青春だなぁ
「なん、そりゃ、……えぇぇえ…………マジですかよ。そんなことがあっていいのかよ。プリンにスプーンを突き刺そうとしてはねつけられたような気分だわ」
俺は、目の前の宏美を直視した。正直、今言った宏美の言葉が信じられなかったからだ。
「プリンだってスプーンを受け入れられない時があるんだよ。全部が全部やわだと思わない方がいい。……因みに私は固めのプリンが好きだ」
「そりゃ、俺だって固めのプリンは好きだが………さすがにスプーンが突き刺さらないプリンは食べたくないな。どんな弾力と硬さだよ。歯が持つ気がしないわ。」
田所君とマックでお食事してから1日が経ち、今日もまた生徒会室で仕事をしていた。仕事といっても雑談だけれども。だって俺と宏美以外誰も来てないんだもん。
「そうだな。彼女を受け入れられる奴なんて極少数だろうな。いや、受け入れると言うよりは認められるといった方がいいかな………」
なんともやるせない顔で窓の外を眺める宏美。正直俺もそんな顔をしてボールペンのバネでも見ていたいが、いかんせん。仕事の案件だ。落ち込んでる暇があったら考えなくちゃいけない。
どうしたものか。今日にでもまた田所君に会って話を誘導しようか……
コンコン
俺と宏美は黙って、物思いにふけっていると、生徒会室の扉を叩く音がした。
人?………誰だ。生徒会役員じゃないな。彼ら、ノックせずに入ってくるからな。
それじゃあ顧問か?………いや、あの人が生徒会室に来たことなんて俺の記憶が正しければ一度もないはずだ。あの人放任主義だからそうここに来ないのだ。生徒会室の鍵ですら俺達全員に渡してるぐらいだし。
………職務怠慢じゃない?これ。
俺はドアに近づき開いた。
そこには見慣れた……いや、見慣れたと言うには交流が少ないか。
田所君がいた。来てくれないことを祈っていた田所君がいた。
なぜこうも俺の期待は嫌な方向で裏切られるのだろうか。
「あ、あの……昨日のことについて少しお話が……」
「……………そうかい。それじゃあ部屋に入ってくれ。アップルティーとかなんかそこらへん出すからさ。ゆっくり話そう。」
「いや、そんなお構いなく!すぐに終わるんで……」
「すぐに終わらないって見積もってるからお茶を出すんだ。」
俺の言葉に、田所君の顔が少し困惑した。けれど、すぐに事情を察したのか、元の顔に戻っていた。
俺は生徒会室に田所君を入れ、長机を間に挟んで俺と宏美の対面に座らせた。
田所君の前には俺がテキトウに淹れたアップルティー。俺の前にはミルクコーヒー。宏美の前にはとうきびチョコを置いた。
「………おい、なんだこの微妙な格差は。」
「さて、田所君。話ってのはなんだい?」
「おい無視するんじゃない。」
ぶつくさと何か言った後、宏美はモソモソととうきびチョコを食べ始めた。
「………あ、あの。いいんですか?宏美さんにお茶とか出さなくて」
「あーーお茶?宏美なら喉乾いたら勝手に淹れるからいいんだよ。」
「………宏美さんですよ?」
田所君が驚いた表情をする。
「そうなんだよこいつ。私だというのにお茶淹れてくれないんだよ。他の人間なら必ず出してくれるのにな」
笑いながら宏美はチョコの残骸を握りつぶし、ゴミ箱へと放る。
パスっと、ゴミクズはゴミ箱へと吸い込まれた。
「なんだよ、それじゃあ俺も彼らみたいに[宏美様ぁあ!!今日はスリランカから取り寄せた一杯3800円のお茶と、それに京都で仕入れた高級羊羹があります!!私目を椅子にして、お茶とお茶菓子を存分に召し上がってください!!]て言えばいいのか?」
「いや、それはお断りだ。対等に喋れる人間って今のところ2人しかいないんだ。その片割れを失いたくはないからな。てか気持ち悪い。お前絶対もっと過激にやってくるからな。」
………ちっ。羊羹をアーンしてやろうと思ってたのにバレたか。さすが宏美だな。危機に対する直感力が計り知れない。
「………いや、それはちょっと気になる。」
「………え?」
俺と宏美の間に無言の時が流れる。宏美の大きな目が、俺のことをずっと見ている。そして俺も、宏美のことをずっと見ていた。「何を考えているんだこいつ」と、考えながらずっと見続けていた。
