点検しなきゃこうなる
「うぉぉおあああ!!!逃げろ逃げろにげっっ!!!」
ズドンン!!!
悲鳴をあげる間もなく男達は亜花君の一撃によって沈んでいく。いや、吹き飛んで体が粉々だから沈んでいくだとちょっと弱いか……………
メシメシメシッ…………メシャァア!!!ドゴン!!バゴン!!ズダダダダダダダンンンン!!!!
街が軋み震え崩れ落ちていく。
うわぁぁぁ……………何この地獄絵図。勇者の試験とか言ってたけどこれはちょっと加減を知らない馬鹿だわ。処刑だよ処刑。町っていう処刑場で、試験という名目を利用して公正に行われている殺戮だよ。
逃げ惑う男達の悲鳴。倒壊する家屋の音。そして、亜花君の笑い声……………ダメだ、泣けてくる。
1番先に逃げることができた俺は誰よりも先に建物に隠れることに成功した。
俺が今いるのは14階建てのビルのようなもの。この世界で何と言われているかは知らないけれど、見た目は完璧にビルだ。そして、俺はその7階にいる。亜花君だとビルの壁面を登って屋上に行くことが出来そうだから、仕方なくビルの中層に滞在しているのだ。
……………さて、整理しようか。
今回の試験………つまり二次試験なわけだが、内容は鬼ごっこ。制限時間は30分。外に見える巨大なタイマーを見る限り10分経過して残り20分。鬼は亜花君という笑いながら人を半殺しにする男の子。
試験者の合格条件は制限時間まで逃げ続けること。亜花君を病院送りにすること。
不合格となる条件は病院送りにされること。まぁ、彼の攻撃力なら一撃でもくらえば確実にベッド送りだろう。
「うーーん…………いい感じに行動が制限されるな」
まず俺は足が遅いから、見つかったらゲームオーバーだ。だから俺が今目指すべきなのは逃げ切るのではなくて[隠れきる]。そう考えると今この場所はまさに最適な場所だろう。
足音は響くし、14階建てだし、何より横と奥行きがある。要は広いのだ。隠れるのには最適。また、ここは結構机とか棚とかがあるからもし見つかったとしても視界から外れやすい。
………いや、どうだろうか。俺と彼の足の速さじゃ隠れれたとしても範囲が限られてしまう。ごく限られた範囲にしか俺は隠れれないわけだから、亜花君が近くにあるもの全てを破壊するようなことがあれば俺は確実に見つかってしまう。
それだと亜花君に見つかったとしたら隠れるのは得策じゃないってことか?
「……………武器が必要だ」
隠れれないのならばやはり、逃げ切るしかない。だが俺の能力だけじゃどうしようもない。それならここにある道具をとことん利用させてもらうさ。
今の俺の武器は自分の体じゃない。知恵と道具だ。
そういうわけで俺は5分ほどビル内を物色した。
「……………悲鳴がやんだな」
俺は物色しながら外の様子を見たり聞いたりしていたのだが、ふいに悲鳴がやんだ。しかし、破壊音だけは止まらない。
…………残された試験者が全員隠れたってことか。そして、亜花君はそれをあぶり出すために建物を破壊して回っているってとこか。
そうなれば彼はいずれここに来ることになるだろう。この町で1位か2位を争うような大きさの建物だ。目をひくに違いない。
…………急がなくては
「んふふふふ。楽しいなぁ、楽しいなぁー。」
ドゴン!!
亜花君の拳の一振りで、一軒家の前面が吹き飛ぶ。
やっぱり遊びは楽しいなぁ。
僕は結構鬼ごっこが好きだ。子供の頃からいつもやってた。まぁ、いつも鬼じゃなくて逃げる人だったけど。なんかみんな怖がるんだよなぁ。僕はただ遊びたいだけなのに…………あれ?そう言えば思い出すとここ何年間か友達と鬼ごっこをしてないな。………てか友達って誰だっけ?僕友達いたっけ?…………まぁ、先生がいるからいいか!
壊れた家屋の中から男の人の体が見える。
うはっ、やっと見つけた。…………いや、それじゃあダメだ。僕は鬼なんだから、決め台詞が違うじゃないか。
ジャリっジャリ…………バキ!
砂と瓦礫の道を進んでいき、男の人の肩をたたく。
「みぃつけたぁ」
「あっ……ああっっ……!!」
男の人の顔が面白いことになってる。ああ、きっと鬼につかまって残念なんだね。確かに僕も逃げる人だった時は、捕まった時に悲しい思いをしたもん。
ズバァァア!!!
男の人の肩が凹む。凹むというか陥没する?削げ落ちる?赤くなる?…………まぁいいや。これで何人目だろうか46人目かな?
さぁて、次は誰を捕まえようかな?
