戦闘シーン
コキン
ある者は歩きながら首を回した。間延びした退屈な時間を晴らすように。
バキン
ある者は歩きながら手首を回した。これから起こる出来事をほんの少し期待しているかのように。
ビキン
ある者は伸びをし体をほぐした。これから起こる茶番を憂うかのように。
カツン……カツン………カツン…………
先にある暑苦しい光へと向かう度に、6人の足音が響く。
「さぁてお待たせした!!本日のメインイベント!!と言ってもあと2回あるんだが、それでもこの長かった初戦を締めくくるトリだ!!てめぇらいくぜ!!熱い歓声で迎え入れろや!!右コーナーから出てくるやつら………」
外では歌恋さんが、声を張り上げ場を盛り上げている。だが、そんなこと必要ないほどに、
「チーム問題児をぉおおーー!!!!」
ウォォオオオオ!!!!
表舞台に出ると、鼓膜を吹き飛ばすような歓声が、俺達を震わした。会場は既に熱気に包まれていた。
約2時間以上続いた1回戦が、俺達の戦いで終わりを迎えようとしている。それだというのに、疲れ切っているであろうに、観客は喉を震わせる。情熱をぶつけてくる。
「さぁて、こんな、優勝筆頭チームと初戦で戦う羽目になったのは………このチーム!!」
俺達とは反対側から、6人の集団が出てきた。
全員決意に満ちた顔というよりかは、狼狽に近い表情だ。
「聖騎士から上位聖騎士で成り立つ、言ってしまえば量産型のチーム!!」
言っちゃっていいのかよそんなこと。
「見応えはあるのか!?なかったら、このマッチをわざわざ一回戦最終試合に持ってきた私達実行委員会に非難殺到だから非常に困る!!そんなことを各々胸に秘めながら、この試合を見て欲しい!!!」
押し付けんなよそんなの。せめて自分のうちにしまっておいてくれよ。
俺と上村さんは、視線を見合わせたあと、ステージに登った。
「先鋒戦をさっさと始めるぞ!!頼むから見所作ってくれよな!!!」
だから押し付けんじゃない!!
相手チームもステージに上がった。男2人……さっきの説明通りなら、どちらも俺より階級が高いのだろう。これは苦戦しそうだ………
俺と上村さんは同時に剣を引き抜いた。
相手も同時に剣を引き抜いた。
「それじゃあ………試合開始!!!」
ゴォォオオンン…………
ドラムの重低音が響き、試合の開始を告げた。
ビュッ
そして、開始の合図とともに敵は俺の方に走り寄ってきた……2人一緒に!!
俺を潰そうって魂胆か……ふっ、甘いな。俺をそこら辺の雑魚と勘違いしてんじゃねーぞ!!
ガキン!!!
敵2人の攻撃は、バリアによって弾かれた。
「ふはははは!!!貴様らの攻撃などくらわんわ!!!」
「くそっ……もう一度!!」
男2人は剣を振り上げる。
まったく………
「隙だらけだぜ!!」
バゴォン!!
男のうちの1人が、上村さんの蹴りにより吹き飛ばされ、観客席にぶつかる!!そのまま男は意識を失った。
「………ギブアップだ。」
さすがに2対1だと分が悪いと判断したのか、男は項垂れながらギブアップした。
「弱い弱い弱い……弱すぎる。なんと哀れで、そして儚い敵だったであろうか………やはり俺達2人は敵なしだな。」
「………な、」
歌恋さんが声を出す。
「………な、」
観客の皆さんも声を出す。
「なんもしてねぇぇえええ!!!」
俺はみんなの期待に応えるために、手を挙げて笑顔を向ける。
あーー清々しい。もうどうにでもなれって話だぜ。
湧き上がる歓声の中、俺達はステージを降り、イリナ達がいる場所に向かい、座った。
「………仕事は果たした。」
「なんもやってないでしょうが。」
ビシン!
「いったぁー!!」
イリナにデコピンをくらい、俺はおでこを押さえて悶絶する。
「……き、気をとり直して、次は中堅戦だ!!選手入場しちゃって!!」
会場は俺達2人の活躍にいまだざわめき、実況もまた困惑していた。
「いってきますねー。」「師匠の活躍に負けず劣らず頑張ってくるっす!」
染島さんと黒垓君がステージへと向かう。
相手チームは3人だ。ここで勝負に出たんだろう。
「それじゃあ始め!!」
ゴォォオオンン!!!