しかし宏美って美人だなぁ。こう、真っ正面から見ているとマジでそう思う。目が大きいし、鼻は通ってるし、小顔だ。黄金比とか白銀比みたいなものもありそう。実際に測ったことがないから確実なことは言えないのだけれど…………あ、そうだ。
俺は胸ポケットから定規を取り出す。高校生になってからめっきり使う回数が減ったが、一応持ち歩いているのだ。たまに机の長さとか人の歩幅を測ったりするときに使っている。
ペタ
俺はそれを宏美の顔にくっつけて、顔のパーツ毎の幅を計測し始める。
「な、狩虎なにやってゆ……」
「いや、どんな比率で顔のパーツがあるのか測ってみたくなっちゃって。」
ペタペタと宏美の顔の至る所に定規をつけて測っていく。
ふむふむ……日本人の平均とかイマイチわからないが結構良い値が出てるんじゃないの?口の横の長さは……4.8センチメートル?へーー後で自分のも測ってみよ。
「ちょっ、本当、やめ……」
みるみる真っ赤になっていく宏美の顔。だがしかし、今の俺には顔のパーツの長さと、パーツとパーツの間の長さにしか興味がない。顔が赤くなったところで、計測値に変動がないのであれば気にも留めない。
「ほんと、マジで、やめろ………」
ペタペタと触り続ける俺。
そういやまだ鼻の高さを測ってなかったな……そっちも測んないと………
「やめろっつってんだろうが!!定規が生暖かいんだよ!!!」
ベシッッッッ!!!
宏美のビンタが俺の頬を捉えた!!
俺はその衝撃により空中で何回も回転した後、地面に顔面からぶっ倒れる。
「………さて、幸雄。話とはなんだい?」
「……………いや、あの、それよりも生徒会長生きてます?」
俺達の一部始終を見ていた田所君は、何がなんなのかよくわからず、口を開けっぱなしにしてアガアガ言っていた。
「ああ、大丈夫だ。こいつしぶといのが強みでさ、私の6割ぐらいの力にまで耐えられる数少ない人間なんだ。こんぐらいじゃ死なんよ。」
「それに……」と言いながら、宏美は机の上にある俺のコーヒー牛乳を掴み、
「おい狩虎。起きなかったらお前のコーヒー牛乳が牛乳90%になっちまうぞ。」
と、言いやが……
「おい!なんてことしようとしているんだ!お前が今やろうとしてることは製造会社の方々が一生懸命考えて編み出された美味しい分量比をぶち壊すっていう思いやりを踏みにじる行いだ!!そんなの俺は絶対に認めないぞ!!」
俺はコーヒー牛乳を宏美の手から奪い取ると俺は一気に飲み干した!
「………な?このようにコーヒー牛乳を使って脅せば狩虎はザオリクなんかよりもよっぽどお手軽に蘇生可能だ。」
コーヒー牛乳のパックを水面台にまで持って行き、水に浸した後、俺は再度宏美の隣に座った。
「…………仲いいんですね。まるで付き合ってるみたいです。」
そして、俺らに向かって田所君はそう言った。
「付き合ってる?いやいや、ないない。告白したこともないしされたこともないよ。小学生の頃から友達なだけさ。」
俺と宏美は言っちゃなんだが性質がほとんど真逆だ。確かにある程度似ている部分もあるが、ある程度でしかも微量だ。ほとんど似ていないと言っても言い過ぎではない。だって俺は宏美みたいに正義感があるわけじゃないからな。自分の利益のために行動する自己中な人間なのさ。
「付き合ったことはないかな。一方的にど突いたことなら何度もあるけどな」
そして、宏美も認めた。
「な?仲が良いだけさ。………友情をすぐに恋愛感情に結びつけるのは短絡的でつまらないと思わないかい?本当に理性のある動物の行動だと言えるのか俺は疑問だぜ。」
「奥手なやつの言い訳としてはピッタリなセリフだな」
「はぁ?言い訳じゃないし。これは権威ある社会経済学者[そは ウレ子]が提唱した誉れ高い論述なんだぞ。それを否定するってのは人類の叡智を否定するのとなんら変わりない行為だ。素直に認めるんだな。」
「理性がある人間てのはそんなにペラペラ嘘つかないんだよ!ちょっと矯正してやる!」
俺は宏美にガッチリとヘッドロックされ、ギリギリと締め上げられる。!
