男ってこんなもの
「なんだこの本は………日本語だから読めはするけど意味がわからないぞ」
玄関近くの部屋に入ると、大量の本が本棚に収納されており、色々な利用者がそれを取り出して読んでいた。
「この部屋の本棚は炎に関する魔法の本が収納されているようです。飯田君が持っている本は…………上級者用の本のようですね。読めたところで意味がないでしょう」
そして隣の染島さんが、この部屋の本と俺が今持っている本について説明してくれる。
…………物知りな人だなぁ。俺全然わからないよ
「飯田君は頭が良いので理解力はあるでしょうが、魔法に関しての予備知識が一切ありません。それじゃあ上級者用の本を読んだところで意味がありません。…………そうですね、お偉いさんに会いに行く前に少し知識を付けておくのも大切ですね。この初級者用の本を斜め読みしておいてください」
テキパキと染島さんは本を取り出し、俺へと渡してくる。
染島さん………ここに来なれているのか?いや、それよりも本に慣れているというのか………魔法に慣れているというのか………うーむ、わからん。
俺は染島さんから本をおずおずと受け取り、さらっと読む。
ふむふむ………少しわかってきたが、これはちょっと難しいんじゃないのか?俺にできるのか…………
「飯田君なら出来ますよ………自信を持ってください」
ギュッと俺の手を握ってくる染島さん。
暖かい手だ…………なんだろう、染島さんは優しさ100%なのだろうか?一緒にいて凄く安心する…………
「あーーはいはい、何イチャイチャしてんのよ。公衆の面前でそういうのやめてくれない?」
俺と染島さんが手を握っていると、イリナが途中で割って入り、俺と染島さんを引き剥がす。
「ばっ………イチャイチャじゃないわ!俺みたいな男じゃ染島さんのような輝かしい存在と釣り合わないわ!ねぇ、染島さん、さっきのはあれですよね?スキンシップですよね?」
俺にはわからないが、こういう友達同士で手を繋ぐなんてのは当たり前のことなんだろ?いかんせん経験が少ないから一般人のような思考がないんで断定はできないが…………
「当たり前じゃないですか。恋人同士、あれぐらい当然の行為ですよ」
「ぶっ!!」
染島さんから予想外の一言!あれ?なんだろう、前にもこんな体験があったような………既視感が半端じゃない!デジャブか!?デジャブなのかぁ!?
「…………染島さん、あのですね、恋愛関係というのはお互いの同意によってなされるんですよ。俺的にはすこぶる嬉しいのですが、記憶が全然ないというか………告白したこともされた事も記憶にないわけです。俺的には凄く嬉しいんですよ?でもそういう軽はずみなことは言わないほうが…………」
………はっ!なんだ、この痛々しい視線は!俺の背中にぶっ刺さるような鋭い視線は!…………いや、これは視線なのか?剣を突き立てられてるんじゃないのか?
「………ミフィー君、雪ちゃんの時と言いあんたよく女の子に手を出すよね………男として最低だと思わない?」
ひゃああああ!!!後ろを振り向けれない!!もうイリナの声が怖すぎて、恐怖しか生まれない!
「イリナ!誤解だ誤解!俺と染島さんはそういう仲じゃねぇ!ただの下ネタを言い合うような友達関係なんだ!!」
「…………ほう?」
ドズン!
イリナの言葉が脳味噌を思いっきり揺すった!
