食塩水は、体に良いのです
「カッコいいじゃないのエンタ。仲間がピンチの時にさっそうと現れる。まるで主人公だ。………まぁ、」
俺はエンタの目元に手を当てすぐに引っ込める。
シュワ
エンタの目元に溜まっていた涙が蒸発する
「涙がなければなおグッドだ。ほら、顔を引き締めろ」
「………悪い狩虎」
ゴシゴシと、涙もないのに目元を擦るエンタ。
………癖になってるんだな。まぁ、俺も昔はそうだった。目元を擦るのが癖になってたんだよな………泣きすぎてな。
「とうとう魔力が発動したってところか。単純な身体強化………って訳ではなさそうだ」
エンタのただですら厚い筋肉層が更に膨張して巨人のようになっている。
グレンを一撃で吹き飛ばしたような馬鹿力………うーむ、なんとも言えないな
「多分筋力を増強してるんだろうな。10倍……もしかしたらそれ以上かもしれない。それぐらいお前の筋肉は唸りをあげてるぞ」
「そ、そんななのか俺の魔力は……」
「………良かったじゃないの。今まで必死こいて筋トレしてきたのが、魔力という形で還元されてよ。やっぱりお前の努力は無駄じゃなかったんだよ」
俺は剣を左手に持ち帰る。
「そ、そうかな………なんか話ができすぎて俺信じられないよ。」
「………いいんだよ。話ができすぎ?バカ言ってんじゃねーよ。都合が良すぎる?だからなんだよ。人生ってのはどれだけ自分の都合のいいようにするかの競争だろ。都合が良かったのはお前の運じゃない。お前が努力したから、必然的に都合が良くなったんだ。そこをはき違えるな。お前が頑張ったからお前に風が回ったと今ここで理解しろ。」
「そ、そうか………そう言われると自分に自信が出てくるな」
「ああ、そうだ。自分に自信を持て。お前の努力が実ったことを誇りに思え。だからこそお前は次のステップにいける」
起き上がってこっちへと歩いてくるグレン。
やはりあんな一撃じゃ倒せないか………斬撃を1発身体に叩き込まないと。
「………さて、エンタ。ノンビリと喋ってらんない状況だ。今からグレンを倒して試験に合格するぞ」
「う、うん………」
………まだ弱気だな
バシン!!
俺はエンタの背中を思いっきり叩く!!
「[う、うん]じゃねーよエンタ!もっと笑え!もっと強気に返事しろ![おっしゃバッチこい!ガッハッハッハッハッ!!]ってな!お前の笑いはもう見せかけじゃねえ、思う存分相手を笑ってやれ!!」
「お、おう………よっしゃあ!!バッチこい!!ガッハッハッハッハッ!!」
思いっきり笑うエンタ。
………よし!!それじゃ行くか
「これからの作戦はお前をベースに組み立てる。いいか、お前の魔力はきっと持続時間が短い。俺の考察だと、お前の魔力は筋力の生み出すエネルギーを倍増させるものなんだ……ようはスタミナ不足に簡単に陥るはずだ。つまりこれから行うのは短期決戦だ。いいか、お前の速度を利用してピッタリと相手にはりつけ。そして攻撃しまくれ。俺がサポートしてやるから今回はお前がメインだ。お前が主役だ!思いっきり暴れてこい!!」
「おっしぁ!任せろ!!」
いい返事だ!!
ブシュウゥウ!!
俺の体から蒸気が噴き出す!!
「俺も少し、本気を出す。お前を待つ必要はもうなくなったからな」
俺が右手を伸ばすと、その部分に白い球体が現れ、一本の柄が出てくる。俺はそれを掴み思いっきり引っ張る!
ズァァア!!
白い球体から真っ黒な魔剣が姿を表す。
このフィールドに物質移動ができるのは前の試験で確認済み!染島さんを通して黒垓君に話をしておいて正解だった!
ギロッ
魔剣の柄と刀身の接合部分に目玉が出現する。始めっから本気モードだ。あいつにならどんなにやってもやりすぎってことはないからな。
「行ってこい!エンタ!」
「おうよ!!」
メシッ!!
エンタの1歩で地面がひび割れる!!
キンキンキンキンキンキンキン!!!!
エンタの連撃がグレンを捉える!
「ぐっ!!」
やっべーーエンタの一撃速すぎだろ。筧なんて軽く超えてるぞ。
………やっぱりエンタは強かったんだな。ちょっと性格が邪魔していただけで。
それに、あの分厚い筋肉が魔力のお陰でより力を増している。あの速度と力……聖騎士長クラスまで出てるな。
縦横無尽に放たれる斬撃。しかし、出鱈目に見えそうでもキッチリと筋は通してある。何を狙っているのかがはっきりと分かる。
それに剣術の練習もしていたって所か。太刀筋がはっきりしてやがるな。
…………いいねぇいいねぇ、楽しくなってきたじゃないの!!
俺は思いっきり地面を蹴飛ばしグレンの元へと走り出す!
「エンタチェンジだ!1秒だけ体を休めろ!!」
筋肉を酷使した運動だ。息苦しいに違いない!
「おっしぁ!!」
グレンに一撃を与えるとそのまま後ろへと飛ぶエンタ!
「狩虎!お前程度なら、簡単に受け止められるんだよ!!」
グレンがハンマーを俺に振り抜く!!
