか誰も手を出そうとはしない。
「コチラは協賛企業が販売予定の『シャーマン&スレイブ(仮)』の試作品デス」
突拍子もないワードで招待客を置いてきぼりにしながらマジシャンの説明が続く。
カードを持ち『投影』と唱えると自身のデータが自動的に書き込まれる。
封筒は内容を見られたくない人向けだと。
「一体これがお願いとどういう関係があるんだ」
質問を投げかけた†漆黒の使者†こと竜也氏の手には自身の姿を宿したカードがあった。
中二病患者には魅力的なアイテムだもんな。俺も人の目がなければ即行でやってたわ。
彼の問いにマジシャンの猫目がキラリと光る。
「今から勝ち上がっタ四組の皆サンには、ドラフト会議をシテもらいます」
カードバトルじゃないんかーい!!