あっ、これやばいやつだ。イリナの言葉がビブラートもクソもない何者も寄せ付けないような言葉に変化した時はやばい。言葉が刃に変化したら叩き斬られて死んでしまうのがオチである。
ハブッハブッ………口から息が漏れる。
やばい、久しぶりに特上級の危機が接近してきている。こいつは………染島さんか黒垓君に話を振るのが妥当か?………いや、染島さんはダメだ。雪さんの時はひどい事になった。これは第3者に話を振るしか……………
「黒垓君!異性で下ネタ言うなんて普通の仲だよな!?黒垓君友達多いもんな!そうなんだろ!?お願いだからそうだと言ってくれ!」
「ん?………あーーーそうなんじゃないっすか?」
黒垓君は机に座って本を読んでいた。
そして、俺の声を聞くと興味なさそうに振り返って返事をする。
「ちょっと!黒垓君!なんでそんなに興味なさそうなんだよ!俺がサイコロステーキにされるかされないかの大切な瀬戸際なんだぞ!」
「いや………だって、オラいらないじゃないすか。能力も強さもイマイチですし。どうせオラなんてあれっすよ、移動用に仕方なく用意されたキャラクターっすよ。現実でいう専属ドライバーみたいなね。………所詮、こういう小説だと主人公以外の男キャラは淘汰されていくんすよ。分かってるんすよ、オラの運命なんて」
暗い暗い暗い!最近少し喋ってる機会が少ないからってそんなに落ち込むなよ!イリナだって十分に少な………いったあ!だから人の思考を読んで叩いてくるんじゃねえ!
「なわけないだろ黒垓君!君はタクシードライバーキャラでも移動用の便利キャラでもねぇ!あれだ、君はあれよ、弟キャラよ。俺のかけがえのない存在なんだ!」
「……………」
俺の言葉が響いたのか、黒垓君が押し黙る。
おっしゃあ!これなら黒垓君は俺のことを擁護してくれるはずだ!最高だぜ!
「…………まさかオラ、告白されてます?」
頬を赤らめる黒垓君。
わぁ、可愛い!………じゃねえ!
「そうじゃねぇ!!なんで男に告白しなきゃなんねえんだよ!!」
「し、仕方ないっすね。………師匠がオラのことが好きだなんて言ってくるなら…………」
そして、モジモジとし始める黒垓君。
「やめろぉぉおお!!俺はそっちの気はねぇ!!正常なんだよ!!」
「良いじゃないっすか、オラ達の名前だったら丁度いいっすよ」
………ん?どういうことだ?………ああ、黒い過去は掘りかえすに値するってか?はははこいつはうまいね!ってやかましいわ!
「ど下ネタじゃないか!!そう言うのは言った後に後悔するんだぞ!!」
「………え?[過去は白紙に戻すに値する]じゃないんすか?それぐらい仲がいいってことじゃないんすか?」
…………え?
「…………おっと?ミフィー君。盛大に自爆したようだけれども、何か言い残すことはあるかな?」
チャキ
剣が俺の首近くに置かれる
「…………土葬じゃなくて火葬で頼む」
「何カッコつけてんのよ」
ペシン!と頭をイリナに叩かれ、俺は解放された。
「胸美………あんた何が狙いなわけよ。ミフィー君にベタベタくっついて………やっぱり大学生ってのは男漁りにご執心なの?」
イリナが染島さんにくいかかる
「うふふ………まさか。男漁りに夢中なのは私のお友達ですよ。私はただ飯田君と遊んでいただけです。………イリナさんが、必死になって邪魔する必要はないんじゃないですか?」
「…………なんでよ」
「ただの遊びですよ?遊び。2人でただ遊んでいるだけなのに、横からちょっかいをかけてくるのはおかしいと言ってるだけです。……イリナさんだって嫌でしょう?せっかく、飯田君と2人きりになれたのに、邪魔な人間が横入りしてきたら」
「つっ…………あんた」
…………あれ?何このバーサスな雰囲気。学校の図書室で起こるような展開じゃないぞ
