この能力は王道だよなぁ
「…………暇だ。」
試験を開始して15分。何もすることがない。鬼を亜花にしちまったから俺のやることがとことんまでない。鬼ごっこで鬼と逃走者以外に役割があるのなら教えて欲しいもんだ。仕方なしにベッドが大量に置かれているこの建物で不合格となったものをノンビリと見張っている。回復次第すぐさま戦場復帰をしようとするルール違反者を出さないためだ。……………まぁ、ベッド送りにされてそんなことをやろうとしている奴はいないけどな。亜花の狂気に触れたら生半可な覚悟の人間はすぐにやられる。現にベッドで寝てる奴らは震えながら押し黙ったままだ。あの亜花にまた追いかけられたいと思う奴は1人もいないだろう。
今回の試験は脅威への対処と言ったが、正直そんなのは二の次だ。この試験で本当に見ているのは[覚悟]だ。勇者というのはかなりの高給職だ、金だけは短期間で大量に稼ぐことができてしまう。だからそういう詰まらない意思で勇者を目指すような人間はここで落とさなければならない。まぁ、いつもはもうちょっと簡単な方法でやっているのだが上からのお達しがあったからな、今回は激ハードにしてふるいの目を細かくした。
俺はテーブルに置かれているコップを持ち上げ口に運ぶ。んーーコーヒー豆の良い匂いだ。ブラックそんなに好きじゃないけど。
…………亜花は危険だ。3年前、俺はあいつにとある村で懐かれ、成り行きで保護した時はあまりにも言語と素養が欠落していた。それらを今に至るまで教えて幾分かはマシになったとはいえ、それは上っ面だけた。出会った頃と根元は全然変わっていない。出会った頃は酷かった。小さな頃のイジメと常識の欠如のせいで狂ったのだろう。あいつはずっと笑い続けて破壊することでしか喜びを得られなくなっていた。…………いや、破壊じゃないか。あいつからすればあれはただの[遊び]だからな。あいつは破壊と狂気で形作られている。生まれた環境………いや、周りの人間に恵まれなかったからな。あいつを力であしらえる強い人間がいなかった。そして、怯えることしかあの人達はできなかったから、迫害するしかなかったのだろう。そのせいであいつの狂気が完成してしまった。まぁ、その性格も手伝ってあの魔力が発現したんだろうがな。あの狂いに狂った魔力が。
俺は騒音鳴り止まない砂けむりの上がる町を見つめながら考える。
両親は不明のためあいつが勇者か魔族、どちら側かは分からない。ただ、あのステータスで見る限りでは聖騎士長もしくは最高幹部ということになる。
まぁ、慶次に見せたら1発で分かるんだがもし魔族だったら完璧に処分されちまう。あの男はは勇者側の不利益になるものは非情に、是が非でも排除するからな。コントロールの効かない亜花なんて必ず殺される。…………まぁ、魔力が魔力だからなぁ。あれは完璧に不穏分子だ。
破壊しかできないあいつに、俺を継ぐ資格はない。生み出す喜びを知らない人間にこの能力は合わない。悪用されて終わりだ。……………まぁ、あいつは鎧師には向いてないが素の戦闘力は高い。こういう荒仕事やボディーガードぐらいには役立つだろう。
………さて、どこまで減るかな試験者は?俺的には次の試験のためにもあと40人は減らして欲しいんだが………………
ボンンンンンン!!!!!
ぶッ!!
町の中心から少し離れた14階建マンションが爆発する!!そして俺もコーヒーを吹き出す!!
なんだなんだどうした!?一体何が起こった!?
爆発元を探すと、どうやら7階らしい。内面が真っ黒だ。…………そして、中にいたのは523番!?あの野郎、一体何をしでかした!?奴の魔力か!?…………?てか亜花が見えねぇ!!なんだ、何が一体どうなってんだ!?
俺が亜花がどこにいるかを探していると、7階部分から水が流れ始める。結構な水量だ。あそこのスプリンクラーで生み出される量なんて比較にならないほどだ。なんだ?まさか523番の魔力か?
俺が水に見入っているとその水に巻き込まれて亜花が外に放り出された!!
うお………まじかよ。上位の勇者ならともかく、まだ勇者になってない野郎があの戦闘マシーンを退けるなんて!
