全てはローマに通じる
「人呼んで腐女子!又の名を両刀野郎!!そして真の名は土崎愛歌!花の高校三年生やっています!」
「いや、もう一度自己紹介なんてしなくて良いですから。しかも最低な方で。」
土崎愛歌さん。この人は数週間前に出会ってから頻繁に情報のやり取りをしている優秀な情報屋だ。情報の代価はちょっと高いけれど、結構有益な情報を持って来てくれる。因みに友達は少ないらしい。ボッチらしい。
「しかしなんでこんな選手どもがたむろする、暑苦しくて汗臭い場所にいるんですか?まさか大会に出るんですか?」
「そんなわけないでしょー!!私は逃げることと隠れることは得意だけど、戦闘は苦手なんですよ!!あ、でも爪は痛いですよ。これに叩かれてみます?」
「いや、ザックリいかれそうなんで遠慮しときます。」
指から爪が勢いよく出て来た。
土を掘るために強化されていった巨大な爪。固い岩盤をも豆腐のように砕くそれを人に振るったら、どんなことになるかなんて目に見えている。
「私はあれですよ、モグモグ新聞の選手インタビューをしに来たんです。実は私、モグモグ新聞の正社員なんですよ。ええ、給料いただいてます。」
爪を引っ込め、ポケットからペンとメモ帳を取り出す土崎さん。
「はぁえー。正社員なんですか。この歳で中々なものですね。………ちなみにお給料はどれくらい?」
ニヤニヤしながら、土崎さんに聞いてみる。
「月12万なんですよ!こんなんじゃ好きなゲームを全然買えないですよ!まぁ昼間に仕事ができないので文句は言えないんですけどね。」
「それにしては十分高いじゃないですか。バイト以上ですね………それで、最近のオススメのゲームはなんですか?」
土崎さんを連れてイリナから離れる。
「一昨日発売の[20面荘〜怪盗理秘と20人の美少女〜]が凄いですよ。主人公のモテなくて勉強のできない高校生男子が住むアパートで連続窃盗事件が起きるんですよ。そして、男だからって理由で犯人捜査を押し付けられ、仕方なく捜査していくんです。その捜査を通じて色んな人達と出会い、会話し、時には失敗して、触れ合っていくんです。暖かな温もりが孤独な彼の心を少しずつ解いていき、彼は大切なことを学んでいくんです。そして物語の最後に待ち受ける怪盗理秘の目的は!?そもそも犯人は!?衝撃の事実を刮目せよ!!!」
ベシッと、土崎さんがボールペンを俺の目の前に突き出す!
「なるほど、素晴らしい感動作の予感ですね。………ちなみに、ギャ」
「ギャルゲー要素ですよね?ないわけがないじゃないですか。ストーリーにおける会話の選択によってエンディングは変わりますし、ストーリーを全てクリアした後は好みのキャラクターと色々な会話をして結婚まで出来ます。ちなみに18禁です。」
バカな………全年齢ではないだと!?
「そ、それは……まさか………あんなことやこんなことが……………」
「出来ますねぇ。やれちゃいますねぇ。……グッフッフッフッ…………」
ま、まぁ、仕方ないよな。純粋な感動を生み出す為には、ありのままの生活を描写しなきゃいけない。性の営みとかね、大切だよね。………グフフフフ!!!
ウヘヘヘヘっと土崎さんと2人で、道路の端で気持ち悪く笑い合う。
「………きっもち悪いわねあんたら2人。」
それを見て、イリナの罵倒が飛ぶ。
「何を言う!!イリナ、お前のその感情!!それはお前が18禁という言葉にのみ反応しているから思うんだ!!確かに全年齢のものでも感動できるものはある!だが、泣くほどのことではない!!なぜなら一歩踏み込めないからだ!!人間の中核に飛び込めないからだ!!上っ面の人間性で、一体どんな感動を生み出せるというのだ!!」
エロスは所詮エロス。単体ではただの邪なものでしかない。だが、エロスと感動がまざりあえば最高なものができる。普段は公共性に隠れている人間の神秘性。それが感動に繋がらないわけがないのだ!!
「全てはエロスに通じる!!!これを忘れるな。」
パチパチパチ………
土崎さんが拍手をしてくれる
「………はいはい分かったわよ。凄い凄い。」
俺の力説を右手だけで一蹴するイリナ。
チッ、ノリの悪い奴だ。
それにしても新聞記者か………ん?