俺の攻撃を受け止められる?バッカ、それは間違いだぜ。
キン!!!
グレンのハンマーか真っ二つに切られる!!
「なっ………」
「おっと、そっち側は重たいだろ?それも切り取ってやるよ!」
俺はハンマーがついた……えーっとなんつーんだあの部位?分からんがとにかく殴る部分がある方の柄を切る!!
魔剣はなんでも切れるからな。お前のそんな大振りな獲物は格好の獲物だ
「チェンジだエンタ!」
「おっしぁ!!」
そして、すぐさまエンタが飛んできてグレンを攻撃する!!
グレンの今の武器は両手のハンマーの残骸の棒っきれだ。果たしてそんなのでエンタの攻撃を防ぎきれるのか?
「畳み掛けろエンタ!!今のこの瞬間が絶好のチャンスだ!!」
「うおおおおおおお!!!!」
キンキンキンキンキンキンキン!!!
エンタの目にも留まらぬ連撃がグレンを追い詰めていく!!
「くっ!!」
グレンの顔から焦りを感じる。
追い詰めてる………完全に追い詰めているぞ!!
つるん
グレンが氷に滑って体勢を崩す。
ゴメンよ、俺がそこらへんに氷を作っておいたんだ。よく滑るだろ?イリナも滑ってたからな
「うおおおおぉおお!!!!」
このチャンスをエンタが見逃すはずがない!!エンタがグレンに向かって思いっきり剣を突き出す!!
よっしゃああああ!!!俺たちの勝ちだぜ馬鹿野郎が!!
プシュン…………
「…………へ?」
エンタの筋肉がしぼみ元の状態へと戻る。
…………魔力の持続時間短すぎないか!?
「なん……なんでこんなに短っ!!???」
グレンの一撃がエンタにモロに入りエンタが吹き飛ばされる!!
「おい!!大丈夫かエンタ………!?」
エンタに呼びかけているとすぐにグレンが走ってくる!!
くそ、ここで一気にかたをつけるつもりか!!
「満足に動けないだろ!今のお前の骨折じゃ!!!」
ブン!!
グレンの蹴りが宙を切る!
「……!なんだよこの能力!!」
俺は空間を捻じ曲げて瞬間移動をして、エンタの元まで飛んでおいたのだ。
「おい!大丈夫かエンタ!」
エンタの肩を持つ。
脳震盪とか起こしてたら揺らしたらヤバイからな。触れるだけで十分だろう
「つっ………大丈夫だ。ほんのちょっと怪我した程度だ。俺の取り柄は筋肉だからな。筋肉の鎧のおかげで骨は折れていない」
……さすがだぜエンタ。殴られたら骨が折れる俺とは全然違うな!!
「そうか……で、魔力の方はどうだ?発動できそうか?」
体が大丈夫なら次は魔力の心配だ。あいつと渡り合うにはエンタが必要不可欠。魔力が発動できるかどうかを確かめなくては。
「………ダメだ。さっきから発動しようとしてるんだが発動できないんだ。きっと、インターバルの期間だろう」
………インターバル!持続時間が10秒しかないってのにインターバルまでとるってのかこの魔力は!!燃費悪すぎだろ!!
………しかしまぁしゃあないか
俺はエンタを手放すとグレンの方へと向き直す。
「そんじゃあ、回復するまで守ってやるよ。お前がいないとこの戦いは勝てないからな」
ブン!!
俺が魔剣を振ると斬撃が飛んでいく!!
「こいういのは触らぬが仏ってな。」
グレンはそれをかわして俺の方へと走ってくる!!
ドルん!ドルンドルン!!
足で水が熱で湧き立つ!
守るって決めたんだ!お前には指一本も触らせねぇぞ!!
ミシッ
俺の踏み込みに地面が凹む!!
ブン!!
俺の一振りをグレンはギリギリでかわす!!
「っ!なんでさっきよりも速くなってんだよ!お前は漫画の主人公か!?」
おっ、この世界にも漫画はあるのか!これは予想外だ!
「さぁね。よくわからなんが、仲間を守ろうと思うといつも力が湧くんだよ。一体なんでかな?」
ブン!!ブンブンブン!!エンタ程ではないにしろ、高速の斬撃がグレンを襲う!!
けれど、やはりグレンはそれをギリギリでかわしてくる!一撃も当たらない!!
「だから………なんで!!」
俺の体から勢いよく蒸気が出て辺りを覆う!!
「当たらないんだよクソがぁぁあ!!!」
ザザザザザザザンンン!!!
無数の斬撃か直線上の木々を切断しながら飛んでいく!!
けれど、それでも!!
「だから何度も言わせんな!お前の攻撃なんて簡単にかわせるってな!!」
いつの間にか背後にいたグレンが、パンチを放つ!!
クソッ!!
ピュン!
俺は魔剣の魔力でグレンの背後へと瞬間移動する!
「でやがったな瞬間移動!それもあれか?その剣の力なのか!?」
「そんなの教えるわけがないだろうが!!」
またも太刀の浴びせあいが続く!
ガッ!
グレンのパンチが俺の顔面を捉えて、俺の体が少し仰け反る!
クソッ、隙ができちまった!このままじゃ攻撃される!!俺は剣を自分の体の前に持ってきて防御の体勢をとる!
が、しかし。グレンは俺を無視して俺の後ろにいるエンタの元へと走る!
