表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Face of the Surface  作者: 悟飯 粒
勇気の章
PR
71/364

被害総額がやばい

「よし、それじゃあ今度は貴方達の魔力の形………そう、器の形を見せてもらうわ。」


休憩が終わり、授業が再開していた。そして何故かは分からないが全員立たされていた。

俺は休み時間中にくらったイリナの一撃により鼻血が止まらなかった為、仕方なくツッペをして授業に臨んでいた。


「器の形って………想像でしかないですけど、きっとその器は体の中にあるんですよね?それをどうやって見るっていうんですか?………ねぇ、イリ………」


イリナの方を向こうとした時、すごく速い拳みたいな何かが俺の顔を横切った。

しっかりと視認できたわけじゃないから断定は出来ないが、肌色で、俺の握りこぶしよりも少し小さくて、四箇所ほどの凸がある物体だとは視認ができたのだが…………


「…………なんでもないです」


俺は話かけるのをやめて、スカラさんの方に向き直る。

休み時間が終わる間際に戻ってきたイリナは、全然こっちを向いてくれなくなっていた。もう、なんか、話かけたら命はないぞ。みたいな雰囲気をムンムンと出しているのだ。

いや、まぁ、確かに染島さんの時みたく下ネタに走ったのは悪かった。そこはもう大いに反省している。だからってさ、机を叩き割ってルビー製の床に顔面を強打させるってのはどうかと思うぜ?釣り堀でタモを振ってたら偶然ひっかかった小さなエビみたいになりながら悶絶するほど痛かったんだぜ?


「狩虎ちゃん。確かに器………なんかしっくりこないわねぇ。貴方達、もう理屈はわかったでしょ?だから器じゃなくて正式名称で呼んでいいかしら?そっちの方が呼びやすいのよ」


「あ、どうぞ。やりやすい方でやってください。」


分かりやすいように器って呼んでたのか………


「それじゃあお言葉に甘えて。………確かに器、アルケーは体の中にあるわ。普通の人には見えないの。でもね、私レベルになると目を凝らせば見えるのよ。というか魔法を学んでいたら見えるようになってしまうのよ」


アルケー………根源か。倫理では水とか火とか空気とかって言われてるよな………家帰ったら教科書見直そ。

てか見えるのか…………あ、確かに反応物質とかってやつも見えてたもんな。俺には全然見えないけれど。


「ちなみに反応物質、正式名称はクレイスって言うんだけど、これも魔法を使うようになったら自然と見えるようになるわ。アルケーよりも簡単に見えるのよ。………まっ、クレイスが見えるようになってようやく一人前ってところね」


クレイス………なんだっけ。翔石君が前言ってたんだよなぁ……………うーむ、忘れちまったぜ。


「で、何故今回アルケーを見るかというと、貴方達の可能性を見る為よ。実はアルケーの形によって魔法の習得に向き不向きが出てくるわけ。[この形はこの魔法が使えない]みたいなね。」


「向き不向きですか………何でもかんでも覚えられるってわけではないんですね」


「そうに決まってるじゃない。前の時間にも言った通り、魔法は魔力の劣化版よ。なんでも使えるんじゃ、魔力よりも強いじゃない。基本私の説明に変な矛盾は起きないからね。そこんところ、ちゃんと肝に銘じておきなさい」


「分かりました…………ちなみに、スカラさんが使えない魔法ってなんですか?」


ほとんど使えるってことだから、使えない魔法は少ないのだろうけれど………てか魔法がどんだけの種類が有るのかは分からないのだけれど、知りたいと思ってしまうのは仕方がないことだと思う。ほら、できる人間の弱点って知りたくなるでしょ?あんな感じ。


「そうね………2種類あるわ。1つは[魔法禁止]これは魔法禁止の空間を生み出す魔法ね。そして最後の1つは[解呪]よ。私ってチマチマしていて小賢しい能力が嫌いなのよ。だからかしらね?全然習得できないわ」


[魔法禁止]と[解呪]か…………また地味なものが苦手だなぁ。これならそこまで戦闘に影響はないんじゃないのか?