そのまま落ちていく亜花。そして、それを見送った後にその場から走り去っていく523番。
………………間違いない、あれが慶次が言っていた[作り甲斐のある]やつだ。俺の目を盗み、亜花を退けただけで十分に判断できる、あれは可能性の化け物だ。
…………あいつは多分この試験もクリアしてくるぞ。あの目を持った慶次に認めさせた男だ。これぐらいの難度じゃ少し物足りないか?
「……………最終試験はとびきり難しくしねぇとなぁ。そうじゃなきゃあいつの上限が分からねぇもんなぁ。」
俺は指を鳴らし、メイドの様な鎧人形に掃除をさせる。
そして俺は立ち上がり自分の部屋に戻る。見張りは鎧人形に任せればいい、どうせ戦意がないやつらしか集まらないのだから。今俺がしなければならないのは最終試験をギリギリ、本当にクリアできるかできないかのギリギリ…………いや、絶対に合格できないレベルにまで引き上げることだ。限界を見るには不可能をぶち当てるしかないからな。だが、それでも超えてくるのなら、俺がとびきり上等な鎧を作ってやるよ。いままでの甘ちゃんどもに作ったクソみたいな鎧じゃなくてな!
俺は自室の扉を開け、中に入り、思いっきり閉める!!
次の試験はお前からすれば生ぬるいかもしれないが、最終試験の時は気を引き締めろよ。
不可能を超えてみな523番!!
「あばばばばばばばば!!!」
俺は亜花君の襲撃から身を隠すために隠れている。
ああ、もうなんてこった!亜花君は俺をあぶり出すために下の階から上の階に向かいながら片っ端から物を破壊してやがる!扉もクローゼットもタンスも柱も全部をぶっ壊している。 いや、見たわけじゃないよ?でもね、音が聞こえるんだ。
バキン!ゴキン!!ダンダンダンダン!!ダン!!ダン!!!ダン!!!!
もうね、酷い。断続的に破壊してるんだよ。目に入ったものから見境なく破壊しているんだよ。
今彼は3階にいて、俺は9階だ。本当は下に降りたかったんだけど、破壊の音が凄まじくて降りる勇気がなかった………………チキンですよ?ええ、私はチキンですとも。自分の命は惜しいですとも!だがそれの何がいけないと言うのか。俺は弱いんだ。あんな殺戮兵器みたいな化け物と正面から挑んで勝てるわけがない。ましてあの怪力…………なのか?イマイチ魔力は分からないが、全部ぶっ壊す様な能力だ。俺なんて一撃でチュドーンですよ。パンチ1発で五体爆裂してもなんらおかしくない。弱者は逃げる。これこそが我の最大にして最後の………いや、最後だとここで死んでしまうことになるな。最大にして道半ばの心理としておこう。
ドゴンドゴンドゴン!!ドン!!!!
あわわわわわ!!!!さらに音が近づいてきたぁぁぁあああ!!!もう4階か!?!?4階なんですか亜花さぁぁあんんんん!!!!
やべーやべーやべーやべーー!!何でこんなに勇検難しいんだよ!たかが騎士とかそれぐらいの階級になるだけだろ?それなのにこんな化け物を差し向けたりカンニングさせたりとかさぁ……………バカじゃねぇの?バッカじゃねぇの?もっとこう加減というものを知って欲しいよね。適正レベルに合わせてくれよ!
ぶち壊す音にガクブルすること5分、事態は動き出す。
……………ん?破壊音が止まったな。これは多分7階?とかそこらへんだな。
亜花君が7階に到達してから音が止んだ。さっき俺と亜花君とで一悶着があった所じゃないか……………なんだろう、嫌な予感がする。すこぶる嫌な予感がする。
1分経過………特に変化はない
2分経過………またも変化なし
3分経過………あれ?変化ない?
おいおいどういう事だよ。音が止まってから3分も経ってるぞ?あの亜花君が7階まで来て俺を諦めるわけがない。何をしているんだ?
「あっれーー?ここでインクが途切れてるなぁ。」
不意に亜花君の声が聞こえてくる。声が反響しているからなんとも言えないがこの階の、しかも俺の近くにいるのではないだろうか?
