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Face of the Surface  作者: 悟飯 粒
勇気の章
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日常がやってきた

思うに、1番の恐怖とは未知との遭遇。ってやつなのではないだろうか。いままでの経験通りにいかないというのはとても恐ろしい。何が起こるかわからない。どこから何が来るかもわからない。もし何かが起こったとして、一体全体何でどう対処すれば良いのかもわからない。八方塞がりも良いところだ。

サバンナで全裸で闇鍋をしているかのようだ。


「ねぇ、飯田さん。お茶とかいりませんか?美味しいアップルティーをご用意してますよ?」


席に座っていると、後ろに誰かがやってきて、俺の肩を揉み始める。

小さな手だ………日々ケアを怠っていないのだろう、白くて透き通るようだ。銀樹のようなきめ細やかではっきりとした、美しさ。


殴られることにはもう慣れた。いままで宏美にどれだけ小突かれ、重たい上段を炸裂させられ、絡め取るようなチョークスリーパーを極められたかわからない。それに、最近になって暴力要因イリナの登場のお陰で殴られない日がないってぐらいにまでなった。そのせいかはわからないが、防御術と受け身の取り方が格段に上達した。柔道の受け身のテストの時にも「お前………受身だけはいいな。」と先生からお褒めの言葉を頂いたほどだ。俺の受け身は自分で言うのもなんだが惚れ惚れするレベルだ。絶対に頭は守る。どんな体勢だろうと絶対に急所だけは守るぞ!という意思が具現化して見えるほど、俺の受け身は洗礼されている。


「アップルティーが嫌ならミルクコーヒーでもどうですか?私、実は今2本ほど持っているんですよ」


俺の肩を揉む手は次に二の腕へと向かって行った。勉強で鍛えているとはいえ、やはり貧相な二の腕だ。こんな所を触られるのは恥ずかしい………………


いや、違う。そうじゃない。俺は慣れていないってことを言いたいんだ。そりゃ二の腕触られるのは恥ずかしいよ?けれど、それ以上に困っていることがあるんだよ。


「あのですね、姫崎さん。そう体を触られるとこちらとしては恥ずかしいんですよ。二の腕なんて触られるのがちょっと慣れていないもので………」


そう、姫崎さんだ。1週間前から生徒会に出入りするようになっていたのだ。仕事を手伝ったりお茶を出したりしてくれるからこちらとしては嬉しい限りではある。ここ最近生徒会も色々と慌ただしく行動していて人手が足りない………いや、正直足りてはいるのだけれどもう少しいてくれたら助かるなーとは思っていた。だから助かってはいるのだけれど………


ギラッ

イリナと宏美の視線が痛い。これがやばい。

俺みたいな男がこんな美少女と触れ合っているのが気に食わないのか、はたまた俺達がベタベタしているせいで仕事が遅れてしまうことに対してイラついているのか分からないが彼女らの視線が痛い。痛すぎる。絶え間なくボディーブローを叩き込まれているような気分だ。膝がガクガクしてきやがった。さっさとこの魔手から逃げ出してコーヒー牛乳が飲みたい気分だ。


「それじゃあ慣れれば良いじゃないですか。」


姫崎さんは顔を俺の耳に口がついてしまうぐらいまでに近づけた。そして、対面にいる宏美とイリナの方を見ながら


「私がま・い・に・ち触ってあげますから」


と、静かに言った。

その言葉に俺はぶるっとした。すごくこちょばしかったのだ。身体中の立毛筋が引き締められ、毛がわき立った。

そして宏美とイリナの視線でさらに毛がわき立った。悪寒もしてきた。吐き気もしてきた。悪寒があるのに目頭付近は熱くなってきた。てかもう膝の震えが止まらない。激しくガタガタと震える膝の運動により体があったまりさらに汗が出てきた。


「………なぁ、姫崎ちゃん。私な、目の前で男女がイチャイチャしている姿を見ると無性に腹が立つんだ」


そして、この光景を鋭い目線で見続けていた宏美が漸く声をあげた。

重々しい声だ。どうやら宏美は視線だけじゃなく声にも質量を持たせることができるようだ。飛んできた宏美の声が俺の顔面をぶっ叩いた。目の前がチカチカする。あれ?目の焦点が定まらないぞ?宏美の言葉に与えられたダメージが大きすぎたか?


