木!剣!木!
水を広範囲に流し、近くに敵がいないかを伺う。
死体を見るにやはりこれは人の仕業だ。貫く魔力……そういや前にもこんなことが出来る奴がいたな。確かそいつは遠距離から攻撃をしてきたはず…………
ヒュン!
俺の右側にあった茂みからナイフが飛んでくる!
「あっぶね!」
俺はそれを体を捻ることでかわす。
釘の時もそうだった、動きが直線的でトロいため体を少し動かすだけでかわせてしまうのだ。
グイン!
けれど、今回の攻撃は一味違うようだ。かわしたナイフが途中で軌道を変えて俺の方に再度向かってくる!
まじですか!そんなの俺聞いてないんですけど!
完璧に俺の背後にあるナイフ。
あまりにも予想外すぎて反応が遅れてしまった。
うおおお!やばいやばいやばい!もう1メートルもねーよ!かわさ…………かわせねーよ!
チャポン
間一髪俺とナイフの間に水を滑らせることが出来た。水の抵抗力で減速したナイフは水の中で停止した。
………さすがに液体に穴は開けられないか。この能力の欠点が少し見えてきたな。
俺は水を操って死体を物色する。
…………やはり金品はあるな。これで確定だ、こいつは試験者による試験者狩りだ。
夜、モンスターに怯えながら目的地に向かっている試験者が休憩をしたいと考えるのは当然で、その時にこんな巨木を見たらまっさきにこの場所に来るだろう。木の高いところに登ればモンスターには攻撃されないし、葉っぱが生い茂ってるから隠れるにはうってつけ。枝も太いから体をしっかり固定できる。完璧な休憩場所だ。そこを、このナイフを投げてきた試験者は狙ってきたってところか。
俺は再度辺りを見渡す。
ここまで考えれるやつだ、何か他に準備があるに違いない。警戒しとかなくてはな…………
ピュピュン!
ナイフが2本、別方向から飛んでくる!
二箇所から同時に!?まさか敵は複数か!?………いや、どうだろうか。それぞれ2つのナイフと俺との距離が違うところが少し気になるな……………
俺は2つのナイフをささっかわす。
だけれど一回かわすだけじゃダメだ。多分このナイフは…………
かわした先を見るとナイフの2つともが俺の方に再度向かってきていた
やはりか!
俺はまたそれをかわすと、またナイフは方向を変えて俺の方へと飛んでくる。
追尾弾だ。どうやら相手の魔力は[追尾してぶつかった物体に穴を開ける]ことらしい。
…………なにこれ。ちょっと強すぎないですかね?
俺は水で2つのナイフの動きを止める!
ただ、救いがあるとすれば俺の水でなら攻撃を止めれるって所か………なるほど、また俺は防御に徹しなきゃいけないんですね。よくわかりました!ああ、もう、なんだこの世界!この世界は俺にサンドバッグになることを望んでんのか!?
ピュピュンピュンピュン!
投げられるナイフの数は増していき、それを俺はギリギリでかわしながら水でナイフを受け止めていく。本当ギリギリ。この目がなかったら確実に当たってるよ。
くそっ、移動しながら真横とかにナイフを投げてるな!これじゃ相手の位置を割り出すのが難しい!水の行動範囲を100メートルにまで広げて索敵するのもいいけれど、結構な水の量を使ってしまう。今俺は勇者の身、いや、勇者でもないか。ただの一般人の身。そこまで魔力量は多くないんですよ。
パァン!!
俺が図りあぐねていると、空気が破裂するような音が聞こえた。
…………あぶねぇ!
とっさに作った水の壁の中に、真っ黒な弾丸が1発あった。真っ黒だ。本当、こいつにはいい感情がわかない。カッコいいとか全然思えない。
俺は自分の周りに分厚めの水の壁を形成していく。本当はこれは使いたくないんだよ。完璧に防御の体勢になってしまうから
冗談じゃないよ!ナイフですら困ってたっていうのになんで鉄砲使っちゃうんですかね!?