「痛い痛い痛い痛い痛い!!!顔が凹む!顔が凹むから!!俺の顔が二次元になってしまう!!」
ベチベチベチと宏美の手をタップするが、一向に力が衰えない。
やばい!!こいつは、今ここで、俺を殺そうとしているのか!?
「…………こういう関係でもいいのかもしれません。」
俺が宏美に締め上げられている光景を見て、田所君が笑いながら言葉を漏らす。
「昨日貴方が言ったみたいに付き合うとかじゃなくて、生徒会長と副生徒会長みたいなふざけあえれる友達で。」
田所君の言葉を聞いて、宏美が力を弱めた。
……やれやれ、やっと解放か。
俺は宏美の腕を抜け出て、姿勢を正し、田所君に向き直った。
「付き合うなんて僕じゃ無理ですよ。ヘタレですし、今まで一度も女の人とお付き合いをしたこともないですし、何か才能があるわけでもない。普通な人間です。それなのに木原さんみたいな特別な人を喜ばせるなんてこと、出来るわけがない。」
「……才能ねぇ。才能なんて必要なのか?俺はイマイチ木原さんの性格がわからないからさ、脈ナシなのかどうか判断できないんだよ。………宏美から聞く限り、中学生の頃からの仲なんだろ?そういう馴染みの良さを利用して攻めるってこともできそうだなと俺は思うわけよ」
恋愛したことない人間が何を言ってんだって話だけどな……
「………そんなんじゃ無理なんですよ。付き合いが長いとか、よく話してる、だなんてことで木原さんは振り向いちゃくれない。だってあの人が好きな人は」
田所君は少し苦笑いを浮かべた後、ボソッと言った。
「料理が上手い人だけなんですから。」
………宏美の情報と一致だな。
どうやら木原さんは自分と同じかそれ以上の調理技術を持った人間でないと恋愛対象と見ないらしい。
なんともまぁ絶望的なことだろうか。あれクラスの実力を持った人間なんて頑張れば目視で数えられるぐらいしかいない。それほどの才能を田所君が持っているのか?……情報を持っていないからなんとも言えないがないだろう。
「無理ですよ。今から木原さんに追いつくなんて。ただですら木原さんは調理が大好きで、今もずっと技術を磨いている。そんな底知れない人に近づくなんて………」
弱気な田所君。俯いて床を見っ放しだ。
「………そうだな、無理だな。普通に考えて無理だ。俺でも無理だ。宏美でも無理だ。多分この学校の人間じゃ全員無理だ。だから諦めて木原さんとは友達関係でいるんだな。」
「え、えぇぇ………昨日と言ってることが全然違うじゃないですか。[お前なら出来る]とか言ってくれないんですか?」
「いや、なんで言わなきゃいけないんだよ。俺達の目的は[調理愛好会を立て直す]ことだ。つまりは君を部活動に復帰させるだけなんだ。」
俺は水面台に近づき、すすぎ終わったコーヒー牛乳のパックの水を切り小さく折りたたんでいく。
「君の話を聞く限り、木原さんへの未練がタラタラなんだろ?それなら部活動に入って楽しく木原さんと友達関係を続けるのが最良じゃないか。正直君のその気持ちを無理やり引き出した時点で俺達の仕事はもう終わっているんだよ。」
ここまで人に気持ちをさらけ出したんだ。もう他人にも自分にも隠すことはできない。そうなった彼は確実に部活動に舞い戻るだろう。そこには木原さんがいて、優しく調理技術を教えてくれるのだから。これほど彼女と触れ合える場所はない。
「それだってのに君と木原さんをくっつける?おいおい、そんなことしてもし失敗したら君は部活動に入ってくれなくて俺達は人集めでめんどくさくなるんだよ。それに勝率もかなり低い。理想を求めて全てを台無しにしてしまうのは賢い行いじゃない。」
無難。それが今の俺の選択に最も当てはまる言葉だ。