「こんな私でも習得や苦手な魔法があるわけね。だから、貴方達のアルケーを見て、これまでの私の経験と照らし合わせて最も効率が良い教育方法を計画していくわけよ。」


なるほど。一人一人で教え方が違うのか………やはり出来る教師は違うな。


「それじゃあ染島ちゃんから先に見ていくわ。次に黒垓ちゃんに亜花ちゃん、イリナちゃん、そして狩虎ちゃんよ。ふふ………主役はトリって決まってるのよ」


主役ってかお金を払っただけなんだけどな。


てなわけで染島さんの前にスカラさんが立ち、染島さんを凝視し始めた。


「……………あらあら、これは珍しいわね。こんなの慶次ちゃん以来よ」


スカラさんが腕を組んでふふっと笑う。


なんだなんだ?テレパシーがそんなに珍しいのか?


「貴方、あのい………!?」


スカラさんが喋っていると、突然頭を押さえて立ちくらみを起こした。

グラっと体が傾き、床に倒れそうになるが、近くにあった机に手をつくことで転倒だけは免れた。ただ、額から幾筋かの汗が流れていた。


「…………彼らには知られたくないようね。分かったわ、黙っておいてあげる」


そう言うとスカラさんはよろっと立ち上がり黒垓君の方へと歩いて行った。

染島さん………あんた一体何してるんだよ


俺は染島さんの方を見つめると、染島さんが俺の視線に気づいたのか?いや、もしかしたら俺の気持ちがテレパシーでキャッチされたのかもしれない。とにかく、俺の何かしらの感情をキャッチしたのだろう。俺の方を向いた。


ニコッ


そして、無言で微笑んだのだった。

…………触らぬ神に祟りなし。美女の微笑みほど信じられないものはないというが、本当にこの状況を的確に言い表していると思う。

俺は染島さんの微笑みを受け取ると、ギッチギッチと首を回して正面を向きなおした。


「黒垓ちゃんは…………貴方もなのね……………」


そして、黒垓君を見つめてまたもスカラさんはゲンナリとした。


「どうせ貴方も知られたくないんでしょ?まったく………1日に2人も見るのは初めてよ。」


スカラさんは、5分前のあのウキウキした感じが消えて、神妙な顔つきになっていた。

………うわーーーやべぇ。なんだこれ、今俺、仲間内の闇を見ちまってるような気がする。

よく考えると俺って黒垓君と染島さんについて全然知らないもんなぁ………現実でどんな生活しているのかとか…………これまでどう生きてきたとか…………なんだ俺、無知にもほどがあるだろう。


「さて、お次は亜花ちゃんね。さすがに貴方も同じだったら私、ゲンナリしちゃうわよ」


そう言いながらスカラさんは亜花君を凝視する。

スカラさんの表情が、険しいものから段々と穏やかなものに変わっていく。


「亜花ちゃんのアレケーは[増長]ね。破壊と創造が得意な形………のはずなんだけれど、少しトゲトゲしているわね?どっちかと言うと破壊によりガチね…………狩虎ちゃん。何か思い当たる節はある?」


「…………俺も最近知り合ったばかりですから軽はずみで人を評価できる身分ではないのですが、きっと辛い幼少時代を過ごしたんじゃないでしょうか?試験の時も破壊を楽しんでいたようですし……………」


嬉々として人間を壊していたからな………今でもあの笑顔が記憶に残っている。いや、あの時と同じ笑顔を今もやっているのだ。だから忘れられるわけがないのだけれど………


「うーーん………グレンちゃん一体何をやってたのかしら。このままじゃこの子まともに育たないわよ?魔力が破壊のためだけにあるような状況だもの…………危険分子として勇者に殺される可能性もあるわ」


おいおい、目の前に亜花君がいるんだぜ?そんなことを堂々と言っちゃっていいのか?…………まぁ、亜花君の表情を見る限りでは特に変化はないから大丈夫だと思うんだが…………いや、待てよ。亜花君寝てる?目を開けながら寝てるのか?…………違った、瞼にマジックで目を描いてるだけだった。


「狩虎ちゃん責任重大よ?亜花ちゃんを生かすも殺すも貴方次第だもの」


うひゃーーーマジかよ。なんでたかだか高校生の身分でそんな重たいものを背負わなきゃいけないんだ。


「それじゃあ今度はツンツンしているイリナちゃんを見てみようかしら?と言っても、貴方のアレケーが[紫電]である事は周知の事実なのだけれどねぇ…………」


ムスッとしたイリナをジーーッと見つめるスカラさん。

そして、突如、


「プッ…………アハハハハハ!!!」


スカラさんが大きな声を上げて笑い始めた


「ど、どうしたんですかスカラさん。イリナの胸の小ささに笑いが………」


[こみ上げてきたんですか]と言おうとする前に、イリナの雷撃が俺を襲う!