「[ミフィー君は自分に大きな恩がある。だから、自分が誰よりも優位だ。]なんて思わないほうがいいですよ?逆に、恩があるからこそ飯田君は気が引けて、貴方をそういう目で見なくなるということを理解するべきです。………ふふっ、気を抜いて胡座をかいていたら私にかすめ取られますよ?」
そう言うと染島さんは別の本棚に行き、本を探し始めた
「………なぁ、イリナ。お前って胡座かくのか?」「そう言うことじゃない」
ペシン
俺はまたイリナに頭を叩かれてしまった。
………なんなんだよ一体
「黒垓君どう思うよ?イリナがスカートで胡座かいてる姿とか想像できる?」
「………悔しいことに想像できるっすよ。集中すれば足とスカートの隙間からあれが見えそうっす…………」
「…………黒垓君、君最強じゃないか」
「君達、そこで止めておかないと肋が3本になるよ?」
イリナの腕が、そっと俺の肋の骨を掴む。今俺は制服だからな。鎧を着ても良かったのだが学校内で鎧を着る気分になれなかったのだ。
「………すんません」「………白だ」
ズルズル………
「ちょっ、待ってください!さっきのは訂正します!白じゃなかった!全然白じゃなかったっす!青でした!全然青でした!」
黒垓君はイリナに連行されていった
………色の問題じゃないだろ。
………それに、イリナのイメージカラーは黒と黄色だろ。訂正するのならば黄色と黒のパン………
ガシッ
肩を思いっきり掴まれる
「君も地獄送りね」
振り向くと、凄く笑顔のイリナがいた。
「ちょっと待って!お願いだから!俺何も想像してない!全然何も想像してないんだよ!黄色と黒の癖に真ん中にピンクのリボンがある三角形の様な物とか全然想像してないんだ!背中部分がすっごく露出している真っ黒なドレスを着て胡座をかいている姿なんて全然想像してな………ぎゃああああああああ!!!!」
〜5分後〜
「ミフィー君、黒垓君。次同じ様なことやったら無間地獄だから。気をつけたほうがいいよ」
俺と黒垓君は正座させられ説教を聞かされていた。
ビンタされすぎて顔が腫れ上がりそうだ。………いや、もしかしたら腫れ上がってるのか?なんかもう前が見辛い
「…………うっす、気をつけます」
「よし、それじゃあ各々解散!」
俺と黒垓君は解放され、好きな所に行くことになった。
黒垓君は走ってその場を去った。きっと、気になる本とか女の子がいたのだろう。
俺もなんとか起き上がり、別の部屋に行こうとした。色々な本を読んでみたいのだ。魔法について少しでも多く情報を知っておきたいからね。
「あー染島さん?本を読みたいんですけどオススメなものとかあります?初心者用で、そのくせめっちゃくちゃためになるようなやつとか」
俺は脳内で染島さんに連絡する
てかなんだその本は。無い物ねだりにも程があるだろう。初心者用は所詮は初心者。全てを単純化して分かりやすさを追求するあまり、その分野の複雑さを説明できないのだ。複雑である事を理解せずに勉強を始める事程バカな事はない。そんなことをすると、壁にぶつかった時の挫折感が大きすぎて立ち直れなくなるからな。
「うーんと………あっ、一応ありますね。飯田君のレベルにふさわしい本がありましたよ。さっき見つけました」
えええ!?あるの!?
「初心者用というよりかは中級者用ですが………飯田君なら大丈夫でしょう。さっきの初心者用のものを読めたんですから」
「なるほど!それで、その本は一体どこにあるんですか?早急に読みたいんですが」
俺はその場で立ち止まり交信を続ける。
「うーーんと…………1階の奥の方なんですが、1人だと迷子になっちゃいそうですね………そうだ、一緒にそこまで行きましょう!本の位置もちゃんと覚えているので、本棚から探すときも素早くできるはずですから!」
「なるほど!確かにそれは良いですね!それじゃあ待ち合わせをしましょう。今どこで………」
グニン!