いや、待てよ?玉の大きさからして拳銃だな。拳銃の詳しい適性射程距離ってのは分からないけれど、そこまで長くないんじゃないのか?100メートル以下…………それぐらいかもしれない。それにいままでの魔力によるナイフの軌道修正率も結構低かった。ナイフの速度であんなに小さいんだ。拳銃の速度ならそこまで軌道修正はされないはず。
そう考えるとやはり相手がいるのは俺の場所から半径100メートル以内?…………まじめに水を使っての索敵も視野に入れとくべきかもしれないな。
パァン!パパァン!!
色々な方向から弾丸が飛んでくる!俺はそれを先回りして水を配置して弾丸を受け止める!
目でだけなら弾丸は追えるのだけれど、俺の体と水の魔力じゃ見えてからでは防御が間に合わない。相手は動きながら撃っているから、相手が動いている範囲をある程度予想して水の壁を出現させないと防ぎきれない!
次々と撃ちだされる弾丸の発射ポイントを記憶し線でつなぎ、相手の2手先の移動範囲を割り出す。
ある程度までなら予測は可能だ。これで防御は可能となったわけだ。けれどやはり突破口がないことには変わりがない。このままじゃサンドバッグのままだ…………っ!?
敵の拳銃攻撃をガードしていると、俺の背後からナイフが飛んできた!
あの野郎!ナイフを思いっきり外して投げやがったな!視界にとらえきれなかったぞ!
俺は剣を引き抜きナイフの側面を思いっきり叩く!
カキーーン!
そのままナイフは吹き飛び地面を転がった!
まだだ!まだこれだけで終わるわけがない!完璧に今ので俺に隙ができたもんな!
パパパパパパン!!!
無数の弾丸が俺に向けて放たれる!
くっそ、どうすんだよ!このままじゃ確実に直撃だ!少量の水を今から出したところであの弾丸全てを遮れるわけがない!過疎になった部分を集中的に狙われてジエンドだ!
せめて1度に大量の水を生み出せる魔力があれば!
ブゥゥウンン
俺の右手に携えた剣が青色に光り出す。
一か八かだ!俺が今出せる最大量の水を一気に出して弾丸の軌道をずらす!運が良ければくらうのは1、2発で済む!
ダン!
左足で地面を思いっきり踏み鳴らす!
ドドドドドドドドッッ!!
俺の足元から巨大な水が出現して、沢山ある弾丸を全て飲み込み、弾丸が飛んできた方向へと襲いかかる!
周りの地面をえぐりながら敵へと向かい流れていく姿はまさに濁流。濁流というかなんといのかな…………巨大な生き物みたいだ。通過する木々を削り水で濡らしていく。
……………はぁ?なんだこの量は。俺の最大量を軽く超えているぞ?
ズズズンン
何本か木々が倒れていく。
水が通った跡がはっきりとわかるぐらい地面はグチャグチャのヌチャヌチャで、石なんて何1つとしてない。なんつー量と勢いだ。俺の水の魔力の限界量のさらに上だ。一体どこからそんな魔力が……………あっ、そうか。
俺は大きめな木に向かい手を向ける。
そう言えば俺の体の周りには封じきれなかった魔族側の魔力が漂っているんだった。てことはあれか?今俺は無意識的に魔族側の魔力を勇者側の魔力に変換したってことか?………おいおい、そんな無茶を俺が出来るっていうのか?少し試してみるか。
俺は思いっきり水を放出する!
が、それでも量は多寡が知れていた。さっきの量とは比べものにならないほど少ない。
くそっ、やはりさっきのはマグレだったのか。頭の中で魔力が変換するイメージをずっと反復しているが全然できる気がしないし、さっきは無我夢中でやってしまったから感覚なんてくそも覚えてないし…………困ったな。自己強化の方向性を見つけたのに方法が思いつかん。
俺は再度大量の水を出した方向に向き直す。
ひとまずは俺を狙っている敵をどうにかすることが先決だ。さっきの水であいつを倒せたなんてこれっぽっちも思えないからな。けれど相手は今んところ攻撃してきてないからある程度ダメージを負ったのか?………今が攻め時だな。
俺は水が向かっていった方向へと走り出す。
そして、ほんの少し走ると地面にナイフと拳銃が転がっていた。
あの水の勢いで武器を離したな。今相手は丸腰…………水を拡散させて敵の探知に専念するべきか。
俺は全ての水を使って広範囲の索敵をする。
水を全て使ったところで索敵範囲は200メートルか…………やはりしょぼいな。
…………おかしい、全然見つからないぞ。
索敵をして2分、一向に敵を捕捉できない。あいつの攻撃範囲はナイフと拳銃を利用しても100メートル以内だ。ここまで探して見つからないなんておかしいぞ…………まさか逃げたのか?
