腹………減ったったなぁ
「ひゃーーこれが飯田さんの自宅ですかぁ!んーー綺麗ですねぇ。お洒落ですねぇ。」
我が家の居間を見て大きな声を上げる姫崎さん。
あの後俺と田所君はすぐに帰宅の準備をして、ある程度料理に精通しているであろう姫崎さんを連れて我が家に向かった。木原さんが恋愛対象と見るのは調理技術が高い人であるため、告白するとなると自分の技術の高さを披露しなくてはならない。その為には料理の実演をしなくてはならず、必然的に料理ができる人に師事して腕を磨かなくてはいけない。宏美は料理が下手なので戦力外通告だとして、イリナは生徒会の業務に専念してもらった。
………と、言っているが正直ね、怖いんですよ。俺が見たことのある、彼女が刃物を持っている時って表面世界で敵を裁断している時ぐらいしかないわけね。ええ、人間サイズのものを切っているイメージしかないわけです。そんな奴に刃物を持たせて我が家で料理をさせたくない。もしかしたら死人が出るかもしれないじゃないか。「ふはははは!!肉を切るなど我には造作もないことよ!!」とか言いながら俺を切るかもしれないじゃないか。
「それで、飯田さんの部屋はどちらですか?廊下の先ですか?」
「ちょっと待ってください姫崎さん。なんで俺の部屋を探してるんですか?」
廊下を突き進もうとした姫崎さんの前に俺が立ちはだかる。
「だって新しく来た家の中って探検したくなるじゃないですか。それです。」
「あーー確かに探検したくなりますよね。トイレがどこなのかとか調べておきたいですもんね。ギリギリまで我慢した時に場所聞くのって恥ずかしいですもんね。よーく分かりますよ。」
「ですよねー。」
「でも俺の部屋はトイレじゃないですからね。いや、別にトイレ並みだと言ってもいいのですが、一応そこで寝ているので言いたかないんですよ。なのでさっさとキッチンに向かいましょう。ちなみにトイレはこの廊下の真ん中です。」
俺は姫崎さんと田所君を連れて台所へと向かった。
「はい、まずね、段取りを確認しましょう。」
俺は自室からホワイトボードを持って来てキュッキュッと今後の流れを書いていく。
「まず最初に俺が料理を作ります。10品程度です。それを味見してもらって、田所君にその中から気に入ったものを選んでもらいます。」
棒人間がチャーハンを作っている絵を描いてみる。特に意味はないのだが、まぁ、遊びだよね。
「次に、それを作るコツとか秘儀を伝授するので、明日、土日を利用してミッチリ練習してきてください。一応レシピとかもメモしているので必要だったら言ってください。遠慮なくあげますので。」
俺はホワイトボードにマグネットで止められている紙を指差す。一応ノート作りの一環として見やすいように作成したが………どうなんだろうな。他人のノートとか見たことないから分からん。
「そして火曜日に告ってもらいます。」
「はい!?火曜日!?火曜日ですか!?ちょっ、え!?本気で言ってるんですか!?」
田所君が慌てる。凄い目が見開いてて、もう、ありえないほど驚いているっていうことが見て取れる。
「本気ですよ。ええ、1週間で部員を増やさないと俺のポケットマネーが消え去るんですよ。」
これも公約なのだが、部活動の立て直しにあたって要する期間は1週間を原則として、もし日数がそれを超過してしまったならば1週間増えるごとに俺の5千円を学校に寄付することになっている。
なんでこんなこと言っちゃたかな………調子ぶっこいて条件を盛り込まなければ、こんな、キツキツのタイトスケジュールにならなかったのに………やらかした。
「えぇぇ!?いや、僕関係ないじゃないですか!それ、僕じゃなくて生徒会長の都合じゃないですか!それなのになんで僕がそんなキッツキツの条件を飲まなきゃいけないんです!!」
「あ、そう?そんなこと言っちゃう?そしたら俺の技教えないよ?長い時間をかけるんならさ、別に俺の技術なんて不要だもんな。」
俺はホワイトボードを押して台所を後にす……
「だーー!!分かりましたよ!!分かりましたから!!だから僕に教えてくださいお願いします!!」
田所君が頭を下げる。
「ええよええよ頭を上げて。別に俺に敬意なんて払う必要ないんだからさ。」
「…………本当、生徒会長って所々せこいですよね。」
田所君が俺の方を難しい顔で見てくる。怒っているというわけではないが許しているってわけでもない。どうすればいいのか分からない苦悶の表情だ。
「そりゃそうさ。せこいのが俺の性分だ。馬鹿正直に生きていけるほど、俺のステータスは高くないからな。せこくないとやってけないのよ。」
「飯田さんは全然せこくないと思いますよ。賢いんですよ。……物事を広く見通せる人間ってカッコいいですよねー。」
キッチンと居間のちょうど真ん中にある椅子に座っていた姫崎さんがこっちを向いて相槌をうつ。………相槌?違うな。反論をした。いや、反論もちょっと違うよな。情報の補足といったところか……うん、しっくりくるな。
「本当カッコいいですよね。俺もその能力を携えて人生を豊かにしたいものです。」
「……………」
………ん?姫崎さんが黙ったぞ。なんか俺やらかしたか?