「イチャイチャなんてとんでもない………私は、飯田さんが疲れただろうなと思って肩とか腕とかを揉んでほぐしてあげているだけですよ。そんな、恥ずかしがり屋な飯田さんと出会ってまだ1週間程度の私がまるで付き合っているかのように言われると、性分にもなく私、恥ずかしくなってきましたよ」


まるでこんな言葉が来るのを想定していたかのように、姫崎さんはスラスラと宏美の言葉に応える。姫崎さんは宏美の視線なんてものともしていないようだ。終始笑顔である。

うひゃーーマジかよ。俺なんて宏美のこの視線だけで死にそうだってのに…………姫崎さんのメンタルが羨ましいぜ。


本当ね、それだけのメンタルがあったら姫崎さんに「は、離してください!離さなかったら宏美に体に穴を開けられますよ!」と言って腕をふりはらえることができるのに…………


「私なんかが飯田さんと付き合えるなんて、そんなことないですよねー」


姫崎さんが俺の顔を見て笑いかける。


「そ、そ、そ………そうですねぇー…………」


俺は姫崎さんに笑いかけながら、横目で宏美の方を見た。

………うわ。すげー顔だ。なんかもう、体が全体的にヒクついてる。いや、これはヒクついているのか?宏美が動いているものとばかり思っていたが、もしかしたら宏美の周りの空間が動いているんじゃないのか?………ゆ、ゆれている………の、か?

怒りなのかなんなのかは分からないが、宏美の中に何かしらの感情が溜まっていくのが感じられる。そろそろ必殺技とか覚えて出すんじゃないのか?元気玉とかそこらへんの絶対奥義が。ここら辺を消し飛ばすような不可避の一撃が。


「……………会長、お楽しみのところ悪いですが、部活動の方で少し問題があります。姫崎さんの方じゃなくて、今からはこちらの資料に目を通してください」


そして、俺が、恐怖のあまり昇天しそうになっているところに、翔石君が声をかけてくれる。手にはよく分からない書類があって、それを俺に手渡す。


「姫崎さん。これから会長はお仕事です。肩を揉んだり腕を揉んだりするのは邪魔になるので差し控えてください。………あ、お茶とかを出すのはいくらでもしてくれていいですよ」


その翔石君の言葉で、姫崎さんは渋々と俺の元から離れてくれた。

助かったーー!!!翔石君本当ありがとう!!!さすがは頭脳派要因だ!!!


俺は姫崎さんが応接用のソファーに戻っていくのを見送り、確認した後に翔石君の方に振り返った。


「………んで、仕事ってのはなんなんだい?部活動関係だってことは、あれか、停学者とかの事務処理?いや、部活動休止中の部員の管理?それとも公欠の手続き処理?」


この学校では生徒会に対する仕事があまりにも多い。これ絶対事務でやるべきだろっていうものまで生徒会にやらせるからね。なぜなら学校の方針が「高校生を大人にするには大人の仕事をやらせるのが1番!」とか言うよく分からないものだからだ。いや、理屈はわかるんだ。いずれは俺たちも大人になる。だから早い段階で大人の仕事を経験するっていうのはいい経験につながる。でもさ、子供に大人の責任を求めるって…………ちょっと早すぎるんじゃない?高校生はまだ挑戦の時期であると俺は思っているからね。その大きな責任のせいで生徒の活動が妨げられてんじゃないの?


「いや、全然違います。その書類を詳しく見てください。」


詳しく見ろ、か………仕方ない、見ようか。てか喜んで見させてください。もうね、目の前からの視線が怖すぎるんですよ。資料にだけでも集中させてください。周りの環境とか忘れたいんですよ。

俺は右上から左下へとサラーっと資料を斜め読みをした。暇だったらから速読力を小中学生の時に鍛えておいたのだ。これぐらいの文量なら2秒もあれば内容把握は完璧だ。


「…………部員が1名か。これがこの資料の問題点?」


俺は今までの空気を吹き飛ばすために、資料をガン見しながら声を出す。もう周りは見ないぞ。見たらまた汗が止まらなくなる。


「そうです。厳格に言えば資料の問題点ではなくてこの部活の問題点ですけれど。」


「あ、資料の情報は正しいのか。なるほどね。つまり、部活動設立の条件を満たしていないってことね。」


この学校の部活動の成立条件は生徒、言い換えれば部員が5名以上で教師による監督者。まぁつまるところ顧問であるわけだけれど、それが必ず1名以上ついているというのが絶対条件なのだ。両方を満たさなきゃならない。どちらか片方しか満たしていない場合、それは部活としては成り立たなくなるのだ。しかし資料を見る限り顧問はちゃんとついている。[壁山豊]って名前のところが少しひっかかるけれど、確かに第一条件はクリアしている。けれど部員が足りない。…………でもおかしいなぁ。


