やっちまったな!
「どのチームとの勝負にも言えることだが、勝負の鍵になるのは多分、というか絶対に俺達だ。」
昨日、歌恋さんがチームの紹介をしているときに、染島さんを介してなされた会話だ。
「このチームで1番強いのはイリナだ。しかもこの戦いに出場している人間の中でも1番に強い。だからどのチームも、イリナがいるところで勝ちを取りに行こうとすることはないと思う。」
第二類勇者の中でも飛び抜けて強いのがイリナだ。そんなやつにリソースを割いてわざわざ勝ちに行こうとするチームはいないだろう。3人でも、4人でも負ける可能性は高いのだから。しかもそんなことをやってしまったら、他の戦いで負ける可能性が飛躍的に上がる。………デメリットが大きくてメリットが小さすぎる。なんだこれは、ここに重点を置くバカはいないじゃないか。
「で、そうなると相手はイリナがいないところで2勝しなくちゃいけなくなる。………その為にはこのチームの欠点を最小の人数で倒し、染島さんや黒垓君のところに重点を置いて勝ちに行きたいはずだ。で、このチームの穴はどこだ?」
「ミフィー君。」「師匠っすね。」「飯田君ですかね。」「飯田さんですね!」「炒飯食べたいな。」
まったく………全員一致だ。鼻が高いったらありゃしないな。
「そう、つまり、俺がいるところで、最小限の人数で勝ち、染島さん達を全力で潰すのが相手の勝利ルートだ。」
初日はともかく準決勝、決勝戦ではこうなる可能性が高くなるだろう。一人一人の強さの質が上がって行くのだから。第一類勇者とか余裕で敵になるだろう。
「だから俺達はあえて、全ての試合のメンバーを固定して勝ち進んで行こうと思う。先鋒、中堅、大将、全部同じメンバーだ。勿論俺は先鋒だ。ここで勝てば全ての試合を優位に進められるからな。」
「……つまり、薄くなった相手の戦力を利用して、ミフィー君達が倒すと。」
そう、相手がもし1人で来てくれたら、俺達でも勝機が見えてくる。いや、だけれど、2人でくることは多分ない。だってそしたら黒垓君に負ける可能性が上がるからだ。だから1人でくることの方が多いはずだ。
それにもし俺達の作戦を深読みして[決勝戦でいきなりオーダーを変えるのでは?]とか考え、俺がいそうな場所に勘で重点をおいて、そこがイリナがいるところだったら、黒垓君達が勝つ可能性は飛躍的に跳ね上がり、また、俺が勝つ可能性も上がる。
俺は将棋で例えれば桂馬だ。序盤はクソの役にもたたないし、下手したら簡単に取られる。それに取られてしまってから奴らは本気を出して、元持ち主を苦しめる。でも終盤になってくると詰めに良い味を出してくるんだよなぁ。使い方さえ間違えずに、応用を効かせていけば、相手を苦しめることも倒すこともできる。ほんの少しのアクセント。けれどそれは確実に、相手を苦しめる。
「染島さんと黒垓君のコンビは連携がうまく取れて、どちらも階級が高いので良いプレッシャーになる。だからこの2人は中堅だ。イリナは……亜花君と遊んでてくれ。彼を戦わせたくないからね。………つまり、俺と一緒に相手の寝首をかくのは………」
「………私ということですか。」
上村さんが神妙に相槌を打つ。
「俺達が1番重要で、大変だ。いや、俺達ではなく[貴女が]、ですかね。俺というお荷物があるから負担が半端じゃない。俺は出来る限りのことをして貴女のことをサポートしますが、それでもやはりやるのは貴女だ。それほどに辛いのですが……上村さん。やってくれますか?」
「………勿論ですよ!是が非でも優勝してやりますとも!」
………良い返事だなぁ。これなら期待できそうだ。
「先鋒戦のメンバー紹介だぁああ!!!まず最初はチーム問題児から!!!」
ステージに上がると歓声とブーイングが加速した。
それはもう、鼓膜が破れるぐらいに。
だから俺はわざと手を挙げて彼らの怒りを煽っていく。
「まずはチーム問題児のリーダー!!問題児の中の問題児!!ゲスさ、クズさ、卑しさ全てが抜きん出ている完全無欠の最低ボーイ!!飯田狩虎ぉおおお!!!」
うわーー散々な言われようだ。
まっ、狙ってやったから仕方ないし、それにそもそも合ってるから否定ができない。
まぁ、もちろん彼女の声に付属して飛んでくるブーイング。だがもう、耐性はついた。逆境は慣れっこだ。てか順境を経験したことがないからなぁ。そろそろ味わってみたいものだ。
「お次はぁああーー!!チーム問題児唯一の善意!![どんなクズでも守ります。]ってか!?まるで女神だぁああ!!!問題児の中にいるとさらに輝いているぞ!!!上村春香ぁああ!!!」
うわーーベタ褒めだ。
まっ、そうだよな。良い人だもの、当然のコメントだ。
歌恋さんの声に付属して飛んでくる賞賛の嵐!なんという歓待!俺に分けてくれも良いんじゃないかな?