ブシュウ………ドサ
開始と同時に、相手チームが血を垂らしながら倒れた。
黒垓君が放ったナイフが全て太ももと脇腹に突き刺さり立っていられなかったのだ。
コキッと黒垓君は首をひねった。
「…………えーっと、終わり!!終わっちゃったよ!!え?トリがこんなんでいいの!?!?え?ええ!?」
歌恋さんはこの、なんとも言えない気まずい空気を頑張って打ち消そうと声をあげる。でも、ほら、こんなにあっけなく終わっちゃうとさ、観客って冷めちゃうよね。
シーーンと、静けさが会場を覆い尽くしていた。
「しかし2時間も他のチームは何してたんだろうね。1分もいらなかったじゃん終わるのに。」
その後、俺達はまた選手の控え室で雑談をしていた。
「さすがは俺達だな!!敵なしだぜ!!」
「君達でしょ。言葉を間違ってるよ。」
「オラのスナイパー井上によって鍛えられた投擲能力に死角はなかった。」
「私は抜いてくださいね。何もしてないので。」
口々にさっきの試合のことを言い合った。といっても1分ぐらいで飽きた。だって試合が1分もかからなかったのだから当然だ。むしろあれ程度で5分もどう喋ると言うんだ。
「しかし上村さんは良い動きをしてましたよね。一歩の踏み込みが軽やかといえばいいのか、まるで浮遊しているかのようでしたよ。」
「ふっふっふっ……そうでしょうそうでしょう。バスケによって鍛えられた跳躍力の美しさ、大腿筋のはち切れんばかりの膨張。これによって生み出される踏み込みはまるで蝶のようだと部活の同輩からべた褒めされてますからね!」
「……触ってみたいものですねぇ。記事のために。」
そして、上村さんが見せびらかしている引き締まった脚をみて、土崎さんはニヤニヤしながら口を開いた。
密着取材とは言っていたが、まさか触っちゃうのか!?そこまで密着しちゃうのか!?
「いいですよもちろん!ニベアクリームで保湿されたうるツヤ肌と鍛え抜かれた筋肉のコラボレーション!ハーモニーを是非記事にしてもらいたいものですね!」
そしてそれを承諾する上村さん!!まじかお前!!そんなのマジで承認しちゃうのかお前!!そしてそれなら俺も触らしてくださいよお前!!
「うはっ、やっば………うぇっへへへへ!!!」
目も当てられないような顔で、土崎さんは脚を愛でる。
なんか………心が痛くなってきた。
「それにしてもアッサリしてたな。この調子でいけば観客達を白けさせながら優勝することも目じゃないな。」
「かもねぇ。布陣はこのままでいいかもね。変えるのめんどくさいし。」
先鋒が俺と上村さん。中堅が染島さんと黒垓君。大将がイリナと亜花君だ。
なぜこうなったかというと理由が2つほどあって、1つ目は亜花君に戦闘をさせないため。これは俺からの意見だ。もうね、絶対に戦わせない。こんな無意味なことでまた戦う感覚を思い出させたくないのだ。2つ目は「戦うのがだるいからさ、君達でパッパと終わらせちゃって。」というイリナのわがままだ。まぁ、もし大将戦になったとしても、イリナ1人でなんとでもなるから、その意見を反映したのだ。
本当はね、俺と亜花君を大将にして怠けたかった。モノポリーでもして2人で遊んでたかった。タワーを建設したかった。1番値段が高い土地を全て買い尽くしたかったんだよぉぉ!!それで「ふふふ……さぁ、サイコロをふれ!!」ってやってみたかった!!出来たことがないからやってみたかったんだよ!!いつも宏美がやってからさぁ!!
「このままじゃオラの必殺技[ドキ☆奇襲で寝首を掻っ切る淡い恋物語大作戦]をお披露目できなさそうっすね。」
「なんて濃厚な色に塗れてるんだ。淡くはないだろさすがにそれは。」
「私もこのままじゃ必殺[声で感じる、脳殺催淫ボイス]が出来なさそうですね。」
「…………」「…………」
バッ!!
