休憩ばかりさ
「来た来た来た来た………来たーー!!!来てしまったーー!!!無意味で惰性な毎日を打ち砕くこ の 日 が………」
一辺百メートルほどの正方形型の岩で出来たフィールドの四方に設置された、高さ三十メートル以上はある巨大な柱に取り付けられたスピーカーのようなものから大音量で女性の声が流れてくる。喉が裂けるんじゃないのかってぐらいの声量。お身体を気遣って欲しいものだ。
「来たぜーーー!!!!!」
「ウォォオオオオ!!!!!」
スピーカーから流れる情熱が、正方形の舞台の外側で座っている観客達に伝播する。
数十万の人間達が腕を大きく振り上げ、熱狂に湧き上がっていく。
「クソッたれカケスクルセイドを血祭りにあげる戦の指揮者を決めるこの決定戦!!!1週間前!!!たった1週間だぜ!?私達がこの決定戦の開催報告をしたのは!!それなのに観客はうん十万人で腕自慢が揃いに揃っているって話だ!!!燃えるねぇ!!!」
俺達選手は正方形のステージの上で、チームごとに並ばされていた。先頭にリーダーを、その後ろにメンバーが並ぶ縦列ってやつだ。
右を向くと強そうな奴らが真剣な表情で立っている。左には誰もいない。一着で登録したからだと思われる。
てかカケスって……ジェージェー言ってそうだなおい。カースクルセイドですよ。
「そんな燃えるような熱い試合の実況、解説、その他諸々の声に関わる仕事は……[地に足つけて頑張っております。イカした寝間着姿がトレードマーク。モグラのモグモグ新聞]。編集長の土崎歌恋がお送りするぜ!!!」
「「頑張りすぎて埋まっちゃってるよ!!!」」
観客がまるで示し合わせたかのようにツッコミをいれた。きっと、ここまでがお決まりの流れというやつなのだろう。
「私の自己紹介が終わったから今度は選手達の紹介といこうじゃないか!!!総勢192人なんて、流石に観客のお前らでも覚えてられないもんな!!!」
192……6×32か。ってことは5回勝てば優勝か。
「っても、このチームは誰もが覚えてるんじゃないの!?こいつらが見たいがために来たって奴らも多いぐらいだ!!雷のように一番乗りを決めたこいつら………」
パッ
俺達がいる場所にスポットライトが当てられた。
「まず一人目はイリナ=ヘリエル!!!勇者最強の名を欲しいままにした最強無二!!!伝説の勇者!!!その上類稀なる美貌ときたもんだ!!!その素質を遺憾なく振り回し、各地を荒らし回り、従わないものを力でねじ伏せてきた!!!伝説の勇者!?ノンノンノン。さっきのは私のミスだ、訂正しておこう。彼女は暴君!!!破壊と服従が似合う女帝だ!!!罵倒されたいかこの変態どもめが!!!」
わぁああああ!!!
観客達から、鼓膜が破れそうなまでの歓声が送られてくる。
拍手、拍手、拍手。拍手の嵐だ。歓声の嵐だ。なんという人気。イリナは現実世界だけではなく表面世界でも人気者なんだな。
「二人目は黒垓白始!!!ガーディアンナイツのメンバーで第一類勇者!!!のくせに、仕事をほっぽり投げ各地で盗みざんまい!!!捕まえようにも権力を盾に悠々と逃げ続けるから悪質極まりない!!!本当にこいつは勇者なのか!?!?」
ブー!!ブー!!
黒垓君に対しては凄まじいブーイングが飛んできた。会場の観客が一体となって、黒垓君を全力で避難している。
それに対して黒垓君は両手を挙げて全方位からの期待に応える。なんというメンタル。
てかガーディアンナイツ!?これまた凄い肩書きが出てきたな!!確かそれって王様を守る四人組だろ!?
「お次は染島梅雨美!壊した人間の心は星の数!罪状のミルキーウェイだ!それにそもそも魔族の最高幹部!この大会で誰よりもヘイトがたまっているんじゃないの!?試合がまだ始まっていないのに聞こえてくるねぇ!ブーイングの嵐が!」
ブーー!!!ブーー!!!
