軽グチはお控えなすって
ズゴゴゴゴゴゴゴ
大きな岩がせり上がり、中から1人の男が出てくる。
バシャバシャとマグマを弾ませながら、男はすぐ近くにあった岩陰へと滑り込む
「右良し、左良し、前良し、後ろ良し、上良し、下は………まぁ俺以外生きてられないだろ」
男は周りを確認すると次の岩山へと走り滑り込む!
はぁはぁはぁ…………よーし。今の所順調だ。あと何百メートルか行けばこの危険地帯も抜けられる!そうすれば彼らに見つかる事も……………
「ししょーーー隠れても無駄っすよーー」「ぶっ!」
左斜め前方から聞き慣れたあの間抜けな声は!
「黒垓君。間抜けだって思われてますよ」「ぶっ!」
俺の心を簡単に見透かしてくるこのゆったりとした口調は!
てか間抜けだとか思ってないからね!さっきのはあれだ、言葉のあややっていうか本当は「どこか抜けた」って言いたかったんですよ!分かってくれませんか染島さん!
「さっきのは言い間違いだそうですよ黒垓君。よかったですねー」
「いやーーそうっすよねそうっすよね。師匠がオラのことをバカ呼ばわりするわけないっすもんね」
どこから来るんだその自信は!?
しかし参ったな!まさかもうばれてしまうとは思わなかったぜ!
ザプンと俺はマグマの中に潜り、息が続く限り泳いだ。
だがしかーし!彼らはマグマの中を入ってこれるわけがないだろ!こうやって潜って進み続ければいずれは撒けるにちがいない!
「撒けるわけないじゃないですか。オラは師匠がどこにいるのかが手に取るように分かるんすよ。こいつも能力のせいっすね」「それに私の能力のおかげで、貴方の気配はハッキリと伝わってきています。どこにいようが逃げられないですよ」
なにー!?まじで対人戦だと隙がないなこの2人!いや、ストーキング能力に関してはまじで彼らの右に出る者はいないな!これじゃもう隠れられねーよ
「はぁーー…………本当すごい能力ですね2人とも。俺の力なんかよりもよっぽど優れている」
俺はマグマから体を出して、そのまま陸地に上る。まるでプールだな。とか考えてしまった。
「まぁオラからすればマグマの中を泳げる事も十分すごいと思うっすよ」
「これは魔力がすごいんじゃなくて俺の生まれつきの階級が高いだけさ。だから魔力自体はありふれた量産的なクソ能力ですよ」
俺の目の前にいるのは黒垓君と染島さん。3日前に別れてから会っていないから3日ぶりってことか?
「生まれ持った力というのは才能なんですからそう卑下するものじゃないですよ飯田君。………それに、魔力だって生まれた時から勝手に決められているんです。だから魔力と階級は同等の力なんですよ」
………いつも思うが染島さんは本当によく慰めてくれるよな………なんだろう、おかん?貴方は私のお母さんですか?
「聖母とでも呼んでください」
染島さんはにっこりと笑う。ああ、聖母やぁ、末法のこの世に聖母が舞い降りたぞぉ!
「まぁ、ぶっちゃけそういうのはどうでもいいんすよ。オラ達が言いたいことは[何逃げようとしてんだよコノヤロー]ですからね。」
黒垓君は一瞬で俺の前に来ると俺の足を払って転ばせる。そして、その時に俺の右手をつかむ。
「確かに赤の他人を巻き込みたくないって気持ちは高邁ですけれど、あいにくオラ達はもう赤の他人じゃないですからね。除け者にするなんて酷いっすよ」
肩がミシミシという。
くそっ、絶対に離さないってか?少しぐらい手加減してくれよ
「………いいや、他人さ。俺は君達を利用しただけにすぎない。君達の魔力が冒険にお誂え向きだったからな。そうじゃなきゃさっさところ……ぐうっ!?」
腕がさらに変な方向へと曲がる。
「またまたそんな心無いこと言っちゃって〜〜。それは本心じゃないってオラ達知ってるんすよーー?」
黒垓君は固めている右手をグリグリと回転させる。
「いたいいたいいたい!!肩の骨折れちゃうから!ちょっと手を離してくんない!?お願いだからさ!」
「うふふふ、ダメですよししょー。拘束緩んだらさっさと逃げる気ですよね?分かってますよー。智い貴方ならやりかねないってことは分かってます。オラ達の事傷つけたくないんでしょお?だからこそこそ逃げて……………これが赤の他人にすることですかね?」
くそ!黒垓君め、笑いながら拘束してきやがる!