イリナに頭を掴まれて首を捻られる
「…………あんたさ、今胸美と会話してんの?」
すごい剣幕ですごまれる。まるで毒ヘビだ。あの鋭い目つきと面構えを彷彿とされる。
毒ヘビを真正面から見たことがある人なら分かると思うが、顔が凄いキュッとしているのだ。これ体に刺さるんじゃないの?ってぐらい顔が鋭いのだ。それに目も凄い。真っ暗。「全て見えてるぜ」って言わんばかりの視線なのだ。
「そうだよ?これから合流してめぼしい本を探しに行く予定だ」
しっかし染島さんは優秀な人だよなー。こんな短期間に有用な本を探すことができるんだから。流石は大学生といったところだ。俺も大学生になったらあれぐらいの検索能力が欲しいぜ
「………気にくわないね。」
イリナは俺の頭を離した
「気にくわないって、何がだよ」
「何がって………全部よ。まずメインヒロインであるこの私を放っておいて胸美なんかとイチャイチャするってことが気に入らない。次に私の出番が少なすぎて気に入らない。」
おいおいおい………まじかよ。なんて自分勝手なんだ。そこまで自分の印象を悪くしたら酷い目にあうぞ
「最後に…………筆者はきっと私とミフィー君の掛け合いを期待しているはず。それなのに胸美なんかとの敬語ばかりの[私達高学歴でっせ]みたいな掛け合いをしようとしているのが気に入らない」
「おい、最後はどう考えてもおかしいだろ!なんで俺達以外のドウデモイイ人間の為に俺が批判されなきゃいけないんだ!てかあんなのが[俺ってマジ高学歴なんだぜグヒャヒャヒャ!]みたいな会話をかけるわけがない。受験シーズンなのに小説出している時点でもはや明白だって話だ。バカにお勉強なんて縁遠いからな!」
「ちょっとミフィー君!確かにバカだけどそこまで言っちゃったら彼だって凹んじゃうよ!もうちょっとオブラートに包んでさ………[知能が低い]とか、そんな感じで表現するべきだよ!」
「それって止めだから!長めのオブラートで言葉を包んで、余ったオブラートの端を掴んで振り回して言葉を顔面にジャストミートさせてるようなもんだから!遠心力分ダメージが増加しちゃってるから!」
漢字を使えば良いってもんじゃないぞイリナ!
「甘いだけじゃない、オブラートは凶器にもなる。………そうだね、[バレットオブオブラート]、略して[バレットオブラート]とでも命名しようかな」
うわーー!すっごく美味しそう!てか弱そう!そんなんで体貫通したら驚きだわ!
「まぁとにかく、バカだろうがなんだろうが一応は筆者なわけさ。ここでご機嫌を取らずにいつご機嫌をとるって言うの?」
おい!結局あいつが求めているのは俺とイリナの掛け合いなのか!?
「そうは言ってもだなイリナ。これから偉い人に会いに行くわけだ。こんな大きな学校の偉い人なわけよ。つまり俺は失態を見せるわけにはいかないわけ。だから予備知識を持っておかないといけないわけよ。わかる?だからさ、本を読まないといけないわけよ。」
知識も何もなしに魔法の権威に会いに行くのは失礼極まりないだろう。それに、自分のためにならない。大御所の会話ってのは大抵専門用語バシバシ使うから知識がないと理解できないのだ。
「うんそうだね。本を読まなきゃいけないよね。だからさ………私もついていくってことさ。これならOKじゃない?どちらの要求も満たす最高の選択だよ!」
…………なるほど、それはいいな。
〜2分後〜
俺はイリナと染島さんに挟まれていた。
あれ?何このパラダイス。いつの間に迷い込んだんだ?俺さっきまで学校にいたはずなんだけどな………おかしいな。
二階にいた染島さんと一階で合流して、一階の少し奥にある部屋へと向かっていた。
「飯田君、どう思います?この学校のこととか」
俺の右隣から染島さんが微笑みながら聞いてくる。
「この学校のことですか?うーん………ほんの少し中に入って探検しただけですが、すごい規模ですね。人も何だかんだで多いですし、何より本の数が桁違いですよ。片鱗を見た程度ですが、それでもこの学校の全ての本を合わせたら国立図書館の2倍以上はあるんじゃないかって思えてしまいます」
本がないところがない。通路も本で埋め尽くされて部屋も本で埋め尽くされて、それでいて生徒がすっげー多い。学校のくせにどの廊下も混雑しているレベルだ
「確かにそうですが………もっと他のことで気づいたことはないですか?」
他のこと?………うーーん、他のことかーー。そりゃ、所々に場違いなピンク色の塗装があるってことぐらいかなーー。創建者はきっとピンク色が大好きなんだろうな。
「………どこもかしこもピカピカだよね。まるで毎日清掃されていて、ワックス掛けられているんじゃないかってぐらい。」
俺が考えていると、イリナが俺の左隣から顔を出して答える。
あー確かに。床とか凄いもんな。俺の顔が映るレベルだもんな。………久しぶりに自分の顔を見たな。てかこんなんだっけ?俺の顔ってこんな形でしたっけ?3週間ぐらい見てないから忘れちまったよ。
「そうなんですよ。こんなに人の行き交いが激しいのに当たりはピカピカなんですよ。まるで成田空港です。でも、清掃している人とか見かけました?」
俺をあたりを見渡す。
…………歩いている学生ばかりだ。腰を屈めて掃除機かけたり壁を拭いたりしている人は全然いない。
「実はここの清潔さを保っているのもまた魔法によってなんです。」
これも魔法!?ベッドといい清掃といい、魔法ってのは生活に直結したものなのか!?