いや、ちょっと待ってくれよ何でここにいるんだよ。
インク?インクってお前…………ああ、あの時ボールペンを踏んづけでもしたのか?それに気づかずに、間抜けに足跡をつけながらここまで来てしまったって所か………………そして、亜花君はそれをトレースして来たということね。なるほど、隠れた事が仇になったわけだ。完璧に追い詰められた。逃げ場がない。逃げられない。どうしようもないぜ!
「しっつれいしまーす。」
ドゴン!!!
ドアが吹き飛ぶ!!
…………お?この部屋じゃないな。どうやらインクが途切れたのは俺がいる部屋の前じゃなくて俺がいる部屋の近くの様だ。これならもしかしたら逃げ切れるんじゃないか?あ、いや、こういうの言ったら変なことになるからやっぱり逃げ切れない逃げきれない。絶対に逃げきれませーん。
ドンガラガッシャーン!!!
「…………あっれー?いないなぁ。ここじゃないのかぁ。」
入った部屋をあらかた破壊し尽くした後、亜花君は部屋を出て隣の部屋へと向かう。
「しっつれいしまぁーす!」
ドゴン!!!
ドアが吹き飛び、部屋に入るとまたも部屋を滅茶苦茶に破壊する!そして………
「また違う…………一体どこにいるのかな?」
そう言うと部屋を出て次の部屋へと向かう。
ああ、何これ。何このホラー。なんだよこれ、鬼ごっことか言ってたけどマジで鬼ごっこじゃねーかよ。亜花君ホンマに鬼じゃないかよ。見つかったら絶対に食われる。絶対骨も残らないだろこんなのじゃ。
音の感じからして亜花君は二個隣の部屋に今………ああ、もう二個じゃない、一個だ。完璧に隣だ。
どうする?正直このまま隠れていても殺されるだけだ。何か、別の場所に逃げなくては……………
…………そう言えばあの窓の先は外だな。窓から出て壁伝いで下か上に逃げれれば………………考えてても仕方ない。亜花君がまだ隣の部屋を破壊しているうちに窓を開けて外に出よう。隠れ切れると思っていたが、このままじゃあ確実に殺されてしまいそうだ。俺は隠れていた押し入れから出ると窓を開けて右足をかけた。
ガッ!!
背後で金属の様なものが勢い良く引っ張られた音がした。……………そう言えば、ここの部屋の扉にチェーンをかけたような……………………
俺は恐る恐る後ろを振り向くと、わずかに開かれた隙間から指と片目が一つ覗いていた。
「みぃつけたぁあ。」
うぉぉぉおおおお!!!なんでこの部屋だけ扉ぶっ壊さないんだよ!なんでそんな怖さを醸し出しながら部屋を覗くんだよ!!急げ急げ急げ!ここで捕まったら死ぬ!全力で、亜花君の攻撃が食らわない所まで逃げないと!!俺は右足に力を入れて体を持ち上げ外壁に手をかける!
ドゴォォオんん!!!!
扉が勢い良く吹き飛ばされ、俺の横の壁を貫通して外に飛んでいった。
「なぁんで逃げるのかなぁ?僕はただお兄さんと遊びたいだけなんだけどなぁ。」
いや、だって鬼ごっこですもの!遊びの内容が鬼ごっこですもの!なんだい、まさか亜花君はそんな事も忘れたのか!?え?いや、ちょっ、相手の体吹き飛ばすのが彼からしたら遊びだってのか!?試験をしてるとかじゃなくて遊んでいるという意識なのか!?………やべーー!!だったらなおさら逃げないと!!殺されるとかなんとか言ってたけど、もしかしたらそれよりも酷いことになるかもしれない!ボロ雑巾にされちまうぞこんなの!!!
俺は自分の最大速度で体を持ち上げ壁を登っていく!本当は降りたかったけど1回上まで持っていった体を下げる時間が惜しかった!だってそうじゃないと………
バゴォオんんん!!!
俺がさっきまでいた壁が吹き飛ぶ!!
ですよねぇ!!君ならそうするよねぇ!!
「ふふふふっ、お兄さん待ってよー。」
うおぉぉおおおおおお!!!!!!逃げないと逃げないと逃げないと逃げないと!!いままでイリナとか宏美とか色々な危険人物に会ってきたが、亜花君はそんなのを遥かに超えている!あいつらは節度とかルールなど薄っぺらい倫理観は辛うじて持っていた!たとえ力があってもここまで過剰にふるってはいなかった!
