決勝戦前
「イリナとスカラさんから教育という可愛らしいフェルトが縫われた綿の袋に包まれた拷問を受けている間に、試合終わっちゃったな。」
俺とイリナがスタッフに促されるままにステージ上に戻ると、上空に[決勝戦]と書かれた大きな大きなボードが浮かんでいた。
観客達は盛大に盛り上がり、奇声やら興奮やらを各々ぶちまけている。
「肌触りよさそうで何よりでしょ。いつも持ち歩いて良いんだよ?」
「中身が40キログラムぐらいあるからなぁ。俺には耐えられないわ。」
ストレス発散ができて嬉しいのか、サッパリとした顔のイリナ。
………このドSめ。
「いやーー黒垓君が大活躍だったんですよ。並みいる敵全員を病院送り!やはり勇者は強いですね。」
ステージ横の待機席に座っている染島さんが声をかけて来た。
「まっ、オラの手にかかれば全員赤子みたいなもんす。素っ裸間違いなし!」
「赤子ってそっちの意味なのか………」
亜花君も席に座ってぼーっとしている。多分真ん中に当てることに関してだけはマスターして、飽きちゃってやることがないのだろう。
「亜花君!暇を持て余しているんじゃないかな!?」
俺は亜花君に声をかけた。
「………うん。もう飽きた。」
やはり予想通りだ。空を見て亜花君は呟く。
「そういう君に新しい遊びを伝授しよう。」
「本当!?」
亜花君の目が輝きだす。
「そりゃ勿論さ。俺は基本、嘘は言わないからね。………さて、今回教える遊びというのは…………」
俺は氷を創り出し、それを立方体に削る。それを4個作り、さらに大きな立方体を作り出した。
「[暇を持て余した神々の遊び]というゲームなんだ。」
「へー!!初めて聞いた!!」
一回紹介したのに案の定亜花君は忘れていた。
まぁ、仕方ない。全然興味を示してくれてなかったもんな。
「この遊びは……まず、これが生み出された経緯を話さなくちゃいけないな。まず、伝説のスナイパー井上が、トロイア戦争で神々に並ぶ功績を収めたことで神へと昇華したんだ。」
「スナイパー井上が!?」
「そう、スナイパー井上がだ。彼はスナイパー井上で鍛えられた精神力と技量が既に神の領域へと突入していてね、それをその戦争で認められ、神になったんだ。」
一体スナイパー井上とはどんな人間なのだろうか。少し興味が湧いてきたぞ。暇があったらストーリーとか性格を文字にでも起こしてみようかな。
「が、彼は暇になったんだ。神というのはこれといった目的もなくただ存在するだけのつまらないものだからね。ただ生きるだけ、何をするでもなく………だから彼は新しい遊びを作った。それが[暇を持て余した神々の遊び]の起源さ。」
なんと無駄に壮大なのだろうか。口からの出まかせではあるけれど、本当に興味が湧いてきた。
「この遊びは神様のように自由気ままに物を作っていくゲームだ。俺が今作ったように立方体を作ったり、」
ズァン!