「いやいや、傷つけたくないっていうかぁ、関わっただけで殺されるとか可哀想でしょ?だから[出会わなかったら俺は彼らに危害加えない]って決めてたんだよ。だからさっきも俺はこそこそしていたわけさ。赤の他人とはいえある程度の日数一緒に遊んだわけだからさ。殺すの名残惜しいでしょ?……………ま、まぁ、今俺が本気を出したら君達一瞬よ?一瞬で人間コゲ肉の出来上がりだからねっていぃぃあぁぁぁあああ!!!」
腕がさらに締め上げられる!
「それじゃあさっさと真紀子がしてください。あ、間違えた。焼き焦がしてください。いくらでも焼いていいですよ?あいにくこの世界にはバターがないので美味しくは焼けないでしょうが」
別に食う気ないからね!?てか真紀子誰だよ!
「ま、まま、まぁ、君達の覚悟を無駄にしてしまうのだけれど今日俺ガス切れなんだわ。だから今日ホーマックでガスボンベ買ってくる予定だったんだよね。だから離してくれないかな?そうしたらあと1時間……いや2時間?待てよ…………今日は確か広告で絨毯大安売りって言ってたから混んでるに違いない。軽く見積もっても5時間はかかるな。…………なぁ君達。5時間ぐらい待ってくんねぇぇえっっどいいぃやぁぁぁ!!!」
腕がさらに変な方向に向く!
いたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたい!!たい!!たい!!
なんなんだよ黒垓君!俺の腕をどうしたいんだい!?
「下らない冗談はいいですから。軽口はもう飽き飽きですよ。燃やすんすか?それとも燃やさないんすか?どっちでしょうか?」
「燃やすとか燃やさないとか今はどうでもいいから!俺を離してくれるのかな!?くれないのかな!?」
「……………紅の豚」
「くれないの!?え?豚!?何言ってんだよいきなり!いいから離せ!離してくれぇぇ!!!」
「ダメですよ師匠。答えるまで離しません。」
「わかった、わかったよ。燃やさないから。今の俺そんな元気ないから!俺のやる気スイッチ肩の付け根にあるんだよ!だからやる気ないの今、分かる!?分かってくれるかな!?」
「……………分かりました。それじゃあすぐに解放しますね」
そういうと黒垓君は俺をさっさと解放してくれた。
いてーー肩が柔らかくなっちまった。これを毎日やってたらマエケン体操出来るようになるかしら
「……………よし、ありがとう。それじゃあさっそくホーマックに行ってくるわ!5時間は帰らないと思ってくれ!」
俺は笑顔を彼らに向けた瞬間、全速力で走った!
………が、
走ってる途中で頭をガシッと掴まれ、そのまま引っ張られ黒垓君達の前にまた来させられてしまった…………頭だけ。
「拘束から解放するとは言いましたが[逃がしてやる]とは一言も言ってなかったですよね?」
ふーーー…………黒垓君の能力から逃げれねぇ
「いや、だって解放ってことは解き放つってことだろ?だったら全速力で走って逃げた方が解き放つってことじゃないのかな?そう思わないかい?いや、そう思うだろ?黒ちゃん」
「誰が黒ちゃんだ。オラは黒垓ですよ黒垓。あそこまで声は高くないです」
………いや、まぁ、確かにあそこまでは高くないけど中3にしては十分に高いと思うぞ。
「………それで飯田君。なぜ貴方は逃げるんですか?別に、私たちが貴方を攻撃するわけでもないのに………どうして?」
さっきガッチリと固めてきたのが言う言葉か?