「田所先輩。生徒会長のこういう所どう思います?自分をまるで卑小の徒みたいに扱うの。」
「んーーそうですね。これされると常人だと接しづらいですよね。」
「ですよねー。本当攻めづらいんですよ。一般人相手の話術じゃ通用しないんですよ。」
………なんか俺を無視して会話が進んでるな。
てか俺が卑小の徒?全くその通りでしょ。その通りなのだからそう接して何が悪いというのだ。むしろ自覚して行動している分だけ救いがあると思うんだけどな。
「なんか色々とお話ししたいことがあるようだから、俺さっさと料理作り始めるからね。田所君は姫崎さんがいる机に移動してくれ。」
田所君をどかせ、俺の調理が始まった!
一品目
ドン!!俺は机に卵焼きを置いた!!時間にして2分ほどで完成だ。
「おお!!すごいですね!!箸で押したときの弾力と言うんですか!?すぐに崩れずに押し返してきますよ!!」
箸で卵焼きを触りながら驚く田所君。
「それにただ硬いだけじゃなくて噛んだ時はフワッフワで柔らかいんですね!!それにバターとダシが噛んだ時にほんのり甘さとして口に広がるのも絶妙ですよ!!」
姫崎さんも卵焼きを食べた後、驚嘆する。
それゃそうだ。これを作るためにはバターとダシのバランスが大事なんだ。バターが多すぎると味がくどくなってしまい不味くなるし、少なすぎると味が物足りなくて、しかも上手く焼けない。うちは高火力と中火の間で半半熟気味に焼くからバターが少ないとフライパンにくっついてしまうのだ。
「よっしゃあ!!それじゃあ次の料理も作ってくるぜ!!首を長くして待っているんだな!!」
2品目
ドン!!俺は机に天津飯をデカデカと置いた!!
所要時間は約10分だ。あんかけにちょっと時間をかけ過ぎてしまった。
「おお!!あんかけの色が黄金ですね!!こんな綺麗なのお店じゃないと見れないですよ!!」
あんかけを掬って驚く田所君。
ふふっ、そうだろうそうだろう。このあんかけは片栗粉が少なめなのだ。そうすることで透明な色を保ち、雑味を減らすことができる。だがしかし、あんかけの醍醐味はとろみ。とろみこそがあんかけといっても過言ではない。もはやでんぷんこそが全てと言ってもいい。starcy sauceだからな。でんぷんがないあんかけなど枠組みのない家みたいなものだ。もはや破綻している。
だからね、俺は大豆油を投入させてもらった。ほんの少し香りをつけつつ、少しだけとろみをつけたのだ。
「それに卵も凄いですよ!!外はしっかりとしているのに中がフワフワ!!しっかりと空気を入れて焼いてるからでしょうか、ちゃんとあんかけソースに絡まって美味しいですよ!!いやーー白米欲しくなっちゃいますね!!」
姫崎さんは天津飯をつつきながら感想を述べる。
そう、こやつも半半熟だ。こんな用語があるのか知らんが、どうせこれといった反論はこないだろうから使わせてもらおう。
しっかりフワフワトロトロが天津飯の醍醐味だ。それを最大限に生かすのにどれだけ苦労したことか!!
「いよぉぉぉおおし!!燃えてきたぁぁああ!!!次の料理も精一杯作るぜぇぇ!!」
3品目
ドン!!俺は机に親子丼を置いた!!所要時間20分だ。鶏肉を別で炒めなくちゃいけないから時間がかかってしまったのだ。
「凄い!!なんて綺麗な黄色と白色なんだ!!まるで純金とプラチナで出来た湖!!そしてそれに浮かぶ鶏肉というダイヤモンド!!まるで宝石箱やぁあ!!」
田所君が絶叫する!
そうだろうそうでしょうそうなのでしょう。
それは仕方がないさ。ええ、今回は半熟で卵を焼いたからな。トロットロに溶けたチーズみたいに、ご飯と鶏肉を包むのさ。スプーンで掬ったらやばいぜ?ご飯の上にプルプルした卵と鶏肉が載ってるんだぜ?最高の光景だ。
「それにこの塩加減!!絶妙ですねぇ!!鶏肉の味を殺さず、全力で引き出しているってのがよく分かりますよ!!鶏肉の焼き加減も丁度良い!!焦げ目がつくかつかないかの微妙なラインでの火のコントロール!!相当な技術を感じます!!!!」
姫崎さんが親子丼を食べながらしっかりと細部を解説していく。
流石は姫崎さんだ!!この分かりづらい、けれど最も評価して欲しい部分を評価してくれるなんて!!貴女、結構料理ができるんですねやっぱり!!
