バカで天才なやつら
「私と橋枝健………殴って来た男です。は、幼馴染なんです。小学生の頃から………はぁ。」
今日の戦いが終わり2時間ほど経った後、俺達はご飯を食べていた。勇者領の格安ファストフード店。ハンバーガーとかハンバーグ。ナチョスが出るようなやつだ。いや、金銭面的にはどんなところにも行ける。三つ星四つ星五つ星、ミシュラン君がいるお店でお腹いっぱいになるまで食べることはできるのだ。
だけれど俺には似合わん。黒垓君にも似合わん。亜花君にも似合わん。出会って初日にこんなことを言うのはなんだけれど、上村さんにも似合わん。イリナと染島さんぐらいだ似合っているのは。そう、俺達庶民が楽しめるところはこんなところしかないのさ。見栄張って舌に合わない食べ物を高い金出して「うまいうまい」って言いながら食えるほど、俺達は器用じゃない。
「でもなんなんですかねー。才能ってやつなんですか?いつも負けっぱなしなんですよ。勉強も、体育も、何も敵わない。バスケぐらいは勝てるだろと思って中一の時に挑んだら見事に負けました。股を通されました。」
うわーー凄い。俺にその才能を分けてくれよ。
「この世界に来ても、階級はあっちの方が1つ上。私は常に健に劣る人間なんです………辛いですよ本当。」
上村さんはポテトをひとつまみし、口に放り込んだ。
「んで、その橋枝君とやらは鼻を高くしちゃって、常に上村さんに対してあんな態度をとっているってことなんですか。」
はぁーーん………しかし、なんでこうも才能があるやつというのは奢るのかね。自分よりも上のやつなんて腐るほどいるのに。
「そうなんですよね………うーん!悔しいなぁ!!私にもっと力があったらなぁ!!」
上村さんは恥ずかしさを隠すように、悔しさを表情に出さないように、髪をかきあげた。
「大丈夫、安心して。もし彼が私と当たることがあったら骨の全てを引っこ抜いてあげるから。」
イリナは最高の笑顔を見せてくれる。いままでのどの笑顔よりも美しい。後光がさすレベル。
「…………お前じゃ本当にやりかねないから笑えないんだよなぁ。」
いつも、イリナの冗談は冗談に聞こえない。やりきるだけの力があるからだ。
「……イリナさんほどではないにしても、私も少しキレ気味ですね。女の子の顔を殴るなんて、男として最低ですよ。………ねぇ?飯田君。」
「ええ、最低ですね。紳士代表 飯田狩虎から言わせれば男の風上にも置けないクソ野郎ですよ。」
「変態紳士でしょ。変態が抜けてるよ。」
「ふっ………あまいな。紳士という言葉にはもうすでに変態という意味が内包している。そう、紳士は全て変態なのだ。」
「それにそもそも、人間という言葉にも変態という意味が内包されています。人と人の間に存在するもの。って………男と女の間にペケ印が刻まれちゃってるじゃないですか!交わりか!いや、そもそもまぐわいなのか!!」
ガタッッ
俺と土崎さんは立ち上がる。
「そう、人類皆変態。それが俺達の………」
「そう、人類皆変態。それが私達の………」
「「ジャスティス!!!」」
パチパチパチパチ………
黒垓君が涙ぐみながら拍手を送ってくれる。
「………君達本当さ、自重ってものをだね…………」
イリナは顔を押さえて呆れる。
「………ぷっ、あははは!あーー変なのー。」
上村さんは笑った。爆笑というほどではないけれど、心から笑ってくれたように思える。
「………あのですね、飯田さん。」
俺は自分の席に座りなおし、上村さんの方を向いた。
「飯田さんにも、どうしても敵わない人間っていますか?」
「……ん。」
俺はこの席にいる全員を指差した。
「…………いや、あの、じゃあ、質問を変えますね。一緒にいて心苦しい人はいますか?自分の弱さが他人の足かせになるような気がして。」
俺はまた全員に指を向けた。
「……………えーっと、質問を変えますね。力が足りないせいでこいつに嫌われてそうだなー。って思うときあります?」
「大いにある。」
俺は躊躇なくイリナに指差しした。
「はぁ!?ちょっ、なんでよ!!私なんか一回でも嫌がらせした!?」
「今日の試合の直前にご飯食べさせてくれなかったじゃねーか!![弱いからー]とかなんとか言っちゃってよー!?人権侵害だ!!」
「いや、あれは君の為を思ってなんだけど!?!?」
「と、容疑者イリナ=ヘリエルは供述しておりますが、スタジオの染島さん、黒垓さん。今の発言に対してどのように思われましたか?」
「現場の飯田さん、中継ありがとうございます。……そうですね、万民が持っている自然権という不可侵の人権に対しインヴェイジョンがあったように思います。これは自由への、いや、左翼・右翼全ての人民に対する挑戦とも受け取れます。」
染島さんは神妙な面持ちになった。
「オ……私的にはそもそも、三大欲求への疎み、阻害を感じたっす……ました。食べたい時に食べる。寝たい時に寝る。下ネタを発言したい時に発言する。それが人間というものの自由なのではないでしょうか。………亜花さん、どう思いますか?」
黒垓君は隣にいる亜花君に話を振る。
「Umm,what you said is collet,but I feel hungly.Can you take a menu to me?」
「亜花君英語喋れんの!?」
俺はメニューを亜花君に手渡した。
「うん、ネイティブ。あ、間違った。Native.」
まさかのバイリンガル!?こんな日本人顔してるのに!?
