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Face of the Surface  作者: 悟飯 粒
勇気の章
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[固固固固]眈々

「なーんつって」


俺は地面に大の字になって寝そべっていた。魔剣の能力で、ぶつかる直前に魔剣の元に瞬間移動していたのだ。


バチバチバチ!!

俺の真上で5匹の龍が激しい電撃をあたりに撒き散らしながらスカラさんに襲いかかっていた。


バチン!!


「あっぶねーー!!!」


落雷が俺のすぐ横でおきて、地面を這って来た雷が俺の体に当たり痺れる。

俺は耐熱性能があるからな………痺れを感じる程度で済むが、スカラさんはそうはいかないだろ。


俺はよっこらしょと言いながら、左手で体を支えながら立ち上がった。

イリナと黒垓君がアーマーを幾分か削ってくれたお陰で、今のスカラさんには魔法耐性がない。あの電撃をモロで食らっているんだ。それに俺の攻撃で回復をしなきゃいけない状態に龍が衝突する前にこぎつけたお陰で、スカラさんの1度の回復量じゃ回復しきれないダメージを毎秒与えられていることになる。

だからスカラさんを龍の魔力がきれるまでこの場に拘束しておくことが出来るというわけだ。


俺は無くなった右腕の切り口を水で満たし、そして水を凍らせる。一応の止血のつもりだが………おかしいな、なんの冷たさも感じない。こりゃ神経が死んだか?


俺は魔剣を拾い腰の鞘に収めた。


真上を見ると、まだ龍とスカラさんの戦いは続いていた。

5匹の龍がスカラさんを山肌に吹き飛ばし、それを5匹が岩肌を削って山を吹き飛ばしながら追い打ちをかける。

ここは実は山脈なのだが、目に入る山々が全て原型をとどめておらず壊されていた。木なんてほとんどが燃えている。山火事のレベルを超えているなこれは…………


…………大丈夫だよな?死なないよな?


俺は胸につけている機械に手を当て、もう一度力を封印し直す。


「飯田くーーん、大丈夫ですか?」


俺が空を見続けていると、頭の中に染島さんの声が流れてくる。

ふむ、戦いが一時的にではあるが終わったことを誰かから聞いたんだな。


「大丈夫ですよ。腕が一本なくなっただけで済みました」


しかし、この世界だから笑ってこんなことが言えるが、現実では恐ろしい事だよな。もし現実で起こったら俺なら絶対泣き叫んでるわ。


「腕一本ですか………それはまた手痛い代償で」


「手がないですからね、今はそこまで手痛く感じちゃいませんよ」


幻肢痛ってのを久々に思い出した。それを考えれば………なるほど、確かに右手があるように感じなくもない。ただもう腕周りの神経が、スカラさんの光の攻撃?か何かのお陰で死んでいるからな。何も感じない。


「それよりすぐに黒垓君とイリナを呼んでください。スカラさんを足止めできているとは言え、一時的なものです。すぐにグレンの元に向かいスカラさんに対する情報を集めましょう」


さっきも言ったが、龍の魔力がきれるまでが情報集めのタイムリミットだ。あの龍も体が大きくて一撃が重いだろうが、スタミナはないだろう。さっさと行動しなければあっという間にタイムアップになるだろう


ズズズズズと俺の前に真っ白な扉が出現する。

そこから黒垓君とイリナと染島さんと亜花君が出てくる。


「ミフィー君!また無茶してるじゃん!!なんでそう、自分の体を大事にしないかなぁ………」


俺の体を見て、イリナが駆け寄ってくる。


「いいんだよ別に。こうでもしないとこの可能性が生まれなかったんだからな………スカラさんを説得できる僅かな可能性をやっと手に入れたんだ。俺の右腕ごときで済んだなんて安いもんだろ」


俺は笑いながらイリナの横を通り過ぎようとした


「強がるなよミフィー君」


ドズン!!と、俺とイリナが交錯するときにイリナの重たいパンチが俺のお腹にジャストミート!!