あっ、くそ!しまった!!
「お前と戦いあうのも楽しいが、今俺がやんなきゃいけないのはエンタを倒すことだ!お前は無視無視」
………くそ!!
俺は瞬間移動してグレンの目の前に出現する!!
「やらせねぇよばか!!」
俺はグレンに前蹴りを浴びせて後ろにひかせる!
「………ちっ、剣が厄介だな。やっぱりお前を先に倒した方がエンタを簡単に倒せるようだ。」
「厄介だろ?めっちゃくちゃ厄介だろ?なんつったって伝説の剣ですから。まぁ貰い物だから自分のもののように鼻高く自慢はできないがな」
「………嫌味で言ったつもりなんだがな。そんなに自慢げに喋られたら俺も少し反応しづらい」
「そうかい、それは悪かったな。俺は相手の気をくんでやれなくてな。自分でも反省してるんだよ」
まだか!まだなのかエンタ!!インターバルがちょっと長すぎないか!?
「………そうだな、こんな無駄話をしている間にもエンタが回復しちまうもんな………仕方ない、本気を出すか。」
パァン!!
グレンの踏み込みで地面が裂けて空気が震える!!
メシッ!!!
グレンの一撃がモロに俺の顔面を捉える!!
ゴロゴロゴロゴロ!!!
勢いよく俺は地面を転がる!!
いったぁぁああ!!!鼻が、鼻がぁぁああ!!
俺は目を瞑りながら鼻の穴付近に手を置く。
ヌチョッと手に嫌な感触がした。
………ま、まさか!!
俺は右目を薄っすらと開けて自分の指を見ると、真っ赤な液体が指に付着していた!
ああああああ!!!いてぇぇえええ!!!折れた!完璧に鼻が折れた!!なんだよこの野郎!!ふざけてんじゃねーよ!!
「もう一丁!!」
俺が悶絶していると、いつの間にか来ていたグレンのパンチが更に俺の顔面を捉える!!
バキバキバキバキ!!!
木を何本も貫きながら俺は吹き飛ばされる!!
「………ふーん、パンチの威力を水で殺したか。でも、結構なダメージは与えたはずだ。さすがに立てはしないだろ」
「………た、て……ない?」
俺は必死こいて手で体を持ち上げる!
ああ、もう………意識が霞む。なんだよこれ、視界が揺れまくってるし、それにそんな視界でも俺の顔面から凄い勢いの血が滴ってるのも分かっちまうし…………ヤバイ。これは確実にヤバイ。家帰ってさっさと寝ないとヤバイ状況だ。こんな所で立ち上がって立ち向かうような状況じゃねえ。
「………立つなよ。折角意識が保てないぐらいの威力で殴ってやったのによ。………お前あれか?頭のネジが飛んでるんじゃないのか?利口な人間のする行為じゃない」
………でもなんでかな、なぜかはわからないけれど腕に自然と力が入ってしまう。立ち上がらないといけないって、そんな使命めいた何かを感じてしまう。
「………………」
ああ、くそ。口が全然動かない。ちょっと脳が揺られすぎて口まで意識がまわんないんだな。なんだよこれ、なんでこんなに俺ボロボロなんだよ意味がわからない。
俺はなんとか起き上がり、グレンの方を見る………見ているはずだ。なんかもう視界がぼやけ過ぎて何を見ているのか分からない。
それでも俺は剣を構える。
今ここでこいつを倒さなくてはいけない。それだけははっきりとしている。それが試験を合格するための絶対条件。それだけは、グワングワンしている俺の意識でもはっきりと認識できる。
真っ赤になっているであろう俺の顔を、水で洗い流す。
まぁ、案の定。流れ落ちる水は真っ赤なのだが…………
「…………意識があるのかどうかハッキリしねぇが、異常だよお前。どう考えても異常だ。こんな不可能な試験でさっさとギブしないとかお前どうかしてるよ。」
どうかしてるって今言ったのか?聴覚が機能してないからなんとなくでしかわからないが………ただ、そうだな。確かにそうかも知れない。
俺は走り出す!!グレンに一撃を与えるために!
「………はぁ」
ガツン!!
グレンのパンチが俺の腹に直撃する!
「ヴッッ」
血が口から噴き出る!!
「能力使ってかわせよ。まさか、それを利用するための頭もどっか飛んだのか?」
グレンの前蹴りが俺のお腹を再度捉える!!
ゴロンゴロンと再度吹き飛ばされるが、それでも俺は立ち上がりグレンへと突っ込む!
「………呆れたな。蛮勇と自己犠牲の精神ってのは違うんだぜ?お前のその行動じゃ、何も救えねぇよ」
グレンが上段蹴りを放つ!
スカッ
けれど俺は、身を屈めることでかわす!!
「負けないつってんだよ………可能性を勝手に否定するお前なんかに、負けてられないんだよ!!」
ブシュ………
グレンの頬を切りつける!
そして、蹴りをグレンに叩き込む!!
「ああ、くそ!やっと意識が戻ってきやがった!!ほんの少しだけ考えれるようになってきたぞ!」
俺は後ろにひいたグレンに剣を向ける!
「さっさとお前を倒してあったかいお布団で休憩しないとな!傷だらけでやってらんねぇよ!」
ああ、もう、顔中がいてーよ!!何であんなに集中的に殴るかな!もうちょっと加減をしやがれってんだ!!
ビシッ!