無言で俺と土崎さんは手を挙げた。
「君達本当に仲良いね………」
「エロスに垣根なんて存在しない。ただそれだけさ………」
「まったく、よく分かってらっしゃる。人類皆変態。それこそが我らの趣向………」
2人でドヤ顔をしながら、イリナを見つめる。
「うわ………」
そう言うと、イリナは身震いしながら顔を背けた。
「密着取材と銘打ってこのチームを取材してますけど、これもしかして、記事にはこういう雑談ぐらいしか書けないんじゃ………」
土崎さんは真顔に戻ると、そんなことを呟いた。
………まぁ、大丈夫だろ。多分。
その後、俺達はあっけないほど順調に勝ち上がってしまった。俺は相手を煽ることしかしなかった。上村さんもほんのちょっと動くだけ。黒垓君はナイフを投げ、染島さんは俺達とのんびりとテレパシーで会話をする程度。イリナと黒垓君にいたっては終始遊んでいた。うわー………なにこれ。
「…………ま、まあね!!初日の試合は全て終わってしまったが明日がある!!明日は準決勝と決勝戦だ!!見所がないわけがない!!あるよね!?あるよね!?あるって言ってくれよ頼むからさぁー!!問題児ぃぃ………」
マイク越しでもわかる悲痛な叫び声。同情するよね本当。
「それじゃあ今日の試合は終わり!!!明日はクソジ………王様からのクソいらな……ありがたい言葉があるから、遅刻してくることをオスス………遅刻しないようにな!!!それじゃあね!!!」
ぞろぞろと観客達が席を立ち離れていく。
俺はそれを立ちながらポケーッと見ていた。こんなクソみたいな試合で喉を枯らしてちゃ可哀想だよなぁ。明日まで温存しとけばよかったのに。
「やぁやぁイリナさん!久しぶり!!元気してた?」
すると、ステージ上の選手達がこちらへと向かってきた。
「おお、姫子さんじゃない!元気もなにもハツラツよ!」
イリナと姫子さんは互いに笑顔で握手した。
姫子さん……フルネームは森脇姫子さんだ。この人は元は探偵で、まぁ、なんか色々あってイリナと仲良しになった。詳細は地底800マイルで随時更新していく予定だ。まぁ、あのバカがやる気を起こせばの話だけどな。たっく……俺が主人公の小説もめんどくさがって書かないしさぁ。なんなの?やる気あんの?
「しかし選手として出場かぁ。よく反対されなかったね。」
「いやーーそれがすっごく反対されちゃってさ。でもイリナさんに会いたくて無理を通してきちゃったの!」
森脇さんの後ろにいる5人の人達……なんだろう。雰囲気が違う。強いってことが見ただけで分かってしまうような、異様な雰囲気。
「嬉しいこと言ってくれるね!………まっ、私達に倒されるのが目に見えているから、いまのうちに[ご愁傷様です]とでも言っておこうかな。」
「はぁ、ありがとうね。私も友達を叩きのめすことに心憂いていたの。それなのに気遣ってくれるなんてやっぱり優しいですね。鬼の目にも涙。八方美人とはまさにこのこと。」
どういうことだよ。
ギリギリと、2人とも笑顔で、相手の腕を握りつぶそうとする。
「飯田さん。この人達やばいですよ。」
イリナと森脇さんが笑顔で会話しているとき、染島さんからテレパシーがきた。
「全員第一類勇者です。しかも、全員、第一類勇者の中でも天才と言われているメンバーです。強いですよあれは。」
身長が3メートルほどある体の大きなおじいさん。脚が異様に長いお兄さん。カウボーイハットの様なものをかぶり、腰に拳銃をぶら下げる女の人。なんか包帯みたいなのを全身に巻いていて目しか見えない人。そして最後に普通の男の………ん?
普通の男の人は、上村さんにつっかかっていた。
「おい春香。なんでお前がこんな試合に出てんだよ。しかもこんなチームに入れてもらってよ………雑魚のくせに。」
「…………」
んん………これは。
「身分不相応だって言ってんだよ。お前みたいな雑魚は、家に帰って寝てりゃいいんだ。」
「おおっと、そう言わないでくれよ、騎士の身分の俺の肩身が狭くなる。」
俺は、2人の間に割って入る。
「騎士?騎士だって?ああ、そういやお前が飯田狩虎か。雑魚のくせしてこんな試合にのこのこ出場しやがってよ。俺達上位の勇者の面を汚していると思わないのか?」
「いや、面汚そうにもお前ら動きが速すぎて捉えられないんですよ。もうちょっと減速してくれませんか?騎士だと動きが遅くって遅くって………」
「………そうだな、確かにそうだ。お前の言う通りだ。騎士は俺達に泥一つつけはしねーもんな。」
男は上村さんの元から離れていった。
「あ、そうだ。春香。もし俺とお前が当たる様なことがあったらさ」
グンッッ
急に男は方向転換し、上村さんの目の前に高速で移動し、
ガン!!!
思いっきり顔面を殴った。
上村さんはパンチをもろに受けてしまい、倒れる。
「今みたいにやっから。怪我したくなきゃせいぜいリタイアすることだな。」
男は笑いながら、今度こそ森脇さんの場所に戻った。
「………おい、あんた。」
それを見てイリナが一歩踏み出す。
「まぁまぁまぁ!!イリナさん!!こいつには私が後できつーく言っておくからさ!!この場はその拳を控えて!!ね?」
「………分かったよ。姫子さんに免じてこの場は退いてあげる。」
イリナは一歩引き下がった。
「………それじゃあ、これ以上雰囲気が悪くなったら困るから、私たちはひくね!決勝でまた会おう!!」
そう言うと、森脇さん達は俺達の元からさっさと離れていった。
「決勝で会おうって………チーム名はなんなんだ。」
俺は掲示板を見た。
チーム………特別待遇?お?ん?
「決勝……最高に辛そうだね。」
イリナが呟いた。
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