黒垓君以上の批判が周りから聞こえてくる。
………結構なことをやっているとは思っていたけれど、まさかこれほどとは………決定戦に出てもらったの気がひけるなぁ。
「四人目だよ四人目!!第二類勇者兼鎧師兼勇検監督者……兼!!今回の決定戦実行委員のグレンの弟子の亜花ちゃん!!10才と幼いながらも今年の勇検で大量の試験者達にトラウマを植え付けるほどの実力持ちだ!!笑いながら人を引きちぎる姿はまさしく恐怖!!最高幹部のニューフェイス!!今の内に媚び売っとけよ!?この子は将来出世するぜ!!」
「キャアアアア!!!可愛いいいい!!!」
観客席の女性達から黄色い声をかけられる亜花君。
その状況がよくわかってないのか、亜花君は俺の方を見て満面の笑みを見せてくれた。
………子供って本当に可愛いなぁ。早く大人になりたいもんだ。
「そして五人目!!聖騎士長上村春香!!この一年間で数々の武功を積み立ててきた期待の新人!!持ち前の身軽なフットワークと頑丈なシールドを駆使して敵の行動範囲を削って行く様は詰将棋を彷彿とさせる!!その、飛車ばりの性能を今回の試合で見せてくれよな!!」
数々の武功………この世界に入り浸っているのか。驚きだな。てっきりバスケの練習ばかりしているかと………ああ、練習のために来てるのかな。体を動かす感覚が違うような気がするけど、まぁ、運動についてはわからん。
「そーしーてー……このチームのリーダーなんだが……お前誰だ!!本当にお前誰だ!!階級は騎士!?騎士!?!?騎士ってお前一番下の階級じゃないか!!!それなのにリーダー張ってんのか!?」
やめてくれ……俺も恥ずかしいんだよ。本当はイリナにリーダーやってもらいたかったんだよ。それなのに「まぁ、ミフィー君で良くない?私はリーダーって柄じゃないし。」とか言ってなすりつけてきやがったんだよ。
「名前は飯田狩虎!!これといった功績なし!!一応グレンとエスタンシア魔法学園学園長スカラさんから彼の紹介文をもらっていて、それには[唯一この俺をくだした男。]と[世界征服もめじゃない奇想天外な天才。]と書かれて………えええ!?本当になんなんだお前!!!」
ザワザワ………
観客席からヒソヒソ話が絶え間なく聞こえてくる。「ありえない。」とかね、バリバリ聞こえてくるよ。「注目の人間だな。」とかもね、聞こえるね。本当あの二人やってくれるよなぁああ!!!俺は目立たないようにイリナ達に仕事を全部押し付ける予定だったのにどうしてくれんだよ!!「あ、負けちゃったーイリナ頼むー」ってやりたかったのにどうしてくれんだよ!!
「え、えーー………まぁ、とにかく!!!こうして説明が終わったな!1チーム目はチーム問題児でした!!それじゃあ次行こうか!!」
土崎さんは俺の右隣のチームの紹介を始めた。
「飯田君、結構規模が大きいですね。」
染島さんからテレパシーが入る。
「そうですね。選手は60人くればいい方だろうって高を括っていた自分が恥ずかしいですね………そんなに掃討戦の指揮権というのは魅力的なんですかね。」
「それはそうですよ。指揮権を得るということは莫大な富と名声、権力を得ることにつながりますからね。言ってしまえば一攫千金、人生を良き方に大きく変えるまたとないチャンスなんですよ。」
「はぁん……なるほど。だから、観客はそれを目当てに観に来るんですね。」
人生を大きく変える試合。それならば選手は命を削ってでも勝利を求めに来るだろう。それは観る限りでは素晴らしく興奮すること。