「いったぁ………お前なんてこ」

「君は私に肩を貸される。それだけでいいんだよ」


イリナの腕が俺の首裏に行き、俺の残った右腕にかかる。そして、イリナの左手が俺の左手を掴んだ。イリナのサラサラな髪が、俺の目の前にあった。

ぐっと持ち上げられる俺の体。いつもみたいに乱暴な感じはない。


「やせ我慢は君の得意分野だろうけどさ………もう少し周りに頼ってみない?自分1人で何もかもを背負い込んで、自分で自分を傷つけ続けるのってさ、君は大丈夫だと思うかもしれないけれど周りは心配してるんだよ」


…………何を言っているのだろうか。俺はいつも周りの人間に投げっぱなしじゃないか。俺はそこまで頑張っていない。自分の出来ないことに挑戦してなんかいない。自分のできる事をやっているだけだ


「もっと自分の体をいたわれって言ってんのよ。他人よりも自分を心配しろって言ってんのよ。屁理屈こくな。」


「………へ、屁理屈なんてこいてないし?今のはちょっとした俺の本音とい……」

「さーて早くグレンさんとやらに会いに行かないとね!!」


てめっ、人の話を途中で遮りやがって!!

俺は半ば引きずられるようにイリナに引っ張られ扉をくぐった


「…………お前さぁ、今何時か分かってんの?」


グレンさんの場所に辿り着き、グレンさんを探し当て、出会って開口一番放った言葉はそんなのだった

………体の心配とかしないんすか


「夜がもう10時を超えてんだよ。俺は毎日7時間は睡眠をとらないとストレスが破裂しそうになるわけ。んでさ、俺毎日起きるの6時なわけ。つまりもうそろそろ俺は眠りにつく時間なのよ。」


一応、応接室らしきところまで案内してくれたぐれんであったが、俺達を椅子に座らせるとガミガミと愚痴みたいな何かを吐き続ける。説教っていうには私情が入りすぎている気がするから愚痴と今ここでは表現しておく。


「ストレスは人類の天敵なわけな。素晴らしいパフォーマンスを発揮するために……」


「いや、そこは申し訳ないんですけど………あの、スカラさんについて何か知っていることはありませんか?」


愚痴が長引きそうな予感がした俺は、グレンの言葉を遮り本題へと入る。時間がないのだ。こんな所で時間を潰すわけにはいかない


「スカラ?………スカラ・クレッシェルのことか?」


「し、知っているんですか!?」


「ああ、知ってるも何も俺の育ての親だ。………いや、育ての親っていうよりかは引き取り手って言うのか………うーん難しいねぇこいつは」


育ての親?………育ての親?結構年が近くないですか?


「……あ、もしかして狩虎。お前スカラと一悶着あったろ。あのお堅い姑みたいな奴のことだ、いきなり襲いかかって殺そうとしたに違いねぇ」


……そこまで予想できるのかよ。これは完璧に何かしらの情報を知ってるな


「すいません。いきなりで悪いですが、スカラさんの情報を教えてくれませんか?」


どうせグレンのことだ。ここで「いいぜそんな簡単なこと」って言ってくるに違いない。


「事情によるな。」


………この人相手だといつも予想が外れるんだよなぁ。


「スカラは一応俺の育ての親だ。お前に邪な考えはないと思うが……なに、ほんの少しの確認だ。なんで教えて欲しいのか説明しな」


「………今回ですね、スカラさんに魔法を教えてもらおうと思ったんです。ですがいきなり襲われてしまって………なので、魔法を今後も教えて欲しい俺はスカラさんとなんとか和解しなきゃいけないんです。」