バリバリバリバリ!と、宝石で埋め尽くされた部屋が真っ白に照らされ、宝石の反射で一際明るく光り出す!


ドサリ

俺はイリナの電撃をモロで浴びてしまい、床に倒れこむ。

この一撃で意識とか飛んでくれたらまだ楽だったのだが、悲しいかな。グレンが作ってくれた鎧はエレメント系の攻撃を軽減してくれるらしい。意識がハッキリと保ったままだった。

雷が俺の身体中を駆け巡り、あらゆる筋繊維を痛めつけたようだ。身体中が焼けるように痛い。引きちぎられるように悲鳴を上げている。


「………発展途上なんだよ。いずれ石油が発掘されてグーーンと伸びる予定なんだからね」


イリナから質量を持った言葉を投げつけられる。突き刺さるようだ。投げつけられている背中あたりが痛くなってきた。

イリナ………お前のその大地は新規造山帯と言うよりかは僅かな山地がある古期造山帯だ。出たとしても鉄鉱石が関の山…………いってえ!!


倒れている俺の顔面にイリナの蹴りが飛来する!


「…………頭のてっぺんからボーリング調査をやってもいいんだけどどうする?」


イリナの手の骨がベキンベキンと音を鳴らしながら、指の先を一箇所に集めてまるでドリルのような形状になる。これなら確実に厚さ何百ミリもの鉄板を簡単にぶち抜けるな。


「やめて下さい死んでしまいます」


「じゃあ黙ってろ」


………イリナさん。最近女の子らしさが見当たらないですよ。


「………それでスカラさん?なんで私を見て笑ったのかな?」


俺に向けていた視線を変えて、スカラさんの方へて向ける。

イリナはもうね、俺を見ていた時と違って笑顔である。「返答によっちゃ大変なことになるよ」って感じの殺意を出しながら笑顔を向けている。


「………仕方ないじゃない。私も一応は女だからね、恋愛とかの事になるとテンションが上がっちゃうのよ」


だが、スカラさんは動じない。俺に平気で電撃を流し、死体蹴りまでしてきたイリナの残虐非道な行いを見ても、態度を崩す事はなかった。

クックックッと笑いながらイリナに話しかけていた。


「貴方のアレケー。丸っこくて、でも雷みたいに凄い尖ってたわ。まるで触れたもの全てに穴を開けてしまう程にね。細すぎて先端部分なんて全然見えないわよ?…………でもねぇ、それって半分だけなのよ。もう半分はハートのような形をしているわ。」


スカラさんはイリナにグイッと近く。

顔と顔がくっつきそうだ。もしかしたら髪の毛が触れ合っているかもしれない


「こういうアレケーの持ち主は大抵ツンデレタイプなのよ。よく手をあげちゃったり罵倒しちゃう男の子とかが好きなのよねぇ?」


いやらしく笑うスカラさん。

ああ、やめるんだスカラさん。イリナを挑発したら下半身と上半身が別れることになってしまうぞ!


「…………その、アレケーだっけ?魔力の形ってやつ。それって所詮は魔力でしょ?私の性格には関係ないじゃないの。そんなので私の性格を測られたくないね」


だが、イリナは怒らない。いや、相手を憎たらしく思うような目をしているのだが、それを行動には移さない。

…………じゃあなんで俺の事は思いっきりぶん殴ってんだよ。


「あら?言ってなかったかしら?アレケーの形成は主に本人の性格に依るのよ。気難しい性格の人間は複雑な形になって、単純バカは真っ直ぐになるの。」


「いや、あの、それ初耳なんですけど………」


俺はなんとか机を使って起き上がる。

身体中がメシメシいっているが、大丈夫だろう。熱のダメージは受けてないから、雷が神経を流れたダメージしか受けてないからな。すぐに治る

形が分かれば性格もわかるのか…………まるで慶次さんを相手しているみたいだ。てかそれならそうと最初に言ってくれよ。まるで俺達が進んでスカラさんに丸裸にされに行ったようじゃないか。いや、まぁ、うん………自重しておこう。


