やらねばならぬ時がある
「騎士です」
「いや、なんでもう一度言うんですか。俺はもう嫌なほど理解してますよ」
騎士だってー!?なんてこった、何でこうも俺の人生はハードなんだ!あれか?神は俺に善業を積ませたくないのか?
てか後ろの三人笑いすぎだ!窒息して死ぬぞそのペースで笑い続けたら!
「良かったねぇーミフィー君…………ぐふっ、き、騎士になれっ……なれ…………なれてっっっ!!!」
うざってーー!!なんで話しかる時だけは気を使って笑いを堪えるんだよ!!そこはもう思いっきり爆笑してくれよ!!中途半端な慰めはトドメにしかならないんだ。慰めじゃなくて殴刺めだぜ
「と言っても、それは飯田さんの身体能力面のみです。」
「…………ほ?それはつまり一体どういうことですか?」
「まんまですよ。飯田さんの機動力や筋力は騎士レベルです。いや、それ以下です。定義が存在しないのでちゃんとしたレベルでは言えません。多分この世界の勇者の誰よりも遅いんじゃないでしょうか………」
……………笑うんじゃねぇイリナぁぁあ!!
「しかし体の頑丈さは軒並み外れてますね。聖騎士長クラス………といったところでしょうか?」
「ええぇぇ、なんで俺の体ってそんなに頑丈なんですか………」
「そうですね…………飯田さんの体の周りに結構な魔力が渦巻いているのが見えるので、多分封じきれなかった魔族の方の魔力が漏れ出して体を覆って頑丈にしているのではないでしょうか。」
おっほう、マジですか。つまり慶次さんの話を要約すると[飯田狩虎はサンドバッグ]と言ったところか……………涙出てきた
「…………あれ?でも待ってよ、それじゃあなんでこの前は九尾を倒せたのさ。あの動きは完璧に聖騎士長のそれと同じだったよ」
俺が凹んでいると、イリナに肩を叩かれる
「ん?ああ、あれは単純に炎を使った加速だ。」
俺は振り返る
「体内で炎で水を熱して蒸気を生み出す。それを限界まで圧縮して各運動ごとに放出して推進力を得ていたんだ。」
ビュッ!と誰もいない空間にパンチを繰り出す。
「…………まぁ、このように出そうと思えばイリナ達クラスの運動能力も出せるんだ。が、俺の体じゃ耐えれない。」
俺の腕の表面の皮膚がズタボロになっている。単純に俺の頑丈さじゃこの速さに耐えられない。それにコントロールも結構難しい。宏美の正拳突きみたく直線的じゃないとぐらついてしまうから。
つまり高野豆腐にエンジンターボをくっつけて、それに突撃させている感じだ。
「なるほど、まさしくブッ壊れ性能ってやつっすね!」
「いや、まぁ………うん。合ってるようなあってないような…………」
…………やばいな。こいつは想像以上にやばい。まさか俺の役目がサンドバッグになってしまうとは。せめて魔剣だけでも使っちゃおうかな……………
「ま、まぁ、俺が弱いとかそんなのはどうでもいいんだ。1番大切なのは俺たちはもうリーダー決定戦の本戦への切符を手に入れたってことだ。」
確か本戦は団体戦だとか…………それならぶっちゃけ俺が弱かろうがイリナや黒垓君、染島さんがなんとかしてくれるだろ。
まぁ、本戦まで1週間の準備期間がある。その間にみっちり修行でもして強くなれば……………
「はい。貴方達、つまりイリナさんと黒垓君と染島さん。以上3人の本戦出場を認めます」
「……………あれ?俺の名前が抜け落ちてません?」
おかしいな…………飯田さんという言葉が聞こえなかったぞ?一体全体どういうことだっ!俺はここにいるぞ!
「いや、実は必要最低限のルールで、個人を表す鎧を持たないものには参加をさせないというものがあってですね」
「……………え?初耳なんですけど」
「初耳ですか?それはきっとポスターをちゃんと隅々まで見ていないせいでしょうね…………ほら、ここに書いているじゃないですか」
慶次さんが指差す方向を見るとポスターが貼られてあった。題名は「戦を率いようぜ!」。王様が親指を立てて笑っている絵がある。さらに焦点を絞って見ると確かに[鎧を持たぬ者入るを得ず]って書いてあった。結構小さな字で。
な、なんだってーー!?え?つまり俺出れないかもしれないってこと!?………それはまずい!なんかこう説明のあらを探さなくては!