「その為に情報が欲しいってか?………いいぜ、そんなことなら幾らでも教えてやるよ。」


………なんとかなったな


「お茶でも出すか?話は結構長くなるぞ?」


結構長くなるのか…………どうしたものか


「イリナ、龍は一体どれだけの間姿を維持できるんだ?」


俺は染島さんの魔力を利用してイリナと心の中で会話をする


「試したことがないからなんとも言えないけれど、威力じゃなくて姿維持に魔力を全部回せば多分20分はいけると思う」


20分か………長いようで短いな。


「お茶はいいです。それと、実は俺達結構時間が押してるので、重要な部分だけ掻い摘んで説明してくれないでしょうか?」


あの感じだと昔話になってしまいそうだったからな。それだと要らない話も入ってきてしまって、スカラさんに繋がる大切な情報が手に入らなくなってしまう。


「…………あーーお前ら今スカラのことを足止めしてるんだな。わかったぜ、ちゃっちゃと説明してやるよ」


グレンはお茶を用意しようと立った席をすわり直し、話を始めた。


「そうだな………この話を聞いたかどうかはわからないが、俺は両親を魔族に殺されている。村を急に襲われてな。[力の為にお前らを殺す]みたいな事を言って全員を貪り食っていやがった。多分あれはあいつの魔力なんだろうな。人を喰うことで力を蓄えるとかさ………まっ、そんなのはどうでもいいわけよ。要はあいつが村人を全員食っちまったのが大切なんだ」


「…………自分の両親を食べられた割には結構普通に喋ってるんですね」


なんていうのかな、おも苦しい雰囲気が全然ない。まるで、昔のこんなどうでもいい話があってさ。みたいなノリで話をしている。


「ん?そりゃお前、喰われた当時は俺だって魔族に対しては恨みしかなかったさ。全員ぶっ殺してやらないと気が済まないって思ってたからな。………たださ、こう色んな人間と会って心に触れていると、なんか恨むことがバカバカしくなっちまったんだよ。それに、俺がどれだけ恨もうが両親は帰ってこない。それを気付いた時に全てを許せたんだ」


竹を割ったような人だ。俺は多分ここまで潔くなれないと思う。


「ま、それでもその当時の俺は魔族に対して恨み満々よ。両親を喰った後に魔族が俺に襲いかかってきたのよ。んでさ、その時俺の力が発現したのな。………魔族の奴をただの肉の塊にしてやったんだ。全て引きちぎってグチャグチャにしてやった。腹の中から親の肉とか取り出してくっつければ生き返るんじゃないかなーとか思ってさ………バカだよな。そんなことがあるはずがないんだよ。動物は死ねばただの栄養源だからな。」


…………なんでこうも魔族ってのはバカばっかりなんだろうな。俺も含めてバカバカしいことしかやらない。それでいて他の人を深く傷つける。


「こんなに強い俺でも、村一個を潰され食う当てもなかったからな同時は。だから俺は当てもなく自分の体1つだけでブラブラと放浪していたんだ。なまじ、加工された食品を経験していたのがまずかった。虫とか生肉とかを食う気に全然なれなかったんだ。そして飲まず食わずで放浪していると、ある一団を見つけたんだ。旅行に来ているのか何かはわからなかったが、沢山の食料とかを持っていてな、俺もあの時は空腹で他に何も考えられなかったんだ。自分が強いという錯覚………いや、錯覚ではないけれど、自信めいた何かがあったからな。盗みをしても大丈夫だと思ったんだ。だから俺はその一団を襲った。」


「………話の流れ的に、それがスカラさんだったと?」


「イエス。俺レベルの人間と戦えるのはスカラとかお前らぐらいだけだ。俺はスカラの大規模魔法に吹き飛ばされ、気絶したのよ。いやーーあの時に自分の魔力とかを理解していれば勝てたかもしれないんだけどなー」


明らかに悔しがるグレン。

おい、なぜそこで勝負事を持ち込んでくる。ふざけるんじゃないぞ


「次に俺が起きた時には俺はよくわからない家の中だった。スカラが俺を引き取ったんだ。引き取ったってか気絶している間に勝手に俺の身柄を確保して家に軟禁したんだけどな」


「そこは引き取ったってことにしときましょうよ。簡単に言えば命の恩人なんですから」


「命の恩人?馬鹿いえ、俺はあいつの助けがなくても生きていくことはできたぞ。勇者領にある無駄に蓄えられた食糧を盗み出し、貧しき者たちにも食糧を分け与え、天下の大義賊とみんなに褒められていたかもしれないだろ」


それをやりきる実力があるから簡単に冗談だろと否定することができない。


「それでもお前が言うように命の恩人ではなかったかもしれないが、人間としての尊厳を命とみなすのであれば、あいつはまさしく命の恩人だ。あいつに拾われなければ俺はこの職にもつけなかったし、色々な人間とも触れ合う機会がなかったかもしれない。そこに関しては感謝しかない」


