優しさに包まれて
「更新ペースが上がっている…………これは、由々しきことだ!」
と私は切実に思っています。
ジャッ
上空に漂う数百の刃全てが黒垓君に向けられる。
「まーずーはーー………小手調べだ。」
シャシャシャシャシャン!
刃が一斉に解き放たれる!だが、刃の1つ1つの発射タイミングが少しだけずらされている。
だから……………
カンカンカンカンカンカン!
槍が刃を斬りつけ叩き伏せる音が聞こえ続ける。斬られた刃は、形を維持できなくなったせいか元の不定形な炎へと戻り霧散していく。あーー魔力を断ち切られたか。
だがしかし、まとめて対処できないから、刃の一本一本を個別に対処しなくちゃいけない。もし全部を一斉に放っていたら一瞬で消されていたってわけか………それやってたら詰んでたな。
まっ、結局バラバラに攻撃しているから辛いのは俺じゃなくて黒垓君だけどね
ザクザクザク!!
弾かれた無数の刃が地面に突き刺さり、その周辺部を溶かしていく。そのせいで黒垓君の足場の周りは、立ってるところを残してほとんど全てが溶けて消えている。
…………なるほど。全てを真面目に切り伏しているわけじゃなくて、大抵のものは軌道を少しだけずらしているのか。それなら確かに動きも少しで済むもんな。
でもそれじゃ、足元が不安定になるよなー。
ジュッ…………
俺の右腕から炎が染み出し、それが巨大な刀となる。それは空中に浮遊すると、黒垓君を攻撃できる距離にまで飛んでいった。
「刃28本分だ。これを防ぎきることは出来るかな?」
シュっ
絶え間なく降り注ぐ刃の雨の中、巨大な一振りがその雨空を断絶する!
「………くっ!」
グワッキィイんん!
手に持っている槍によって大剣は上空へと弾き飛ばされる。そして、その反動で黒垓君の動きがもつれる。
大剣1本を槍1本で対処してしまうのか…………結構な強度だなあの槍は。
俺はすぐさま弾かれた大剣の軌道を修正し、またも黒垓君に振り下ろす!
「だったらいいぜ。壊れるまで叩けばいいだけなんだからな」
グワッキィイ!!グワッキィイんん!!
何度も高速で振り下ろされる大剣を、黒垓君は必死に弾き続ける。
しかし黒垓君は器用だな。俺の大剣攻撃を弾きながら、別の7本の槍で雨のように降っている刃を対処しているんだから。
感服するぜ。
弾かれた刃は更に地面を溶かしていき、黒垓君の周りは足場を残してもはや巨大な穴となっていた。
しかもその足場さえも、俺の絶え間ない大剣の攻撃のせいでヒビが入っている。あと1発ぐらいで崩壊するんだろうな……………
足場が崩壊すれば黒垓君の負けだ。穴に落っこちてしまえば逃げ場がないから、俺の特大火球を対処する術がない。崩れる前に飛んで逃げたとしても、あんな高速で降ってくる刃に当たらないなんてことはできないだろ。相対速度なんぼよって話しだ。まぁ、もし運良く刃に当たらなかったとしても空中で移動できる人間などいない。全方向から攻撃されておしまいさ。
俺が大剣を構え直し、振り下ろそうとした瞬間!
ボヒュッ
高密度に圧縮された空気の塊が俺の眉間めがけて飛んできた!
うおっ、んのやろう!こんなの脳味噌貫いちゃって俺即死じゃねーかよ!殺す気満々だな!
とにかく、とにかく!かわさないと死んでしまう!
俺はとにかくひたすら全神経を費やして、背骨が折れるんじゃないかってぐらいの勢いで腰をひねるのと大剣が黒垓君に振り下ろされたのは同時だった。
グワッキィイんん!!
甲高い音と空気が岩を貫く音が同時に響き渡る。
「はぁ………はぁ……………しくったな。」
ボボボボボッっ
風をかわしきった直後、俺に向けて幾つもの風の塊が放たれる!