「良いじゃない。そんな事を最初に聞かされても、どうせ授業のプログラム上見せなくちゃいけないのだからね。逆に、事前に[性格がバレる]という覚悟を決めるという無駄な時間を省いてあげたんだから感謝されても良いぐらいよ」


それはない。何度でも言おう、それは確実にない。


「………スカラさん。それでも私はツンデレなんてやっすいものじゃないよ。嫌いな人間には嫌いだってちゃんと言うし、好きな人間には好きだって言うもん。言動が一致しないような人間と同じにされたくないね」


「…………まぁ、そういうことにしておいてあげるわね。」


イリナの言葉をあしらう様に返事をして、今度は俺にスカラさんは視線を向けた。


「さて、それじゃあ最後に狩虎ちゃんを………」


ザワザワザワ………

心を手みたいな何かが弄っているような感覚が体の中で起こる。体の中を見られているみたいで産毛立つ。気持ち悪い………なんだこれ、こんなに気持ち悪いことなのかアレケーを見られるということは。まるで俺の1番大切な、1番守られなきゃいけない核が剥き出しになって握られているみたいだ。


「…………っ!?」


ザザザザーー!!!!

突然頭の中にノイズが走り出した。頭の中に無理やり映像が押し込まれたみたいに色々な情景が映し出される。


ザシュ!

俺の頭が切断される光景。

ブチッ!

俺が握りつぶされるような光景。

ドスドスドス!

俺が滅多刺しに刺されるような光景が、ばら撒かれた書類ファイルの資料紙みたいに無秩序に頭を埋め尽くしていく。重なるようにして隙間なくみっちりと頭の中に広まっていく。俺の悲鳴が俺の悲鳴にかぶさり、それを覆い尽くすようにさらなる悲鳴が頭の中に響く。悲鳴が絶えず重なるように生み出される。まるで悪夢だ。

一体なんなんだよ。一体どうしたっていうんだよ


俺は少しその映像が気持ち悪く感じたので椅子に座ろうと動いた。………が、


ジャラ…………


動けない。今やっと気付いたが俺の身体が鎖でグルグル巻きで拘束されていた。体を揺らすのが精一杯なほど、体に何重にも鎖が巻き付けられていた。


「狩虎ちゃん…………貴方、よくもまぁここにノコノコとやって来れたわね」


声にハッとして前に視線を向けなおすと、スカラさんから笑みが消えていた。氷のような冷たい眼差しを俺に向けていた。


「貴方がそこらへんの低俗な魔族なら幾らでも魔法を教えてよかったのよ。私なら一瞬で貴方を殺せるからね。何の害にもならないの。…………ただ、貴方みたいな階級の人間なら話は別よ。」


俺が1回瞬きをするごとに1本のナイフが空中に、俺を包囲するように出現していく。


「ただですら3つの魔力を持っているのに、魔法なんて覚えられたら、誰の手にも負えなくなる。下手したらエロジジイを超えてしまうかもしれない…………あなた、危険なのよ」


魔力が3つ?………何言ってるんだ?俺は2つしかないぞ!

染島さんの周りの空間がねじ曲がっていく。まるで幻覚のようだ………あっ!?そうか、さっきの映像もスカラさんがやったことなのか!?

殺意剥き出しの視線が俺の心臓を突き刺していく。ドスっ、ドスっ、ドスッ!と俺の鼓動を加速させていく。血が溢れ出しそうだ。何だこの寒気は………イリナの時と違って、ジワジワと殺していこうとする冷静で、それでいて残酷な気配。温度が何も感じられない。周りを氷で囲まれているかのようだ。


「私が見せた幻覚である程度苦しんで欲しかったんだけど…………どうやら効かなかったみたいね。貴方、自分の身体に興味がないのかしら?」


…………!?イリナは、イリナはどこだ!?