素直に感謝を言える人間って素晴らしいね


「………スカラと接触したってことはお前らあいつの経歴を知ってるんだろ?」


「まぁ、ど偉い人間だってことは知ってます」


「それなら話が早い。あいつは13歳ぐらいから金を荒稼ぎしていてな、アホみたいに金を持っていたんだよ。んで、スカラはそのお金を俺たちみたいな孤児を育てるために使っていたんだ。」


………良い話やないか


「巨大な建物を建て、 食糧を用意し数百といる孤児たちを養っていた。教育もあいつがほとんど1人でやっていたな。………それのおかげなのか、あいつは今やこの世界で1番の教育者だなんて呼ばれているな」


………やっぱり、ええ話やないか。


「[貴方達が成熟してお金を稼げるようになったら、毎月私に給料の5%を仕送りしなさい。育ての親なんだから当然でしょう?]なんてことさえ言わなければ完璧だったんだがな…………ちなみにいまだに俺はあいつの元に給料の5%を仕送りしているぞ」


…………ええ話だったんだけどなぁ。


「金に関してはあいつは汚い。それが何故なのかは俺は聞いたことがない。でもあいつには何か大きな夢があるようだった。今でも金を集めているってことは未だその夢が叶っていないという事なのだろうが……………」


夢か………あんな人でも叶えられない夢なんてものがあるのか。俺には想像もできない話だ。


「ただそうだな、あいつはいつもこんな事を言ってたな。[子供が飢えて、争いしかない世界なんて間違っていると思わない?それに、そのくせ、復興も教育もしないくせにあんな巨大なお城のフカフカな椅子にふんぞり返って偉ぶって座っている、戦う事しかできない無能集団にも嫌気がさすわ。]………あいつは、根底からこの世界を変えたいと思っていたのかもしれない。俺達みたいな孤児を見てそう思ったのか、それともあいつの過去がその考えを形成したのか…………俺にはわからないがな」


………この世界だけじゃなくて、現実にも言える言葉だな。


「あいつは多分この世界をひっくり返そうとしてるんだ。お金でもなんでも使って。………んで、あいつがお前と会って、お前の階級を理解した時にこう考えついたんじゃないかな。[魔王を殺せば勇者と魔族のパワーバランスが崩れて、世界がひっくり返る]ってな。まったく、その通りだ。お前が死ねば勇者の勢力が魔族を凌駕して、この長い長い戦争に終止符を打つ事ができる。」


やはりか、やはり結局はその方向に行くのか


「だがまぁ、俺から言わせれば……」


パリーーン!!

俺の目の前の空間が割れ、スカラさんが飛び出てくる!!


ガシッッとスカラさんは俺の首を力強く握り、空中へと持っていく。足が地面から浮く………くそっ、なんて力だ!


スカラさんの服はボロボロだった。龍や電撃の熱で服が焼けたり引き千切れたりしたのだろう。だが、それでも体に対しての異常はなかった。所々傷があるとはいえ、瞬きすると次の時には傷は綺麗さっぱり修復されていたからだ。


「おいたが過ぎたわね。さすがの私も怒るわよ」


ええ!?あれでもまだ怒ってなかったんですか!?ってか余裕かましてる暇がねぇ!!息が………やっべぇ…………


必死に左手で抗ってみるが、スカラさんの腕はビクともしない。


「………おいスカラ。狩虎を放してやれよ」


グレンが俺とスカラのやりとりを見て口を挟む


「………あら、ここグレンちゃんの家じゃない。お邪魔しちゃって悪いわね。長居をする気はないわ。さっさとこの子を殺して家に帰る予定だか」


「放せって言ってんだよ聞こえなかったのか?」


スパーン!!

グレンの手刀がスカラさんの右手を切り飛ばす!