黒垓君だ。さっきかわすのに夢中で放つ刃の数を減らしてしまったのだ。多分黒垓君はその隙をついてその場から離れて俺に反撃をしているといったところか
俺は直線的に放たれる空気をギリギリでかわしながら、黒垓君の方をチラッと見た。
するとやはり、俺の大剣がさっきまで黒垓君がいた場所で切り刻まれて霧散しているところだった。
それに黒垓君はより俺に近づいてきていた。
勇者は接近戦が得意だからだな。これ以上近づかれたら流石の俺も辛い。
いや、それ以前に…………
グググッ
「くそっ、引っ張られる…………」
この風だ。触れた酸素をなくしてしまうから風が通過した場所に引っ張られてしまう。このせいで動きが鈍くなりこの連続的に繰り出される風をかわすのをより困難にさせている。
黒垓君を近づけないことを考えるよりもまずは目の前の危機だ。かわせるからってなめきってたらこれは死ぬぞ!
ブォォアアアっっ
俺はたまらなく炎で壁を作り風をさえぎり、その隙にその場から逃げる!
この炎ならある程度は防げるだろ!頼む、10秒持ってくれ!
ボッボッボッボッ………シュボッ!ジュアアア……………
俺の想いも虚しく、炎の壁はたった5発の攻撃で貫かれて霧散してしまった。
いやーー!!3秒もたなかったぁぁぁ!!!
…………い、いや。大丈夫だ。この3秒が大切なんだ。ちょっと短すぎる気もするけれどこの空白が大切なんだ!
「…………いけ。」
空中に待機していた刃達が黒垓君の方に向き直されていた。
そして、それは再度黒垓君に向けて放たれた!
大小様々な刃が蛇行しながら、直角にジグザグに進みながら、一直線に放たれながら黒垓君に向かって飛んでいく。
総数1000本の炎の刃。真っ黒な空に真っ赤な線を無数に引き続ける。それは何とも艶やかで鮮やかで煌びやかで、それでいて触れることを許さない畏怖を呼び覚ます光景だった。
花火のようだと言えばいいだろうか?………いや、そんなんじゃあの美しさと脅威は語りえない。あんなちっぽけな、金属の炎色反応などと比較するのが間違いだ。
果てしなく美しい世界の片鱗。魔法の世界の日常。そんなものを見たような気分だ。
それほどまでに美しい狂気は高速で黒垓君に迫る。かわせるもんならかわしてみな。全てを弾くことができるのなら弾いてみな。
たった8本の槍とその小さな体で出来るんならな!
「ええ、やってやりますとも」
ビシッ!
俺の心の声が聞こえたのか?黒垓君はそう言うと、腕を真上に高く上げ指を上にあげた。
そうすると、黒垓君の周りを浮いていた7本の槍の動きが止まり、切っ先が黒垓君の指に向けられる。
そして、7本の槍から巨大な風の束が発せられ黒垓君の指あたりで合体し、より巨大な風へと姿を変える。風は無色から金色へと姿を変えていた。
それは黒垓君の周りを覆い尽くし、全ての刃が粉々にされた。風に向かってくる刃が触れた瞬間、まるでミキサーの様に触れた部分から刃は切り刻まれていった。
「ゲイボルグの最大最強最高最高奥義っす。」
刃物が飛び回っているかの様な竜巻の中から黒垓君の声が聞こえる。
「…………盛りすぎじゃねーか?」
「そうっすか?オラ的には控えめな方なんすが」
あれ?俺の方がおかしいのか?………うーん、イマイチわからんな。
金色の風は黒垓君の右腕に収束し、黒垓君の右手が光り輝く。
「まっ、とにかくこれがオラの今できる最強の攻撃であることは間違いないっすよ」
………攻撃だと?防御じゃねーのか?