「清掃だけじゃありません。この学校って明るいですよね?………この学校だけじゃなくて勇者領も明るいですよね?」
「………?そりゃそうですよ。明かりがついていますもん。きっと電気が通ってるんでしょうね」
まぁ、現実の写し鏡だ。発電所もあるだろうし電線もあるはずだ。まぁ、日本だから燃料が不足して十分に各地に配給できているかは不安だが…………
「いいえ、この世界に電気はありません。この世界のエネルギー媒体は電気ではないのです。」
えええ!?まじでぇ!?じゃあ一体この灯りは何だって言うんだよ!ランタンか!?蝋燭なのか!?
「いいえ、そんな原始的なものではないです。………これもまた、魔法によって灯りが生み出されているんです」
「ま、魔法すげー!!どんだけ便利なんだよ!!スマホ並みに便利じゃないか!」
「スマホと比べるのはちょっとどうかと思うけどね………まぁ、確かに凄い便利なのには違いないよ。私が聞いた話じゃミフィー君とか胸美が持っている剣もほとんど魔法で出来てるらしいからね」
「まじかよ!どんだけ凄いんだよ魔法!!
「驚くのにはまだ早いですよ。実はこの学校の清掃と灯り、それと世界中のベッドの魔法力の維持はたった1人の人間がやってるんです」
たった1人!?
「はい。たった1人です。こんなだだっ広い学校と、世界中のベッドをたった1人の人間が管理しているんです。たった1人ですよ?しかも勇者です。魔族ならともかく勇者がそんな桁違いなことをやってのけているんです。凄くないですか?」
「す、凄いなんてもんじゃないですよ!俺なら当たり前のようにできますけど、魔力量の少ない勇者がそんなことやってのけれるなんて反則ですよ!魔族が涙目じゃないですか!」
「さらっと自分の自慢を混ぜるな」
ペシンと頭をイリナに叩かれる
「はい、おかしいです。魔力量とその扱いに関しては勇者で1番でしょう。きっと、王様でも負けるでしょう。」
お、王様を超える!?ちょっと待ってよ、それって凄すぎないか!?
