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Face of the Surface  作者: 悟飯 粒
狩虎の章
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55/364

花は燃ゆるよ、水は流すよ

周囲には鎧を着た長身の男達。腕を後ろに回して堂々と立っている。全員腕まわりや胸囲、太もも脹脛が太い。完璧に鍛えられている証拠だ。そして…………


ボロボロの法被にヨレヨレのズボンを履いた男は前の教卓らしきところに両足を乗っけて周りを注視している。

あの男の怪力だ。多分かなり上位の勇者に違いない。聖騎士長…………いや、どうだろうか、手加減してあの力なら聖騎士長なんて軽く超えるだろうがもしあれが本気だったらと考えるならば………聖騎士長とかになるのだろうか。


俺は仕方なしに解けそうな問題がないかを探す為にページをとにかくめくる。


うーーん…………記号問題のところは何となく解けるな。この世界でも現実でも共通するような常識問題だ。マナーとかそこらへんね。

でも、マーク問題が圧倒的に少ない。合格点が何点なのかなんて知るわけがないけれど、マーク問題8問正解しただけで合格になんてなるわけがない。

全部合わせて43題だぞ!?他全部筆記ですよ!?ただですらマークは配点低いんだから不可能だよコンチクショウ!!


トントントントン……………

ペンで台紙を小刻みに叩く


…………水を使うか?

ピタリ、俺の手が止まる。

限りなく透明な水を出して、出来そうな人間の場所まで行って氷にして反射を利用して見る……………ダメだな。一応やろうと思えばできるが、その為には天井を這わせなくてはいけなくなる。

水を天井まで行かせるのにリスクが高すぎる。俺が今天井に向けて水を出すなんて論外だし、床から壁を伝って登るにしてもあの鎧の男どもの視線をかいくぐらなくちゃいけない。あまりにも危険。あまりにも無謀。


…………だが!


スッ

俺は手を挙げた


「すいません、お手洗いに行きたいのですが」


やらなくてはならないのだ!


「………あんだよお前、試験前に行ってないのかよ」


小汚い男に睨まれる。


「それが、行こうとしたのですが場所が分からなかったんです。迷子になってしまって……………」


トイレに行く時に周りの男達の中から1人、俺の引率の為に壁から離れることになる。その防御が薄い所を責めることによってなんとかして天井に向かう!これしかもう方法がないぞ!


「迷子ってお前、トイレはすぐ隣にあるぞ。どこをどう迷った」


「………………」


…………すぐ隣にある……だ、と!?


ドクドクと心拍数が跳ね上がる。

そんな馬鹿な、来る前に確認したがこの部屋の隣に行列なんて何1つとして出来ていなかったぞ!試験前だと言うのに誰もトイレに行かない!?なんだこいつら、頭狂ってんじゃないの!?

自分の膀胱を過信すんなよ!そこはもうちょっと謙虚な気持ちで接しろよ!


「……………はい、すいません。まさか隣にあるなんて思わなかったので、隣には目もくれず遠い所を目指して走ってしまいました。……………運が、悪かったんだと思います」


落ち着け俺ー!隣がトイレだったなんて気づかなかったと言えばどうにでもなる。そんなことで俺の意思を折れると思うな!


「運が悪かった………か、それにしてもよく17分も耐えれたな。結構お前膀胱柔らかいんじゃないの?だったらあと73分ぐらいなら耐えられんじゃね?」


はっはっはっと笑う男。

…………はぁ?


「…………あんた、本当に言っているのか?」


バシン!と自分の机を叩きながら俺は立ち上がる


「限界まで小便を我慢しようとするとな、人間、漏らしたくないって想いが強まってしまうんだ。そうするとどうなると思う?強められた想いってのはそう簡単には壊せない。人間は、我慢するってことしか考えられなくなるんだよ!!」


周りから紙に何かを書く音が消える。そして、沢山の視線がこちらに向けられているのも感じる。


「………………誰が勝手に立っていいと言った?」


男は教卓らしきものから足を下ろすと、ギラリと俺を睨む。………これは完璧にヤバイ。視線が物語っている「何言ってんだこいつ、早く座れよ」ってな……………だがもう座れない。ここまで来て俺が折れたら、あの男は俺を怪しみカンニングなんて絶対にできなくなる。そして、俺は赤点を取り落ちてしまう!今は、何としてでもトイレまでの道を拓く!!