そして、俺の頭をつかんで荒々しくこちらへと引っ張った。


「あら…………まさか、イリナちゃんといい貴方もまた彼に洗脳されちゃってるの?まったく、困ったわねぇ………一体どうしようかしらねっ!!」


スカラさんの蹴りがグレンに向かって放たれるが、グレンはそれをギリギリでかわす。その時、俺の首にくっついていたスカラさんの腕をスカラさんは蹴り上げ、それを掴み自分の腕にくっつけた。そうすると、1秒もしないで腕はくっついて動かせるようになっていた。


「洗脳?違うな、なんで俺がこんな雑魚相手に洗脳されなきゃいけないんだよ。こんな亜花にも劣るような雑魚に、俺が隙を見せるわけがない」


おうおう、言ってくれるじゃねーかよ。確かに俺は弱いけどさ、本人がいるんだぜ?もう少しこうオブラートに包んでだな…………


「それじゃあなんでその男に肩入れをするのかしら?貴方はこいつら魔族に両親を殺されたんでしょ?恨みしかないはずじゃない」


………確かにな。さっきはどうでもよくなったなんて言ってたけれど、恨みなんてそう簡単に消えるものじゃない。今だってもしかしたらグレンが俺の首を刎ね飛ばすかもしれないし…………


「何度も言わせんな。俺は確かに両親を殺されて魔族に恨みを抱いたことはある。全員滅ぼしてやろうと思ったこともある。………でもな、こう言ったら死んだ両親に悪いんだが、俺は今色んな人と会ってまるで家族に囲まれているような感覚になってるんだ。血縁じゃないと思うんだよ家族ってのはさ。無償に愛されているかどうか、ただのそれだけだと俺は思っているんだ」


「グレンさん………あんたやっぱりいい人だ。」


俺は喉を痛めているっていうのに、そんな言葉が不思議と漏れた。


「いつも口が悪くて態度も悪いと思ってたけど、心の奥では人を大切に思う人間だったんですね。………それを普段から行動で示していたら誤解も生まれな」

「おいスカラ、やっぱりこいつを殺していいぞ」


グレンは俺をスカラさんの前に差し出す


「ごめんなさいごめんなさい!!自分調子こきました!!本当、それだけは勘弁してくださいお願いします!!」


「………今度同じことやったら死刑な」


目がマジである。マジメに俺を殺してしまいそうな顔である。


グレンは俺をポーンとイリナ達の所へと投げ出した。きっと俺が邪魔だったのだろう


「それになスカラ。あんたが抱いている根底からこの世界をひっくり返したいって気持ちは俺もよーく分かるんだ。出来ることならこの世界の体制を全て吹き飛ばしたいぐらいだからな。………ただな、あんたの方法だと大量の死体が生まれるぞ。魔族だけじゃない、関係ない農民達が戦争に巻き込まれ、1万、10万は下らない。100万単位、下手したらそれ以上の数が死ぬことになるぞ」


「…………」


スカラさんは黙る。だがスカラさんほどの頭脳の人間がこの結論に、俺の階級を知った時に辿り着けないわけがないのだ。辿り着いた上で、その結論が最上であると頭が判断したのだろう。

そしてだからこその沈黙。それを分かっているということを、グレンに無言で答えているのだ。それだけの死体を作ってでも成し遂げようとする意思をより確固として表明するために。


「………このまま戦争が長引けば死体の量は変わらないってか?そりゃそうだな。俺も職業柄、毎日新米の騎士達の死亡通達が来ていて死人が勇者だけでどれだけなのかを理解している。死体を米粒にたとえたら、1週間でチャーハンが出来るぐらいの量だ。パラパラじゃなくてベチャベチャの、水分が抜けきっていない最悪のチャーハンだがな」


不謹慎だろ………と言いたいが、その量を的確に表しているのもまた事実だ。一体どれだけの死体の量なのかを言葉だけで判断できてしまう。そして、それがどれだけ恐ろしいことかも理解できてしまう。グレンはお気楽そうに語っているが、いや、心の中ではお気楽には語っていないのだろうが、言っている内容は世界の残酷さをありありと表現しているのだ。


「……………邪魔よ。そんなこと言われたって、このままダラダラ長引いた方が死人は増えるわ。それは紛れもない事実よ」


「…………なぁスカラ。あんたならわかっているはずだ。そんな事よりももっと素敵で素晴らしいナイスなアイデアがあるってことはよ。四賢者とやらなんだろ?全ての可能性があんたには見えているはずだ。」


「ええ、見えているわ。そして見えているからこそ私はこの道を選択したの。この戦争をさっさと終わらせるためにね」


「いいや、あんたは1つの可能性に対して目をつぶっている。目をつぶっていると言うよりかは見たふりって感じだな………分かってんだろ?こんなのバカでも考えつくぜ」


「………分からないわね。私の考え以上に最適な決断があるとは私には思えないわ」


「魔族と仲良くなってみたらどうよ」


シーーン…………部屋が静かになった。

あれ?そんなにおかしいことか?俺達なんて普通にできてるぞ?