「………そして、そんな事をやってのける人間に私達はこれから会いに行くのです。」
「…………え?マジですか?」
それ初耳なんですけど
「はい。凄まじい力を持っていて、その上私が聞く限りでは変人らしいです。友達と口論になって街1つを吹き飛ばしたとかなんとか………もし、機嫌を損ねたりなんかしたらどうなるんでしょうかね?」
「…………うわーーー。これ真面目に勉強しないとヤバい奴じゃないですか。」
「そういう事です。…………いやーーやっとつきましたね」
道が混雑していたせいで随分と遅くなったが、ようやく目当ての部屋に来たようだ。染島さんが立ち止まる。
「これから会う人はそれだけの超重要かつ危険人物です。なのでこれから読む本は全力で吸収して下さい。………飯田君とその人が全力で魔力をぶつけ合う戦いとか見たくありませんからね。」
…………うん。地獄絵図だ。
「安心してね。もしそうなったら背後からミフィー君の首を刎ね飛ばすからさ。気楽に本を読んでよ」
…………それはつまりあれだろ?下手したらぶっ殺すって事だろ?お陰で俄然やる気が出てきたよ
さ、こちらです。と染島さんに案内されて目当ての本がある本棚に向かう。
この本か………さて、それじゃあ早速読もうかな……………
「た、大変だーー!!!」
俺が本に手を場した瞬間!部屋の外で大きな声がした。振り返ると、汗だくの学生が膝に手をついて息を荒らげていた。よっぽどの一大事なのだろう。
「拘束系の魔力を持っている奴はいないか!?5階が大変な事になってるんだ!」
「どうしたんだ?」とその部屋にいた学生達は、汗だくの男に近寄っていく。
拘束系?………不審者でも侵入したのか?
「とにかく大変なんだ!もうあちこちの部屋がめちゃくちゃで……………」
ドズゥゥゥウウウンン!!
巨大なものが落下したよう、低くて大きな音が上の階から聞こえてきた。
「おいおい………誰か暴れてるのか!?酔っ払ってんのか!?」
1人の学生が叫ぶ
「いや、ここの学生じゃない!でも暴れまわってるのは確かだ!………だから誰か、拘束系の魔力の持ち主はいないのか!?あの子を止めなきゃいけないんだ!」
………あの[子]?なんだろう。凄く嫌な予感がしてきた。
「なぁ、学生さん。もしかしてなんだけどさ…………その子さ、小さな男の子じゃなかった?身長が155センチメートルぐらいで可愛らしい男の子」
俺は汗だくになって周りの人間に呼びかけている学生に話しかける。
そして、ついでに染島さんに頼んで黒垓君をここに呼んでおいてもらった。
「そ、そうだが!?まさかお前はあの子の関係者か!?」
うわーーー亜花君だ。完璧に忘れてた。………暴れてるのか…………これは大変だな。止めるのが大変そうだ。
「ハローーっす。呼びました?」
黒垓君がニュルっと真っ白な扉から出現する。
手にはフランクフルトみたいな物と焼き鳥みたいなもの。
学校抜け出してご飯食ってたな!?お腹すいたのか!?空いちゃったのか!?どおりでさっき走って行ったわけか!
「亜花君の所に一緒に行くぞ黒垓君!どうやら亜花君が暴れてるようなんだよ!止めなくちゃいけないんだ!」
バターーーーン!!
物が倒れていく音と、学生のキャーー!という悲鳴も聞こえてくる。
あーーやばい!このままじゃ確実にヤバい!絶対凄腕の警備員とか来ちゃうだろ。魔族を簡単に通す学校だ。きっと、警備員とかに強い奴がいるんだろ。そうじゃないとこんな事はできないからな。てか俺達出禁になっちまうだろうな!
「わかったっす!それじゃあ扉を亜花君の元に繋げるんで、先に行ってて下さい。オラはもう少しお肉を堪能してたいんで………」
そう言うと扉の中に黒垓君は消えていった。
おい!そんな場合じゃないだろ黒垓君!どんだけ自由なんだよ!
ああ、くそ!そんな事言ってる場合じゃない!さっさと亜花君を止めなきゃいけないんだった!
「染島さん!イリナ!一緒に来てくれ!」
「まぁ、君だけの力じゃ無理だろうからね。行ってあげるよ」
「微力ながらアシストしますよ」
………よし!そんじゃ行くか!