「ここでトイレを我慢し続けたら、俺の集中力が切れて試験に落ちてしまうんです。いや、集中力どころじゃないですね。ペンを握る力すらも失い、俺はただの生きた屍となってしまう。」


男は俺の方へと歩いてくる。


「貴方が見たいのは試験者の[知性]であり[実力]でありそして[勇気]でしょ?なにも俺の漏らす姿じゃないはずだ。」


畳み掛けろ!例え何の効果がなかったとしても、それでも語り続けろ!今の俺は言葉以外に力がないんだ!!


「そこまで言われたら確かにお前を救ってやりたい気持ちにもなるが……………今のお前はここの和と空気を乱している。たとえトイレに行かしてやったとしてもそれ相応の罰を受けてもらう」


ピタリ。

男は俺の目の前に立ち止まる。それはもう鼻と鼻がついてしまいそうなほど近くて………威圧しているのがわかる。

ここまで来たら、もう俺は折れないぜ。


「罰?……………幾らでも受けてやりますよ。今この瞬間にも訪れるであろうダムの決壊を止めれて、そして周りに甚大な被害を出さずに済むのなら、罰の1つや2つ甘んじて受けましょう!」


身長は俺の方が大きい。小汚い男を見下ろす。

そんな威圧ごときじゃ俺はへこたれないぜ。どんだけイリナと宏美に鍛えられてると思ってんだ。


「……………お前が初めてだよ。ここまでトイレに行くのに固執する奴はな。なぜそこまでトイレに行きたがる。お前にとってのトイレとはなんなんだ?」


………来た!これだ、このタイミングだ!この言葉が欲しかった!この雰囲気が欲しかった!いまだ、今ここで何かかっこいいことを言えば俺は確実にトイレに行ける!


なんだ!?何を言うべきなんだ!?何を言えばこいつを黙らせられる?何を言えばトイレに行ける?何を言えばこの空気にピリオドを打てる!?


俺の頭の中で様々な言葉が渦巻いては衝突し火花を生み出していく。


これじゃない。

この言葉じゃ弱い。

これじゃ何も変えられない。


……………これだ!

1秒にも満たない思考の中で、俺は1つの言葉を見つけ出した。これだ、これしかない。まさにベストだ。なんだ、神はなぜこのような素晴らしき言葉を作ってしまったのだ?この俺にトイレに行けというのか?


俺は天井を見上げ空気を吸い込む。フルに回転した脳みそに空気とエネルギーが満ちていくのを感じる。


さぁ、閉口しな小汚い男とこの空間よ!


「トイレは俺の全てだ」


シーーン……………

場が静まりかえる。

ああ、やはり神の言葉は強力だな。この場にいる全ての人間を押し黙らせてしまう。


「………お、おう。そうか……………なら行ってこい」


「あざぁっす!」


俺は駆け足で後ろのドアまで向かうとガラッと開けて外へ出る。

そして、ドアを閉めた瞬間なぜか笑い声が聞こえたが…………まぁ、気のせいだろう。



ガチャリ

俺は個室の扉を開くと便座に座った。


「ふっはっはっはっはっ!……………完璧だ」


俺は右手で顔を抑えると声を抑えて笑う。この外には鎧のムキムキ野郎がいるからな。声を聞かれたら大変だ。


俺はズボンのポケットを弄り、氷の欠片を取り出す。


なんとかあの小汚い男の視線を盗んで回答を書き写せたぞ。


氷の欠片にはビッシリと細かな文字で文章が書かれている。


本当、あの男は隙がないからあんな小芝居うたなきゃいけなくなるとはな…………


俺が今持っている氷は問題の解答の一部だ。


あの男が部屋に入ってくる時に紙を持っているのが見えた。そして、それを腹の上に乗っけて座っているのも見えた。


最初はただの出席簿か何かかと思ったが、よく考えると俺は今日のついさっきこの試験の参加を決めたのだ。ギリギリまで参加できる試験に、出席簿など必要だろうか?