「攻撃っす。さっきのオラの身を守った風は奥義発動までのただの準備段階っす。………まさか、オラがあんなしょっぱいことで終わらせると思ってたんすか?」
「いや、あれはしょっぱくないだろ。俺の攻撃が全部砕かれたんだぞ」
一言で言えば荒々しい。もう一言付け加えれば神々しい。さらに一言付け加えれば「あ、これ詰んだ」しい光景だった。
何あれ、竜巻っていうかどちらかと言うと俺は山に見えた。山は山でも岩山だが…………。「これぶつかったら痛いだろうなぁ」とか立体的な痛みを想像してしまったからね。
「あんなの序の口っすよ。今度オラがする攻撃はあんなのの遥か上をいく攻撃っす」
…………やべぇ、にげてぇ。
「さっきの風を右手に集めました。あれほどまでの量を、師匠が言う様にこんなちっぽけな体の、こんな小さな腕に詰め込んだら、解放した時にどうなるんでしょうね?無理やりこんなに小さな場所に詰め込んだ風が勢いよく解き放たれてしまったりなんかしたら、もう………………ああ、考えただけでも恐ろしいっすよ」
黒垓君は右手で左の二の腕を、左手で右の二の腕を掴みブルブルと震える。
震えたいのはこっちだよ。
黒垓君は話が終わると光る右腕をこちらに向けた。
「まぁ、正直に言うと直撃したら百パーセント死んじゃうんで、せいぜい足掻いてください。死なれたらこっちも困るんでね」
「身勝手ー!君のその発言は身勝手だわ!当たったら完璧に死ぬ攻撃をなんで死なせたくない人間に向けて撃つんだよ!そこは考えろよ!」
「いや、だって面倒くさいじゃないっすか。細かい計算とか概算とか…………」
おいおいおいおい、そこは計算してくれよ!こちとら命かかってんだぞ!?
「それに、師匠なら何とかしてくれるってオラ、信じてるっすから………………」
「責任の丸投げー!!それっぽい雰囲気で言ってるけどそれ、面倒ごと全て俺に押し付けてるだけじゃん!」
「それに………」
まだあんのかよ!
「師匠はイリナさんに殺されるまでは死ねないんでしょ?それが夢なんでしょ?それなのに[絶対に死ぬ攻撃]程度で妨げられるんなら…………そんな夢、存在する価値もない。」
………そうきたか
「無意味な夢であるのならオラがぶっ潰します。ぶっ壊します。ぶっ殺します。有意義なものであるならばオラは師匠の夢をどうすることも出来ない…………ただのそれだけっすよ。」
「ふぅ…………わかった。確かにその通りだ。正き夢ってのは人に力を与えるもんだもんな。だから主人公は数多の困難を突破できる。」
俺は刃を無数に出現させ、俺の前に配置する。
「いいぜ、俺が主人公かどうか試してみようじゃないか。[絶対に死ぬ]何て言葉、主人公なら簡単に突破できるからな」
「そういうことっす。……………それじゃあ…………」
黒垓君の腕が唸りだす。
あとちょっとで来るぞ!気を張らねば!
「あ、ちなみにこの風は魔力無効っすからねー」
「………………はぁ!?ちょっとまっ」
「うおおおお!![ロイヤルファング!!]」
右腕に溜め込まれていた風が爆発するかの様に吹き出す。それはまるで金色の爆発のようで、「ああ、ゴー○デンボンバーや」とか思ったり思わなかったり………ああ、もうダメだ!完璧に気が抜けた!集中力切れた!何てことしてくるんだあのやろう!悪役でもそこまでひどいことはしないぞ!!
超高速で迫ってくる金色の巨大な爆発はなんだっけ、魔力無効だって!?つまり俺のこの炎使えねーってことか!?
てことは、いつもの炎を使えばいいんだな!?
俺は手から炎を出すが、それは爆流弾に触れる前に一瞬で消されてしまった。
ああ、酸素消失させやがったよあの野郎!
ど、どど、どうすんのよ!どうすればいいんだよ!…………ああ、もうダメ元だ!準備した刃達よ、行けー!
刃達は勢いよく発射されるが爆流弾に触れた直後に一瞬で消されてしまった。
「…………………終わった。」
ぶつかる直前に俺はこの一言だけを呟いた
ブウォォォォォオオンンンンん!!!!ズガガガガガガガガガガ!!!!