俺は人差し指を立ててグレンに向ける
「一撃だ。一撃でこの戦いにけりをつけてやる」
「………ほう、この俺に勝利宣言か。しかも一撃だ?おいおい、そりゃお前、[わたくし、飯田狩虎はワープを利用してグレンさんを倒します!]って宣言してるのと同じだぞ。もう少し考えてからものを喋れ」
………確かに考えてみればそうだな。ヤバイな、やっぱり今俺の頭はバカになっている。
「いいんだよ。俺はワープを利用する気がないからな。そんなのを利用しないでお前を倒してやるって言ってんだよ」
ヤバイ………どうしよう。完璧に攻撃を読まれた。どうする?一体どうすればいいんだ!ワープを使わない攻撃なんて考えてないぞ!
「そうかい。それじゃ来いよ。どんな攻撃が来るのか楽しみに待ってやるから」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!どうする!?どうする!?一体どうすれば!!
「…………う、うおおおおおおおお!!!!」
俺は剣を持ちながら思いっきり走り出す!
一歩、二歩と俺とグレンの距離が近づいていく。
うおおお!!どうすんだよこれ!一体どうすれば………あ!!
ピュン!!
俺は走っている途中で斬撃を飛ばす!!
が、グレンはそれをひょいっとかわしてしまう!
も、もおヤケクソだぁぁぁあああ!!!
俺はブンブンと剣を振り回しながらグレンに突撃する!!
何本もの斬撃が、グレンめがけて飛んでいく!!
「こんなの、簡単に………」
グレンがそれをかわすために横に軽く飛ぶ。
残念、そこには俺がいます。
俺は瞬間移動でグレンの着地予想点に飛んでいた。さあて、あとは隙だらけのグレンを切るだけ………
「残念、知っていました」
………え?
メシッ!!!
グレンの強烈な蹴りが俺の顔面を衝突し、俺を吹き飛ばす!!
…………まったく、やっぱり俺じゃ倒せないか…………そうだよなぁ。だって俺は主人公じゃないもんな…………さっきも言ったはずだ。今回の主人公は俺じゃない。
倒すのは俺じゃない、お前だぜ。
「やっちまえエンタ」
ザシュ!!!!
エンタの一撃が、グレンの体を一直線に斬り払う!!
「なっ………んだっ………て?」
そのままばたりと倒れるグレン。
「おい!大丈夫か狩虎!!」
エンタは剣を収めると俺の元へと駆けつけてくる
「か、狩虎おまえ……顔が、なんか顔が酷いことになってるぞ!直視できないレベルだ!どんだけ顔面を攻撃されたんだよ!てか時間稼ぐために無理しすぎだろ!もうちょっとスマートな方法が!!」
「いんだよ別に。これは俺が選んだ選択だ。それでダメージ受けようが俺は本望だよ。それに試験は合格したしな」
ガシャガシャん!
さっきまで戦っていたグレンがいつの間にか鎧になっていた。
「………鎧?」
「おお、試験合格おめでとさん!君達なら試験を合格すると俺は信じていたぜ!」
そう言うとグレンが木の陰から現れる。
「へ?いや、なんで………だってさっきまで戦ってたのは………」
混乱するエンタ。
まぁ、そりゃそうだろ。そうなるわな、普通はそうなる。
「あれは鎧なんだろ?グレンの姿をソックリに作った鎧。要は分身みたいなもんだ」
「正解だ。最終試験の途中に入れ替わってな、お前たちの動向を見ていたんだな。………それで問題だが、一体俺はいつ変わったでしょうか?」
「え?え?なぁ狩虎、お前わかるか?」
「…………エンタは分からなくて当然だ。なんせ、グレンが分身に入れ替わったのはお前が倒れている時だからな」
俺は剣を収める
「あいつが入れ替わったのは鎧を出して俺に攻撃させた時だ。おかしいと思ってたんだよ。鎧出して攻撃させれば、さっきのエンタが回復してる時に攻撃して妨害できたってのにしない所とかな。」
「そう、その通りだ。その時に交代したんだ。それに、あの時に鎧を生み出さなかったのは、鎧の分身じゃ鎧を生み出せないからだ。簡単な話だろ?」
「はぁ………確かに考えればそうだな。でもよ、それだとしてもなんで狩虎は気がつけたんだ?俺なんて全然わからなかったぞ。」
「そりゃお前、お前の一撃でグレンが吹き飛んだあたりとか、鎧つけてるくせにスタスタ歩いてる所とかな。なんでお前の一撃で1トン+体重が木を何本も突き破るほど吹き飛ばされるんだよ。お前の怪力は第二類勇者か」
「………確かに……………あの時は俺つえええええええ!!!とか思ってたから全然意識してなかった。」
だよなぁ、初めて力を得た時って誰でも浮かれんだよな。俺も自転車に初めて乗った時、どこまでも行けるような錯覚に陥ったもんな………まぁ、その後すぐに転んだんだけどな
「なぁ狩虎、1つだけ質問がある。たったの1つだけだ、すぐに終わるさ」
グレンが聞いてくる
「最後のエンタの一撃はなぜ決まったんだ?こんな事言うのもあれだが、俺の分身は結構強い。エンタのような巨漢な足音ならまず聞き逃すはずがないんだ。それなのに全然気づいていなかった……なんか仕掛けがあるんだろ?」
「………仕掛けもクソもないですよ。この剣でエンタを瞬間移動させただけです」
「はぁん………その剣は使用者以外も瞬間移動させる事ができるのか………驚きだなぁ。………流石は魔剣と言ったところか」
…………え?