「そして!!チーム特別待遇からの刺客は………橋枝健ただ1人!!去年から今年にかけて目覚ましい功績を打ち立ててきた、れっきとした実力者!!功績の数だけで言えばイリナに肉迫するその実力、遺憾無く見せてくれ!!!」
………健君かぁ。これまたメンドくさいのが相手だなぁ。
「…………上村さん。」
ポン
俺は上村さんの肩を叩いた。
ビクッ
上村さんは大きく体を揺らした。
「………勝つぞ。」
「………はい!!!」
俺は腰に備えた2本の剣のうち、小振りな方を引き抜いた。いつも俺が使わせてもらっている騎士用の魔力強化の剣だ。
上村さんも剣を引き抜く。俺が手にしているものよりも大きめな剣だ。
健君は………何も装備していない。素手だ。
「両者共々準備はいいな!?!?それじゃあいくぜ!!試合、開始!!!」
ゴォオオン!!!
いままでよりも大きな音でゴングが鳴らされた!
ダダダダ!!
健君が一目散に俺の方へと走ってきた!!
先に弱い俺を潰そうって腹か!!
俺は相手の攻撃軌道上に剣を、刃を相手に向けて置く。
受ける俺も大怪我間違いなしだが、相手の片腕を持ってけるのなら安いもんだ!いいぜ!きやがれってんだ!
ニッ!
拳を振り下ろす健は、ニヤッと笑った。
ガギン!!!
健君は刃もろとも俺の剣を叩く!!
マジで言ってんの!?だっておま、ええ!?
しかし健君の拳は切れない。むしろ剣を押し込んで俺に、逆の刃をぶつけようとしてくる!!
ブシッ!!
左腕に切り込みが入る!!
やっば……!!!
ドン!!!
腕が切られる前に俺は殴られた衝撃で吹き飛び、ことなきを得た。
こういう時だけは自分の胆力のなさに感謝してしまうな。
壁にめり込んだ体を引っこ抜く。
このステージは魔法の結界が張り巡らされていて、どう頑張っても観客には被害が及ばないらしい。だから俺が観客席の壁にぶつかろうが、彼らに怪我はない。むしろ壁が硬すぎて俺に対する被害は増すばかり。
腰を痛めてしまったな………左腕ももうほとんど切れているようなもので、バランスを取るぐらいしか活用方法がないし………
ガクン!
立ち上がろうとすると、膝から体が崩れ落ちた。
わい!?ちょっと待て!まさかこれって………
再度起き上がろうとすると腰に激痛が走る!!
………腰椎分離?まさか、いや、だって………
何度も何度も起き上がろうとするが、やはりあまりの痛さに体が持ち上がらない。
…………やっちまった。
本当に、紛れもなくお荷物になってしまった。
重要関連作品
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/