「え、えーーっと…………そうだ!染島さん!染島さんはどうなんですか?確かに俺は制服ですけれど、染島さんだって魔族の支給された鎧ですよ!?これは当てはまらないんじゃないですか!?」
「いや、当てはまりますよ。魔族の鎧も勇者の鎧も、力を認められた者にしか与えられません。それはつまり個人を認める鎧であるということです。だから染島さんの鎧は正当です」
うぐっ…………つまり俺の力は認められていないってことか……………
「まぁ、魔族の鎧をつけて参加するというのであれば認めることもできますが、あんなごっつい鎧なんて着て人目に出たりしたら1発で正体がばれちゃうんじゃないですか?」
………確かに!せっかく身元隠してるのにそんなことしちゃったら本末転倒だ!
「鎧を持たぬ者、勇者でも魔族でもあらず。ということです」
わっはっはっはっはっはっはっ!!!!と後ろで笑っている奴らは放っておいて、今回は色々と誤算が多かった。まさか俺の出場が不可能だとは……………いや、まだ手はあるはずだ
「そこをなんとかならないんですか?こっちも色々と事情があってどうしても出場したいんですよ…………」
俺は慶次さんのデスクに両手をつき、懇願する。
「ああ、安心してください。ちゃんとチャンスはあげます。」
おほっ!?チャンスをくれるんですか!?
「チャンスと言いますか、そんな裏で話をつけるとかはしないですけどね。正規のルートですよ」
…………え?違うの?
「鎧がないんならとってくればいいんですよ。勇者と認められていないのなら認めさせればいい。今から変わればいいんです。」
「……………えーーっと、それはつまり?」
「言葉通りです。今日の18時半から明日までの2日間。勇者となる為の試験が南の街グランダで行われます。そこに行って勇者と認められてください。そうすれば私も快く飯田さんの参加を認めましょう」
…………………こうして、俺は、当初の目論見から大きく外れ………てか自信を打ち砕かれて、てか絶望した状況ではあったけれども、ほんの少しの希望を頼りに南町のグランダに行った。
ガヤガヤガヤガヤ…………
説明された建物に向かい中に入ると沢山の人が椅子に座っていた。
大きさでいうと札幌の大通公園の三丁目に相当と言ったところか…………外見も結構年季が入っている感じだ。多分由緒ある建物なのだろう。
イリナ達とは途中で別れた。どうやらこの試験は2日間ぶっ続けで行うことで、試験者の体力面とかも見ているようだ。だから外部との関わりを絶ち、他からの援助を排除するために街の途中で[勇者でない者しか通れない]結界が張られてあった。その壁のせいでイリナ達はここに来ることができず、別れた。まぁ、染島さんについてきてもらうってのも出来たんだけれど、それじゃあまるで試験に向かう子供の引率だ。要は恥ずかしいのだ。
だってさ、勇者の試験ってことはどうせ腕っ節を見るんだろ?てことは強面のやつとか沢山いるんだろ?それなのに保護者同伴みたいな感じでそこに参入するってのは…………なめられるな完全に。
それに今回の試験は勇者でも何でもない農民、町民、市民と呼ばれる人々が勇者になるための試験であるらしい。だからきっと畑仕事で鍛えられた肉体は俺の身体能力の上をいっているかもしれない……………まぁ、ないと信じたいが、とにかく力が拮抗するかもしれない相手になめられるのは試験としては不利になるだろう。
「えーーっと、523番………」
俺は受付の人に貰った紙の番号を見ながら席を回る。
もうすでに席に座っている人たちは前後の席の者と会話をしていた。…………片手に参考書を持って。
あっちも、こっちも、どっちも、全員片手に参考書を持っていやがる。しかも両手に持っている奴もいる。
しかもめっちゃ勉強してそうなネガネをかけた人なんてボロッボロの本をチラチラってこちらに見せつけてくる。
えぇぇぇぇえええ!?ちょっとま、まて、ちょっと待つんだ!まさかとは思うが……………
ピーーー!!!!
部屋中に笛の音が響き渡る
ガラガラガラ!