でもこの亜花君ってのは自分の力を制御していない!全力出して遊んでんだよこの野郎は!!
俺は10階まで登りきり窓から中に入る!壁を登るよりも中を走ったほうが速い!残り6分!俺はここを利用して全力で逃げ続ければいいだけ!!トラップも何箇所かにある!!冷静になるのよ俺。焦りと熱さは禁物だ。体の中の熱を吐き出し、酸素を思いっきり吸うんだ!体を空気とクールで満たせ!今出来ることを最高速度で導き出すんだ!
俺はドアを蹴破………ろうと思ったが、よく考えると蹴破れない可能性があるのでドアノブをひねり勢い良く廊下に飛び出す!俺が今目指すべきなのは下だ!!下には俺の罠がたんまりあるからな!それを使えばなんとか時間を……………そう言えば亜花君のおかげで下の階層は滅茶苦茶にされてんだった!
だめだ、完璧に捕まる!9階から1階まで降りる間に罠がないのであれば捉えられることは避けられない!
…………登らざるをえないのか!
俺は亜花君がいた左方向ではなく右方向に向かって走る!
階段はこのビルの両端にある!今はとにかく亜花君から離れる!これが鉄則だ!
ドンンン!!!
俺の背後の床が吹き飛ぶ!!
「あはははは!!!逃がさないよ!!」
亜花君が床を突き破ってこの階に来やがった!
………だがまだ慌てるな!まだ慌てる時ではない!俺にはまだ武器がある!
「トラップその一!発動!」
俺が壁を伝っている氷に触れると、天井を支えていた氷が溶ける!
天井を壁から切断し、それを氷で支えておいた。だから溶かせばいつでもこの天井は崩落する!
ドズンンン!!!
天井が落ち、亜花君を押しつぶす!
…………ダメだ!こんなんで亜花君を倒せるわけがない!ほんのちょっとの時間稼ぎしかできないはずだ!
ドゴォォオ!!!
予想通り亜花君は上に乗っかっているがれきをなぐり飛ばし立ち上がる!
まったく勇者ってのはタフだよな!俺なら1発で潰れてるのに…………まったく、反則だぁ!まっ、俺はもう階段部分まで来ちまったからな!そんなことはもう関係ないのさ!亜花君にどんな力があろうがこれからすることには無力だ!!
「トラップその二!俺が用意した最大のトラップだ!」
ズゴゴゴゴゴゴゴ
ビルが傾き始める。
皆さん、こう思わなかったろうか?亜花君が下の階層をぶち壊している時に何故このビルは倒れないのだろうか?と。亜花君は柱もろとも全てを壊したのだ。このビルの下部を支えるものなど何もない………はずだろう?それならばビルが倒れないわけがないのだが、現実は壊れていないわけだ。壊れていないということは支えがあるわけだろ?
俺は亜花君が破壊していく後を追って氷で建物を支えていったのだ。まぁ、このビルは殆どがコンクリートで出来ているから生半可な水の量じゃ支えきれなく大量な水を要求する。また俺の一度に生み出せる水の量は少なく俺の水だけじゃまかないきれない。でもそれじゃあ別のところから水を持って来ればいい。ここはビルだからな、水がたくさんあるのさ!
てなわけでこのビルは俺の手一つでいくらでも破壊できる状態なのさ。氷を溶かす位置を操作すれば好きな方向にビルを倒すことができる。
さて、ここで一つ質問だ。俺が亜花君がいる側の氷を全て溶かしたらどうなるのだろうか?傾く?崩れ落ちる?まぁ、答えなんてものは簡単だ。亜花君側の方が崩れ落ちる。そして、それに続くようにこちら側も傾いて崩壊する。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴンンン!!!!
亜花君がいる方の建物が崩れ落ちていく。そして、それに引っ張られるようにこちら側も倒れていく。
確かに俺は弱いさ。それは認めざるをえない事実。不可避の真実だ。だからってそれで勝てないわけじゃない。そもそも俺の周りには沢山のものがある。空気、水、他人、自然という環境が俺の周りを渦巻いている。それを俺は利用できる。俺の力は一つであって一つじゃないのさ。
亜花君の方が完璧に崩れ落ち、それをさらに潰すように俺の方の建物が崩れ落ちる!