「いよっしゃぁぁあああ!!!やる気が出てきたぜぇぇえええ!!次の料理もすぐに作るぞぉおお!!」
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
俺がキッチンに行こうとした時、田所君が俺を止める。
「どうした田所君!!醤油か!!醤油が欲しいのか!!」
「いや全然欲しくないですよ!!醤油なくても美味しいですからね!!じゃなくて!!料理ですよ料理!!次の料理もまさか卵を使ったものですか!?」
田所君の鬼気迫る表情!!俺に何か大事なことを訴えようとしている表情だ!!
「………え?もちろんそうだけど?次はオムライスだぞ。」
「えぇえええ!?そ、それじゃあオムライスの次は!?」
「かに玉チャーハン」
「ま、ま、マジですか!?そ、それじゃあその次は!?」
「ピータン」
「ピー!?えぇぇえええ!!!どんだけ卵なんですか!!!」
「どんだけ卵って全部卵だよ。デザートも考えてるぞ。茶碗蒸しだろ?アイスクリームだろ?それにプリンだ。」
「………………マジですか。」
田所君が口を大きく開けっぱなしで俺を凝視していた。
俺は卵を使った料理しか出来ないんだ。それと味噌汁。だってさ、美味しいじゃん卵料理。フワフワトロトロで美味いじゃん。栄養も豊富だし。
「え?ちょっと待ってよ。何?卵料理じゃダメ?」
卵料理で告るのはダメなのですか!?
「………まぁ、ちょっとカッコ悪いですよね。」
姫崎さんが辛辣な言葉を口に出す。
「こういうところで[ビーフストロガノフ]とか出せたらそれはもう木原さんもイチコロじゃないですか。でも、天津飯出されたらちょっと…………」
…………いやいやいや!!天津飯美味しいやん!!それに強いやん!!地球人最強なんだぞ!!
「技術はすごいんですけどね。料理のイメージが…………」
くっ………なんてこった。俺の全てを全否定されたような気分だ。まだ技術を褒めてくれているのは嬉しいが、俺が極めようとしている卵料理のイメージが酷いなんて言われるのはショックだ。
まぁ、それでも姫崎さんを呼んだのは正解だった。技術面と女性の視点から料理を評価してもらえたのは良いぞ。これで田所君の選択が楽になる。
「………どうするよ田所君。姫崎さんはこう言ってるけどさ、卵料理で勝負する?」
「…………ちょっと危ないですよね。」
…………そうなるか。まぁ、そうなるよな。卵料理は幼稚だもんな………告白の材料にはなり辛いよな。
「…………仕方ない、秘策を出すか。」
俺は腕を捲り気合いを入れ直す。
「これから俺のマル秘料理を作るからさ、ありかなしか判断してくれ。もしありなら、秘策を利用してもらいたい。もしなしだったら………まぁ、なんか卵料理で美味しかったものを選んでくれ。全力でサポートするからさ。」
この秘策は2、3日寝ずに考えて作ったものだ。これには自信がある。正直これは最高傑作だ。これで落とせない人間なんているはずがないってぐらいの出来栄え。
「………は、はい。」
俺の執念、自信を感じ取ったのだろうか。少し気圧されながら田所君は返事をした。
「………あ、そうだ。田所君、君さ、」
俺は台所に行こうとしたのだが、大切なことを1つ聞き忘れていたことに気づき振り返った。
「木原さんと結婚する気ある?」
「え?」
「え?じゃない。結婚する気があるのかないのかって聞いたんだよ。」
「ま、まぁ、出来るのならばしたいですね。この気持ちは全然遊びとかじゃないんで………」
とか言いながら恥ずかしがって顔を背ける田所君。
恥ずかしいよな、こんなことを人まで言わされるのは。
「………オッケー。それじゃ作ってくるわ。」
一時間後
「………なるほどですね。確かにこれならいけるかもしれませんね。逆に。」
出来上がった料理を見て、姫崎さんが神妙に頷く。
「………どうよ田所君。これで行ってみる?」
「………そうですね。ここまで来たら、もうこれしかないでしょうね。」
田所君は頷いた。
どうやら姫崎さんにアタックするに至って、この俺の秘策を利用することになった。
そこから、金土日月とみっちりと田所君に技を教え込み技術を刷り込んだ。あっという間だった。本当にあっという間に4日間が過ぎ去った。
そして………
「さて、来ちゃったな火曜日。」
とうとう当日になった。
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