俺たち3人は扉に入り亜花君を止めに行った。
「…………あれ?」
俺達が現場に駆けつけると、既に亜花君の暴走は終わっていた。
いくつもの倒れた本棚や破れた本があたりに散乱している。てかこの階全てがそんな感じだ。千切れた紙がひらひらと空中を舞っていた。
そんな中、亜花君は地面に寝転がっていた。まるで死んだように、寝転がっていた。
「あら、貴方達はこの子の保護者なの?………ダメじゃない、ちゃんと見ておかないと。こんな危険人物を野放しにしちゃ、こうなるのは当たり前なんだから」
そして、そんな死体のようになった亜花君の傍に女性が1人立っていた。
「………ああ、安心して頂戴。死んでないわよこの子。私の力で少しの間仮死状態にしているだけだから。」
パチン!と女性は指を鳴らした。
すると床や空中に散らばっていた本や本棚、本棚のかけらや紙片が一斉にざわめき出し空中へと浮かび上がっていく。
そしてそれらは空中を舞った。
紙の欠片達がまるで紙吹雪のように空を駆け巡った。本がまるで、物理法則から解放されたかのように空間を飛び回った。本棚はまるで、水で満たされた鍋に放り込まれたジャガイモをヘラでかき回したみたいに、空中を勢いよく旋回していった。
そして、紙の破片は千切れた本とくっつき元の本へと戻って行った。本棚は木のかけらと再びくっつき間元の形へと戻って行った。全ての物が元の形へと修復されていく。そしてそれらは元あった場所に勝手に飛んでいき勝手に配置され、他の階と変わらない姿に、この荒れ果てた5回は元に戻っていた。
…………こんな、魔力の世界にきて、今までいろんな魔力を見てきて、でも初めてだ。ここまで、魔法という感覚を受けたのは初めてだ。この世界が、魔法の世界であると実感できたのは初めてだ。
鳥肌が立った。全ての物体を持ち上げ、全てを自在に動かし、全てを完璧に修復してしまったのだ。たった1人が。それもたった数秒で。それに、あの亜花君すらも一瞬で倒してしまったのだ。………なんて芸当だ。さっきの言葉を撤回しよう。こんなの俺には無理だ、出来る気がしない。
俺が目を見開いていると、女性が振り返った。
大人の女性だ。腰までありそうな長い髪の毛を一本にまとめあげられている。そして………これもまた魔法の仕業なのか結ばれた髪の毛がフワフワと浮いているのだ。
身長も高めで、175………いや、もしかしたら俺以上はあるかもしれない。それぐらい大きい。あと胸も大きい。ここは大切だから2度言わせていただくぜ。胸が大きい。
そして服装は上はセーターのような長袖なのだが、下は膝よりも高いスカートだ。ピチピチのやつ。女性社員とかが履いてそうなやつ。んで、足首ぐらいまであるコートを着ている。
そして、ここが最も驚くべきところだ。ほとんど全ての服がピンクなのだ。服だけじゃない、口紅もピンクだ。髪もピンクだ。
「しかし、私の学校でよくもまぁここまで派手にやってくれちゃって………どうしたもんかねぇ」
女性は腕を組んで笑いながら悩んでいるような素振りをする。
………私の学校?
「………飯田君ならもう既にわかっているはずです。」
俺が固まっていると、染島さんが小声で喋り始める
「この学校のメインカラーはピンク。そして、あの方のメインカラーもピンク。………そう、この学校の創始者はあの方なんです。」
創始者がこの女性!?………まさかな、そんなはずはない。学校立てるのにどんだけ金がかかるか知ってるのか?億単位だぜ億単位。2〜30代の女性がそんなお金を集められるわけが…………
「集められたんですよ、余裕で。」
カツンカツン………
女性がこちらに歩いてくる。
「…………若くしてこの世界のほぼ全ての魔法を習得し、そして学校を立ち上げたったの10年で世界で1番の学校にまで成長させた女性です。………そして、私達がこれから会おうとしていたお方でもあります」
おいおいおい、どんな経歴だよ。マジで超天才じゃないか。
「名前はスカラ・クレッシェル。名門クレッシェル一族の127代当主であり、四賢者の1人でもある方です」
……………なんて人間に、話を聞こうとしてたんだ俺は。
間近まで迫っていたスカラさんを凝視しながら、俺は、後悔をしながら、ジンワリと恐怖を体に染み込ませながら、そう思った。
重要関連作品
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/