答えはノーだ。


そうなると他に考えられるものがなくなってしまう。まさか解答を持ってくるようなバカはしないだろうし、合否を記す紙なのならば何もここに持ってくる必要はない。

そうして俺は何も考えられなくなったので保留にしておいたが、さっきのあの瞬間で全てを理解した。


あの小汚い男がこちらへ向かってくる時に、あいつは俺しか見ていなかった。だから俺はその隙をついて全試験者の上に氷を作り出し答案用紙を見させてもらったのだが……………全部バラバラだった。誰1人として同じことを書いていなかったのだ。まぁ、さすがに俺の後ろの人間は見ることはできなかったけれども、それでも前の人間だけでも十分だ。まさか俺の前の人間全てが常識ないとかだったらどうしようもないけれど…………そんなことはないだろう。


こうして全てがわかった。

これは常識問題じゃなくて非常識問題だってな。多分この世界の常識じゃなくて専門知識だ。

農民が受けるようなこの勇検………てか今分かったが勇検だと省略になってないな。

とにかく、そんな農民レベルの試験でこんな専門知識出したら解けるわけがない。不可能だ。


てなわけで、俺の頭はとても都合のいい答えを出した。「あいつの持ってる紙って解答じゃね?」と。


てなわけで俺は教卓の紙が見える場所に氷をはらせていただいた。

そして、まぁ、トイレに入ってこもってる時間も有効活用するために、深呼吸するついでに答えを見て氷に文字を書き写しておいた。


ふっふっふっ……………こいつは今回は楽勝だぜ。さーーて暗記するぞ。




〜〜75分後〜〜


「あーー色々とあったが一次試験は終わりだ。二次試験まで1時間の休憩があるから試験者同士会話でもしていてくれ」


ガラガラ………扉を開けたまま俺は部屋を出る。


ああ、くそ。かったるい。これから採点しなきゃならないなんてな……………誰かに押し付けるか?


俺の後を追うように鎧の男達は教室から出て俺と同じ方向へと向かう。


…………と、思ったがよく考えるとこの鎧達は俺が作ったもんだもんな。簡単な行動はできるが筆記の採点は無理だろ。


俺の職業は鎧師。俺の目にかなう人間に最上級の鎧を作ってやるのが仕事だ。まぁ、その仕事上の理由があってこの試験の監督者になっているわけだが……………


俺は複雑な通路を進み、通路の終点まで着いた。そして右手にある扉を荒々しく開けて中に入っていく


「ひゃあ!?………ちょっとーーー先生ーー。ドアを開けるのならもうちょっと静かにしてくださいよーー。心臓に悪いんですよーー」


ガラガラと開けられた扉の音に反応して、中にいた子供は飛び上がる。

名前は確か………なんだっけかな、忘れちまった。………あーー亜花(あわな)だっけか?こいつは俺の弟子になりたいとかなんか言って勝手についてきているガキだ。俺は認めたものにしか技術は教えん。だからこいつには雑用しかさせていない。

