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Face of the Surface  作者: 悟飯 粒
勇気の章
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77/364

トーントーントト

トントントトン、トントントン


「失礼しまーす」



俺はリズミカルに扉を叩くと扉を開き中に入って行った。

部屋には大きな机が6つほど綺麗に整頓されていた。1つ1つの机には大小様々な戸棚が備え付けられている。横にスライドして開けるやつ。引いて開けるやつ。さすがに押して開ける戸棚はなかった。蛇口なんて何個有るか分からない。10?20?……もっと有るのかもしれない。机とは関係なしに壁に設置された巨大な棚。それもまた6つほど有るのだが、その棚の戸はガラス張りなので中身がよく見える。その中にはたくさんの皿が入っていた。取り皿のような小さな皿や、家族でつつき合うような大き目なお皿。とにかくたくさん、たくさんある。箸も大量にあった。菜箸もあった。おたまもあった。さじもあった。ボウルもあった。なんかもう、料理関係のものはほとんど全てあった。

そう、ここは家庭科室。フライパンや洗剤やガスや包丁などの危険物が学校内部だというのに堂々と置かれている場所だ。

俺が思うにこの教室が最も危険な場所だと思う。

理科室?確かにあそこには強酸やら強塩基やらとエゲツないものが保存されていて、ガスバーナーも設置してある。さすがに水溶性があまりにも高く、油の中でしか保存ができないような爆発物とか放射線を撒き散らす放射性同位体などなどの危険物はないだろうが…………いや、どうだろうか。後者はともかく前者はあり得そうじゃないか?ナンタラ法とかがあって学校内での保存は禁止だとかそういうのがあるかもしれないが、もしなければ、管理にさえ気をつければ学校内での利用は可能だ。とにかく、確かに理科室には危険物が多いが、家庭科室……まぁ正式名は調理室なわけだけれども、そこみたく何も加工しなくても凶器となりうる包丁や、化学のようにガタガタ怯えながら可燃性物質を持ち運ぶのではなく、ツマミをキュイッとひねるだけで燃料ガスを生み出すことが出来るわけではない。危険性とお手軽性が群を抜いているのだ。洗剤を混ぜれば毒ガスも発生させられる。最近の洗剤はどうか知らんがな。

まさに学校で1番危険なところだ。ここが本気を出せば学校なんてすぐに爆破される。

それに、箸もフォークも、皿を割って欠片を利用すれば人にさすことが出来る。要はここは凶器の温床。殺人や破壊のためだけにあるような部屋だ。


さて、こんな危険なところで行う部活とは一体なんだろうか。サバイバル部?殺人考察部?人間の焼き方を学ぼうクラブ?もし調理室で修羅場が起こったらどうやって完全犯罪を作ろうか考えようクラブ?実に的を射た答えだ。正直ほとんど正解だ。満点と言ってもいい。99点だ。

だが、1点足りないのだ。ほぼほぼ満点ではあるが、何か1つ大切な言葉が足りない。そう、それは[調理]だ。ただ殺人を犯すだけじゃない。以下に人を殺すか、どのようにして殺人を犯すか、それを考え、人のレシピ(殺人方法]を参考にして一工夫や一手間、アレンジ、裏技を盛り込み手の込んだ料理(犯罪)を生み出す。

そう、ここで行われている部活は人呼んで


「(人間) 調理愛好会とはよく言ったもんだな」


「んなわけあるか」


ズビシッ

宏美の鋭い蹴りが俺のふくらはぎの肉断裂を誘う。

俺はあまりの痛さに倒れこむ。

くそっ、宏美まさかお前も調理愛好会の手下か!?

俺はふくらはぎをさする。結構痛いのを貰ってしまったから、立ち上がるのに30秒ぐらいかかってしまうぞ!


「調理愛好会。調理室で活動をする部活動ですね。いままでにデザートの大会で銀賞を、お弁当の彩りと味を競う大会で金賞を取っていますね。………10数年ほど昔の話ですが」


そして、イリナがこの部活の詳しい情報を資料を見ながら説明してくれる。

ヘーー結構成績残してるじゃん。でも最近の成果を言っていないってことは、廃れたってことなのかな。


「料理………うふふ、私結構得意なんですよ。飯田さんに私の料理を食べてもらいたいぐらいです」


………とまぁこのように、料理ができる人を誘ったら3人が来てしまった。まさかのメンツである。いや、イリナが料理をできるであろう事はなんとなくってか、夢の情報で確実にわかっていたのだけれど、宏美と姫崎さんができるなんてことは想像もつかなかった。


「私のー料理はーとっても美味しいんですよ?なんなら今度の休日にでもお出し致しましょうか?あ、もちろん私の家でですよ。そんな、飯田さんの家のキッチンを汚すようなマネはできません」


立ち上がった俺の左の二の腕に指でくるくるとよく分からない図形を描く姫崎さん。


「今度の休日ということは今週の土日ですか?あーーその時は用事があるので無理ですね。」


「そうですか………それなら来週の土日なんてどうでしょうか?」


「あ、えーっと、その、あの………」


来週も無理だ!あっちの世界で用事があるからな!あーーでもどうしよう!!女性の誘いを2回も連続で断るなんて………なんか心苦しい!!俺ごときが断っちゃいけないってことは分かっているのに先約があるからなぁ!くそーー!!なんだこの葛藤は!生まれて初めて経験したよ!!