俺は爆流弾に飲み込まれてしまった。
巨大な風の竜巻は地面を大きくえぐり取り、触れたものを全てミンチに変えた。
さっきはミキサーとか刃物が飛び回っているかの様な竜巻とか生やさしい表現をしたが、訂正しよう。これは溶解だ。切り刻むなんて言葉じゃ弱いんだ。触れたそばからみじん切りされていっていて、まるで溶かされているのか様だ。
辺りには砂と月光を反射させる小さなカケラが飛び散っていた。
地面には波動砲が飛び交った様な痕が刻まれている。砂が風に舞い上げられてしまっていて、地面をはっきりと見えるのは一部分しかないが…………それでも巨大な魔力が暴れまわったと言うのはその一部分だけでも十分に分かった
「………………はぁ、結構好きだったんすけどねー。まさかこんな所でおっ死んでしまわれるとは…………やっぱり師匠の夢は間違ってたってことっすかね」
黒垓君は地面に落ちていた槍を拾い上げ、自分の拠点に戻るためスタスタと歩き始めた。扉を使っても良かったのだが、今は少し歩いていたい気分だったから…………
いや、止まろう。
黒垓君はピタリと止まり月を眺めた。今日は満月の1日前、小望月ってやつっすね。
……………惜しいなぁ。あとちょっとで満たされるというのに、あとたった少しだというのに……………師匠はいつも報われない。そういう運命なんすかねぇ。
「…………まっいいか。もう過ぎたことっすね。つゆみーーー。そろそろ帰るから出てきてーーーーー」
黒垓君は大声を上げて、どこかにいるであろう染島さんを呼んだ。
「く、黒垓君!」
「あ、つゆみーーー。もう終わったから出てきてもいいんすよーー。何をそんなに慌ててるんすか?」
「終わってないんですよ!彼はまだ死んでない………」
ボォォォォお!!!
黒垓君の目の前に巨大な炎の壁が形成される。
「まったくよぉ、黒垓君。人を簡単に殺しちゃダメだろ?まずは確認しようぜ、生死をよ。」
ブンブン!
漂っていた煙を赤い軌跡が十字に切り裂く。
「いやーーー、やっぱ俺は死ぬために生きなきゃいけない様だよ。まさか、イリナとカイに助けられるとはね……………」
切り裂かれた煙から、鎧の指部分に嵌められている指輪が綺麗に光っていた。
「指輪か…………確かに指輪は魔力の威力を抑える効果はあるっすけど、それだけじゃあの攻撃は防ぎきれないっすよ。」
「だーかーらー言ってんだろ?カイのお陰だってな」
パキパキ…………
俺は腕から水を出し、それを凍らせた。
「カイと違って水に触らないと氷にできないけどな……………まっ、とにかく俺はこの氷を槍状にして回転させたんだ。沢山な」
これはカイが使っていた技だ。
確かに、俺の弱っちい勇者の力であんな強大な攻撃を相殺することは出来ないだろう。でも、ほんの少し、ほんの少しだけ軌道をずらす事ぐらいなら出来るはずだ。
「確かに俺が普通の魔王なら死んでいた。だけれど俺には少しだけ勇者の力があるんだ。身体能力なめんなよ?」
あとはかわしてあの巨大な塊との直撃だけは避けた。周辺を取り巻いていた風だけはかわしようもなかったが…………まぁ、しょうがない。高望みはしないさ。
完璧に砂埃が晴れ、俺の姿が現れる。右手以外の鎧が全て吹き飛んでしまい、所々から血が出ている。
「なるほど、氷を使ったんすか。確かに師匠程度の魔力なら、水を凍らせる程度の物理的干渉しかしようがないっすもんね……………」
まっ、そういうこったな。弱いおかげで助かったって感じだ。
ズズズズズ
俺が右手をかざすと、そこに真っ赤に燃え上がった剣が出現する。
それはサーベルと言うにふさわしい、刃の部分が太いものである。
「真・ブレイズロード (炎炎なる支配者)×876…………さーて、いくか。」
「まぁ、生きていてくれてオラからすれば嬉しいことなんすけどね!」
黒垓君は槍をすぐさま持ち、8本へと姿を変えさせる。
そして1本を俺めがけて放つ!