向いてねーんだよこいつ。こいつに繊細な鎧作りとか不可能だ


「うっせぇなぁ。なんでお前が俺に指図してんだよ。紛いなりにも弟子だろ?お前は俺の言動に[はい]と[yes]と[命に代えても]って言ってればいいんだよ」


俺はドサリと席に着くと、大量の紙が俺の机の上に出現する。簡単な空間魔法は魔力の適正関係なく習得できるから覚えているんだ。

と言っても才能がない奴は全然覚えられないんだけどな!1日で覚えてしまった俺の才能とは一体…………


…………しかしかったるいな。何枚あるんだこれ、4000枚?あーーー40分かかっちまうぞ採点しきるのに……………


シャッシャッシャッシャッ……………


赤ペンを持った俺の手は○と×を書く作業を永遠とし続ける。

まぁ、つっても採点は全部を見るわけじゃない。マークの部分だけ見ればいいんだがな。されに、もし筆記の部分が解けていたとしても奴らの試験中に解答のポイントは把握しておいた。採点なんてすぐに終わる。


39分が経過した

残り12枚。あと少しだ


………………お、


「おーーーまじかよ、こいつ筆記の部分結構あってんじゃないの?」


お、○だ。ここも、ここも、ここも………………マジかよ。


「おいおい、このテストで満点が出たぞ。絶対不可能だと思ってたんだが…………」


「何言ってるんですか。先生のテストなんて毎回満点ばっかりじゃないですか。いつも甘すぎるんですよ僕だって解けますもん」


俺がポツリと漏らした独り言に亜花が反応する。


「…………じゃあこれ解いてみ」


俺は紙を亜花に手渡す。それを亜花は凝視するがものの5秒で返してきた


「なんですかこれ……………駆け出しの魔術師で挫折する奴が出始めてくるレベルの問題じゃないですか…………。こんなの解けるわけないじゃないですか」


そう、これはくそ難しい問題だ。正直今回のテストはマークで全問正解さえすれば合格にしようと思っていたぐらいだし……………


「なんでいきなりこんな難しい問題を出したんですか。いままで寝てても解けるレベルだったのに………………あ、それって1週間前の出来事と関係あるんですか?」


「ん、まぁ、少しな」


1週間前、王の側近である慶次が俺の元に来た。そして、1つの用件だけを残して去っていった。


[来週の試験は合格者が出ないレベルにまで難しくしてください。………今年は、鎧の作り甲斐のある人がいますからね]


て言うもんだからかなり難しくしたんだが………………。まさか全問正解の奴が出るとはな。一体どんなやつだ?


俺は紙をめくり、表紙に書かれている番号を見る。


「523番……………」


523番てことは真ん中辺の席だよな…………あのメガネか?いや、あいつは違う。席から見たが全然合っていなかった。見せかけだけのメガネ野郎だ。

あのデブ?…………いや、途中で寝てたからないだろう。


「……………あいつか?」


「……………あいつですか?」


………お前が知るわけないだろ。


あの黒髪の地味な男。いや、地味と言うには行動が奇抜すぎたか。いきなり[俺の全てはトイレだ]って言ったやつだからな。………あれ?[トイレは俺の全て]だっけか?それとも[俺のトイレは全て]だっけか?………まぁいい。あんな人間が頭が良いわけが………………待てよ?


そういやあいつトイレから帰ってきてから猛烈にペンが進んでたな……………何をしたんだ?カンニングか?

いや、待て。カンニングといったって答えが合ってるやつはこいつ以外誰1人としていないはずだ。俺の解答以外……………ああ、くそ。そういうことか。


「あの野郎、あれ全部演技か……………」


俺の意識を自分に集中させるための演技。俺の意識を会話に集中させるための演技。そして、俺を解答用紙から離すための演技…………といったところか。


ああ、全然気づかなかった。最後の言葉があまりにも間抜けすぎてここまで深いことを考えれるやつだとは思わなかった。

最後の言葉は自分の賢さのカモフラージュか……………あの野郎、面白いじゃないか。


俺は残り12枚の紙を上空に放り投げると、合っているところ全てに○をつける


魔力はまだ分からないが、俺を欺き満点不可能の問題で満点を取ったというだけで十分。こいつは確実に可能性を秘めている!