そりゃそうだ。勝つために限界越えようと頭と体を使ってしのぎを削るのだからな。観ている側はハラハラドキドキ、心臓から血がハイスピードで送られて、まさしく自分が戦っているかのように試合を楽しめる。
「まぁいいや。今は周りのことじゃなくて試合のことについて考えましょうか。戦闘形式について俺達は一切知らないので、可能な限りの可能性を考えていきましょう。他のチームの紹介がされている間に。」
俺達の紹介を聞く限り、戦闘に関して役立つ知識は何も言わないようだ。だったら土崎さんには悪いけれど、話を聞く意味はない。
というわけで染島さんの能力を利用してチーム全員で1時間ほど試合形式の可能性を出し合い、その時のチームの編成を話し合った。
「192人の説明終わり!いやーー長いねぇ!私もう最初に説明した人のこと忘れちゃったよ!!」
1時間………なっが。それでも土崎さんの紹介が面白かったのか、観客から「早く始めろー!」みたいな声は上がっていない。全員中だるみすることなく試合に対しての期待に胸を膨らませて、俺達選手に声援を送っている。
「それじゃあ今度は試合の説明!!といっても形式は分かってるんじゃないかな。トーナメント式さ!!5回勝てば優勝!!簡単だろ?」
まぁ、それはなんとなく分かっていた。
「次に試合内容!総試合3回で、相手より先に2回勝てば勝利!ただし1試合の人数は各々自由に決めていい。だから1対4みたいな試合も生まれるかもな。けれど0対1とかはなしだぜ?0人なんてことがあったら、そのチームは強制的に敗北だ!!」
ふぅん………1チームと3回戦って先に2勝すれば勝ちか………剣道の団体戦みたいだな。違うところがあるとすれば1試合毎の人数を変えられるところか………まぁ、予想の範囲だ。正直、ジャンケンして勝った奴が敵チームと戦うとかいうイカれたルールを想定していたから、それに比べたら屁でもない。
「トーナメント表はこちらでもう作っておいた!!今から上空にデカデカと掲示するから見てくれ!!」
俺達の目の前に取り付けられていた電光掲示板に、トーナメント表が映し出された。
端っこだ。1回戦の最後だ。当たる相手は………分からないな。この世界については詳しくないからなぁ俺。
「それじゃあ30分後に試合開始だ!!選手は控え室に行っちゃってくれ!!観客達はモグモグ新聞でも読んでてくれ!!」
というかんじでね、控え室に来ました。といっても改めて何かをするわけでもない。ただの時間つぶしだ。
「俺達は最後だからあと1時間以上あるのかな?………よっしゃあ!!それじゃあ食べ物を食い漁りに行こうじゃないか!!」
ガッ!
走り出そうとした時、肩を掴まれた。
「ダメに決まってんでしょ。今あんたはこの中で誰よりも弱いんだから特訓するんだよ。分かってるでしょうが。」
そして、イリナにズルズルと引きずられてしまう。
「腹減ったんだ俺は!!とにかく!!腹が減ったんだ!!離してくれ!!」
「やだよ。君に美味しいご飯を食べている時間はない。……そんなに何か食べたいのなら、私の手元に五百粒ぐらい兵糧丸があるから、それ全部食べさせてあげる。塩分の過剰摂取で簡単に死ねるよ。」
むぐぐぐぐ………なんて野郎だ。いや、野郎だと正しくはないのか………でもいいや。そのまま使っちゃえ。
なんて野郎だ。この俺からお祭り独特の風味を遠ざけようっていうのか………最低だ。最低極まりない!
………だが!!
「黒垓君!!!」
ピュン!!
