サディズム梅雨美
えーーここからは、飯田君に変わってこの染島梅雨美が語り部を務めさせていただきます。
飯田君はどうしたかって?………飯田君は、その、うっ、ウゥ………ふ、不慮の事故で………まさか嵐と炎と雷に巻き込まれてあんなひ、悲惨な状態になるなんて……思っでもみなかった……涙がどまらない………飯田君のいままでの活躍に想いを馳せ、追憶を感じながら、彼への黙祷を捧げましょう。
………
…………
……………
さて、それはそれ、これはこれ。これから中堅戦。私と黒垓君の試合です!先鋒が最高?の戦いを披露してくれたお陰でこっちは緊張感バリバリ!やってやろうって気持ちでミチミチ!ミチミチじゃなくて満ち満ちているか………
「中堅、第一類勇者 黒垓白始アーンド最高幹部 染島梅雨美バーサス!第一類勇者 雨宮スバル アーンド聖騎士長 クラウド・J・ロメロ!!顔みたいなことになってんな!!!さて、この階級差じゃこれまでみたいな秒殺なんてことはないだろう!!真面目に作戦を考えた方が良いぞチーム問題児!!!」
「うーーん。じゃあ梅雨美は顔みたいなのの相手をお願いするっす。オラはスバルとやらをやるっすから。」
「分かりました。さっさと終わらせて援護に行きますね。」
顔みたいな人はまるで重歩兵みたいに体を鎧や籠手、兜で覆っていた。スバル君というかたの装備は軽そうな鎧のみ。
顔みたいな人は動きは遅そうだけれど、防御が硬そうだ………剣が通るかどうか怪しいですね。
「それじゃあ………始め!!」
ゴォオオオン………
大きな鐘の音が響いた。
タン!!
私と黒垓君は同時に駆け出した。黒垓君はともかく、私が勇者に対して受け身の態勢に徹したら後半が辛くなる。いくら思考を感じ取れるとはいえ、身体能力が低いですからね。
ブン!
まずは軽めに、相手の反応速度を伺うために剣を右斜めから振り下ろす。
キン!
すると敵は何の緊迫感もなくそれを戦斧で防ぐ。
……これじゃダメか。
ブン!!
更に速く剣を振るう!
キン!!
だがそれも涼しそうに受け止める。………やっぱり身体能力の差が大きすぎますね。
ヒュヒュヒュヒュヒュ!!
仕方ないから無呼吸の連閃を刻み込む!
カッカッ、カカッ
鎧を少しだけ削ることは出来るけれど、相変わらず本筋は防がれている。
このレベルの勇者ともなると剣術も反射速度も桁違いですね………
(………右だ)
相手の思考が音となり私に伝わった。
今だ!!
クン!!
剣線の途中で手首を捻り、戦斧の軌道から外れる!
ギャリン!!
初めて顔みたいな人の体に剣戟を叩き込むことができた!
………余裕そうな雰囲気がしますねぇ。これは…………
私はすぐにその場から離れた。
遠くから見るとやはり、私が斬った部分はほんの少し削れただけで体までは剣が達していなかった。
「でたーー!!ロメロ選手の鉄壁の鎧!!鎧師グレンから大金はたいて購入した稀代の一品!!魔力との親和性は勿論、やはり鎧であるが故の圧倒的な防御力!!それがロメロ選手の魔力[衝撃吸収]とも相まってまるで難攻不落の城壁のような安定感と不振の自信を生み出す!!!」
………なるほどですね。通りで相手から余裕しか感じられないわけだ。
しかし困る。イリナさんなら衝撃吸収も衝撃軽減も、何もかもを力でねじ伏せられるけれど、私の力じゃそんなことは無理だ。魔族ですからね。力が足りないのです。
ガン!!
戦斧が私に向けて振り下ろされる!!
けれど私は相手の太刀筋を感じ取ることができる。これぐらいならかわすことは出来るけれど………反撃の手段がなぁ。なす術なしといった雰囲気だ。
「梅雨美!援護する!?」
テレパシーを黒垓君から受信する。
「んーーいや、大丈夫。そっちに集中してて。それよりもそっちの様子はどう?」
ガン!!