「土崎歌恋さんって愛歌さんのお姉さんか何かなんですか?」
「そうなんですよ!成人してもう大人なんですよ!あ、でも年齢は言わないですよ?女性の魅力って謎が多いところじゃないですか。」
その部分そこまで謎になってないんだけどなぁ。
でも、お姉さんか………もしかしてだけど
「それにしても歌恋さんって美しいですよね。気品というものを感じます。」
姿を見てないけれど、そんなことを言ってみたり
「ですよねですよね!!お姉様は最高ですよね!!知性的な振る舞い、全てを寛容に受け止める包容力、他を牽引する時のカリスマ性、男勝りの実力………それになりよりも顔!!顔ですよ!!なんて美しいんでしょうかねぇお姉様は!!できる大人の鏡!!カリスマの具現化!!ヴィーナスとミネルヴァを足した超越神が顕現した姿と言っても過言じゃない!!!」
土崎さんは爛々とした顔でお姉さんの事を語り出した。
うわーお。なんというベタ褒め。姉妹でここまで褒めるなんてそうそうないよな。俺にも妹、弟がいるけどここまで褒められたことがないし………スゲーな。
しかし見事予想が的中だ。土崎さんの女性好きは確実にその姉に依るものだ。
「そもそも胸がヤバいんですよ。ええ、マジでやばい。慎ましいとかじゃないです。」
土崎さんはチラッとイリナの方を見て、再度俺の方に視線を向けた。
おい、殺されるぞ。その分野はデリケートなんだよ。
「F〜Gカップあるんですよ!!ここ最近触ってないから確証持って言えるわけじゃないですが……そうなんです。お姉様の胸は今も成長してるんですよ。」
やべえな。ヴィーナスの顕現した姿とか言ってたけど、あながち間違いではないのかもしれない。てか何触ってんだよ!羨ま……なんて破廉恥な!!
「この、手に吸い付くような触感と言うんですかね。ポンと置いたら手のひら全てを覆い尽くすように押されるんです。もう、セーター着てる時とかヤバいですよ。本当ヤバい。私、それを見た時家の中で鼻血噴き出してしまいました。」
せ、セーターだって?………ふっ、全く。
「詳しく聞かせて貰おうか。そのセーターの色は………」
「そこから先、話が進むとノクターンになっちゃいそうだから控えようね、ミフィー君。」
グシャっ
土崎さんに一歩近づいた時、伸びた左足のアキレス腱を思いっきりイリナが踏みつけた。
「イッダッ!!歩けない!!俺もう歩けない!!」
「君は頑丈さだけが取り柄なんだからそんなんで歩けなくなるわけがないじゃん。」
限度ってもんがあるだろ!!お前の力で踏まれたら誰だって歩けなくなるだろ!!
「土崎さん。取材に来たんでしょ?だったらさっさと取材して、別の選手の方に行くべきじゃない?」
「グフフ………イリナちゃんになら色んな質問をしてみたいものですねぇ。」
土崎さんの顔がエロいことに……いや、酷いことになっている。
「でもま、今回の私の目的は違うんですよ。……私の目的は…………」
シャキン!!
土崎さんは体の前と後ろにプラカードをつけた!!
「チーム問題児の密着取材という奴です!!この大会中、ずっと張り付くんですよ!!夏場のハエみたいに!!」
………うわ、まじかよ。
「チーム問題児は今大会の目玉チームですからね。密着し、スクープガンガン、ゲットだぜ!!」
なぜに俳句調なのだろうか。
「………いや、私達許可出してないから。そもそも私が許可出さないから。」
そしてイリナは心底嫌そうな顔をして、土崎さんを拒絶する。
「………いいんじゃない?密着取材とか。楽しそうじゃん。」
「楽しくないけど!?なんておぞましいものを承諾してんのさ!!私の身を案じなよ!!!」
イリナに鎧の首を掴まれ、すごまれる。
「いや、なんか取材を受けた人って大抵勝つじゃん?それにあやかろうって寸法さ。」
「勝ちますねぇ。当社の調べでは取材を受けた選手の優勝確率は96%です。」
「ほら。」
「ほら。じゃないよ!!なにその胡散臭い数字!!絶対公式じゃないでしょ!!」
「うるさいなぁ。俺リーダーよ?チームの権限全てを俺が掌握してるわけよ?俺が決めたことは全てなわけ。オーケー?」
「いや、所詮形だけだから!!むしろ私の方が実権握ってるからね!?傀儡がなに威張ってんの!?」
「クソー!!ちょっとは俺のリーダーとしての権限を行使させろよぉおお!!!」
イリナの腕の中で暴れる!!それはもう俺の全力を注いで!!