部屋の前についてあるドアが勢いよく開かれて、男が入ってくる。
ボロボロの法被のようなものを着ている。ズボンもヨレヨレで………全体的に小汚い。
「おーーい、立っている者は席につけーー。さもなくば失格にすっぞ」
俺はその言葉に反応して素早く席に着く
ギシッ!
小汚い男は荒々しく教室の前方にある席に着く。それはまるで教卓のようで…………あーーーやだ。もう何が何だか分かっちまったよ
俺はポケットからペンを取り出す。城を出るときに慶次さんから貰ったのだ。その時は何かの書類に名前を書くときに必要なのだろうかとか、明確な目的を推量する事は出来なかったが………今ならわかる。はっきりと分かってしまう。
「あーーーかったるいことに今年もこの日がやってきてしまった。ヒヨッコのてめーらの為に、この俺様がわざわざ出向いて品定めをするこの日がな」
ガン!
小汚い男は両足を教卓のようなものに荒々しくのっける
「第2896回[勇智技巧もしくは仁義冷徹を図る為に行われる勇者の卵査定試験]略して[勇検]がな!!!」
ガラガラガラガラ!!ピシュピシュピシュピシュッ!!
後ろと前のドアから鎧を着た者達が大量に現れ、席についている者達に紙を配って行く。
配って行くってか投げている。荒々しいったらありゃしないぜ。
「勇者を目指すってことはお前らはきっと運動が得意なんだろうが…………それだけじゃダメだ。動けても頭がよくなければ、窮地に陥ったときに動けなくなっちまう。勇者の本分はピンチをチャンスに変えることだ。それなのに道を切り開くことができない人間は勇者とは呼べないな」
ピロリン!
小汚い男の上にタイマーが出現する。真ん中に90と書かれていて、ドラム型のやつだ。カンカンカンカンうるさそうなやつ。
「今から行うのは90分の、頭が良ければ誰でも解けるようなテストだ!特にお前ら農民からすればある程度頭をひねるだけで解けるような陳腐な問題だ!!」
やばい………展開が早すぎる。まだ全然説明できてないぞ。てかこいつテンション上がってんなおい!
「1次試験は[筆記試験!!]。何?入ってきてまだ1分しか経ってない?こんなんで早いなんて言っているようじゃこれから先もたないぞ?」
話の途中でもはや立ち上がっていた男は、大きく息を吸い込む…………
「それでは、初めだ!!」
バサバサバサバサ!!
周りの人間が一斉に紙をめくる!
だがしかし、俺だけはまだ紙をめくれずにいた。
動き始めたタイマーは刻一刻と時間を削っていく。
…………ふっ、まぁ、確かに少し驚いたさ。戦いのみだと思っていたのにいきなり筆記試験とか言われたら誰だって驚くもの。しかも勉強してないとしたらなおさらだ…………だがまぁ、それは俺以外の人間の話だ。この校内一位の勉強出来るマンである俺からすればこんなの簡単なもの!もはや俺のホームグラウンドであると言っても過言ではない!
ピラッ
優雅に紙をめくる
さてどんな問題かな?
[第1問 クラシング海沿岸でコママヤシが異常発生した。これはヤングライド現象によるものだと専門家のウユハロが言うが、ヤングライド現象とは一体何か?30字以内で説明せよ]
わかるか!!!!
手元の鉛筆を握りつぶしそうになるが、慌てて力むのをやめた。
…………ダメだ。このままあからさまに分からないような振りをしたら、試験官は俺をカンニング要注意者としてみなすようになってしまう。今はまず冷静にだ。とにかく冷静にだ。
俺は頭をすっきりと入れ替えて問題に向き合う。
さてまずクラシング海沿岸だ。これはきっと海の沿岸部のことを指しているのだろう。この世界は現実の鏡写しだから世界は丸いということになるわけで緯線経線が存在することになる。それだと緯度毎に気温が変わるわけで、こいつが何帯に属しているのかを把握しなくてはならない。
クラシング海………………どこだよそこ
俺はシャラシャラと紙に何かを書いている振りをする。一応解けてますよ雰囲気を出しておかないとな…………………
どうしよう全然わからないぞ。この世界の常識を問われてしまったら俺なんて手も足も出ない。せめて事前に勉強できてればなぁーー、こんな簡単だと言われている問題を落とすなんてことはなかったのに……………ん?待てよ?………これはこの世界の人間からすればあまりにも簡単なんだよな?