俺は首を回してあたりをガン見する。すると、どうやら俺は紫色の空間に閉じ込められているということに気づいた。

ガンガンガンガン!とイリナが俺たちがいる空間の狭間、壁と言っていいのだろうか?をバシバシと殴っていた。

俺を隔離したのか…………簡単に殺すために。


「…………スカラさん。貴方はまるで染島さんが低俗な人間だと言っているようですね。仮にもあの人は最高幹部ですよ?俺の次の階級だ」


俺は仕方ないので話を長引かせることにした。多分の結界みたいなやつは制限がユルユルな奴だろう。中の人間は魔力が使えるからな。イリナの力を使えば壊せるはずだ


「確かにそうだけど、彼女の魔力じゃ私には勝てないわ。遠距離で攻撃し続ければいいんだもの。相性が悪いのよ………さて、無駄話をしている暇はないわね。さっさと貴方を殺さないと」


次に俺が瞬きした時には、ほとんど隙間なくナイフが空間に浮いていた。確実に殺すつもりだ


「貴方、その胸の装置に魔力を封じてるものね?殺すなら今しかないもの…………」


視界がさらに揺れ、スカラさんはより一層ねじ曲がり、グニャグニャとなりスカラさんの形が闇に同化した。

どうやら俺の視覚を完璧に奪い取ったらしい。今スカラさんがどこにいるかもわからない。もしかしたら俺の後ろにいるのかもしれない。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよスカラさん。俺は確かに魔王なんていう大層な肩書きを持っていますが、今じゃあイリナに飼われているようなダメ人間なんですよ。イリナには頭が上がらないわけです。………つまり、勇者の方々には頭が上がらないんですよ。だから俺が勇者の方々に牙を剥くようなことなんて……………」


ドス!

俺の太ももにナイフが1本突き刺さる


「いっっっっっだぁぁあああああ!!!!」


太ももはあかんだろ太ももは!ここは膝が入っただけで歩けなくなるような弱点だぞ!?めっちゃくちゃいてーよ!!腕を切り落とした時よりもいてーよ!!

周りは見えないが、俺の体だけはハッキリと見て取れる。ナイフが突き刺さった太ももから大量の血液が流れます。筋肉が斬られ、骨が削られ折られたのも分かる。刺さったナイフがシチューを混ぜるみたいに動かされ、ナイフがあるあたりの筋繊維やら骨やらがグチャグチャになってミックスされている。骨が削られて出来た粉が妙に弾力のある血管の上にふりかかり、それに血が掛かり白色のラメ加工をされたみたいに血管が装飾されているのがよく見て取れる。それだけ、俺の太ももの傷口が開いているのだ。


「それじゃあ尚のこと今やらないとね。簡単に殺せるってことだものね。貴方を殺せば魔族側の勢力は一気に落ちて、勇者と魔族の均衡がなくなるもの。」


俺が叫んでいる中、スカラさんが俺の頭をつかむ感触がした。どうやら次は頭に突き刺すらしい。

スカラさんの目からは何も熱を感じなかった。ただ冷え冷えとした寒気だけ。絶対に俺を殺そうとする覚悟と殺意しか見て取れない。

この人には俺の言葉が通じない。俺が何を言おうと彼女の行動を止めることはできない。

ガシャガシャ!と体を無理やり動かすが、鎖の拘束はかなり強いようだ。音を鳴らすだけで体が自由になることはなかった

なんでいきなりこんなことになったんだ。………俺が魔王であることが原因しているのか?


「仕方ないじゃない。私達の関係は、争いのみなんだから」


ヒュン!とナイフが空気を切り裂く音が聞こえた。


パシ

そしてその直後何かが何かを掴む音が聞こえてきた


「と、思わせてオラが登場っすよ。いやーーー最高に決まったと思いません?」


パリーーン!!

立て続けに壁が壊される音が聞こえた。

すると、徐々に視界が回復していく。どうやら視覚の支配はこの空間が形成されている時のみのようだ。

回復していく視界には真っ白な扉と、スカラさんの手を黒垓君が握っている姿が見えた。

この空間の中にワープしてきたのか………


だが、スカラさんが指を鳴らすと空中に待機していた大量のナイフが俺に向かって高速で動き出す!


ちょっ、待って!俺まだ拘束が解けてない!!!


ガィィイイインン!!!

ナイフの大群が巨大なハンマーの一振りで地面に全て叩きつけられる!