「まさか、この剣の事知ってるんですか?」
「知ってるに決まってるじゃないの。こんな有名な剣、鎧ばっか作ってる俺にも嫌でも耳に入ってくる。伝説の剣だろうが」
「えーっと………それじゃあつまり………」
「ああ、お前が何者かももう理解した。」
キャァァアアア!!!何て事だぁぁああ!!せっかく頑張って合格したのにぃぃいいい!
「まっ、それでも合格にしてやるよ。お前に害がないのは分かったからな。」
「………え?まじすか?」
「ああ、マジだ。お前は魔族というよりかは勇者寄りだ。それに、エンタみたいな情けない奴に勇気を与える事ができたんだからな。それが勇者の本質だ。人を導く才能が、お前にはあるんだよ。やはり俺の目に狂いはなかったな」
……………よかったーーー!!!これで試験合格だ!!てことはあれか?もしかしてあれですか!?
「てことはもしかして!あれ………えーっと、なんだっけ?あれってなんだっけ?」
バタリ。
急に体に力が入らなくなり、俺は地面に倒れこむ。
あ、これ、血が足りないやつだ。
俺はそのまま意識を失った
「ってストーリーを終わらせてたまるか!!」
俺は勢いよく飛び起きると、目の前には見慣れない光景が広がっていた。
木造の建物だ………一体ここは
「お兄さん!やっと目が覚めたね!」
うおお!!
いきなり真横に亜花君が!なんだこれ!一体どういう事なんだ!!
「それじゃあ僕先生に報告してくるからまだ寝ててね!ビューーン!!」
そう言うと亜花君は走ってこの部屋から出て行った。
…………やっぱり、元気な男の子だなぁ。
俺はグルリと部屋を見渡す。うーむ、質素な部屋だ。人が住む部屋ではないな。どちらかっていうと入院患者ようだ。
「オーッスオッスオッス、元気してたかね狩虎君」
そう言いながらグレンとエンタが部屋に入ってくる。
「お前がぶっ倒れたからこの部屋に運んできたんだ。そのベッドのお陰で怪我は治っているはずだ」
おっ、確かに。もう顔面がヒリヒリしないぞ
「俺ってどのくらい寝てました?」
「1時間程度だ。普通は1日ぐらい寝るはずなんだけどな…………お前の生命力は一体どうなってんだ」
…………こっちが聞きたいよ
「それじゃあさっさとお前の鎧を作ってやろうじゃないの。エンタの分はもう作っちゃったからな」
なっ…………俺はエンタの方を凝視する。
確かに、鎧を着ていた。茶色の鎧だ。これと言っていう事はない、茶色の鎧だ。
「どうよ狩虎、カッコいいか?」
両腕を上げてカッコつけるエンタ。
………何度も言おう。普通の茶色の鎧だ。
「俺が作る鎧は使用者の魔力に合わせて作るんだ。だから、エンタの鎧はこいつの筋肉の膨張に合わせて伸び縮みするように作ってあるんだ。んで、伸び縮みするから柄を入れられなくてこんな地味になってしまってな………狩虎、なんか一言でいい、エンタを慰めてやってくれ」
「……………」「……………」
俺とエンタでグレンを凝視する。
それってつまりお前の力量不足じゃないかよ。なんでそれで、エンタを慰めなきゃいけないんだよ。意味がわからん!
「…………わ、わぁ!エンタのその茶色の鎧カッコいい!!まるで生チョコレートみたい!!」
「………………」
場に変な空気が流れる。
…………こうなると思ったよ!!
「…………さて、それじゃあ狩虎、お前の鎧を作るとするか」
「おい!責任を取れ!今この空気に無理矢理させたお前が、俺に、責任を取りやがれ!!これじゃまるで俺が滑ったみたいじゃないか!!認めないぞ!俺は絶対に認めないぞぉぉお!!!」
俺は布団から勢いよく立ち上がり、グレンに指を突きつける!
「だーーっ、わかったわかった。責任とっていい鎧作ってやっから。………んで、そこで頼みたい事があるんだが、お前の鎧を出してくれ」
「………鎧っていうのはあっち側の?」
「ああ、あっち側のだ。」
何でそんなのを使うんだ…………
俺はあっち側の鎧を炎と一緒に出現させる
ゴツゴツの真紅の鎧一式が部屋に現れる。
「おお、こいつは壮大だな………ん?そう言えばこの鎧どっかで見た事あるな。確かま………」
「あ、ああ!!出した!出したぞ鎧を!!それでどうするんだ!?一体こいつをどう利用するんだ!?」
無理矢理話題を変える!魔族だと知られただけなら彼らは何も表情を変えなかったが、さすがに魔王はダメだろ。それは俺、ぶっ殺されるよ。
「………まぁいいか。んで、この鎧を出してもらったのは他でもない。こいつをお前の鎧の素材に使おうと思ったんだ。」
「…………まじすか?」
「ああ、マジだ。ここまでとびきり上位の鎧だ、最高の素材になるぞ。それに、俺のコレクションの最高の素材も使ってやる。最高の鎧を作ってやるさ」
「お、おお………なんかすいません。こんな俺にそんな一丁前の鎧を作ってもらって」
なんか………サービスがよすぎて気がひけるレベルだ
「良いんだよ。俺の生きがいは、気に入った人間に最高の鎧を作ってやることだ。そのためにわざわざこんなかったるい勇検の試験者なんてのを引き受けたんだからな」
ほーーー凄いな、その仕事に傾ける情熱は。
「なのによ、ここ最近の試験者にはロクな奴がいなかった!ありゃダメだ、地位にしか目がいってねぇ。あんな奴らに鎧を作りたくなかったんだよ俺は!」
「で、でもさすがに鎧を作ったんですよね?それがしきたりなんですよね?」
「ああ、さすがに作った。俺も鎧師だからな、作る以上は最高の鎧を作んなきゃ何ねーのよ。………まっ、材料はそこらへんの石ころですましたけどな」
えええええええええ!!!!!