俺は紙をめくる。厚さから考えて17ページと言ったところか。
誰もが簡単に解けるってことは隣のやつも簡単に解けているってことだよな?
俺はチラリと前に座っている小汚い男の方を見る。来た直後のように椅子にダランと座っている。
横のやつも解けているってことは当然前のやつも解けているんだよな?
ピタッ
俺の手が止まる。そして、俺は悩んでいるような素振りをする。ずっと問題解けていても不審に感じられるだろう。だからこれはアクセントだ
………………するしかないじゃないか………………
俺の頭の中で式が組み立てられていく。
(この世界のことは分からない)+(なのにこの世界のことを質問されている)+(俺はどうしても勇者の称号が欲しい)+(多分この試験は1年に一回しか行われない)=……………………
……………カンニングをするしかない!!
組みあがってしまったどうしようもない方程式。なんて危ない綱渡りなんだ。できることならこんなことは避けたい。こんなの勇者としてあるまじき行いだ。
……………あ、俺魔族だった。
俺は悩んだふりをする為に額に押し当てていた手を離す。
閉じていた目がゆっくりと開いていく。
もう俺に迷いはない。もう俺に弱さはない。もう俺に不安はない。そんなつまらないものは捨て去った。今の俺にあるのは目的を完遂するという崇高な意識のみだ!!
「あーーーちなみに、そんな野郎はいないと思うが、もしカンニングをしようなんて思っている奴がいたら………………」
「え?ちょっ、俺は何もしてないって!」
黒色で長めの髪の男が壁際に立っていた大きい人間2人に掴まれて前に連れて行かれる。
その姿はまるで俺そっくりで…………なんだろう、冷や汗がでてきた……………
ボン!
小汚い男の横に巨大な鋼のような金属で作られたハンマーが出現する
ドズンンンン!!!
それは地面にめり込み、教室がひどく揺れる。
………………建物がボロボロだったのは年季が入っているんじゃなくて、まさか…………
「俺は何もやってないって言ってんだろうが!!」
男はなおも暴れるが、ガタイの良い鎧を着た男を降り解けるわけがない。微動だにもせずに男どもは黒髪の男を小汚い男の前に運ぶと、ドサリと降ろした。
「こうなる」
ブンっっ!!
横に振り抜かれた巨大なハンマーは男の上半身を丸ごと打ち、男の骨が気味良く折れていく音が聞こえる。そして、
バゴン!!
男は部屋の壁を突き破り、隣の建物の壁を突き破り、さらに隣の壁を突き破るほど吹き飛ばされた。
「安心しな、殺しちゃいない。死にそうになったらすぐにベッドまで運んでやっから…………まぁ、どんなに怪我しようが、[死ぬギリギリまで]放置するがな」
小汚い男は光に照らされて光り輝くハンマーを消すと、また椅子に座りなおす。
2.3人の鎧を着た男たちが壁をすぐさま修復していく。きっと土の魔力か再生の魔力を持っているのだろう。
ドッドッドッドッドッドッ……………!!
心臓が高鳴るのを感じる。これはヤバイ、こいつはマジでヤバイ!
勇者で1番遅いっていう称号を押されたりとか色々と今までヤバイことがあったが、今回ほどではないだろ!
俺はいつの間にか離してしまっていたペンを握り直すが、手が震えてしまう。上手く握れない。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!震えが止まらない!!このままじゃ怪しまれてしまう!!
俺は水を首あたりから染み出させて凍らせ、体の余剰な熱を吸い取らせる。
やらなくてはいけない!今俺は勇者となる為に、勇者の一歩を踏み出す為に……………
ダラッダラと出る汗でテカっている顔を持ち上げて小汚い男に視線を向ける。
お前の視線を盗んで俺は絶対に!!
ポタリ、汗が紙に落ちてじわっとシミを作り出す。それはまるで俺の心に広がった恐怖を表しているようで、イラついたからその部分に穴を開けた。
カンニングをしてやる!!!!
第一次試験…………[筆記試験]
試験監督者…………軽く壁を3貫する怪力野郎
狩虎の試験達成条件…………バレないようにカンニング
さて、地獄の始まりだ
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カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/