…………ふっ、全く……
ビキビギビキ!!
体の魔力体型が組み替えられていく。
シュッ…………ボッ、ボボボ!
一瞬で真っ二つに斬られた槍は、音を立てて燃え上がり蒸発して消えていった。
「本当は数でゴリ押しをする予定だったんだが…………それで追いかえしても君達何度でも襲いかかってきそうだからね。それで俺は考えた、君達の戦意をくじくためには俺が最も苦手とし、君達の得意分野である接近戦で勝ってあげなきゃいけないじゃないかと」
俺が今使ったのは魔族の知る人ぞ知る秘策[身体強化の術]だ。まぁ、知る人ぞ知ると言ったけど知ってる人なんて二桁もいないと思う。
さて、この能力は勇者のような身体能力を得ることが出来るのが最大のメリットだ。そうだな………これぐらいまでなると第2類勇者ぐらいまでの身体能力を得られるぞ。たった5分間だけだけどね…………
ただし、どんなものにもデメリットがあるようにこの技にもデメリットはある。それはその間俺は魔族側の魔力を使えないってことだ。また、5分過ぎて術が解除されたら1分間魔族側の魔力を使えないこと。つまり、術きれたら俺は1分間身体能力がクズな水を操る人間になってしまうってわけだ。
いやーーーデメリット大きい。だからこんな技誰も知らないんだ。知っていたとしても使わない技ってのは忘れられていくし排除されていくものだからな。
あ、ちなみに、この身体強化の術を使っている時は炎の魔力は使えなくなるけれど、俺の[炎の魔力に耐えられる性質]は消えていない。これは多分魔力と別離してるんだろうね。だから俺が炎で出来た剣を使えるのはおかしいことではないんだ。
………….少し説明が長くなってしまった。
「これで、1本目だ。あと7本槍を切れば俺の勝ちだな黒垓君。」
ダダッ!
俺は黒垓君めがけて走り出す!
「甘い、甘いっすよ師匠!そんな浅知恵じゃあオラには勝てないっす!」
槍が3本発射される!
「だから言ってんだろ?黒垓君、そんなヤワな攻撃で俺を止められるわけがねーんだよ!」
キンキン!
3つの槍が、俺のサーベルにによって細かく切られ、蒸発していく。
「ヤワな攻撃?それは、これを見てから言ってほしいっすね!」
ダンダンダンダダダダダッ
5本の槍がさらに発射され………ってちょっと待て
「えええ!?それって再生するの!?」
俺は右にそれて槍から逃げる。
ボゴン!
その直後、俺がいた場所に槍が突き刺さり地面が吹き飛ぶ!
ヒュン!
砂煙りの中から槍が出現する!
くそっ、なんて極悪な能力を詰め込んでいるんだあの槍は!
先に飛んできた槍をひとまず輪切りにし、次に3本の槍が同時に飛んできたから俺はそれらをジャンプをしてかわし、俺の真下を通過した時にそれらを切り捨てた。
ビュンヒュヒュン!!
俺が着地する前に、風の塊が無数に飛んできた!
「クッソ……!!」
キンキンキン!
俺はそれを空中で剣を使って全てを切り捨てる。
「…………どうっすか?師匠。これでもまだヤワな攻撃だと言うんすか?」
俺が地面に着地した時、黒垓君がそう言ってきた。
「正直、対処はできる。1つ1つを見れば俺の剣の前では劣るからな。でも再生ってのが厄介だな。どうやって戦おうか……………」
……………いや、やっぱり変える必要はないか。
「そうだよな…………そうだよ。単体は雑魚なんだ、それならばやっぱり…………」
ダン!