それはありえるな。武器を失ったんだ、あの魔力の都合上接近戦は不利だから逃げるのは合理的な戦法だ。
キラリっ
俺が周りを見ていると、キラリと光る何かが見えた。
…………まさか
人が高めの木に登りこちらに銃を向けていた。砲身が短い狙撃銃。黒々としていて………あっ、これは翔石君から聞いたことがあるやつだな。姿も名前も特徴的だから覚えているぞ。
VSSって言ってソ連で開発された狙撃銃だ。狙撃銃のくせに射程が400メートルなんだよな。弾速も音速は超えない。けれど消音性に優れていて貫通力も高い。これ用の徹甲弾とかあるぐらいで、このような接近戦には丁度いいんだよな。
えーっと、俺と相手との距離はざっと300メートルか。どうりで水の索敵じゃ見つからないわけだ。納得だよ俺は。それに相手の魔力のお陰で少しくらいのズレなら修正されると。
うん、うん………うん………………
ジャストじゃねーか!!!!
俺は急いで水の壁を………
パシュン!!
俺が防御しようとする前に、相手は弾丸を発射する!!
見えるけど…………これは、速すぎる!絶対間に合わな………!!!
バキキキキッッッッ!!!
木が裂ける音が聞こえた。高速の弾丸が木にぶつかりめりこんだんだろう。
木にぶつかる?………一体どういうことだよ。
俺は閉じた目を開いた。
すると、俺の目の前に巨大な木が出現していた。俺の胴が6つ分ぐらいの太さの巨大な木だ。月光に照らされて俺に大きな影を落としていた。
「人が気持ちよく寝てたのにドンチャカしやがって…………私は眠いんだよ。やるなら他所でやってくれよ」
俺の背後から現れる人影。
ああ、なんでいるんだよここに。寝るなら家で寝ろよな。
「まっ、可愛い同級生がピンチだっていうのならやぶさかではあるが助けてやってもいいぞ?助けなかった方が夢見心地が悪そうだからな」
俺の肩をポンと叩く女性。
まったく、カッコいいったらありゃしないな。そりゃ男女共々に惚れられるわ。
「助かったぜ宏美。お前、まさかあの木の上で寝てたのか?」
パキュンンン!!
弾丸がまたも発射されるが、宏美が生み出す植物によりことごとく防がれる
「ああ、少し外で寝たくなってな。夜の森っていうのは気持ちがいいもんだな、空気も美味いし木の葉が揺れる音も心地いいし………狩虎も一度はやってみたらどうだ?」
「悲しいことに俺はもう経験済みでな。そこまでいい思い出じゃないんだ。遠慮しとくよ」
「そうか………それよりなんで狩虎がここにいるんだ?私からすればそっちの方が疑問だぞ。こんな夜中にこんな森で戦ってるなんて」
パキュンンンパキュンンン!!!
俺と宏美の会話中常に放たれる弾丸。彼はきっとここで決着をつけたいのだろう。
「勇者の鎧をもらうための試験を受けてるんだ。これが何気にハードでな、こんな時間でも試験中なわけよ。もっと試験者を労われっつうの。」
「はーーん、なるほどなぁ。…………さて、」
パキュンンン!!!
俺と宏美を敵から守る木を執拗に撃ち続ける敵。
「あれうるさくない?」
バキバキバキバキバキ!!!!!
敵がいる部分から急速に自然が生み出され敵を巻き込みながら成長していく。
一瞬で高さが100メートルぐらいになり、敵は100メートル上空に拘束された。
………相手の狙撃銃の売りは消音性なんだけどな…………まぁ、わからんでもない。
「…………さて、宏美。わかっていると思うが」
「ああ、ここは私のフィールドだ。手に取るようにわかるぞ。」
ガガガガガがががが!!!!!