「宏美はどうよ。田所君が木原さんに一か八か告白して、理想を手に入れるか破綻を招くかの博打を打つ。か、理想を捨てて友達関係を維持していくとても賢い選択をするか。どちらの方がいいと思う?」
俺は濡れた手をハンカチで拭いた後、席に戻ってきた。そして、チラッと宏美の目を見た。
「………そうだな、私は告った方が良いと思うな。確かに私達は仕事上、幸雄には告ってもらいたくはないけれど、だからって幸雄の気持ちを無下にするってわけではない。出来ることなら2人とも幸せにしてあげたいんだ。それならやっぱり告白して付き合うのが1番なんだよな。」
宏美は机の上のお茶菓子に手をつけた。
「私も一応女だ。そして、それ以前に人間だ。恋もすれば恋愛にも夢見がちになる。幸雄の様に人を愛して、それでも手の届かない時の感情ってのも一応は経験したつもりだ。……辛いんだよなぁあれ。気持ちを言いたいんだけど[自分なんか]って思って声をかけられないんだよ。そして、そんな自分が許せなくなって自分を否定して、そしてまた気持ちを伝えられなくて。心は満たされた様な穴が空いた様な、妙にふわつく感じになるんだ。………ありゃ地獄だな。そして、告白できないのもまた苦痛になるんだ。」
俺は宏美を見ることなく、田所君を見続けた。
「要は後悔すんなってことか………」
ピクッ
田所君の眉毛が少しだけ動いた。そして、少し田所君は頭をかいて窓の外を眺めた。
……さて、さらに揺さぶるか。
「………いやーーしかし、良いんじゃないか?告白できなくて辛いっていっても、それ以上に会ことができるっていう幸福の方が大きいと思うんだ。理想は所詮理想。夢は所詮夢。理想通りにいかないのが現実であり事実だ。夢を現実に持ち込めないのが事実だ。理想や夢を諦めるのはなんら恥ではないさ。」
俺は笑いながら田所君に話しかける。
「それに一度部活動を辞めて木原さんから離れて後悔してたんだろ?会えないのが酷く辛かったんだろ?それならば部活動に加入してまた他愛ない会話をする方が良いと思わないかい?」
俺はジワジワと田所君の選択肢を削いでいく。そして、気づかれない様に彼の心を逆なでしていく。
彼の後悔がこんなところではないと、俺はなんとなくわかる。けれど、そこを今俺が直接突いたところで意味がない。的外れなことをとにかく言いまくる。
「君の後悔は木原さんから離れたことだ。そして、だから君はここに来た。仲介役として俺達生徒会を利用することですんなりと部活動に戻ってこれるからな。もしかしたら木原さんが戻って来たことを喜んでくれて奇跡が起きるかも?……まぁ、起こるかもねぇ、奇跡。」
田所君は俯いたままだ。
……もう一押しといったところか。
「お前は本当に賢いよなぁ。負け戦は絶対に挑まないってことだもんな。いやーーさすがだねぇ。俺もそういうところ見習おうかなぁ。」
「…………ち、」
ずっと俯いていた田所君から小さな声が聞こえた。
「違う!!!!」
バシン!!!と手をついて田所君は勢いよく立ち上がった。
「…………けど、」
けど、田所君は、俺達2人を見た後、
「否定はできない…………」
と言いながら座り直した。
「違う?否定できない?おいおい、一体どういうことだ。俺はバカだからお前が何を言いたいのかわかんねぇよ。こんな俺でも分かるように詳しく説明してくれ。」
「………僕の後悔は木原さんから離れたことじゃない。告白もせずに逃げたことです。」
また俯きながら、田所君はポツリと喋る。
「賢い訳でもなんでもない、逃げ続けただけなんです。[僕じゃあダメだ]って、何もせずに逃げ続けたんです。もしかしたらワンチャンあるか?って思って入った調理愛好会でも、全然ダメダメでした。自分の技術を磨けば磨くほど、木原さんとの距離がどれだけ離れているのかが身にしみて………結局、自分のやろうとしていることが無謀以外の何者でもないとわかった瞬間、すぐに部活動を辞めていました。」