何てことしてんだこの人!!石ころで最高の鎧を作っても、そりゃただのクズだ!なんてものを命の危険がある騎士に渡してんだ!!
「良いんだよ。鎧は人の命を守るものって言ってるけどな、上位の奴らの剣を受け止めきれるほど頑丈じゃない。石だろうとなんだろうと、一撃くらったら終わりなんだよ。だからな、実力がない人間が上等な鎧を着るのは間違いだ。あいつらには石ころがお似合いなんだよ」
…………まぁ、なんとなく一理あるな。
「まっ、とにかく、俺が最高の鎧を作ってやるって言ってんだよ。使わせろって言ってんだよ。それならさっさと俺に渡しやがれ。それがお前の誠意ってもんじゃないのか?」
ええええ…………自己中心的だ!!やっぱりあれだな、第二類勇者は自分勝手な奴が多い。
だがまぁ………
「分かりました。それじゃあさっさと渡します。俺も良い加減、戦場を制服で走り回るのは嫌だったんですよ」
俺は鎧をグレンに預ける。
…………なんだろうな、忌々しい鎧だけど、少し手放すのは悲しいかな。愛着っていうのかな、よく分からないけど。
「オーケー。それじゃあ今この場でさっさと作ってやるよ」
そう言うとグレンはポケットからもう3つ、別の素材を出す
「さぁて、これから作るのはグレン=クルーガーの最大傑作だ。お前ら瞬き厳禁よ?」
4つの素材が宙を浮き、眩く光り出す。
ぐるぐるぐるぐると綺麗に輪を作りながら素材が集まっていく。
「第1の素材は幻獣タナトスの鎌の欠片。死を操る稀代の一振りだ」
パァン!!
鎌の欠片がまばゆい光を放ちながら弾けて消える
「第2の素材は海神リヴァイアサンの牙。無限に湧き出るその水は、まるで永遠の生命を映し出すかのようだ。」
パァン!!
リヴァイアサンの牙もまた、眩い光を放ちながら弾けて消えていく
「さて、お次の素材は天使ラファエルの竪琴だ。それが生み出される音色は、誰だろうと魅惑する」
パパアーン!!
さっきよりも眩い光を出して弾けて消える
「さて、第4の素材は………もう説明は良いだろう。魔王の鎧だ。真っ赤ったらありゃしないな」
!!…………やっぱごまかしきれなかったか
「まぁ気にすんな。お前が魔王だろうと今の俺には関係ない。相手がどんなやつだろうと、気に入ったらそいつをそんな、身分で見ることはないからな」
パァァアンンン!!!
さっきよりも巨大な光を生み出しながら鎧は消えていく
ググググググググ!!!!
巨大な光は勢い良く回転しながら部屋中を明るく照らす。
なんて強い光だ!眩しくて、全然直視できない!
「瞬き厳禁って言ったろ?今から、最高に、派手なのを1発出すんだからな」
グレンの右手に小さな小槌が出現する
「打ち鳴らせ!魂の息吹を!!」
キン!!!!!
小槌が光を思いっきり叩くと今まで以上に眩い光が発せられる!!
ぐぁぁああ!!!目がァア目がァア!!!
ぎゅおおおおおお!!!!