「はっ、今回の試験は面白いことになるんじゃないの?」


「どうですかねぇ。先生は変なところで甘いですから」


「……………」


ゴチン!

俺は無言で亜花の頭をたたく


「いったーー!何するんですか!僕の大切な頭脳が死滅したらどうするつもりですか!」


こんな一撃で死滅するような脳細胞は、あってないようなもんだ。安心して死滅しろ


「次の試験はお前を使う。どうせお前暇してんだろ?」


俺が入ってきたときにこいつが驚いたのは音じゃない、おもちゃで遊んでいるときに俺が突然入ってきたから驚いたのだ。

良い年こいた子供がおもちゃで遊んでいるなんて知られたらはずかしいってとこだ。

全速力で隠したのだろうが、俺の目は見逃さねぇぞ


「良いんすか!?どれぐらい本気を出して良いんすか!?」


亜花の目が輝く。


「死なない程度だ。死なない程度で遊んでやれ。もし死にそうになったらベッドにすぐに連れて行くんだ、いいな?」


亜花は目を輝かせる。

全く、だからこいつには技を教えられないんだ。こいつに教えたら、こいつの遊びの犠牲者が増える。


ちらっと壁にかかっている時計を見ると休み時間も残り9分となっていた。

あーー合格者抜き出して早く奴らのところに行くか。


次のこの試験………あの男は生き残れるかな?

俺は口角を持ち上げニヤつきながら紙に番号を書いていく



「よっ、トイレット」


通り過ぎていく奴らが、俺をに挨拶をして去っていく。

試験が終わり男が去ってすぐに俺は部屋中の人間に笑われた。

いや、まぁ、確かによく考えると[トイレは俺の全てだ]はおかしかったかもしれない。その時は何気にいい言葉なんじゃないのか?とか思ってたけど、冷静になると最悪の言葉だ。なにあれ、俺はあの時ちょっと頭を使いすぎたのかな?バカなのかな?


というわけで俺は顔を机にこすりつけて絶望しているというわけだ。でもね、だからってトイレットはないと思う。これは軽くいじめだぜ?


「まぁ、しゃあないわな。試験中にあれだけトイレのことを熱弁したんだからそのあだ名になってもな!」


そして、俺の隣でガハガハ笑う男が1人。こいつはエンタ。漢字は分からないが、エンタというらしい。

ガタイが良くて、2メートルは確実にある。顔も丸くて筋肉質だ。腕ムッキムキ。脚バッキバキ。顎ワッレワレ。歯はキッラキラ。いかにも強そうな人だ。

エンタは試験が終わってすぐ俺のところに来て、この事件の概要とかを親切に教えてくれた。

どうやら、というかなんとなく分かってはいたが、この試験は農民が1発逆転を狙って勇者を目指すための試験場らしい。

勇者は勇者から生まれるのが基本だが、たまに遺伝上の変化か進化か、農民から異常な力を持つものが生まれることがあるそうだ。

んで、そういうやつのためにこの試験場があるらしい。

そして、試験官のあの小汚い男。あいつの名前はグレン。あいつも農民から突然生まれた勇者で、階級は第2類勇者。鎧を作る鎧師だそうだ。なるほど、自分が作る鎧の相手をこの試験を通して見るわけだな。そして、第2類勇者だってのにこんなレベルの低い試験場の担当をしているのは自分の生い立ちに重ねて……………と、言ったところか。いや、でも良く考えると筆記クソ難しかったな。農民相手に本気出しすぎじゃない?俺をもっと労ってくれよ。俺弱いんだからやる気出さないでくれよ