「ミフィー君はどうやら来週にも予定があるようですよ?それならばそっとしておいたほうがいいんじゃないでしょうか」


俺が心の中で激しいせめぎ合いをしていると、事情を知っているイリナが俺を助けてくれる。

あはーー!この世界でしか見れないイリナの優しさだぁー!!作られた優しさだけれど、なんてレアで、そして嬉しいものだろうか!もっと俺に優しさをかけて!偽りでもいいからさぁ!


「………そう、ですか…………それならばもう休日とは言いません!!なんなら私が泊まり込みで平日にも料理を作りましょう!!」


そこまでーー!?そこまで自信があるの!?そこまでいくと食べてみたいわ!!時間を無理して作ってでも食べてみたいわ!!


「そしてぇー私と飯田さんが愛情のこもった美味しい料理と、1つ屋根の下で積み上げられた濃厚な時間が私達の心の壁を溶かしてほぐし、私達は………キャーー!!!もう、飯田さんったらーー!!私の為にここまでしてくれるんですか!?」


「逆にこっちの質問だよ!!姫崎さん。貴方一体どんな妄想しているんですか!?言っている情景が使い古しのエロ小説のシチュみたいな、」


メシィッ!!


宏美の手刀が俺の首めがけて飛んで来て、それを俺はギリギリでガードする!!


「…………狩虎。女の子に向かって[エロ小説]って言葉は禁句だと思わないか?どうよ、思わないか?」


ベシ!ベシ!ベシ!

宏美のチョップが[思わないか?]と言うごとにくりだされ、それを俺は両腕を使うことでなんとかガードしていく!!

くそ!なんて重たい攻撃だ!鬼の一撃なんかの2倍は強いぞ!?


ガチャリ

そして、俺が絶え間ないチョップ攻撃を食らっていると、家庭科室の奥の方の扉が開いた。


「なになに?どうしたの?喧嘩とかしてるの?」


出て来たのはメガネをかけた女性だった。身長は165センチメートル程度で黒色のショートヘアーだ。きっと、料理に髪が入らないように切っているのだろう。胸は普通サイズだ。大事なことだから2度言うぞ。胸は普通サイズだ。赤と白のチェックのエプロンをつけている。

……エプロン。なぜ、エプロンというのはここまで素晴らしいのだろうか。分からない。だってこんなのは衣服が調理の時に汚れないように、ただそれだけのために着るしょうもない布切れではないか。それなのになぜ、こんな、母性というか目の前がきらめくような輝きを放つのだろうか。


「………喧嘩とかじゃないです。少し、意見の食い違いがあっただけです。それと」


俺は襟を正し、家庭科室の扉の方を向いた。


「俺達は生徒会です。俺達が今日、なぜここに来たか分かっていますよね?」


「………そっちは分かってるんだけど、なんで後ろ向いてるの?」


「ああ、実は俺恥ずかしがり屋なので女性と面と向かってだとうまく喋れないんですよ。なのでこれは会話をスムーズにするための俺の秘策です。」


「はぁ………なるほど。それで、うちに生徒会が来たってことは調理愛好会が廃部するとかそういう話?」


俺は横目で彼女の方を見ると、彼女は家庭科室の大きなテーブルの椅子を丁度5個分を出していた。


「長い話になるとは思わないけどさ、座ってよ。お茶も用意できるけどどうする?」


「ああ、お茶はいいですよ。さっきたらふくコーヒー牛乳を飲んで来たんで」


「生徒会長はコーヒー牛乳好きだとは聞いていたけれどまさか本当だとはね………おったまげだよ」


そういうと彼女は俺達を席に促した。

席は宏美、俺、イリナが一緒に座っていて、姫崎さんと調理愛好会の部長が向かいの席だ。宏美は言ってしまえば生徒会の基盤というか実質的な生徒会長であるため、ことにあたっては俺とのコミュニケーションを取らなくてはいけず、またイリナはこの部活動に関しての情報を持っている。つまりこの3人の間では情報交換がスムーズに行われなければならない。だから、仕方なくこの席順なのだ。姫崎さんは持ち前の明るさと人への接し方、いじめをして来たことによって鍛えられた人間の弱点を見る目や人の長所短所を事細かに把握する力を思う存分に活用してもらうために、部長さんの隣だ。


「さて調理愛好会の部長、木原明美さん。この部活は先月の19日に部員が部長の貴方のみを残して退部しました。その為、この部活動には現時点では部員が1人しかいません。これは規定の違反となる為、この部活動は即刻廃部となります」