亜花君の能力は怪力じゃない。破壊だ。多分触ったものを破壊するのではなくて、破壊を助長するといったところか。彼はさっき天井を持ち上げずに破壊したからな。力が凄いんじゃない、少しのダメージをより増加させるものなのだろう。
ズゴゴゴゴゴゴゴ……………………
ビルがあった場所には巨大な瓦礫の山が出来あがった。いやーーー派手にやってしまったなぁ。さすがは亜花君と言ったところか、彼の力がなければこうはならなかったろう。さて…………残り4分か。死んじゃいないだろうが亜花君はあの瓦礫の山に埋まってるから、そう簡単には出てこれないだろう。怪我も酷いだろうし…………今回の試験はもう終わったようなもんだ。
「うおっ…………お前がやったのか?これを」
エンタがこっちへと歩いてくる。きっとここで亜花君が派手にやったから亜花君の動向を探るために来た…………と言ったところか。確かにガムシャラに逃げるよりは亜花君の近くにへばりついた方が確実に逃げれるよな。
「あーー俺じゃないさ。亜花君が全てぶっ壊したんだよ。まぁ、亜花君はその瓦礫の下にいるけどな。」
俺はエンタと合流すると、一次試験が行われた会場があった場所に向かう。あ、そうそう。エンタは俺と同い年なんだ。外見がおっさん臭いが、それは訓練の賜物ってやつだ。
「ひゃーーーあんな小さな子供なのに、このビルをぶっ壊す力があるのか!一体どこにそんな力があるのか…………」
エンタは瓦礫の山を見つめて立ち止まる。
「んーーーそうだなぁ。生まれかなぁ。」
亜花君の事なんて何も知らないけど、普通に生活していたらあんな性格にはならないはずだ。………そう、普通ならな。ありゃ普通じゃないな。きっと異常な環境で生活していたんだろう。そうじゃなきゃあそこまで馬鹿げたものにはならないはずだからな。
俺はこの場からさっさと離れるためにエンタを置いて歩いていく。残り3分…………まぁ、ないとは思うが万が一に備えておきたいからな。
「はぁ、やっぱり勇者っていうのは生まれた時から決まっとるのかね?理不尽な世の中だわ。」
瓦礫の山を見ながらぼやくエンタ
「……………さぁなぁ。ただまぁ、そうなっちゃうと俺は一生勇者になれない事になっちまうけどな。」
魔族だからね。
「やっぱりか……………あーーーやっぱり俺なんて無理なのかなぁ。俺、こんな事できるわけないもんなぁ。」
エンタがぼやく
「……………つまらんな。実につまらない。」
「……………へ?」
俺の独り言にエンタが反応する
「ツマラねぇって言ってんだよ。勝手に自分の可能性を決めつけやがって。」
俺はエンタの方を振り向く。俺とエンタの距離は結構開いていた
「いいか?お前の可能性と限界を知る事ができる人間なんて誰1人としていねぇ。ただ、お前の可能性を勝手に決めて、勝手に終わらせる事ができるのはお前だけだ。」
残り2分…………こりゃ確実に試験合格だな。
「つかよーー、一次試験が終わった後にすぐにこっちに来たけれど、お前どうせ俺と傷の舐め合いでもしようとしてたんだろ?まったくお前はひき……………ん?」
ズダダダダダダダ………………
何かが何かを破壊する音が聞こえる。しかもこれは連続で物を破壊しているな……………チッ、嫌な予感しかしない。
俺は瓦礫の山の方を見る。
ああ、小刻みに揺れてやがんぞこの野郎…………
「エンタ逃げるぞ!亜花君はまだ健在だ!」
ズゴォオオンンん!!!
瓦礫の山の側面が吹き飛び、瓦礫の山が崩れる!
「んふふふふ…………お兄さんとの遊びは楽しいなぁ。こんなにウズウズしたの僕初めてだよ!」
瓦礫の中から血を流している亜花君が姿を現す!
うおっ、まじかよ!どんだけ頑丈なんだよ!…………いや、あれは落下のダメージがほとんどで、落下していった瓦礫はほとんどぶつかる前に破壊したっぽいな………確かにそれならダメージは少ないか。少ないけどさ?出来るかそんなこと?