顔を上げた時に巨大なビルが視界に入る。
14階建てか……………沢山人がいそうだ。
「今度はあそこかな?」
残り16分…………あと少しで半分だ。
外に浮いているタイマーが16分25秒を示す。
いい感じにアイテムも集まってきたし、このビルにも色々と仕掛けを施すことができた。これなら確実に16分はもつぞ
俺の手元にあるのはめっちゃくちゃ細い糸何百メートルと、ライターとボールペン。使うかどうかは分からないが木工用ボンドとかの接着系も結構ある。
…………寄せ集め感が半端じゃない。
不安だ。なにこれ、よく見るとこんなんで16分ももつわけがない。
なんだよ俺のこの自信はどこから来るんだよ。震源はどこだよ
「…………こんなことで落ち込んでいても始まらない。今俺が確認しなきゃいけないのは亜花君がどこにいるかだ……………」
俺はビルディングの大きな窓から地上を望む。
さすがに14階建てでしかも結構な部屋数があるというのに外の人間に顔を見られるなんてことはないだろう。まして目があうなんてそんなこと………………
右手………特になし。左手…………特になし。遠方…………新たな砂けむりの発生はない。
手前……………っ!?
俺は一瞬でその場に伏せる!
やばい、目があった。亜花君と目があった。なんてこった、なんでこうも俺はフラグというものを回収してしまうんだ。
いや、でもまてよ、もしかしたら勘違いかもしれない。俺は目があったと思っていても実は相手は俺の方を見てなかったとかさ。ただの勘違いってことがあるじゃないか。もしかしたら彼は透視の能力があって俺じゃなくてビルの背後を見ていたのかも…………
俺は恐る恐る窓から顔を出す。
俺の視界に入ったのは下からどんどん指を持ち上げてくる亜花君の姿だった。
…………なんだ?何をしているんだ?
ピタリ
俺の階で亜花君の指が止まる
な な か い
声は聞こえない。だが、口がそう動いた。
ダッ!!
俺は全速力でその場から逃げ出した!
やばいやばいやばいやばい!ここにいたら確実に死ぬ!あの野郎、俺をロックオンしやがった!!
だがまぁ待て、落ち着け。落ち着くんだ俺よ。
たとえ彼の足が速かろうが、7階まで来るのに相当な時間がかかるはずだ。最低30秒は稼げるはず。その間にこの階から離脱すれば……………
バガン!バガン!
階下から何かが粉砕される音が聞こえる。段々とその音は上がってくる。
……………あいつ、階段登らないで天井ぶっ壊しながら来てやがるな!これは大誤算!これならあと12秒ももたない!……………どうするどうする!?
この階にいるのは危険だ。ビルの多層性を利用できるのは相手が俺の位置を知らない時だけ。もし知られているのであればこんなの、得にも何にもなりはしない。もはや損だ。何も考えずに7階のもの全てを破壊されてしまい、亜花君が俺に辿り着く時間が短くなってしまう!
ああ、くそ!俺が用意したトラップは油断している相手の動きを一瞬だけ封じるような、簡易的なトラップだ!今のような状況じゃあ効果は薄い!
床と天井をぶっ壊してどっちかに逃げる?…………ダメだ。俺にはそんな力がない!
ドゴン!!
ああ、また壊されてしまった!3回天井が壊されたってことはもう彼は4階にいるってことだ!あと3回鳴ったらここについてしまう!
ボールペン、糸、接着剤、ライター…………何をどう使う?何をどうすれば…………
俺は地形を把握するために周りを見渡すと、廊下の先に消化器が見えた。
これを使うしかないか……………
ドガン!!
間に合うか!?…………いや、なんとかなる。焦るな、焦ったら余計に遅くなってしまう。常に平常心を、常に何かを考え続けろ!
俺はトラップの準備をこうピッチで続ける!
ああ、くそ!そうだった!準備が早く済んだとしても俺は隠れなきゃなんねーんだった!
時間がねぇ、マジで足りねぇ!
ジジジジ…………
火が何かを熱する。
ドガン!!
くそ!あと一回だ!あと一回で全てを終わらせなくては!
消化器を定位置に設置し、残りの作業に取り掛かる!
ドガン!!
ああ、くそ!せっかく準備が終わったってのにもう来やがった!間に合うか!?間に合うのかぁぁあ!?!?
「とうちゃぁぁあく!!!」
ドン!!
ドアが吹き飛ぶ!!
……隠れられなかったか……………仕方ない、作戦を変えるか。
「みぃつけたぁ………」
亜花君が一歩踏み出す
「おおっと亜花君。それ以上踏み込まないほうがいいぞ。それ以上踏み込んだら俺と君が大変な目に合う。」
ピタリ
亜花君の足が止まる
「大変なこと?………それは痛いことかな?」
「…………まぁ、そんな所だ。でもどうだろうかな。君は俺と違って強いんだろ?それなら君は案外無傷で、俺だけ酷い傷を負ってしまうかも……………」
「じゃあ踏み込んだほうがいいじゃん」
ザリッ
亜花君がもう一歩踏み出す!
「運が悪かったらの話だがな」
プツン
亜花君の一歩で床に張られていた糸が切れる!
限界まで張られた糸が、拘束から解放されたことによって支点がある場所まで高速で戻っていく!
ヒュンん!!