…………
「………何で私の方を見たのさ。」
「いや、別に………外国人みたいな顔してるくせに英語しゃべれねーでやんの。とか、全然思ってないですよ。」
「………へぇ、私の1番のネックポイントを抉ってくるのね。」
「[1番の悩み]はpain of head なんだよな。だからネックポイントも悪かないけど、ネイティブ風に言えば[頭が痛いところ……]と言った方がいいぞ。」
「だあああ!!!知らないよそんなもの!!!」
ガシャーン!!
イリナがテーブルをひっくり返した。
「言葉なんて人の自由でしょうが!!なにその格式張った感じ!!」
「………と言っておりますが、染島さん、黒垓さん。どう思いますか?」
「うるせぇえええ!!!!」
イリナが暴れまわって俺達はあの店に出禁になった。まぁ、仕方ない。食べ物を無駄にして、しかも店を台無しにしたんだ。然るべき罰だ。
といってもね、全然食えてない。俺達は腹ペコだ。何か買わないとやってらんないほどに腹ペコだ。でもさっきみたいにお皿をひっくり返すようなことを起こす可能性があるから、お店では食べれない。
なのでそこら辺のお店でテイクアウトをして、星空の下食べることになった。
俺はテリヤキバーガーを。イリナもテリヤキバーガーを。黒垓君はシュークリームを10個ほど。染島さんは………なんだあれ。氷菓子?亜花君はドネルサンド。上村さんは蕎麦。土崎さんは炊飯器一杯のご飯と美少女フィギュア。フィギュアをオカズにして、本当にご飯を食べられるらしい。それを聞いた瞬間に戦慄した。彼女は本物だ。紛うことなき変態だ。俺じゃ敵わないほどの変態だ。
「うおおおお!!綺麗な星空だなぁ!!!」
黒垓君の能力を使い、俺達は明かりが全くない丘へと来た。上空一面が綺麗な星空だ。数百数千数百万の星が爛々と輝く。赤と黄色と緑と白が、青が、紫が!それはもう無造作に散りばめられている。
ボッ
真っ暗なのは素晴らしい。星がいっとう綺麗に見えるから。だけれど本当の闇では手元が見えない。俺達の真の目的はご飯を食べることだ。だから俺は薪を集め、魔法を使い火をつけた。柔らかで温かな光。星の輝きを奪うことのない僅かな光。だがそれがいい。全てを燃やし、全ての光をかき消す力なんかよりもよっぽどいい。
パチパチ………
穏やかな静寂に、薪が燃える音によるアクセント。それによって静寂がより引き立つ。
「………なんか、穏やかでいいね。」
イリナが呟いた。誰に言うともなく………いや、もしかしたら俺達全員に言ったのかもしれない。
「本当だな………決定戦なんかよりもよっぽど楽しいな。」
俺はテリヤキバーガーをかじった。変わらない味だった。
「秋の空はやはり美しいですね。冷えてカラッとした空気は、絶好の観測日和です。……コーヒーありますよ。飲みますか?」
全員が染島さんからコーヒーを貰った。ホットだった。温かな湯気が少し冷えた体を温めてくれた。
ザァァ…………
枯れかけてきた老草が、風に吹かれかさついた音を立てた。木々も少しだけ揺らめいた。
「ふっふっ………天体には少しだけ詳しいっすよ。あれは冬の大三角形っすね。」
「いや、あれは冬のダイヤモンドの一部分だ。確かに大三角も一部分だけれど、違うところだな。あれはポルックスとカペラ、アルデバランだ。その左下が冬の大三角。」
俺は星を指差す。
「うひゃー………マジっすか。やはり師匠には知識では勝てないっすね。………てか宇宙には興味ないんじゃないんすか?」
「ないよ。全然ない。星座もそこまで好きじゃないしな。でも空を眺めるのが大好きなんだ。夜、勉強の合間に空を見つめるんだ。」