残り1分40秒!逃げる!全力で逃げるぞ!亜花君も今は落下の衝撃で全速力では走れないはず!…………はずだよね?そ、それに亜花君は俺が思っているほど速くない!しかも全ての攻撃が単調な直線的な攻撃だ!俺の目と、宏美とイリナに鍛えられたこの防御術で乗り越える!
俺は全速力で亜花君から逃げる!と言ってもそんなの10秒ももたねーよ!今俺が絶対に取らなきゃいけないのは逃げに徹すること!戦うのは最終手段だ!!
「あははははっ!!待ってよーー!!」
メシッ!!
亜花君の踏み込みで地面にヒビが入る!
グァァアアあ!!!あの笑顔めっちゃこえぇぇええ!!!ダメだ、絶対夢に出てくる!トラウマになる!
「あっ!!」
俺が建物群に姿を消そうとした時、後ろでエンタの声が聞こえた。振り向くとエンタが石に躓いて転んでいた。あんのバカ!なんでこういう大事な、あと一歩なところでこけるんだよ!!
「エンタ!!魔力を使って亜花君を何とか退けるんだ!」
亜花君は殺戮マシーンだ!目の前に人がいたら絶対にぶっ殺す!だから、エンタはなんとかして亜花君を退けなくてはいけないのだ!エンタは腰から剣を引き抜き、猛ダッシュで突っ込んでくる亜花君に剣を向ける。だが足と手が震えていて口から「あっ、ああ………」と漏らすばかり。
…………くっそ!!
「亜花ぁぁああ!!!こっちをみやがれぇぇえええ!!!」
俺は大量の水を、建物の陰から引っ張り出し
亜花君に向けて放つ!
これは7階で亜花君をビルから押し出した時に使った水だ。最後の切り札としてとっておいたんだが………まぁいい。今使ってやるよ!
大量の水がエンタと亜花君を襲う!
エンタはその水に飲み込まれどこかに流されていくが亜花君はそれをかわし俺の元に突っ込んでくる!
「いっくよーー!!お兄さん!!」
亜花君が拳を振り上げる!
くそ!見える!見えてしまうぞコンチクショウガァ!!
亜花君の腕がゆっくりと俺の元に伸びくるのがはっきりと見える!ああ、もう!見えるのに腕が遅い!亜花君の攻撃の0.7秒前に防御しに行っているのに、それでもギリギリだ!…………だが!
ブン!!
俺は亜花君の弧を描くように降られた腕の側面を撫でるようにし、パンチの軌道をずらす!
ブシュッ
だが、俺の手のひらに傷ができ血が吹き出た!まじかよ!完璧に受け流したのに、あの少しの摩擦ですら亜花君の魔力は怪我にしてしまうってのかよ!!
俺は後ずさり剣を引き抜く。
拳で受けたらいけないのなら剣で受けるまで!こいよ、全力で防ぎきってやるよ!
亜花君がもう一度腰の入ったパンチを放つ!見える!見えるゾォおお!!
ガッッッッ
拳が剣の側面を打つ!大丈夫!何も異常はない!さすがに剣を拳1発で壊すことなど出来ないだろう!
ブブブブブブ
しかしそんなのは早計だ。
彼の魔力が発動したのだろう剣がありえないほど震える!こ、これは振動!?まさか亜花君の能力は破壊の助長じゃなくて、彼の行い全てによって生まれる現象の増長!?
ブブブブブブブブ!!!!!
剣の振動がさらに大きく、そして細くなっていく!!
やべぇ、衝撃で!!
キンン!!!!
亜花君の拳が振り抜かれた瞬間、俺は増長された拳の衝撃により吹き飛ばされていた!
0.1秒にも満たない時間でしかなかったが、それでも亜花君の恐ろしさを再確認するのには十分だった!戦ってらんねーよ!
俺は一軒家に突っ込み壁を突き破り地面を滑り自分が制御できる速度になったと同時に走りだした!今吹き飛ばされたお陰で結構な距離を稼げた!逃げるんだ!俺は、全力で逃げるんだ!!
俺は自分が走ったところに水を薄く敷き氷にする!
頼む!少しでいいから滑ってくれ!
バキン!
氷が割れる音が聞こえる!
「あははははは!!待ってよーー!!!」
うぉぉおおお!!!亜花君んんん!!!なんで滑る前に氷砕いてんだよ!!…………ああ、瓦礫が靴の溝に入っていて、それがスパイクの役割を果たしているのか!!天然ではあるだろうけれど自分の魔力をうまく使ってますね!!!!!