「俺が生徒会に入った時はどこの部活でも定数割れなんてことなかったけどなぁ…………見落としたのか?」


この生徒会に入った時、俺は部活動の資料とか危険人物リストとか、学校の歳入とか歳出とかは全部確認しておいたのだ。生徒会になんていままで入ったことがなかったから勝手がわからず、とにかく何かの参考にならないかと資料の全部を全部確認して覚えたのだ。まっ、今までそんなのはクソの役にもたってないけどね。この学校の予算繰りが下手だってことと、危険人物の進学率がアホみたいに高いってことだけだ。ここに集まる奴らは頭はいいが、正当なことに関しては手際が悪く、犯罪じみた狡猾な手段に対してはあり得ない頭の回転を見せるようだ。…………もうやだこの学校。


「見落としてはいないですよ。現にこのクラブは先月の中頃までは5人以上いましたからね。ただ、退部しちゃったんですよ。部長以外全員。先月中頃に。一斉に。」


ああ、なるほどね。


「つまりあれか、今日俺が取り組まなきゃいけないことはこの部活に乗り込んで、何をやっていて実績がどんなのなのか見てくるってことだな」


「そういうことです」


つまるところ部活の視察か。残すに値するか否かを判断しに行くと。確かに必要人数に達していないとはいえ、簡単に消すというのはよろしくない。そこには部長などの熱い思いがあって、機械的に、[条件に合わないからぶっ壊す]なんてことを言ってしまうのは人としてどうなのよって話だ。………まぁ、正直なところ部員が辞めているってことは部内の環境が悪いのだろうから、視察といってもそれは名目上だけで、俺がやるのは廃部の宣告だ。

あれなのよ。人としてダメだとか俺言ってるけどね、要は建前なのよ。生徒会っていうのは正義と誠実と生徒を思いやる所でさ、潰れかけている部活に慈悲を与えて思いやりのある場所だと思われなきゃいけないわけ。だから「善処したのですが、どうしても残すことができませんでした」みたいな形じゃないと部活を潰せないんですよ。

生徒会がこういう行動をするためには建前が必要だ。んで、そういう仕事は俺の出番というわけさ。[生徒会長が潰れかけている部活動のために一生懸命に動いてくれた」ってさ、めっちゃくちゃ聞こえがいいじゃん。


まったく、やはり生徒会長なんてものは雑用係となんら変わりがないな。いたところでこういう汚い役目しかおえない。まっ、そう考えると俺にはぴったりな役職なのかもしれないな。


俺は翔石君の言葉に頷くと立ち上がった。これからさっさとその部活を見に行く為だ。もう外が暗くなってきている。もう秋だからな。6時半と言っても外は夕暮れ時だ。窓から外を見ると真っ青で、所々水色に塗られた空の端っこにはオレンジ色の太陽があった。いや、どうだろうか濃朽葉と言ったところか?もしかしたら紛紅?………秋だから濃朽葉とでもしておこうか。濃朽葉色に塗りたくられた片隅から、まるで水が滴るように色が青色の世界へと広がって行く。赤、赤紫、紫、紺碧、薄群青。空が真っ赤な波のように色を広げている。それに無数の鱗雲が波に沸き立つ泡のようになっており、更に海の景色を彷彿とさせる。まるで油絵だ。空だから当然のことなのだけれど、奥行きがあるように見える。この手を伸ばせばこの波の底に触れるような…………だが、どんなに手を伸ばしたところでパステルに書きなぐった絵と空は違う。どんなに手を伸ばしてもそこに実体はない。ただ色も何もない何かを掴むだけ。

幻想的な時間というのはあっという間に終わる。その後は闇夜の静寂だけ。だから、本格的に暗くなる前に仕事を終わらせて家に帰らなくては。そして勉強してご飯食ってスカラさんの授業を受けて勉強してさっさと寝よう。ここ最近勉強時間が短くて恐ろしいったらありゃしないぜ。


…………あっ、そうだ。

俺は脱いでいたセーターを着て、更にブレザーを着ているときに、少し妙案を思いつき俺は生徒会室内部に振り返った。そして、


「あーーー…………この中で料理ができる人っています?」


と、聞いた。

重要関連作品

カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/

カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/

小さな村で起こる不思議な事件。それを機にグレンと亜花が出会い、そこから始まった彼らのゆったりとした物語を書きました→https://ncode.syosetu.com/n4920ek/

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