第五百二十八話 氷の架け橋 わたってゆこう
モニターに表示された全体マップのうち、宇宙ステーションの中央部が赤く点滅している。
通路内ではバイクやフォークリフトの残骸、黒曜石の欠片などが浮かび上がった。
「ラキチームの破壊工作により周囲の物が無秩序に動き出しました!」
当然この場にいる全員が制御を失った重力の影響を受ける。
ノエミさんが逆さ状態で照明にへばりつき、女王様は壁の凹みに杖を引っ掛けて体勢を維持。
尻尾で人狼を巻き取ったキャプテンは床に爪をめり込ませ、再び炎を吐き出した。
「トム選手の攻撃を剣で受け止めたコオリ選手!ブレスの勢いに負けじと踏ん張ります」
「吹き飛ばないよう足元を凍らせているのでしょう」
名誉会長の言う通りイケメンのブーツはピタリと床に張り付いている。
ぶつかり合う炎と氷の属性攻撃はキャプテン側が徐々に押され始め、硬い鱗に霜が降りた。
「これでも食らいな!」
ウォンジィが放った援護射撃も冷気に包まれ瞬く間に氷漬けに。失速した矢が落下と同時に砕け散る。
「嘘だろ!?」
「クソが!もっと気合い入れて撃ちやがれ!」
「テメエの炎がショボいからだろうが!!」
木剣ブーストのチートぶりは想定外だったらしく、妨害行為による優位性はあっけなく崩れた。
悪態をつく男共に興味を削がれたのか、流れるツインテールを払いながら女王様がコオリに命令を下す。
「見苦しいですわね。片付けなさい」
「仰せのままに」
ダイヤモンドダストが舞う中、強度の増した氷をスパイク代わりに前進する。
力に溺れたウサギ悪魔とは違い、木剣を堅実に使いこなしているのはさすがの一言に尽きる。
顔が良くて精神面まで優秀とか神様が調整ミスってんじゃないか。
「チクショウ!共倒れはご免だぜ!」
追い詰められたウォンジィは巫女の擬態を解き、後ろ足でキャプテンを蹴って逆方向へと飛び出した。
が、イケメンナイトが女王様の獲物を逃すはずもなく氷の檻が行く手を塞ぐ。
そのまま急速冷凍。哀れ人狼は獣の氷像と化したのだった。
「逃走に失敗したウォンジィ選手が行動不能に!キャラメリダチームの快進撃は止まりません!」
とうとう冷気がドラゴンブレスの熱量を上回り、キャプテンの下半身が凍りついた。
背後に回した腕もスペル・ボムを掴む前にバックパックごと氷に覆われる。
「危ないですよ。誤爆したらどうするんですか」
心優しきイケメンの事だ。きっと試合が終われば氷漬けになったとしても無傷で解放してくれる。
「へッ、世間知らずのお嬢ちゃんが一丁前に心配か?」
余計な喧嘩さえ売らなければ。
極寒の空気とコオリの眼差しにドラゴンシャーベットの単語が頭をよぎった。
だが惨劇の予感に反して公開処刑は行われず、淡々と進む冷凍作業にホッと胸を撫で下ろす。
挑発への完全スルーに舌打ちしたキャプテンは、最後の抵抗とばかりに中指を立てたポーズで固まった。
「あれでコオリが怒んないの初めて見た」
児童妖怪がイケメンの成長ぶりに驚いているが、お前もそろそろ精神年齢を小学生からアップデートしろ。
「残りは三人。散らばる前に探しなさい」
女王様のお言葉にノエミさんがあからさまに顔をしかめる。
ただでさえ広い施設内をバイクを使わず無重力状態で探索するなんて、骨が折れるどころの話ではない。
『その必要はありません』
無理だと口を開きかけた彼女は流れた音声に動きを止めた。
壁際に出現したホログラムに映ったのは、声の主であるラキさんと残った海賊のクルー達。
彼らの居場所はイケメン達がいる区画の天窓に影が差した事で明らかとなった。
「宇宙海賊の襲来だー!」
停泊していた宇宙船の一つが急接近し、海賊マークの入った砲台を向けている。
コックピットではラキさんを司令塔に男二人が操縦を担当。恐らく破壊工作を仕掛けた別働隊だ。
「黒い盾を使うケヴィン選手がいない今、砲撃を防ぐ手立てはありません」
いやいや、中に味方が残ってんだから普通は撃たんやろ。
「撃ったー!!」
「撃つんかーい!?」
警告なしで発射したビーム兵器が通路に穴を開け、美しくも恐ろしい星の海が解き放たれた。
早急に対処しなければ酸素だけでなく中にいる全員が宇宙空間へ放り出されてしまう。
チームメイトを守るため、すぐさま完全無欠の美少年が動いた。
「コオリ選手がまたまた大活躍!大破した壁を瞬時に塞いでピンチを切り抜けました!」
イケメンの仕事ぶりはとどまるところを知らない。
修復に使った氷を巨大な氷柱へと成長させ、宇宙船を貫き武装もろとも瞬間凍結。
木剣の一振りで中心をくり抜くと、吹雪を推進力にパイプ状の通路を一気に滑り抜ける。
「ぐえっ!」
コックピットの扉を破ったコオリに海賊の一人が巻き込まれて吹っ飛んだ。
「マジかよ」
残るメンバーはラキさんとクロスボウを構えたクルーのみ。
どこか頼りない印象の男が矢を放とうとするも、雪だるま軍団の襲撃によりあっさり撃沈。
眠りの魔法が暴かれた今、攻撃手段を持たないラキさんに勝ち目はない。
「ここまでですか」
観念したように目を伏せた魅惑の巫女に、誰もが女王様チームの勝利を確信した。
「ええ、終わりです」
ラキさんを直視したまま、視界の外から飛来した何かを掴んだイケメン以外は。
拡大した手元には米粒サイズの物体が映っていた。
木剣パワーで身体能力を底上げしていなければ反応できない、小さな小さな羊。
チェックメイト寸前の状況でもトラップを仕掛けてくるとは、つくづく油断のならない相手だ。
「少しの間我慢して下さい」
抵抗できないようラキさんは特に念入りに氷で固められた。
最後に扉の下敷きになった一人を凍らせ、宇宙海賊を完全に制圧したのだった。
「ラキチーム全滅!キャラメリダチームの勝利です!」