「くっそ!!!もうヤケクソだ………この剣をくらえ!!!」
俺は剣を亜花君に向けて思いっきり投げる!それを亜花君はヒョイっとかわしてしまう!
あばばばばばばばば!!!予想通りだぁぁあ!!!絶対当たらないと思ってたよこの野郎!!!どうするどうするどうする!?何をすれば亜花君から逃げ切れる!?何をすれば彼から離れられる!?考えるんだぁぁああ!!!…………あ!
「ちょーーっとまった亜花君!!!」
俺は急に立ち止まり亜花君の方に振り向き、それを見てもうほとんど殴れる位置まで来ていた亜花君が止まった。
「………ん?どうしたのお兄さん。」
「亜花君、君は今の遊びで満足しているのかい?」
俺はやれやれといった感じで語りかける。
「………?うん、楽しいよ。お兄さんは他の人と違って僕と長い時間遊んでくれるからね。僕もう大満足!」
うーーん…………笑顔が眩しいぜ!
「そうか…………でもさ、俺がもし今からこの鬼ごっこ以上に面白い遊びを教えてあげる。って言ったらどうする?」
「え!?そんなのあるの!?ねぇねぇ、それは何!?教えてよ!!」
亜花君の目がさらに輝く。
「あーーやっぱり?やっぱり知りたくなっちゃうよね男の子だもの。俺も君ぐらいの年にはスマブラで汗水流してたもんなぁ…………」
「すまぶら?それが鬼ごっこ以上に面白いこと?」
「ああ、いや、スマブラは違う。あれは遊びとは別物で、どちらかというとスポーツの部類だからな。……………俺が教えてあげるのは別の面白い遊びだ。」
俺は能力で水を生み出し大きな池を作る。
「いいかい?そこらへんにある石を使うんだよ。選ぶポイントとしては丸っこくて平べったいもので……………おっ、これとかいいな。」
俺はそこら辺にある丸みを帯びた石を拾う。
「これをこの池に向かって…………」
ヒュッと池になるべく水平になるように石を投げると石は水面をペンペンと7回跳ねた。お、やっぱりこっちの世界だと現実よりも力があるようだな。現実だと5回しかはねなかったのに2回も増えた。
「わ、わぁあああ!!!何これ!これなんて言う遊びなの!?」
亜花君の目がより輝く。
「これか?これはそうだな…………」
水切りでもいいんだけれど、それだと亜花君がガッカリするような気がするからな…………何かカッコいい名前を考えなくては。
「……………小池様の黄昏だな」
「こ、小池様の黄昏!?」
「ああ、これは池の女神様。あ、この女神様の本名は小池なんだけれど、小池様は常に悲しんでいるんだ。この世を憂い黄昏ている。しかし石をうまく投げ入れると喜んでくださるんだ。その喜びの表し方が投げ入れた石をバウンドさせることなんだ。」
そう、つまりこれは小池様を喜ばせるための儀式だ。
「こ、この遊びにはそんなに深い意味が…………」
亜花君は神妙な顔で池を見つめる。
…………お、時間になったな。これで試験合格だ。
「そうだ、石を7回弾ませることができれば、小池様は大喜びしてくださる。だからいいか?この遊びをやろうとするという事は、最低7回弾ませられるようにならなくてはいけないってことなんだ。」
まぁ、試験は終わってしまったが亜花君との触れ合いも楽しいので続けよう。
「へぇ……………僕やってみるよ!」
亜花君はそう言うと手頃な石を探し始める。よし、俺への意識をそらせることに成功だ。
「…………あ、そうそう。」
俺は今度こそ、一次試験が行われた会場に向かおうとしたが、言い忘れたことがあったので振り返る。
「もしそれに飽きたら俺のところに来るんだね。また面白い遊びを教えてあげるから。」
「……………うん!!」
うーーむ、屈託のない笑顔だ。これがさっきまで俺を殺そうとしていた子供の笑顔だもんなぁ………………分からんなぁ、亜花君の本質が。
石を弾ませる亜花君から俺は離れていく。二次試験合格だ。やばい、スッゲー疲れた。しかも次は3次試験なんだろ?……………なんだろうな、これ以上ハードだったら俺死ぬぞ?
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