そして、あちこちに発せられた光は一箇所にまるで吸い込まれるように集まり、そして……
ガシャン
1つの鎧が生み出された。
赤と青がなんの秩序もなく描かれている。だが、なぜか、そこに規則性が見つかるような気もしてしまう、不思議な鎧だ。
「こいつが表しているのは混沌と調停だ。まるでお前みたいだろ。トイレ行きたいって喚き散らすかと思えば人間を成長させる。まさしくお前にふさわしい鎧だ」
…………おかしいな、嬉しいはずなのに、全然嬉しくない。
「そして俺は太っ腹だからな、さらなるオプションを付けてやるぜ!」
「な、なんだってぇー!?こんなに素晴らしい鎧をもらったってのに、更に特典をつけてくださるっていうんですかー!?」
通販番組のサクラみたいな反応をしてしまった。
「おうそうだ!なんと今なら、この亜花もお前にあげちゃうぜ!」
ダン!と、いつの間にか来ていた亜花君を俺の膝に乗っける
「おい、ちょっと待てよ。なに鎧のオプションで人をプレゼントしてんだよ。馬鹿か?いや、畜生か?あんたは畜生道に落ちるべきまごうことなきど畜生なのか?」
「ば…………なに言ってんだよ。別に俺は面倒ごとを人に押し付けたいって訳じゃねーんだよ。ただ、ほら、こういうだろ?[可愛い子にも旅をさせろ]ってな。良い経験になると思うんだ、亜花にとっても、お前にとっても………」
「なに言ってんだよおい。自分でさせろよ。俺は子供1人を預かれるほどできた人間じゃないんだよ。早生まれだぞ?」
「早生まれは関係ないだろ。てか頼むよーー亜花を預かってくれよーーさもなきゃ鎧の代金払えよーー」
「脅し方がエグい!!鎧の素材にあからさまに伝説上のモンスターとか神とか天使とか盛り込んでおいてその交換条件はおかしい!!さっき素材名を言ったのはカッコつけるためでもなくて俺を脅迫するためだったのか!」
「まあな………まっ、でもさっき言ったことは嘘じゃない。今のままじゃ亜花は壊してばっかのダメ人間だ。でもな、お前みたいな教育上手な人間に預けたら、亜花も変わるかもしれないだろ?」
「………お、おう。褒められるとちょっと反応し辛いな………」
なんだよいきなりほめてきやがって………
「俺はお前を見込んで頼んでるんだ。可能性のある人間に、可能性のある人間を預けることなんてのは良くある話だろ?……お前なら、こいつを変えられると信じてんだよ俺は」
「………………」
俺は膝の上の亜花君を見る。
ダーツの矢の部分を削って作っている。………が、途中で壊してしまっている。すごくがっかりした顔になっている。
………この子を育てるねぇ……………難しいんじゃないかなぁ。
「まっ、分かりましたよ。俺もこの子が結構好きですからね。それに、見込まれて頼まれた依頼を断るほど、俺は薄情者じゃない。騙されたと思いながらも教育しますよ」
グッとガッツポーズをとるグレン。
グッじゃねーよ。喜んでんじゃねーよ。
俺はベッドから出ると、鎧を着る。
おっ、ちょうど良い………やっぱり変人だが腕は確かなようだ。俺の体にフィットするぞ。
鏡がないからなんとも言えないが、結構似合ってんじゃない?
「ヒューー!カッコ良いじゃないの。さすがは俺の自信作だな。」
こっちを褒めやがれ!鎧じゃなくて、もっと別の部分をだな!
俺は亜花君と手を繋ぎながら部屋を後に………しようと思ったのだが、少し、聞きたいことがあったから立ち止まった。
「なぁグレン。1つだけ質問があるんだ。」
「なんだ?なんでも聞いてくれて構わないぞ。」
「実は俺とエンタが2人になった時に俺達の合格は決まってたんじゃないのか?」
「………え?」
エンタから驚きの声が漏れる。
「………なんでそう思うんだ?」
「これは完璧に推測なんだ。確証もない。ただの憶測だ。間違ってたら笑って否定してくれ。」
グレンの表情は………変わらない。
「俺は4時試験中に試験者に攻撃されたんだ。きっと、試験者を削るのが目的だと思うんだが………それだと少しおかしくないか?エンタの話だと毎年大量の試験者が合格しているらしいじゃないか。つまり、試験さえ通れば全員合格ってことだ。それなのに人数を削る?バカじゃないのか?だから俺は、こう思った。[この攻撃してきた試験者は、どこかでグレンの話を盗み聞いていて、そして試験者を削ってた]んだとな。んで、グレンの話ってなんだ?そりゃ決まってんだろ。合格者の人数制限だ。きっと、最後の〜人になったら合格ってやつだろ。だから俺は、こんなさっきのように思ったんだ。俺たちが2人になった時点で、試験に合格してたんじゃないのか?ってな」
「……………ふっ」
グレンはニヤッと笑った。
「そんなわけがないだろ?俺は厳しい男だからな。そんな、生易しい難易度には設定してないぞ。手加減も一切していない。この試験を合格したのはお前らの力だ。俺からの施しは一片たりとも………ない。」
そう言うと、グレンはそっぽを向いた。
……………やっぱり、優しいなこの人は。いや、優しいんじゃなくて甘いのかな?………やっぱり優しいのか。なんだかんだ言って亜花君の面倒を見ていたわけだし………あの狂った難易度の試験にも、必要最低限の合格者は約束していたわけだもんな。
「ありがとうございました。」そう言うと、俺は部屋から出た。
「いやーーしかしよかったよな。俺たち試験に合格できたんだぜ?凄くないか?」
部屋を出て、建物の中をエンタと亜花君と一緒に彷徨う。出口がどこなのか分からないのだ。
「そうだなーー。めっちゃくちゃむずかったもんな………人生で初めてだぜカンニングなんてしたのは」
「…………え?狩虎お前、カンニングしてたのか?」
「ああ、全然わからなかったからカンニングをしたんだよ。まっ、そのお陰で全問正解だったけどな」
「お前…………余裕そうな顔して結構危ない橋を渡ってたのな」
エンタが呆れる
「良いんだよ別に。合格した、価値はそこにある。重要なのは過程ではない結果である。そう筧君も言ってただろ?」
「………………」
エンタが急に黙る。
「……………はぁ、エンタ。お前なぁ、なん」
「分かってる!もうわかってるぞ俺は!」
エンタがガハッハッハッハッハッ!!と笑い出す
「この俺が、なんでそんな事で落ち込むと思ってるんだ?筧なんてそんなの、人差し指でこうよ」
そう言うと、エンタは人差し指でデコピンをする
「俺はもう逃げないよ。逃げないって決めたからな。それなのに、また生き方を変えるなんてアホくさいだけだ。なぁ?そうだろう?」
……………いいねぇエンタ。
バシン!!