「………はぁ、仕方ないよね。部員1人だけじゃあさすがに存続は出来ないもん。懸命っていうか当たり前の判断だ。逆に今まで猶予を与えてくれていたことに感謝しなきゃいけないのかもね。君達生徒会は動きが早いことで有名だもんね」


木原さんは諦めきったようにボーッと天井を見上げた。

………完璧に打つ手なしって感じの顔だ。俺はもう少し食い下がってくるのかと思っていたが……どうやら完璧に諦めているようだ。この部活は無くなってしまうと本気で思っているらしい


「それじゃあさっさとこの部活は廃部で明日から私は帰宅部ですって?まぁそれもいいんじゃない?仕方がないよ。出来ることやってこのザマだもんね」


調理愛好会はここ半月で色々と出来ることをやっていたようだ。グラウンドでのマカロン販売や、一年生に対しての部活動実践などを織り込んだ部活動紹介やらなにやらとにかくやったらしい。とにかく人の目に映ってアピールして入ってくる人員を増やそうとしたのだ。

………が、結果は見ての通りである。隅々まで掃除が行き届いていてチリやゴミがなに1つとしてないこの状況が、より一層閑散とした背景を強める。


「………まぁ、ね。正直それでもいいんですよ。俺もそっちの方が楽ですしね。来年から部費に関する事務処理が1つ減るんですからね。面倒ごとが減って大助かりですよ。」


調理愛好会には毎年20〜30万円ほどの部費が送られている。これは毎年の歳入によって変動するのだが、いちいちそれを計算するのがめんどくさいのだ。平均値をとって配るなんて簡単なことはできない。部活ごとの活動やらなにやらを吟味して付与する金額を考えなければいけないのだ。いや、まぁ、テキトウに割り振ればこんなのあっという間よ?でもね、部費っていうのはその部活にとっての大事な資金な訳よ。それをテキトウに扱うなんて人としてどうよって話だ。


「でもねーー選挙の時に俺はこんなプロパガンダを言ってしまったわけですよ。どうせ覚えてないでしょうけど。ええ、だって俺だって中学生の頃と高1生の時は生徒会の演説なんてクソほど聞いていませんでしたからね。[どうせ実行されないんだろうなーこの絵空事は]って鼻で笑っていたぐらいですよ。」


全員が全員内容がアバウトすぎるのだ。具体性がなさすぎる。なにをしてもなにかしら掠るだろうって感じの意味のない言葉。[雰囲気をよくしていきます][みんなが仲良く出来るような学校を作っていく][いじめを撲滅します!]………おいおいおい、なんだその空想と中身のなさは。具体性がなさすぎる。


「だから俺は具体的な誓約を言ったわけですよ。[部活動がもしも存続の危機に陥ったのであれば、生徒会はその部活動の功績を考慮し、もし良きものであると判断したのであれば、部外から資金や活動への助力を通して部活動を必ずや存続させる]とね。」


俺は木原さんに背を向けながら会話をする。

うーーむ、お堅い。自分で言うのもなんだが気持ち悪いほど口調が堅いぞ。


「というわけで俺達は貴方にチャンスを与えなければいけない。んでね、面白いことに料理が得意な3人が生徒会から来たわけですよ。………どうです?この調理愛好会が存続に値するかどうかを貴方の料理で判断するって言うのは?」


現実的な功績は十数年前のもののみである。それから考えると今のこの年代は素晴らしい力量を持っていないと言うことになる。でも、この世には無冠の帝王とか言うよく分からない肩書きがあるぐらいだ。功績がなくたって素晴らしい実力を持っていると言う可能性は十分にある!

人を判断するのには確かに過去の功績が必要であるが、それ以上に今どうなのかと言う現状の把握が大切なのだ。過去なんて糞食らえだ。大切なのは今だ。


「今から木原さんが料理を作って、それを俺達4人が食べて美味しかったらこの部活動は存続!とはさすがにいきませんが、俺達が全力で行動してこの部活動を立て直してあげますよ。………どうですか?」


俺は体の向きを変えて、初めて木原さんに相対した。

いままでの木原さんの無意的な、どんよりとしていた瞳が完璧に光を取り戻していた。真っ赤な炎のようだ。もう彼女の心にはガスがいれられツマミが捻られているようだ。あとは料理をするだけと言った状況。

いままでの諦めムードが完璧に吹き飛んでいた。[料理の話となればこっちのもの!]って感じの顔になっている。

………この自信に満ちた顔。返事を待つ必要はないか。


「それじゃあ、お題はなんでもいいです。ですから、とびきり美味しいものを作ってくださいね。」


その言葉を聞くと、木原さんは調理準備室へと走っていった

重要関連作品

カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/

カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/

小さな村で起こる不思議な事件。それを機にグレンと亜花が出会い、そこから始まった彼らのゆったりとした物語を書きました→https://ncode.syosetu.com/n4920ek/

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