振り下ろされる戦斧をかわす。
「それが相性が悪くて………シンプルな身体強化の魔力だから手こずってる。」
「第一類勇者で身体強化………相性良くて当たりね。羨ましいわ。私の魔力なんかよりも100倍使い勝手がいいじゃない。」
「そんなこと言ったら私も。使い辛いったら酷いレベル。もう少しシンプルで応用が効くのが欲しいよ。」
「あっはっはっ!2人揃ってメンドくさいって言うのは現実と何ら変わらないのね!せめてこの世界では夢を見させて欲しいものだわ!」
「いや、私めんどくさないし。むしろストレートだし。」
「だからメンドくさいのよ。例えばほら、去年の冬とか帰ってきたときに」
「ああああ!!!やめろ!!昔梅雨美がやってたおっぱいネタ30選を言いふらすよ!!」
「………それはいただけないわね。分かった、ここで手を引いておいてあげる。」
敵と戦いながら2人で会話する。
ここまで繕わずに喋れたのは久しぶりだ。ここ最近自分を作ってばっかりだったから新鮮な気分。仕事とは言えねぇ………やっぱり本性隠し続けるのは辛い。
「まっ、黒垓君。お互い頑張りましょう。私達の仕事のためにも。」
「………そうだね。それじゃあお互い戦いに集中しようか。」
そして私達は交信を終え、敵に改めて対峙した。
ダンダンダン!!!
変わることなく私に向けて振り下ろされ続ける戦斧。だけれどそれを私は後ろに飛びながらかわし続ける。
顔みたいな人の攻撃は全て単調で鈍重。かわすのは簡単だからどうにか隙を作って膝裏を切るか、兜の目の部分に剣を突き刺すしか……っ!?
キン!!!
顔みたいな人の攻撃がいきなり加速した!あまりにも急な心変わりだったから、かわすことができず私は剣でそれを受け止める!
ビンンン!!
私の手に重たい衝撃が走る!!
結構な衝撃だ!こんなの防ぎ続けてたら体がもたない!!
ヒュンヒュンヒュン!!!
無心に高速で振り続けられる戦斧。どうやら私対策のためにか、とにかくがむしゃらに攻撃することに決めたらしい。
確かにシンプルで最もやってほしくない戦法だ。………でも、それは、
けれど私はそれを簡単にかわし続ける。
戦斧なんて重たいものを無心で振り続けて、かつ、私に当てるとなると、どうしても速さと連打が必要になって横振りになってしまう。
私よりも格上じゃないと通用しない技だ。かんすのも反撃するのも簡単だ。
と言ってもやはり反撃の手段がない。黒垓君に魔剣でも出してもらおうかな………
(………幸せに暮らしたい。)
かわし続けていると相手の思念が聞こえてきた。
(この大会で勝って、地位と大金を手に入れたら、静かに暮らしたい。大きな喜びも何もいらない。平穏さえあれば………)
聞こえ続ける願望。それはあまりにも無欲で、そして、慎ましいものだった。
………あはっ
だから、私の嗜虐心に火がついた。
スッ
敵の攻撃の隙をついて、私は剣で相手の胴体を切った。まるで熱したナイフでバターを切るようにスンナリと通過した。
「………?」
しかし鎧は一切傷ついていない。血も出ていない。ただ剣が鎧と体を通過しただけだ。
今は飯田君もイリナさんもいない………それなら少しぐらい、本気でやってもいいだろう。
「ダメだわぁ、そんなつまらない考え方じゃ。」
ヒュヒュン!!
今度は二太刀、彼を切り裂いた。
けれどやはり血は出ない。何も傷つかない。そう、ある1つを除いては。
「野心も何もない、平穏を願い続ける人間の心というのは穏やかで微笑ましいけれど、やはり見ていてつまらないわ。まるで真珠ね。ただ丸っこいだけで刺激が足りない。」
「………何だと。」
ようやく口を開いた顔みたいな人。今私は彼の夢を貶した。だから彼は怒りで震えているだろう。けれど、その口元は怒りではなく喜びを表していた。
それに気づき相手は困惑し……ようとしたが、それも出来なかった。ただ無表情になるだけだった。
「そんなに平穏を望むのなら、静かな喜びのみを願うのなら、今私がそれを叶えてあげる。」
シャシャシャシャシャシャ!!!!
敵の体を、実体のない概念的な刃が切り刻み続ける。いや、体じゃない。彼の感情そのものを切りつけていく。
「やめろ!!」
ガン!!