「…………グレンちゃん。貴方は一体何を言っているのかしら?そんなの不可能に決まっているじゃない。私利私欲のために人を殺すような連中よ。意思疎通が出来るとは思えないわ」


「だけど、できるような奴もいるじゃないか。その上階級も魔王なんてバカみたいに高くてよ、魔族を丸め込めるだけの権力と名声と力を持ってる奴がさ。………なぁ?」


グレンとスカラさんが俺の方を同時に見つめた。


「…………いい、グレンちゃん。貴方が一体彼のどこに惹かれて肩を持っているのか分からないけれど、魔族は危険なのよ。こいつだっていつ掌を返して裏切って私達を殺してくるか分からないじゃない」


「そんなこと言ったら俺もそうだろ。人間なんていつ裏切るか分からないぜ?………丁度、紙くずクルセイドなんて大層な裏切り集団も出来たぐらいだからな」


「いや、あの、カースクルセイドです」


「………まぁとにかく、そのなんたらクルセイドだって勇者を裏切ったんだろ?魔族じゃなくても信用できないだろ」


「そうだけど、それでも魔族の方が遥かに信用できないわ。」


…………まったく、その通りだな。仕方ない。俺もそろそろ会話に加わるか。


「スカラさん、確かに貴方の言う通りだ。私の命を差し出せば戦争は終わるのだと思います。」


「………貴方は今黙ってなさい。敵の言葉を聞いてあげるほど、私は優しくないのよ」


「いいえ黙りません。今私は貴方に危害を加えるつもりもないしましてや懐柔しようなんて魂胆もありません。私はただほんの少しのご意見と、自分の意思を説明するだけです。それが終わり次第貴方に私の命を差し出します。決めるのは私じゃなくて貴方ですからね」


「ちょっ、ミフィー君!?なんでまたそんな無茶を………」


後ろから非難してくるイリナを無視して話を続ける


「私が思うに、スカラさんの提示する解決策が最も合理的で、また、達成することに関してだけ言えば非常に難易度が低い方法だと思われます。私を殺せばいいだけですからね。………ただ、それだと、グレンさんが言っていた以上の死人が出るものだと私は思うわけです」


「………どういうことかしら?」


…………よし、スカラさんがくいついてくれたぞ


「まず第一に、この情報はこの世に出回っていないのですが、私と他の2人の魔王は友達です。顔見知りも何も毎日会って会話しているぐらいですからね。言ってしまえば親友なわけです。…………多分スカラさんとグレンさんは、今までの経験上魔王は戦闘にそこまで参加しないと思っているのではないでしょうか?それもそのはず、私達は表舞台に派手に登場することも牽引することもありませんでした。ですが、[ある程度魔族側がピンチになってきたら、魔王達は戦いに参加するだろう]そんな事が勇者側の抑止力になっていたはずです。だから魔族側に大胆に攻撃できなかった。…………違いますか?」


違うも何もそうなのだ。これはモグラの情報屋、土崎愛歌さんの情報なのだからまぁまず間違いない。………いや、ちょっと不安になってきたな。この前微妙な情報をつかまされたから断定はできないか……………泣けるぜ


「ですが、彼ら2人が私の友達だと言う情報が入ってきたら状況は一変します。彼ら2人が魔族側の統率を図り、勇者陣営へ大規模な作戦行動をしてくるという未来が簡単に想起できるはずだからです。お友達の私が言うのもなんですが、彼らは頭がいいですよ?特に土石竜。あいつは人の嫌がることを責めるのが得意ですからね」


「…………貴方の言い方だとまるで脅迫をしているように聞こえてくるわね」


スカラさんが苦々しく舌を鳴らす


「だからさっきも言ったはずです。私は可能性の提示をしているだけです。それがもし脅迫のように聞こえたというのなら、それは紛れもない脅威であるということです。私を殺した時の最大のリスクだと言うことです」