「うぉーーっす、お前ら集まれ」


グレンが勢い良く扉を開けて部屋に入ってくる。そして、すぐ隣の壁にまで近づくと指をパチンと鳴らした。すると、壁に紙が出現する


「ここに不合格者を張り出した。合格者は俺のところに来て番号を見せてくれ。不合格者はさっさと帰って来年に向けて頑張ってきな」


みんなが紙に群がっていき「あーー」とか「やっぱりーー」とか「えぇ!?あんなんで合格できたの!?」とか口々に騒ぎあっている。


「あれ?狩虎は行かないのか?」


エンタが紙を見に行こうとする


「ああ、いいよ。俺どうせ合格してるから」


そういうと俺は番号をポケットから出し、グレンの元まで行き手渡す。


「ほぅ………あの紙を見ないのか。まるで自分の合格を確信しているようだな」


グレンがニヤリと笑う。


「いやーーそれが、周りの皆さんから話を聞く限りではマークのしかも数問しか解けてないみたいなんですよね。なので、マークだけなら自信を持って解けた俺なら、合格しているんだろうなーと思ったんです。」


「…………そうかい」


そういうとグレンは俺に剣を手渡す。


「523番、お前に剣を手渡す。そのかわりお前の腰につけている剣をこっちに渡しな。」


俺は腰からイリナの盗品リストから選ばれた初心者用の剣をグレンに手渡す


「おっ、なんだ。俺が渡したやつと同じじゃないか…………あ?でもおかしいな、確かこいつは城の騎士に配布される一振りのはずなんだが……………」


あいつ一体何を盗んでんの!?


「あーーー[いらない]って言いながら友人が僕に手渡してきたんです。何も僕の友人が盗んだとかそういうのはないです」


しかしあれだな。ここ1ヶ月のおかげか俺も嘘をつくのが上手くなったな。こうも流れるように嘘が吐けるとは………………


「ふーーん…………そうかい。………次の奴こいや」


そういうとグレンは俺の後ろの奴に手を招く。いつの間にか結構な人数が並んでるな…………お、エンタも並んでるってことは合格したのか


俺はグレンの前からどき、自分の座っていた席に座りなおす。

人数は…………134人。結構多いな。もう少し削れると思ったんだが………………


……………それより気になることがある


俺はチラッとグレンの横にいる子供に視線を向ける。

何だこの子、13歳いってるのか?結構身長低くてしかも童顔だから年齢を絞り込めない。

いや、年齢なんてぶっちゃけどうでもいい。問題は、あんな子供が第2類勇者の側にいるってことだ。相当な実力者か?


「いやーーよかったよかった。俺でも合格出来ててな!はっはっはっはっ!!」


エンタが剣を持ちながら、笑いながらこちらへと来る。うーーむ、豪快な笑っぷりだ。喉の奥まで見えそうだ


「なぁ、エンタ。あの子知ってるか?グレンの隣にいるあの子だよ」


俺は指さしは失礼な気がしたので視線で方向を指し示す


「あの子?…………知らんなぁ。なんだろうな、息子?」


「息子にしては少し………いや、結構顔が似てなさすぎだろう。………まぁ、俺も親と顔が似てないから人のことは言えないが」


遺伝子上、俺は両親の子供だが顔が全然似てない。スイカと玉ねぎぐらい似てない。逆に花華と光輝は両親にクソ似てる。瓜ふたつレベル。

…………なにこの俺の疎外感


「ふーーん……………まぁ、俺にはようわからんな。でもまさか次の試験で使うわけではないだろう。だって子供だぞ?大人に近い俺達と一体何で試験するってんだ!?おままごとか!?」


がっはっはっはっはっはっ!!!!と笑うエンタ。


……………だといいんだがな


「よーーし、合格者への剣の配布が終わったな。それじゃあすぐにでも二次試験に移行する」


いつの間にか剣の配布が終わっており、合格者達がこちら側へと来ていた。


「あーーそれじゃあ今からステージを作るんで、お前ら注意しとけよ」


そういうとグレンは巨大なハンマーを高く掲げた。


…………注意する?


ズンン!!!

グレンの一振りが床に炸裂し、建物が揺れて完全に倒壊する!