「生徒会でも俺、生徒会長っぽいこと出来てないんだよ!!ちょっとぐらい役員を顎で使わせろや!!俺の決定にひれ伏せや!!」
「無能に従うほど私達は落ちぶれてないわよ!!」
「くそーー!!なぜ俺の決定に従わない!!いいもんねー!!染島さん達に聞いちゃうもんねー!!多数決で押し切ってやるもんねー!!」
「ええ、いいわよ別に!!彼らなら私に賛成してくれるはずだもの!!」
「大勢の方が楽しそうですね。いいですよ。」「可愛ければ誰でもオッケーっす。」「お兄さんの友達なら大丈夫だよ!」「取材!?上村春香14歳の鍛え抜かれ引き締まった筋肉を見たいのですか………いいですね!!見せびらかしてやりますとも!!」
4人全員からオッケーの返事をいただいた。それはもう快く。
「いやーーよかったよかった!!これから私粘着しますのでよろしくお願いしますね!!」
チームメンバーと合流し、土崎さんは頭を下げた。
俺達はそれはもう温かく歓迎した。
「なんで……こんなことに…………」
イリナだけはベンチに座って項垂れていた。
「だいたいそもそも女性の美しさというのは………」
土崎さんと染島さん、黒垓君は気があうのかもう既に仲良く会話をしていた。
「………まっ、しゃあねえさ。」
俺はイリナが座っているベンチに行き、座った。
「しゃあないって……元はと言えば君が承諾したから………」
「土崎さんは正社員。言ってしまえば社会人だ。きっと、この企画を立ち上げたのはあの人じゃない。上の人間だ。もしかしたらお姉さんかもしれないな。」
亜花君はトントントントンとテンポよく的の真ん中に矢を刺していく。そして、上村さんも亜花君に合せてダーツの矢を的に投げていた。
「土崎さんは引き下がれないんだよ。上からの命令で動いてるから。……自分も大事だけど、たまには人に付き合ってやるのも悪くはないじゃないか。」
社会人は大変だ。俺達学生と違って責任というものが生じる。自分で生み出したものではないのに、それでも負わなくてはならない時がある。
「……まるで私が子供みたいな言い方するね。」
「いや、だって子供でしょ。俺も、お前も。まさかお前、自分が大人だなんて思っているんじゃ」
「思ってるわけないでしょ。私はまだまだ子供だよ。……決めたことをなにも出来ない無力な子供さ。」
イリナの顔が一瞬だけ暗くなった。後悔……じゃない。憤り、というわけでもない。言いようのない陰り、それが彼女の顔を覆った。
「………お前はいろんな人を救ってきただろ?子供、大人、誰彼構わず。そんなことをできる人間は無力なんかじゃない。お前は誰よりも強いよ。守る力を持っている。」
俺の炎じゃ、人を恐怖に落として、一瞬で燃やし尽くすだけだ。イリナのような光にはなれない。灯火にしてはあまりにも強すぎるのだから。
「ただ、気に入らない奴にももうちょっと寛大になってくれやお願いしますって話さ。嫌いなものを好きになる努力を怠ったら、結局は自分と自分の周りが不幸になるんだからな。」
「………うん、頑張ってみるわ。」
ちょっとだけ、イリナは笑った。なにに対しての笑顔なのか、俺には分からなかったけれど。
「ぐへへへ……イリナさん。ちょーっと質問です。」
土崎さんが、カメラを持ってこっちに歩いてきた。
「………良いよ。答えてあげる。」
「何カップですか?」
この後イリナがどういう行動をして、土崎さんがどういう状況に追い込まれたか、そんなのは言うまでもない。
イリナの土崎さん嫌いが直るのはまだまだ先のようだ。そんなことを考えながら、試合開始までの時間をやんわりと潰した。
重要関連作品
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/
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