田所君の指を見ると、指の皮が結構剥けていた。
ストレス……自傷行為か。そういやそういう精神病があったな。
「………それなのに、それなのに僕はまだ未練が断ち切れていなかった。[告白してフラれた訳じゃない。まだチャンスはある]なんて、バカなことと[部活動を辞めたからどうしようもない]っていう方法の欠如による、2つの意味のない葛藤をずっとし続けていました。………本当、バカですよね。ズレたところで悩んでる。」
田所君がようやく顔を上げた。それは妙にすっきりしていた。まるで、膿は出しきったとでも言わんばかりに。
「だから今回、生徒会室に来て、もう一度挑戦してみようとしたんですが………しかしハッキリしました。そうですよね、僕みたいな人間が木原さんと釣り合うわけがない。部活動に加入して友達関係をずっと続けようかと思います。」
「………はぁ、ダメだな。」
「…………え?」
俺は田所君の言い分を聴き終えると、真上を向いてため息を吐いた。
「なんで今自分で自分のダメな点を言ったのに、最終的にお前はそこを無視している?なんで自分の問題点を棚に上げている?なぜお前の感情の原因を無視して物事を決めつける?俺には全然意味がわからねぇ。」
俺は荒々しく立ち上がると、自分の席にまで行きバッグに入っているコーヒー牛乳を取り出す!
「お前は今、やってはいけないことをしている。また逃げ出そうとしてんじゃねぇかよ!」
ビリイッ!
俺はコーヒー牛乳の側面を荒々しく裂き、飲み口を作る!
「お前の過去が物語ってんじゃねぇか、[それをしたらまた後悔する]って。なぜ学ばない!なぜ直視しない!お前は挑戦するために生徒会室に来たと言ってるが、お前はまだ逃げ続けているんだよ!それを証拠に、俺のそれっぽい言葉を鵜呑みにして、自分の覚悟を捨てている。それは立ち向かおうとする人間のする行動じゃない。端から俺に否定してもらおうと考えている意気地なしの行動だ!」
そして俺はコーヒー牛乳を一気飲みした!
なんかもう、イラついていたので気分を落ち着かせるために。
「………まっ、良いんじゃないの?それはお前が決めた決断だ。行動するのは俺じゃない、お前だからな。決めるのは俺じゃない、お前だからな。お前が決めたのならその通りに行動しな。それに告るのを諦めてくれた方が俺的にも楽だしな。」
俺は再度コーヒー牛乳を水に浸し、生徒会室の出口へと向かった。
「宏美。こっから先のことはお前に全部任せる。木原さんと俺よりも親しいはずだから、部活動の登録手続きとか諸々のことはすぐに済むだろうよ。」
俺はドアに手をかけた。
「ちょっと風に当たってくるわ。んじゃ任せた。」
俺は外に出た。
「…………あの、生徒会長って怒るんですね。」
田所は狩虎の行動を見て、口を開きっぱなしで驚いていた。
「んーーあれは怒りってよりも憤りだな。せっかく幸雄に気づくチャンスをやったのに、お前はバカな間違いを犯した。だからあいつは憤ってるんだよ。」
「バカな間違い………?」
「言ってたじゃないか。ハッキリと、大きな声で言ってたじゃないか。」
宏美は水面台に行きお茶を淹れ始める。
「バカな間違い……なんですかね。僕は生徒会の皆さんの迷惑になるようなことはしてないはずですが………」
「………はぁ、そうじゃない。あいつが怒りのような感情を見せる時は自分じゃなくて他人の時だけだ。お前にとって大きな過失があったから、あいつは声を荒らげた。」
宏美は腕時計を見ながら、田所と会話を続ける。
「………わからないです。」
田所は必死になって考え続けたが、答えがわからなかったのだろう。ポツリと言った。
「………仕方ないか。ちょっと荒くなるが我慢してくれ。」