くそ!そういうことか!ここの建物がボロボロなのはグレンが受験者を吹っ飛ばすからでも年季が入っているからでもない。毎年毎年こうやってぶっ壊すから、建物を建てるのめんどくさがって突貫工事でボロボロなものを作るからか!!


俺は落ちてくる瓦礫を剣の腹で弾き返す!

動きが遅い俺でも出来てるんだ、他の奴らもこれぐらいの芸当できて当然か!


「さて、実はこの町は俺が私有しているものでな、お前らから見える全ての土地が俺のシマだ。」


全てが崩れ去り、あとは瓦礫と埃だけが残った中で、グレンと子供は涼しそうな顔でこの町を見ていた。

それに比べて俺を含めた受験者は全員膝をついて息を上げている。

やっぱり第2類勇者だ!この化け物じみた力はイリナを彷彿とさせる!


「さて、ここまで言えばわかるな。第二試験はこの街全てを使った制限時間30分の鬼ごっこだ」


…………さすがに鬼ごっこだとは思わなかったです


「鬼は俺の隣にいる亜花っつう子供だ。どうだ?簡単だろ?」


………ああ、もう嫌な予感しかしないよ


「さてここでこの鬼ごっこに特別ルールをつけるぞ。鬼ごっこだと言っても逃げてるだけじゃつまらない。てかお前らが圧倒的に不利だ。だから亜花(こいつ)をベッド送りにしたらその時点での残りの人間を合格とする」


「おっほい、マジっすか!こんな小さな子供を倒すなんてのは心苦しいが、そんなんで合格できるんすか!」


なんかバカそうな奴ら数人が俺たちの前に出て、亜花君を狙う。

そして、俺はとても嫌な予感がしたので先に走って逃げる。

やばい、絶対にやばい。あんな高レベルの筆記試験を一次試験で出してくるような奴が、二次試験で手を抜くわけがない!ここから確実にやばさが跳ね上がるはずだ!


「ああ、めっちゃ簡単だろ?逃げなくていいんだぜお前らは。勇者のように相手を倒していいんだ。それじゃあルールも分かったことだし試験始めるぞーー。」


俺は走る!とことん走る!亜花君とやらから全速力で離れる!逃げなくていい!?何言ってんだこいつ、絶対に俺は是が非でも逃げ切るぞ!

俺のその情けない姿を見て何人かが「はっはっはっ、情けねーー。勇者失格だぜ!」とか言ってるがそんなことはどうでもいい!お前らの言葉なんて聞いてられるほど俺は余裕ないんだよ!


「よーーい、スタート!」


カチッ

ドっっゴォォォオオンンン!!!!!


上空に漂っているタイマーが始動する音と、人が吹き飛び地面にめり込む音が同時に聞こえた。

てか俺の真横を通り過ぎて、前の壁に人がめり込んでる。

うわーーー臓器ぐちゃぐちゃだよ


「ああ、そうそう言い忘れてたルールが1つあったわ。」


亜花君がいた場所の地面にヒビが入っている。きっと蹴り出しの威力が強すぎて地面がもたなかったのだろう。結構舗装された地面なのにおかしいな……………


「特別ルールその2。この鬼ごっこはタッチされたら負けじゃない。お前らもベッド送りになったら負けだ。まぁ、死にそうになったら助けてやんよ。あ、ちなみにこいつの力は聖騎士長クラスを余裕で超えるんでそこんとこヨロシク。」


「「「うわぁぁぁあああ!!」」」


試験者たちが一目散に逃げていく


「今回の試験で見るのはお前らが圧倒的脅威と向かい合った時どう対処するか、どう逃げ切るかだ。蛮勇は身を滅ぼす。さぁ、思い知りな」


亜花君は軽くステップを踏み続ける。

笑顔だ。こいつは戦闘を楽しんでいる顔だ。こいつに捕まったら最後、半殺しは避けられないな


残り時間29分48秒、残り130人。

相手の狂気…………100%

投稿しすぎだ…………自重します


重要関連作品

カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/

カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/

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