宝石がその衝撃で砕け、あたりに真っ赤な欠片が飛び散る。


「あんたねぇ………何してくれてるわけ?」


ハンマーは元の剣の形に戻り、イリナの背中に収められる。

イリナが俺とスカラさんの間に入り込んできた。黒垓君はスカラさんの手を離して、真っ白な刀で俺を拘束していた鎖を全て切断した。そして、俺に肩を貸して後ろまで歩かせてくれた。


その時に太ももから大量の血が流れて床を汚す。ただ、最初っから床は真っ赤だったから、色に変化はない。ただ、血が付着した部分から少し宝石の輝きが失われてベトっとした油絵の具みたいな色になっただけだ


「何いきなりミフィー君を襲ってるのよ。やっぱり天才っていうのは頭がおかしいのかしら?」


バキ

赤い欠片をイリナが踏み潰し、粉々になる音が聞こえる。

スカラさんの目からはまだ冷たさしかない。冷静に全てを貫く鋭い眼光が、常に俺の心臓を捉えて離さなかった。


「………おかしいのはイリナちゃん、貴方じゃないかしら?アレケーの形を見る限り、彼って炎帝じゃない。貴方のパートナーを殺した張本人じゃない。それなのになんで貴方はそんな仇とつるんでいるのかしらね?私には理解に苦しむわ」


カツン

スカラさんは一歩踏み込んだ。


「魔王は殺さなければならない。そうすることでやっと魔族と勇者の長い長い戦いが終わるのよ。貴方、まさか戦争が好きだなんて言わないわよね?」


ベキッ!!

イリナが、床を踏み潰しながら、一歩を踏み出す。


「…………あんたを今殺せるんなら喜んで戦争好きにでもなってやるわ」


「……………全く、私もなめられたものね」


ドゴォォオンン!!

スカラさんがいた場所から巨大な爆発が起こる!!

イリナと俺に肩を貸している黒垓君は一瞬でその場から離れる!

ただ、散々ぶっ壊した地面の宝石の欠片がその衝撃で弾丸のように周りに放たれる!!


黒垓君は白色の盾を作り出し全てを防ぎ、イリナはパシーーン!と手を合わせた衝撃で飛んできた欠片を全て吹き飛ばした


「確かにイリナ、貴方の階級は私よりも1つだけ高いわ。それに、第二類勇者の中でも飛び抜けた力を持っている。…………でもね、私と貴方の力のベクトルは違うの。どっちかって言うと私は魔族よりなわけ」


ぽ、ぽぽ。ぽぽ、ぽぽ、ぽぽぽ…………


真っ赤な粉塵の中からざまざまな色の光が漏れだす。

粉が晴れると、様々なエレメントの結晶がスカラさんの周りに漂っていた。


「魔法に長けた勇者………貴方じゃどう頑張っても私には勝てないわ。怪我する前に退けなさい。同じ勇者同士では戦いたくないのよ」


「…………イリナ、戦わなくていい。黒垓君が扉を作った時にさっさと逃げ出せばいいんだ。スカラさんはさっき魔法を封印する力を持っていないって言ってた。だから黒垓君の力で逃げれるんだ」


さすがにさっきの爆発の衝撃で起きたのだろう。亜花君も俺の側に来ていて、俺のズボンの裾を掴んでいた。


くそっ、あんなに高い金を積んだのに魔法を習得できないのか…………だがまぁ仕方ない。1番大切なのは命だ。さっさとこの現状から逃げ出さなくては


「…………そうみたいだね」


イリナから出ていた殺気が止まる


「私が貴方たちを逃すと思って」


「逃す?違うよ。あんたは圧倒的力の前になす術なく棒立ちするんだよ」


いつの間にかイリナがスカラさんの真後ろに高速移動して、光剣をナイフのような大きさにしてスカラさんの首に当てていた。


「その魔法をさ、引っ込めてくれないかな?」


「……………」


スカラさんは無言で周りに浮遊していた様々な色を放つ魔法の結晶を引っ込めた。


「1つ階級が違うんじゃあ、私の速度にはついてこれないんじゃないかな?それに、ベクトルも違うんでしょ?それってつまり私の身体能力に敵わないってことじゃん。」


イリナは剣を収めると、いつの間にか俺達の所に戻ってきていた。


黒垓君が白色の扉を作り出すと、イリナは俺達を先に逃げるように促した。そして、俺たちはそれに賛成してイリナよりも先に扉をくぐって行った。

そして、くぐる時にスカラさんの方を俺は振り返った。


真っ黒な眼差しが、ずっと俺を凝視していた。数秒前と変わらないその鋭い眼光が、ずっと俺の心臓を握っていた。

けれど俺は、何かに執着するようなその目が、全てを冷酷に見定めるその目が、木枯らしのような周囲を底冷えさせるその目が、何故かどうしても見捨てることができなかった。

重要関連作品

カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/

カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