「へ?いや、なにを………グゥッ!」
いつの間にか田所の元に戻って来ていた宏美は田所の胸ぐらを掴んだ。
「なぁ、幸雄。おまえさ、なにが悔しかったって言った?何に対して後悔しているっていった?」
ギチギチっと、宏美の手首が捻られ首が締まっていく。
「こ、後悔……それならさっき…………」
「だから今それを言えっつってんだよ。声に出して、ハッキリと言ってみろ。」
「………だから![告白もせずに逃げたこと]ですよ!!」
「そうか、それならお前がこの生徒会室に来た理由を大きな声で言ってみろ。」
ギリギリッ
さらに宏美の締める力が強くなる。
「挑戦しようと思ったんですよ!!こんな僕でも、もう後悔したくないから、告ってみようと思ったんです!!」
「………じゃあ最後だ。お前が最後に決めた今後の方針はなんだ?」
「付き合うのは諦めて、友達関係を続けることです!!…………」
「………そうかい。」
宏美はポイっと田所をソファに投げた。
「後は狩虎が言っていたことと、今自分が言ったことを照らし合わせて自分で考えな。私達はお前に気づく機会と考える機会を与えることはできるが、それまでだ。そこから先考えて決断するのはお前にしかできないことだからな。」
宏美は水面台に行き、自分のコップにお茶を注ぐ。
「考えが纏まったら私に言ってくれ。それまで私はお茶でも飲んで待ってるから。」
宏美は自分の席に戻ると、熱々のお茶をふーっと冷ましながら飲み始めた。
「………分かっちゃいますよ。そんなこと、分かっちゃいるんですよ。僕が今どんだけバカなことを選んでいるかなんて、そんなこと、分かってはいるんですよ!」
宏美がお茶を飲んでいると、田所が喋り出した。
「バカじゃないさ、賢い選択だ。」
「バカですよ!この選択をしたら、また僕が後悔するなんてことは目に見えているじゃないですか!!予想できる結末を避けようとしないことほど愚行はないですよ!!」
「じゃあなんで選んだ。私からすればイマイチ分からないところだ。」
「でも、告白することよりも木原さんと一緒に居られる可能性が高い方を選びたいじゃないですか!!フラれてしまったら、それで全て終わりなんですから………」
「フラれたら新たな出会いのチャンスだ。」
宏美は田所君の言葉になるべく短めな言葉で答える。彼の言葉を引き出すために。
「そんな!!木原さんにフラれてすぐに別の人になんて気が向く訳がないじゃないですか!!深く落ち込むに違いない!!!!」
「それじゃあさ…………」
宏美はめんどくさくなって、つっけんどんと突き放すように言った。
「過去の自分の反省を生かさず、告白も何も出来ずにウジウジして高校生活を終えるのと、告白してフラられて新たな可能性を見つけるのとではどっちがバカなんだ?お前の考えを教えてくれ。」
「……………」
この言葉に、田所は無言になった。
「………そこに自分の意見がなかったら、お前の決断は決断とは言わないな。まっ、いいわ。」
宏美は立ち上がり、ドアへと向かう。
「私ってさ、失敗だけを見て、努力して数少ない可能性に挑戦しようとしない人間って嫌いなんだ。だからお前みたいな面倒臭い奴の面倒は見てやらん。……ちゃんと自分の意見を見つけることができたら私達のところに来い。学校中をウロついてるから頑張って見つけんだぞ。そしたらお前のどんな意見も尊重して手助けしてやるよ。」
そう言うと宏美も生徒会室を出て行った。
「………そんなことわかってたらこんなに迷わないんですけど…………」
1人生徒会室に取り残された田所は、本当に消え入りそうなか弱い声で、泣き言を言った。
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