「そりゃあさっき言ったとおりさ。君達のことを思って俺は逃げているんだ。俺にも一応の仏心ってものがあるからな」
「………もう、嘘は良くないですよ師匠。貴方が1人罪を背負えば確かに全てがなんとなくそれっぽい形で終息するのかもしれない。だからって事実を知っているオラ達はそれじゃあ気に入らないんすよ」
黒垓君は穴を広げると、俺を引っ張り全てを移動させた。
「ガスボンベ?言い訳にしては低能ですし、冗談にしては笑えないレベルですよ。……そう、あんたはいつもどうでもいい言葉で逃げてばっかりだ。………いや、逃げてるんじゃなくてオラ達を遠ざけているって所ですかね?全然まともなことを話してくれないっすもんねー」
「………そりゃあ黒垓君。俺の知能指数が低いからまともなことを喋れてないだけなんじゃないかな?ほら、世間でいうバカってやつだよ。」
俺はその場にどさっと座った
「自分じゃ自分を正当に評価できないって言いますけれど、師匠ほどそれが顕著な人はいないでしょうね。何があったかは知らないですけど、全然自分を見ようとしない。ちゃんとした実績を残しているのに[まぐれさー]とか[俺がすごいんじゃないです。周りのサポートのお陰ですよー。]みたいなクソうざったいセリフを言ってるんでしょうね。いやーーオラああいう感じのセリフ嫌いなんすよ。[めっちゃくちゃ努力しました!]ってズバーーンって言えばいいじゃないすか。テスト前の中学生じゃあるまいし…………」
ああ、確かに勉強したらカッコ悪いって風潮があるもんな。
ただまぁ、高校生になったら誰もが嫌でも思うと思うんだけど、勉強してないやつのほうがカッコ悪いんだよな。いや、これだと語弊があるな。[努力してないやつのほうがカッコ悪い]んだよな。部活動に全力を傾けるんなら全力でやって欲しいし、勉強に全てをかけるんなら全てを傾けて欲しい。
というかね、俺の中の持論で[ぶらぶら遊び歩いているやつって造形がいい]ってのがある。帰宅部で成績が「ま、まぁ、これぐらいなら怒れないな………」っていう点数。まぁ真ん中かな?を取るやつって絶対に、まぁまぁイケメンなんだよ。
そしてこれもまた持論なんだけど[イケメンは何でもできる]
正直これはみんなが思っていることだと思う。思うにイケメンってことは体のつくりがパーフェクトに近いってわけだ。つまり脳みその構造もパーフェクトに近くて骨格もパーフェクトに近い。まして脳から身体中に完璧に信号が遅れるわけであってだ……………だからつまりイケメンってパーフェクトなわけね。
これら2つを合わせると[イケメンは遊んでいても頭がいいからテストでそこそこの点数が取れる]ってことになる。
「なんだよ、勉強してないで遊んでるやつカッコいいじゃないかよ。」と誰かが言ったような気がする。だが違うんだ。それには大きなわけがある。
そもそも部活もしてない帰宅部って言われて皆様は何を思い浮かべるだろうか?さっきみたく遊んでいるやろうか、まさかのスポーツでシニアチームに入っている。とかもあるかもしれない。…………ただ、俺は真っ先にこう思った。「え?まさか塾に行ってガリガリ勉強してるとか?」とな…………ああ、この考えに至ってしまったらもう答えは出ているだろう。なぜイケメンがさらによりカッコよく見えてしまうか。
…………そりゃこう考えればいい。[え?家でめっちゃくちゃ勉強してるの?]→[さすがだな!俺なんて部活動とかで全然勉強できてないんだよな………]→[あれ?前回と変わらないな…………ああ、そうか。そうなのか。勉強しているけど伸び悩んでるんだな。………がんばれよ!俺は勉強全然してないからわかんないけどな!]
この結論が出ればもうどっちに転んでもイケメンはさらに輝けるようになるだろう。
志望校に落ちても[努力したのに可哀想……]ってなって、合格したら[さすがだぜ!]ってなるわけさ。……………腹立つな。自分で言っていて腹立つ。
まぁこれはイケメンだけの話だからね。イケメンとは呼ばれない方々は真面目に努力した方がいいとおもうよ。外見で利益を得れるわけじゃないからね…………イケメンと違って………………あ、ダメだ。なんか今から遼鋭の家に行って顔面殴りたくなってきた。
「まぁ中学生だからね。もし高校生でそんなやつがいて、しかも努力していなかったらそいつの顔面腫れるまで殴りたいね」
「し、師匠?どうしたんすか?」
「あ、ああ、なんでもない。ちょっとこっち側の嫌な記憶が呼び起こされただけだから」
「は、はぁ…………話を戻しますが、確かにサポートは大切ですけど何より大切なのは自分自身の努力ですからね。………まぁ当たり前ですよね。んなの言わなくても誰でも分かってますよね」
「さぁねぇ?こっち側の話だけど分かってないやつもいたみたいだぞ。[勉強ってさ、やっぱり大切なのは教師だと思うんだよね。生徒だけじゃ限界があるわけでさ、先生が良ければ勝手に点数上がると思うんだ]って無知な馬鹿野郎がよく言ってたよ。…………まぁ、名前は出さないけどさ。名前だしたら恥ずかしさのあまり投稿しなくなるから」