敵は私に向かって戦斧を振り下ろす!!
「あら、そういう割には笑顔じゃない。喜んでくれて何よりだわ。」
「え………」
敵はずっと笑っていた。私に斬られ続けている間中ずっと、笑い続けていたのだ。
そして困惑しようとしてもやはりできない。笑ってしまう。そもそも困惑というものが何かを分かっていないかもしれない。なぜ困惑しなくちゃいけないのか分からないかもしれない。だって今、彼の心は喜びで満ち溢れているのだから。幸せで仕方ないはずだからだ。
「………あは、あははは!!!あなたが望んでいた最高の状態をプレゼントしてあげたわ!喜ばしいでしょう!?だって今、あなたの感情は喜びしかないんですもの!私が心を切ってあげたんだから!!」
「な、なんということだぁああ!!!とうとう見せたぞ染島梅雨美最大最悪の技、ハートブレイク!!一太刀ごとに人の感情を食い尽くし、心を破壊し尽くしてもてあそぶ!!まさに心理侵食者だぁ!!!!」
歌恋さんの熱い実況。私は非常に愉快にそれを聞き取ることができる。だって楽しいもの。そして彼もまた愉快に彼女の言葉を聞き続けるのだろう。だって嬉しいことだもの。心を破壊されたという事実を突きつけられても、彼は笑い喜ぶのだろう。だって幸福なのだから。
「あ、あはははははっ!!!」
彼は笑いながら戦斧を持ち上げ私に突っ込んでくる。まるで狂ったブリキのおもちゃ。心なく、ぎこちない姿で私を攻撃しようとする。
怒りも悲しみもないのに彼はなぜ走ってくるのだろう。喜びで満ちているのに何故私を攻撃するという判断にたどり着くのだろう。彼の今の感情に、私を攻撃する理由はないじゃないか。
ああ、でも、だからこそ私はそこに心という儚く、そして、遥か遠くへと続く夢路に思い馳せる飽くなき感情を、深淵で明朗な心理というものを感じずにはいられない。
心を無視した理屈抜きの合理的判断。けれど精神を失ったことで起こる心身の拒絶性。考察していて非常に楽しいわ。
「だから、心を破壊したくなっちゃうのよねぇ。」
ピュッッ
ガラ空きだった頭を斬りつけた。
ドサ
敵は倒れた。
血は出ず、笑顔で気を失っている。
全ての感情を斬り捨てた。起きたら感情全ては元に戻るけれど、果たしてその感情という感覚を彼はどれだけ思い出せるのだろうか。私はそれを想像するだけで血の気が沸いた。
「あ、黒垓君。右。」「オッケー。」
ザクザクザク!!!
黒垓君がゲート越しに投げた真っ黒なナイフがスバル君の右手に2本、太ももに3本突き刺さる。
ベチャッ
スバル君は地面に倒れるが、まだ動けるようだ。なんとか起き上がって私達を睨みつけてくる。
瞳にまだ熱意がある。さっきの顔みたいな人とは大違いだ。
ああ、良いわね、その目。強い意志を感じるわ。飯田君には劣るけれど、それでも揺るぎないものを感じる。勝ちたいという純粋な衝動が感じられる。…………見てみたい。
「貴方の心が壊れる瞬間………見てみたいわぁ。」
シーーン………
会場が一瞬で静かになった。
「………梅雨美。そのポーズやめた方がいいよ。」
黒垓君に言われ、初めて気づいた。私は右手の人差し指を唇に当て、舌舐めずりをしていたようだ。
「…………ま、負けでいいです。」
スバル君はギブアップした。彼の目にはもう戦意はなかった………それじゃあ、つまらないわね。興味が失せた。
「…………しょ、勝者チーム問題児だあああ!!なんという圧巻の試合でしたでしょうか!!!見ているもの全てを憤りで血を沸き立たせ、気味の悪さだけで総毛立たせる!!!こんな芸当ができるのはこいつらだけだぁああ!!!それじゃあ30分後に決勝戦………」
「………梅雨美、」
歌恋さんが実況している中、黒垓君が私に語りかけてきた。
「羽目外しすぎ。早く元に戻して。」
「………ふふっ、分かってますよ。そろそろ飯田君達が戻ってきそうですもんね。」
私は彼に笑顔を見せた。
心に燻る歪んだ気持ちを閉じ込めて。
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