そして、それによって引っ張られ続けた消火器が放たれる!消火器の周りには沢山のボールペンが付けられている。うーーん、刺さったら痛そう。
一応消火器の下に弦を設けておいてよかった。そうじゃないとここまでの速度は出なかっただろうしな……………
「こんなのじゃあ僕は…………」
亜花君はこの速度の消火器が止まって見えるのだろう。ボールペンが付けられていない俺から見て左側面を殴る!
ボンンン!!!
その衝撃で消火器は破裂して粉々に吹き飛ぶ!周りに付けられていたボールペンはあちこちに飛んでいく!
消火器の外表が結構ボロボロだった。きっと、結構な年数放置していたのだろう。この破裂の仕方から見て加圧式消火器か………ああ、道理でボロボロなわけだ。あれ何年か前に製造中止になったもんな。
消火器は破裂すると中身の消化剤を撒き散らす!
あらら、亜花君が真っ白だ。
「あはは………なんだ、これだけ?これじゃあ全然ダメージにならないよ」
亜花君が消化剤を払い落としていく。
「ああ、全くだ。これはただの目潰しと時間稼ぎだ。こんなんでダメージを受けてたら鬼失格だろうな」
俺は右の方をチラッと見る。
そこにはメチャクチャに穴が開けられたガラスと、ボールペンが幾本も突き刺さった黒色やら白色のよくわからない物体が沢山置かれていた。物色しているときにいろいろな大型機械から盗んでおいたのだ。
「知ってるかい?水素電池ってのは結構な電力を供給できるんだ。車とかなんでも動かしてしまうんだぜ。しかも環境にも優しいときた。使ったとしても水しか出ないからな……………」
カチッ
俺はライターに火をつける
「確かに普通の加熱じゃ爆発はしない。いや、どうだったかな?爆発したっけ?…………まぁいいや。そんなことはどうでもいい。」
亜花君はまだ泡を払っている。
きっと俺の話もわからないのだろうし、これから続きが起こるだなんてことも理解してないのだろう。だから余裕でいられる。それぐらい彼と俺との間にはうまらない実力差がある
「普通の状態で加熱して爆発しようがしまいがどうでもいい。穴さえ開ければ結果は見えている。液化されていようがなんであろうが水素は水素だ。すぐに気化するし、それが空気と混ざり合い、そこに火が近づいたらどうなるんだろうな?」
俺はポイッとライターを投げる
ボールペンが突き刺さった大量の物体。結構大型だから派手に爆発するんじゃない?
「爆ぜな」
ドォォォオオオオオンンンンんん!!!!!
酸素と水素が混ざり合った空気に火がつき、眩い光と共に巨大な爆発が起こる!それに空気がまとわりつき、より巨大な爆発となりあたりを焼き焦がす!
消化剤がいくらか体についていようが関係ない。どうせ酸素を奪うタイプだろ?爆発してしまえばそんなの無力だ。
俺は水で体を爆発から守るが、それでも熱い。やっぱ強力だなこの爆発は
爆発は一瞬で終わった。この爆発はライターの火を大きくしただけだからな。どんなに強力でも発生は一瞬なのさ。
ジリリリリリリリ!!!!
爆発に反応して火災報知器が鳴り響き、水が辺りに散布される!
あーーあーーーこりゃ大惨事だ。この部屋のボロボロ具合が酷いな。真っ黒だし何箇所か穴空いてるし……………それに亜花君も今の衝撃でどこかに吹き飛んだな。まぁ、あれだけの爆発を至近距離で食らったんだ。死んではいないだろうが相当なダメージが…………
「イテテてて………………あーーびっくりしたーー泡払ってたらいきなり爆発するんだもん」
隣の部屋から右側面が真っ黒な亜花君が姿を表す。
うわーーー半分だけ真っ黒ってより狂気さが増してるように見える…………こえーよ。普通にこえーよ
「それじゃあ今度は僕の番だよ。真っ黒にされた分のお返しをしないとね!」
亜花君が勢い良く走り出す!
「そうかいそうかい、そいつは悪かった。それじゃあお詫びとして洗い流してやるよ」
周りに溜まっていた水が蠢き俺の前に集まる!
俺の今の魔力じゃあ一度に出せる水の量はかなり制限される。でも、それならどこかから水を供給すればいいだけの話だ。
スプリンクラーと爆発によって出来た水。まぁこれは雀の涙みたいなもんだが…………これを使えば俺は結構な量の水を操ることができる!
ブシャァァアア!!!!
大量の水はまるで増水した川のように亜花君を巻き込む
「…………っ!」
それは亜花君もろとも部屋の中で暴れまわると、先程の爆発とボールペンによって開けられた窓ガラスに向かっていく
「1から出直しだな亜花君」
ザッパァァアアンん!!!
水は外に勢い良く流れ出し、亜花君を空中に放り投げる!
亜花君は空中でばたつくが、空中で動ける人間などまずいない。
亜花君は背中から落下していく。そして…………
ズドンン!!!
地面に勢い良く落下した!
「イテテてて……………7階じゃなかったら危なかったかも」
亜花君はそういうと軽やかに立ち上がる。
「あの男の人…………面白いな」
亜花君の口元がつり上がる。
「もっと遊ばないと勿体無いよね」
亜花君はそういうと玄関へと走り出した
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