俺は地面を強く踏みつけ、黒垓君の方に目をやる。
「作戦は最初の通りだ。君の槍が切れるまで斬り続ける。同時に君に向かって俺は走って寄る。…………その作戦に変わりはないさ」
パン!
俺の踏み込みと同時に地面が吹き飛ぶ!
さーーて、カウントし直そうか…………
シャン……ボッ!
向かってきた槍を俺は真っ二つに切り上げる
「1本目ー」
俺は切ったと同時に更に黒垓君に近づいていく。
作戦がシンプルで愚直であるがゆえに黒垓君の選択肢は1つに絞られるのだ。
そう、ただ、俺に近づかれないように迎撃するだけ……………
ボヒュッボボボボボッ
目の前から無数の風の塊が飛んでくるが…………さっきも見せたよな?こんなの、俺の足止めにもなりやしない
俺は剣を振り回しながら走り続ける
俺に当たりそうになる全てを斬り付けて気化させていく。
風が絶え間なく飛び続ける。そして、その風と風の隙間をぬって槍が飛んでくるのだ。
「だから………俺をそんなんで止められると思ってんじゃねーよ!」
その都度槍は縦に真っ二つに切り裂かれるがな
俺は着々と黒垓君の元へと近づいていく。あと20メートルもないな。
「くっ…………」
さすがに危険を感じてきたのだろう、黒垓君から厳しそうな声が漏れる。
…………!?風の弾幕が減った?ってことは……
槍が5本飛んできた!
はっはっはっはっ!焦ってきたな黒垓君!確かに風よりも槍の方が威力が高いもんな!………まぁ
「それでも俺は止まらんがな」
流れるように炎は上空を舞い、5本の槍はすぐさま気化した
……愚策だな黒垓君。確かに俺の足止めをする為に槍を使いたくなる。それは当然だが、もし対処された時の事を考えたら普通はそんなことしないはずだ。だって…………
俺は薄くなった風の弾幕を最高速度で走り抜ける!
俺を遅延させていた弾幕が薄くなってしまって更に近づけてしまうんだから…………
俺はその一瞬で、黒外君との距離を5メートルにまで縮めた。あと少し踏み込んで斬りつければ………もう、おしいまだな。
「くっ…………そぉぉおおお!!!」
黒外君は8本の槍を俺の心臓一点にめがけて放つ!
この一瞬であの槍は再生されたのか。すげー修復能力だ。
「焦んなよ黒垓君。」
ジュグゥゥううう!!
赤き熱線が槍8本の切っ先を焼き溶かした。
だが、それでも槍は俺に向かって飛んでくる。刃のない槍など滑稽だが、それでもこの速さは十分に脅威だ。
だけれどまぁ、ぶつかることはないさ。
ぶしゅうううう!!
俺の前にいる黒垓君の胴体に斜めの傷が刻まれ、そこから勢いよく血が吹き出る!