俺はエンタの背中を思いっきり叩く!
「その意気だぜエンタ!そのままずっと突っ走れば、お前は憧れの人に会える!俺が保証する!」
「え、えええ!?そんな、高音の花のような存在であるイリナさんに!?無理だって!!俺みたいな庶民じゃ………」
「だーかーらー!俺を信じろっての!!俺がいままでお前に嘘をついたことがあるってのか?…………よく考えたらあったな。堂々と嘘ついてたな」
「は、はぁ!?なんで堂々とそんな事言うんだよ!言うなよそんな友情に亀裂が入るような事!!」
エンタが落ち込む。
「はっはっ、まっいいじゃない。今回の嘘は、お前にとっては利益になる事だからな。そう落ち込むなって」
「いや………利益になる嘘なんてあってたまるか。嘘っていうのはどんな時でもダメな事なんだよ。」
「まったく………分かってないなーー。お前のためにならないから、隠す嘘ってのもあるんだぞ?」
「俺のためにならない?一体どういう事だよ。実は俺は強いとかか?そんなのわかってるよ、お前は十分に強いよ」
「んなわけないだろ、俺は弱いよ。お前にとどめを刺してもらわなかったら今回の試験は合格できなかったからな………じゃなくて、他にもあるだろ?利益になるような嘘がよ」
「はぁ?………そんなの、あるわけが…………」
「おーい、ミフィー君!」
聞き慣れた声が、前方から聞こえてきた。
俺は顔を上げると、そこにはイリナがいた。後ろには染島さんと黒垓君が立っている
全く………タイミング最高だぜ。
「な?あったろ?俺がイリナと知り合いだなんて言ったら、お前頑張らなかったろ?イリナとのパイプが出来ちまうんだからな。」
「え………だって……………え?」
エンタが驚いた顔でまごつく
…………予想通りすぎて、笑っちまうぜ。
「勇気出してけよエンタ。お前が今のまま頑張り続けたら、イリナに会えると俺は再度約束しよう。…………負けんなよ、エンタ」
俺は亜花君と一緒に扉の方へと歩いていく。
だが、俺は立ち止まる。もう一言あるべきだな。このままじゃあっさりすぎる。
俺はエンタに向き直り、指をさす
「過程じゃない、結果なんだぜエンタ。いままでお前がどう生きてきたか、じゃない。今お前がどうあるのか、今お前はどうしたいのか、それが大切なんだ。[今]を誇りに思え。過去なんて下らないものに縛られるんなよ」
俺は言い終わると、歩き出した。
必要最低限は言った。後は自分で言葉を見つけ出していくしかない。
哲学は、自分で生み出してこその哲学なのだから。
スタスタ
イリナの元まで歩いてきた
「…………ねぇ、何その子供」
イリナに亜花君を指摘される
「ああ、この子?預かる事になった」
「預かるって、あんた何言ってんの!?」
ベシン!イリナに思いっきり頭を叩かれる!
「私達まだ高校生の身分だよ!?子供を預かるなんて荷が重い事出来るわけないでしょうが!!」
「まぁまぁ、そう怒るなよイリナ。ねぇ、黒垓君に染島さん。可愛い子でしょ?亜花君って言うんですよ。」
「あらーー本当ですねーー。黒垓君に似て可愛らしい子ですねーー。」
「オラに似て?それって事はつまりイケメンって事ですか?………うーん、イケメンって言うよりかは可愛いって感じっすけどね………」
「ちょっ、なに話し逸らしてんのよ!この件についてはまだ私愚痴り足りてないからね!?どんだけ登場しないのよ私!もっとカッコいい勇姿を見せたいのよ!分かる!?」
「いや………それを俺に言われてもね…………」
俺達は扉をくぐり、勇者領へと帰っていく。
長くて濃厚な2日間だった。良い経験にもなったし、それに、面白いやつらとも知り合う事ができた。ただ、まぁ、いつものメンツとそこまで喋れなかったのが、少し悔やまれると言うか……………
「そう言えば、昨夜のテレパシーの話なんだけど………」
前言撤回。喋らなかった方が良かったと今俺は全力で悔やんでいる!
「…………なぁ、イリナ。男っていうのはだな、どうでもいい時に下ネタが閃いてしまって、その下ネタを人に披露したくなるという悲しい性を持つ生き物なんだ。………なぁ、イリナ。こんな悲しい宿命を持った俺がかわいそうだと思わないか?」
「全然。むしろ、今回のストーリーについての不満とイラつきの発散を正当にできるから嬉しく思っているぐらい」
ベキベキベキ!!
イリナの手の骨がありえない音量で鳴る。
「あ………あ、ああぁ……………現実的逃避行!」
俺は黒垓君の扉をくぐり勇者領に飛び出す!あとはここから物陰に隠れてイリナの視線からはずれ………
ガシ!!
俺の肩をおててが力強く握りしめた。握りしめたがおかしい?………おかしくないんだなぁ、これが。
「お顔、おかり申し上げますわ」
勇者領に俺の悲鳴が響いた
うおおお!もう出さない!もう出さないと私は誓います!!!!
重要関連作品
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/