俺の家は山奥だ。都会の光が邪魔ではあるが、一等星と二等星ならハッキリ見える。だからそれぐらいの名前は勝手に覚えてしまった。
たまに宏美と一緒に眺めてた時もあったな………あいつの唯一の乙女らしい一面だ。
「亜花君は………寝たか。まっ、しゃあない。こんな時間に連れ回してたらそりゃ寝るよ。」
もう1時を過ぎていた。
そろそろ丑の刻だ。全ての生物が寝る時間。
「………上村さん。」
俺はどこかにいる上村さんに声をかけた。麺をすする音が前から聞こえるから、きっと前にいるのだろうが。
「勝てない相手というのはこの世に沢山います。そいつにバカにされるのも多々あります。世界すべてが自分の敵になっているんじゃないか、自分はいらないんじゃないか、そんなことを考えてしまう時期も存在します。」
いまでも俺は、自分の存在価値を探していたりする。[なぜ俺は生きているのか。][なぜ生き延びているのか。]そればかりが頭から離れない。
「そんな時は少しでいいから思い出して欲しい。[誰よりも強くて、誰よりも弱くて、誰よりも人と打ち解けて、誰よりも無邪気で、誰よりも人の気持ちを察することができて、そして…………」
でも、そんなことを考えたところで答えは見つからない。折り合いをつけなくてはいけない。誰かの意見を聞いて、認め合うことで。
「誰よりも人を認めるバカで天才な人間達]がすぐそばにいるってね。助けて欲しければいくらでも助けになるよ。希望がないのならいくらでも希望になるよ。俺達は常に上村さんの味方だ。」
………こんなこと、昔の俺なら気恥ずかしくて言えなかった。いまでも気恥ずかしいぐらいだ。でも、人の為になるのならいくらでも言いたい。こんな言葉で人に手を差し伸べられるのなら、俺は何回でも言いたい。宏美のように完璧に人を助けられるわけでもないけれど、それでも……………
「………ありがとうございます。」
前方から上村さんの声が聞こえてきた。いつものように明るくはないけれど、それでも十分に覇気がある。
「………あれ?遠回しで私バカにされた?」
「ばっ……バカにしたんじゃなくてだな、あれよ。天才5名にバカ1人という意味合いだ。」
「私はぁあ!?!?飯田さん!!土崎愛歌は除け者ですかぁ!?!?」
「いや、あの、そうじゃないですけど……ええ……………」
俺はイリナにほっぺをつねられ、土崎さんに泣きつかれた。
なにこの状況。
「あら〜楽しそうじゃない。ちょっと来るタイミングを間違えちゃったかしら?」
そうやって俺が戸惑っていると、スカラさんの声が背後からしてきた。
振り返ると案の定スカラさんがいた。それにもう1人、慶次さんもいた。
「明日の戦いの前に様子を確認して雑談でもしようかと思っていたんだけれど、私達はお邪魔のようね。また明日来るわ〜〜。」
「ええ………一緒に会話しましょうよ。今から余計にお菓子を買って来る予定なので、それをお供に是非。」
「だそうよ慶次ちゃん。よかったわね、お話しできるわよ。」
「いや、私にはまだ片付けなくちゃいけない仕事があって………」
「そんなの事務かジジイにでもなすりつけとけばいいでしょ。たまには息抜きも必要よ。」
「はぁ………分かりましたよ。雑談しますよ。スカラさんには頭が上がりませんね。」
こうして大人2人が加わり、夜の雑談は加速した。
重要関連作品
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/
小さな村で起こる不思議な事件。それを機にグレンと亜花が出会い、そこから始まった彼らのゆったりとした物語を書きました→https://ncode.syosetu.com/n4920ek/