水が地面から飛び上がり、凍りつく。
「塔を作ったりもできる。門も作れるし家も作れる。とにかくなんでもいいから自由に何かを作るんだ。」
最近巷で噂のマインクラフトみたいなものだ。まぁ、あれと違うのはお手軽性がないのと、自由にものを触れること。あのゲームを否定するわけじゃないけれど、結局のところ実際にものに触れて何かを作る方が空間把握能力とか知性が発達する。簡単に言えば脳へのいい刺激になる。
本当ね、否定するわけじゃないけれど、コントローラー握って画面の中でお城作っても、得られるのは視力が劣化した眼球と全てが立方体でできた奇妙なデータ情報だけだ。
「亜花君は俺のように氷を作り出すことはできないから、そこら辺の岩とか木を削り出すことになると思うけれど………どうかな?面白いと思わない?」
前はつまらなそうだと拒絶された。でも、もうそろそろ…………
「…好きなものを作れるのか………なんか面白そうだね!」
「だろー?材料を作り出すのがめんどくさかったら俺が氷を出して渡すよ。あ、ショップで何か買いたいものがあったらお金も出すよ。好きなもの全てに手を出してみたらどうかな。最高に楽しいはずだ。」
ダーツで磨いたのは物を壊さないための力加減と、物作りに対する感覚だ。たまに亜花君がダーツの矢を作っているところを見たが、結構工夫して作っていた。どうやったらまっすぐ飛ぶのか、どうやったら投げやすいか、それを考え模索しながら小型のナイフで木を削っていた。
今の彼なら物作りの楽しさと、自分の好きなことを実現する欲求が身についているはず。それを後押しするための力加減。壊さずに物を作ることができるのだ!楽しくないわけがない!俺だって美術と技術は3だったが、物を作るのは楽しかったぞ。手先が器用だったら良い作品作れたのに…………
「うん!それじゃあ立方体の氷を一個だして!でかいのね!もうこんぐらいのやつ!」
亜花君は両手を名一杯広げる。
「オッケー。はい、どうぞー。」
ドズン!!!
亜花君の横に1立方メートルの氷を出現させる。
「それじゃあ、何かわからないことがあったら聞いてねー。」
「うん!!」
亜花君は笑顔で頷いた。
さて、これで亜花君の暇潰しと教育に関しては終わりだ………後は勝手にあの子が学んでいくだろう。
試合開始までまと12分………ふむ、一応話を聞いておくか。
「上村さん。やっぱり大きな試合前だと緊張しちゃいます?」
そして、俺は、ベンチの端っこで、こうべを垂れながら座っている上村さんに声をかけた。
「は、はい!?いや、それは、まぁ、さすがに緊張はしてますよ!………だって相手は健なんですから。」
俺に声をかけられた時は語調が乱れていたけれど、一語二言話すうちに、地面を見据えながら、しっかりと言葉を言うようになっていた。
「あーーあの男ですか。魔力とか知ってますか?」
「………何回か見たことありますけど、正直よくわかってないです。見切る前にいつもやられちゃうんで。」
「それでも良いですよ、教えてください。一応相手の情報は知っておきたいので。」
愛歌さんに頼んで、彼らの試合を見てもらったりもしたが、彼らは魔力を発動せずにここまで勝ち上がってきている。全貌が掴めてないのだ。
「………武器をこう、自分の体に体に突き刺すんです。そしたら強くなるんです。」
上村さんは自分の胸に剣を突き立てるふりをした。
………えーー、確かによく分からないなぁ。
「ありがとうございます。大変参考になりました。」
「いやーー私程度が役に立てて光栄です。」
そう返事をし、上村さんはまた神妙に地面を見始めた。
…………ちょっとやばいな。
「………しかしあれですね、1+1って難しいですよね。」
ドサッ
俺は上村さんの隣に腰を下ろした。
「へ?1+1がですか?………まさか飯田さんってバカなんですか、私と同じで?」
彼女は俺の発言に顔を上げ、目が出るぐらい大きくして驚く。
「いやーそうなんだよね。算数が苦手でねぇ。いつもどうしても1+1で躓くんだ。」
早く!早く!早く!!
観客達が口うるさく叫ぶ。
まぁ待て、まだ10分あるだろうが。そう焦るな。
「例えば、右手にリンゴがあって左手にもあった時は、所持しているリンゴは2個ですよね?