これはマジのことだ。イリナとの一件の時は彼らに釘を刺しておいたから怒り出さなかったが、俺がよくわからない状況で殺されたらあいつらがブチギレるのは目に見えている。


「彼ら魔族の大規模攻撃を統率されて放たれたら、関係のない農民が一瞬にして消えます。戦いも長期化して数少ない農民も徴兵され死んでいくことになります。100万なんて簡単に突破して、1000万単位になるに違いないでしょう」


遼鋭と宏美が力を合わせて大規模攻撃なんてしたら辺り一面が植物と岩だけになってしまう。


「こう見ると、私はスカラさんの考える方法には、大きな欠点があると思うのです」


「…………だから貴方達と仲良くしようっていうのかしら?まったく、それこそ願い下げよ。貴方を信用なんてできないわ」


「………ですよね、私も貴方の立場ならそう言うに違いないでしょう。………ですから、」


ピッ!!

俺は心臓に取り付けられた装置を作動させる。

ピピッピピピピ!!!

と装置は音を立てて起動しプシュープシューと煙を上げる。

そして、装置の真ん中が開き、奥からボタンのついたスイッチみたいなのが出てくる。


「実はこれ奴隷用の機械でして、つけた人間を支配できるような仕組みが整っているんですよ」


俺は心臓につけた機械から出てきたリモコンを取り出し、スカラさんに渡す。


「このボタンを押せば私は死にます。もし私が貴方を騙して裏切ろうとしたら躊躇なく押してください。」


「…………貴方、正気なの?」


スカラさんから戸惑いの声が聞こえる。


「………正気ですよ?だってほら、人を信じさせるのには命を差し出すのが最も手っ取り早いじゃないですか。自分にとって最も大切なものですからね」


「いや、だったらそれこそなんでこんなにすんなり私に渡すのよ。私は貴方の敵だって言っているでしょ?私が押したらどうするのよ」


「んーー…………それはないでしょう。スカラさんは私と違って頭が良いですからね。私を使役して戦争を終わらせることが最適であるってことを理解しているはずですからね、誰よりも。でも私みたいな人間だから信用できない。だから、苦肉の策ではあるが私を殺すってわけですよね?…………それじゃあ私を信用できる状態にまで持っていくことが出来るのであれば、前者の最適な方法を選ばないわけがないじゃないですか」


信用できないのなら、信用させればいい。その為なら命でも差し出そうじゃないか。死んでも死ななくても戦争が終わるのであればいくらでも差し出してやるさ


「はっはっはっはっはっ!!!なっ?面白いだろこいつ。自分を省みないで他の人間のことばかり考えてんだよ。こいつ試験中だってのに、他の人間成長させたんだぜ?化け物だと思わないか?」


………そう言うベタ褒めはやめてほしいなぁ。俺は合格する為に仕方なく彼を鼓舞したってだけでね、成長させようだなんて微塵も思ってないんだよ。


「今週の土曜から日曜にかけてのリーダー選出戦。ここでこいつらが抜擢されてよ、掃討戦で活躍したら魔族と勇者の関係もよくなると思わないか?何人もの農民や勇者が、[魔族にも良い奴がいるんだな]って思うに違いないぜ。そうなれば、和解の下準備も出来るわけだ。どんなに踏み潰されようとも、絶対に崩れない分厚い土台が出来るわけよ」


そうだ、そして今回の土曜日につながるのだ。ここで俺達が選出されれば和平への大きな大きな一歩が踏み出せる!


「こいつの命と、何十何百万の命を握ってるのはスカラ、お前だぜ」


グレンが俺の頭に手を乗っけて髪をワシャワシャとする。


「…………明日まで時間を頂戴。少し考えるわ」


そう言うとスカラさんは空間を割り、自室へと戻っていった。


「……助かった………………」


俺はようやく緊張から解放され、白目をむいてぶっ倒れた。どうやら今までのダメージが掃討のものだったようだ。緊張の緩和の衝撃に耐え切れなかったのだ。

重要関連作品

カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/

カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/

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