手に持っている槍も斜めに斬られていた。
シュワン
俺に向かって飛んできていた7本の槍が音を立てて姿を消した。
「君がずっと大切そうに握りしめていたその槍が、他の7本の槍の司令塔だったんだろ?だから斬られたら他の槍が姿を消したわけだ……………」
ドサッ
黒垓君はその場に倒れこんでしまった
「まぁ、火力は抑えといたから動くことはできるはずだ。ただ、戦うなんて激しいことは出来ないぞ、出来るとしたら扉作って勇者領のベッドで寝ることだけだ」
俺はさっさと背を向け、帰路につく。もういい時間だ。これ以上この世界で待ってもイリナは来ない…………明日また出直すとするか…………
「あ、そうだ染島さん。」
俺の背後にいつの間にかいた染島さんに声をかける。
「やっぱり貴方は強いですよ。貴方がいなかったら最初の段階で黒垓君は負けていた…………読んだんでしょ?俺の思考を。だから俺が大剣を振りかざす隙をついて黒垓君は俺に攻撃をしたわけだ。」
あの時にああしないと死ぬってことが分かっていた人間なんて俺だけだ。それなのにばれてしまっていたからね。
「…………飯田君、なぜそこまで死にたがるんですか?死なずにのんびり生きていくことだって貴方には出来たはずです。なぜ、そんな、辛い道をわざわざ選んで、行くのですか?自殺願望でもあるんですか?」
「…………そんなものあるわけないでしょうよ」
俺は染島さんの方に振り向く
「俺は生きたいですよ。将来と未来に強い希望を抱いている。幸せな人生を歩んで子供に囲まれて静かに死んでいきたい。俺はそんなことを切実に願っている」
「じゃあ、尚更生きれば………」
「でも!俺のせいで幸せだった1人の人生が滅茶苦茶にされた。いや、幸せだったのかどうかと言えば怪しいところか。学校でいじめられて孤立していたんだからな。それでも、あいつからすればカイは幸せそのものだったはずなんだ。あんなに笑って、あんなに喜んでいたんだから……………」
これは俺の夢に出てくることだ。イリナはいつも笑っていた。楽しんでいた。それなのに………俺は……………
「これはただの罪滅ぼしだ。死にたくて死ぬんじゃない。死ななきゃいけないから死ぬんだ。そうでもしないとイリナは報われないよ……………」
「……………そうですか」
そう言うと染島さんは俺に向かって走り出した。
………まだ俺を止めようっていうのか。正直染島さん、貴方の力じゃ俺は絶対にやられないですよ
俺は剣を構えた時、ほんの少しの異変に気付いた。
………ん?染島さん、剣を握っていない?丸腰だぞ。
俺が少し疑問に思っている間にも染島さんは走ってくる。
待て待て、考えるんだ。剣を今握っていないからって、直前で抜いて俺を切ってくるかもしれないよな。どうする?剣を持っておくか?……………いや、いいか。今の俺なら素手でも染島さんを倒せる。剣をは置いておこう
俺は剣を地面に突き刺した
さぁ、来い。俺はいつでも貴方を殴る準備は万端だ
染島さんが俺の元に辿り着き、拳を強く握る。
そして…………
フワッ
染島さんは俺を優しく抱きしめた。
「…………え?」
「やっぱり、飯田君は人に対して優しすぎるんですね。だから私にこうやって抱きつかれる。」
いや、あの、胸当たってます
「近づいてきた私を殴り飛ばそうとすれば簡単にできたはずです。それでも私にこうさせられているってことは…………飯田君。最初に私に殴られようとしたんですね?」
……………ああ、ダメだ。何故かいつも染島さんからは優しさしか感じられない。優しさに包まれて………今の俺の状況はそれに近い。いい匂いだなぁとか思ってしまう
「私をいつでも殴れる?………私に殴られた後じゃないと何もできない貴方は、悪役に徹しきれないんですよ。」
そう言うと染島さんは俺の体から離れた。
それでも、ほんの少し、まだ俺の周りに香りが残っていて、まだ抱きしめられているように感じる。
「もしかしたらその優しさが、イリナさんを解きほぐしてくれるかもしれない………飯田君、貴方の炎は傷つけるだけじゃない、氷と呪縛を溶かす気高きものだと肝に銘じておいてくださいね。せっかくの貴方の素晴らしい性格が、自己嫌悪ごときで汚されてしまったら、上手くいくものもうまくいかないですからね。」
そう言うと、染島さんは、扉を作って待っていた黒垓君の元に歩み寄った。そして、黒垓君を担いだ
「貴方のその優しさが、全てを救うことを私は願っています。」
そう言うと染島さん達は扉の中に消えていった
「………優しさね…………どうなんでしょうね?こんな俺に、そんな素晴らしいものがあるのか俺にはてんでわからない」
それに、俺は貴方以上に優しい人を見たことがないですよ。俺から言わせれば、染島さんの優しさの方が世界を救うとおもう。
それでも……まぁ、染島さんに褒められてそう悪い気はしないな。
優しさに包まれて………か。
俺はちょっと笑いながら帰路に着いた
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カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/
カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/