」
「そうですね。」
「でも1に1を合わせたら、俺はとても長い縦棒ができるように思えて仕方がないんですよ。[もしこれを2と呼ぶには1という物の高さの比で表現するしかないよな………それだと1:1における条件のもとでは1+1=2であると表記しなきゃいけない]と、そんな気がしてきて、小学生の頃は寝れなかったですね。」
回顧してみたら最高にどうでも良いことのように思える。あの時の俺はバカだったからなぁ。今もバカだけど。
「そして最近は[質量欠損における物質間の結合を想定すると、1+1=2というのはあり得ないような気がしてきて………いや、でもそれは質量の話だけであって、数であると定義し直せば正しいんだよなぁ。]と、考えてたりします。バカですね、バカ。1+1=2なんてものは所詮簡易化された記号でしかあり得ないのに、全てに当てはまる何かだと考えてしまう。」
何事においても条件が大切だ。式だけど全てがわかるわけがない。条件が合わさって初めて式に意味が見出される。
俺の話を聞いて、何を言っているのか分からないように顔をしかめる上村さん。
……まぁ、こんなことを中学生の頃から理解できるのは翔石君ぐらいだ。
「………何を言いたいかというと、考えすぎは良くない、バカになる。ただのそれだけです。側から見たら[うわ、あいつ頭良さそう。]とか[努力してるなぁ。]って思われるかもしれませんけど、蓋を開けてみるとどうでも良いことばっかり考えちゃってるんですよね。そんなこと考えてる暇あったら寝て休養しろ。って感じです。」
あーーほら、あれだ。バター醤油のポップコーンとキャラメルのポップコーン。どっちが美味しいかを議論するようなもんだ。どんなに議論したところであいなれず自分が好きなものを食うんだ。結局議論しようがしまいが結論は変わらない。だったら議論しないで好きなものして落ち着けってことね。
「………考えすぎってことですか?」
「そういうことです。今考えたところで何か変わるわけでもなし!こんな僅かな時間で成長できるのなんてチートバグを備えつけた主人公だけです。」
「…………そうかも知んないですね。」
上村さんはちょっと笑った。完璧に緊張がなくなるなんてわけがない。いや、むしろ適度な緊張感は必要だ。これぐらいがちょうど良いのかもしれない。
「バスケで鍛えた筋肉があるんですよね?この1年間ちゃんと努力して功績を挙げてきたんですよね?………それを信じて自分の目標を呟き、気を落ち着かせる。本番前に何よりも大切なことです。」
「自分の目標………」
上村さんが呟く。
小さく弱い声で。彼女の目標はある程度推測できる。けれど、それを彼女は言いたがらない。だっていままで負けてきたのだから。
「そう!目標ですよ!俺はあれですね、この大会で優勝してスカラさんとグレン、慶次さんにイリナ、カイ、………俺の、俺達の夢を叶えることだ。………ふっ、無理くせぇなぁ!と、思ったでしょう?思っちゃったでしょう?でもね、案外言葉にするとできそうな気になっちゃうもんなんですよ!本気出せば相手全員倒せるんじゃないかって気になってきます。」
俺はブンブン!と、素晴らしく遅いワンツーを披露する。
「………ふふっ、そうですね!だったら高らかに叫んでやりますよ私の、この試合における目標を!」
ビシッ!
上村さんは反対サイドにいる敵チームに指を向ける。指の先には………健くんだ。
「今日こそ勝ちます!絶対に!是が非でも!命を賭しても!そして積年の雪辱を晴らし処理の余韻に浸りながら、ホエー入りのチョコレート味のプロテインを仰いでやります!覚悟してろよ!!」
「そうですよ!その意気ですよ!笑ってやれば良いんです!」
アッハッハッハッハッ!!!!
俺たち2人は腹を抱えて爆笑した。迷い全てを晴らすぐらいに全力で。
「いよっしゃあああ!!!!時間じゃぁぁああ!!!これからぁ、決勝戦をぉ、始めるぞ野郎どもぉおおお!!!!」
うぉぉおおお!!!
観客達が大きな歓声をあげる。2日目の最終戦だというのになんていう元気!熱意!お前ら本当に普通の市民なのか!本当か疑ってしまうぐらいに体力あるじゃないか!!
「それじゃあチーム問題児とチーム特別待遇の先鋒どもはステージに上がりやがれ!!!」
歌恋さんの喉と腹を震わす野太い声。
俺たち2人はそれをききながら、ステージに上った。
いつの間にか100部!?ペース早いのかなぁ。
まぁ、そうだとしてもこんな小説を100部まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!これからあと100部以上続くかもしれないという萎えるような情報を投下しておいてなんですが、これからも楽しみにして読んでくださるのなら、筆者は鼻水垂らしながらでも書いていくつもりです。本当にもう、有り難いものです!
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