俺の肩を掴んでいるイリナの手にめがけて黒垓君の真っ白な刃が振り抜かれた。そしてイリナはそれをなんとかかわし、その時俺の拘束を解いてしまった。
「我らが男子3人組!![造花虎絵巻]は例えイリナ様様女帝様の妨害があろうと露店でご飯をパクつくと決めているのだ!!」
俺と黒垓君、亜花君は横一列に立ちイリナと対する。
ちなみに造花虎絵巻は今テキトウに考えた。こうなるのなら前から考えておくべきだったな………
「………私に刃を向けるとはいい度胸じゃないの。そんなに体が血と灰に塗れたいのか。」
バチッ
イリナの体から目に見えない程度ではあるが、雷が弾け出した。
(………黒垓君、扉の設置に何秒かかる。)
イリナに聞こえないように、小声で黒垓君に囁く。
(最低1秒っす。)
1秒………長すぎる。それだけの時間があれば、イリナが俺達の首をへし折るのは簡単だ。
「あのー………染島さん。いつもこんな感じなんです?」
この張り詰め空気を見て、上村さんが染島さんに質問する。
「んー……いつもではないですけれど、まぁ、こんな感じですね。彼らなりの戯れ付き合いなんですよ。」
俺達とイリナの間には鉛を積み上げたような重層的な空気が漂っていた。
隙を見せれば簡単にやられてしまう………仕方ないか。
俺は一歩、黒垓君達の前に出た。
「なっ……師匠………」
「ここは俺が食い止める。お前らは先に逃げろ!!……そして………そしてぇ!!!」
ジャッ
俺は剣を引き抜く。
「俺の分まで食料の面倒を見てやってくれ!!」
ドズン!!
イリナの重たい蹴りが腹にクリーンヒット!!吐きそう!!
「はいはい、馬鹿やってないで特訓よ。騎士風情が贅沢するなんて10年早い。」
ズルズルーっと、今度は首根っこを掴まれて引きずられる。
ちくしょう!!騎士だからってなめんなよ!?俺が本気出せば………あれだ、手からシャワーのように水を出して綺麗に頭を洗えるんだからな!?水に粘性をもたせて皮脂なんてごっそり絡め取ることが出来るんだからな!?俺が理容師になって出世してもお前、割引してやらないからな!?!?
そんな俺の視線による抗議など御構い無しに、イリナは城の外へと向かう。
通り過ぎていく選手達が不思議そうに俺達を眺めていた。特に俺を。
それに対してイリナには羨望の眼差しが向けられていた。
俺とイリナはそういう関係だ。いや、イリナだけじゃない。今まで俺と関わってきたやつはみんなそうだ。俺は他から奇妙に見られ、一方で俺の友達は熱い視線を送られる。
まっ、別に構わないのだけれどね。そういうのを期待しても意味がないっていうのは小学生の頃に学んだからな。
「あ、あのイリナさん。ファンです!!」
そしてイリナだけよく声をかけられていた。老若男女問わず、何かしらの黄色い声援が。
それにしてもファンか………この年でいるというのだから驚きだ。俺にファンなんて………あっ、馬鹿なのが1人だけいたな。
ただ、そうだな。イリナをアイドルとするか。アイドルっていうのは受難が多々あるよな。例えばそう
「とりゃあ!!!」
急に誰かがイリナに向かって飛び込んだ。
「ひゃあ!?!?」
「たまらんですなぁ。たまらんですなぁ!!美少女のプニプニ柔肌はやはり格別ですなぁ!!」
俺の首を掴む手はいつの間にか無くなり、俺はイリナがいる方向へと向く。
メガネをかけた女性がイリナに抱きついて、ゲヘゲヘ、ムッハァ!!と言いながら頬擦りをしている姿……うーむ、世も末って感じだな。ああなったら人間として終わるような気がする。
「……土崎さん。そこらへんにしておいてあげましょうよ。ほら、イリナが泣き目でかわいそうなことになっていますから。」
イリナの目元には薄っすらと涙が………はぁ、可哀想に。粘着気質で何しでかすか分からないストーカーに目をつけられちゃってさ。
「むむっ!そうですね!公衆の面前で女の子を泣かせるなんて最低ですもんね!確かに私はゲスですが、こんな、人々の前で女の子を泣かせるほど落ちぶれてはいません!!」
そう言うとモグラの寝間着みたいな服を着た女の人はイリナから離れ、服を正した。
………十分落ちぶれてると思うけどなぁ。
「イリナちゃん!狩虎さん!お久しぶりです!モグラの頂点に立つ女、土崎愛歌でございます!」
アイドルに対して、ストーカーってのは最も恐ろしいものだ。そしてこの奇行………本当、アイドルって可哀想だと思う。可愛いがために変な奴に目をつけられるのだから。
土崎さんはニッと笑った。
それに対してイリナは泣き顔。俺は苦笑いだ。
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