俺達の背後で立て続けに木を砕く音が聞こえた。振り向くと、そこには足を枝に掴まれてダラーんとぶら下がる男が1人。
あの枝が通った跡と思われるところには倒壊している木々が10本ほど。
きっと、あの枝はあの男を高速で振り回してあの木にぶつけてあの木々をへし折ったのだろう。10本ほど。…………背骨が折れてないことを切実に願うばかりである。
さっきのあの狙撃銃の男の能力はどうやら[追尾]であるようだ。ナイフといい拳銃といい狙撃銃といい恐ろしい命中精度を放っていた。けれど、宏美が生み出した木を狙撃銃が撃った時、木に穴は開いていなかった。つまり、あの狙撃銃の男に[穴を開ける能力]はないってことになる。
それじゃあもう1人いるってことになるじゃないか。穴を開ける能力者がさ
「いやーーしかし助かったよ宏美。お前がいなかったら俺死んでたわ」
はっはっはっはっと笑う俺。
いやーー本当危なかった。俺ごときじゃ狙撃銃をかわしたり受け止めることはできないのよ。イリナとか黒垓君レベルなら余裕なんだろうけどな。…………ん?
ズズズ
宏美の背後に穴が生まれていた。そして、そこから………拳銃の銃身が現れる!
敵がもう1人!?なんでだ!?だって穴を開けるやつは…………ああそうか!なんで気づかなかったんだ!俺達試験者は剣しか支給されていなかったのにあいつらはナイフとか銃を持ってやがったってことは少なくとも1人、空間移動系の魔力を持った人間がいるってことになるじゃないか!!なんでこんなことを失念していたんだ!!!
「宏美!!伏せろ!!」
「…………はぁ、狩虎。さっき私は言ったろ?[ここは私のフィールドだ]ってな」
「ギャァァァァァアアアア!!!!!」
手だけ出てきた穴から男の断末魔と血飛沫が飛んでくる。
「自然さえあれば私はどこまでも感知できる。つまり私の今の感知可能距離は半径16キロだ」
…………わぁ、俺の水の索敵距離の何倍だろう。
「さて、これで片付いたな。………狩虎、少し質問があるんだが」
「ああ、なぜ炎を使わないのか?だろ?そこはまぁ、色々とあるわけだけれど要は封印中だ。黒歴史を隠したがる高校生がいるだろ?あれと同じ心境よ」
知られたら恥ずかしいっていうのかな………こんな過去があったなんて知られたくないじゃない。俺のなら特にな………
「………そうか。まっ、死なない程度に頑張ればいいんじゃないか?その試験とかいうのを合格して月曜日ちゃんと学校に来いよ」
そう言うと宏美は大きな木がある方向へと歩いていく。
「…………え?ちょっと、俺の手伝いしてくれよ。この森抜けるまで俺のボディーガードをやってくれるとかさ、こんなに頼もしい味方キャラを手放したくないぜ俺は」
魔王様を俺の横に侍らせれればこれほどまで心強いことはないだろ。絶対に負ける気がしないぜ。
「嫌だよ。私は眠たいし、何よりも肌が荒れてしまう。たとえ狩虎だろうと私の美容を阻害する権利はないからな」
…………マジですか
「そ、そこをなんとか!こんなか弱い男の子を森に一人ぼっちにさせるなんて、心苦しいと思わないのかい!?」
「………もう、狩虎。仕方ないなぁ。」
頬を膨らませながらこちらへと来てくれる宏美。
あはーー可愛いじゃないの。異性からの熱烈な申し出には断れない女性って、なんかこう、可愛いよね。恥じらいじゃないけど女子らしいっていうかそのか弱さが、守りたくなるっていうか……………
ズン!!!!
宏美のボディーブローが腹に炸裂する!!
「ブッっっ!!!」
俺はそのまま膝をついて倒れる!
おかしい!おかしいぞ!俺は防御力だけは高いはずだ!それなのに素の宏美の一撃で膝をつくなんて!
「また粘着的に私に懇願してきたら、次は体に穴が空くからな。注意するんだな」
そう言うと宏美はさっさと歩いて行ってしまった。
…………俺の防御力が高い理由がわかった。魔力によって体を覆われているからじゃなくて、毎日宏美に殴られているから体が頑丈になってるだけだ……………
俺はそのままぶっ倒れた、
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