「は、はぁ…………それはつまり筆し……」
「おおっと、そこまで言っちゃいけないよ。無学なことがばれちまう。それじゃあ話の続きをどうぞ」
なんかそれっぽいことを垂れている奴が無学とかシャレにならないでしょ。
「……………なんかもういいっすよ。めんどくさくなりました。………イヤーーダメッスね。師匠と話してるといつもはぐらかされてばっかりっすよ。………なんかコツとかあるんすか?」
「簡単なことだよ。会話中に出てくる言葉において、自分の知っている何か1つを見つけるんだよ。なんでもいい、とにかく1つ。それを途中に話にぶち込んでそこの話を膨らましていく。そうすればいろんな用語とか具体例とか出てくるからそこからさらに話が広がっていくわけさ。英単語の覚え方とかもこういう連想ゲームの方がいいらしいよね。なんか東大の本かなんかで見た記憶があるよ。[英単語をすぐに100個覚える方法]とかなんとか………あれ?これであってたっけかな?覚えてないなー…………。あ、そうそう。そう言えば数3の微分の公式種類たくさんあって覚えるのめんどくさいよなー。いちいち経過式作るのもめんどくさいし…………なんかないかねー簡単に覚える方法。あ、数学といえば一番怖いミスって符号ミスだよなー。何回も確認してるのに字が汚すぎて+が1-とかに見えちゃっててさ!いやーー解き方あってんのにああいうミスすると泣きたく…………」
「もういいっす!もういいっすよ師匠!オラのために実践なんてしくれなくて!正直覚える気もないっすから!」
俺が長々とクドクドと話していると、黒垓君がうんざりしたような顔で止めに入る。きっと勉強のお話は嫌いなんだろう。………まぁ、俺もこんな世界ではしたくはないな。
「ちなみに私は微分の公式の語呂が全然思いつかなかったので公式を映像記憶しちゃいました。」
だがしかし、さっきまで黙って立っていた染島さんは笑いながら俺の質問に答えてくれる。
………真面目に答えてくれなくていいんですよ染島さん。俺だってもう暗記してるんですから。
「ありがとうございます染島さん。大変参考になりました。」
「いえいえ、どういたしましてーー…………それで飯田君。どうですか?」
「…………どうと言いますと?」
「死なずに、私達とこうやって下らない会話をして生きていく。という生活も出来るんじゃないでしょうか?」
…………ああ、そういうことね。
「んーーまぁ最高っちゃぁ最高っすね。死ぬこともなく他愛ないことで笑えるってのは………でもそりゃ俺だけの話ですよ。こういうのは世間的に言えば最適じゃない。償っちゃいないですからねぇ。イリナだけ悲しむなんてそんなの………悲劇じゃないですか」
イリナは十分に悲劇のヒロインだ。これ以上はもう十分だろ
「それに俺だけ楽しい思いをするっていうのは気にくわないんですよ。俺の心が拒絶するんですよ。…………いや、これも間違いだな。心じゃなんも感じちゃいない、ただ頭ではちゃんと理解しているってだけさ。」
全く………いつの間に俺はこんなにも強情になったのだろうか?………ふっ、最初っからだったな。こんな計画考え始めた時点でもう俺は強情だよ。
「俺に安らぎはいらねぇ。楽しみもいらねぇ。俺はただイリナの為だけにある。その為だったらいくらでも命を投げ打ってやるさ。…………もしその邪魔をするっていうなら誰だって傷つけるよ。例え君達だろうとね……」
ボウっと身体が火に覆われると、俺は燃え上がっている右手をついて立ち上がる。
「頑なな人ですねーー。ここまで考えを変えないってのも珍しい。そっちはいばらの道ですよ?いや、いばらじゃないですね。刃物の道ですよ。進めば大怪我を負うなんてことは簡単にわかるのに……………仕方ないっすねーー。それならば大怪我する前に師匠を止めてあげますよ。手足もいででも、引ん剝いてでもね」
黒垓君は俺から距離を置いた後、白色の球体から刀を一本取り出す。
「飯田君の考えは正しいんでしょうけどそれじゃあ私達が気に食わない。…………分かってもらうためにもう少しゆっくりとお話を聞かせる必要があるみたいですね…………全くもって不本意ですが細切れにしてあげますよ。そして勇者領で縛り付けて心が変わるまで説得してあげましょう」
染島さんも剣を引き抜く
………なんでこうも俺の仲間は変人ばかりなんだ。説得するために手足もぐ?細切れ?………ふっふっふっ……はっはっはっはっ!やっぱり最高だ!変人てのはやっぱり最高に面白いな!
「…………かかってこいよ。黒垓君、染島さん。俺を止めたいんならそれぐらいの気持ちで臨まないとな。」
ボッボッボッボッ
空気を求めて炎が外側へと広がっていく。周りの草が一瞬で焼けて真っ黒になる。
「…………楽しもうじゃないか」
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