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Face of the Surface  作者: 悟飯 粒
狩虎の章
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42/364

終わりもしないし始まりもしない

「く、黒垓君!!」


「わかってるっっす!」


黒垓君の側で浮いていた白色の球体が、巨大な盾となり森の前に立ちはだかる。


ズゴゴゴゴゴゴゴ!!

森が俺たちの場所を通過し、俺たちの姿が森の中に消えていってしまう。

だが盾の周りだけは森が消えてしまい、俺たちは森の餌食にならずに済んだ。………あの、炎帝君と違って。彼無事かなー。完璧に飲み込まれてたもんなー。蔦を燃やせればいいんだが………あいつの蔦はそう簡単には燃やせねーからな。


俺たちの横を木々がと通り過ぎていく。根っこ、蔦が元あった岩達を打ち砕き、元いた生物達を巻き込み轢き殺していく。


「黒垓君のお陰であれに巻き込まれずには済んだが……………森の動きが止まらない限りここからは逃げれないよな。」


前に突き進みなんかしたら敵にぶつかりそうだし、後ろに進むにしても黒垓君に盾を持っていてもらわないといけないから黒垓君だけは前向きながらバックしてもらわないといけないんだよなぁ。…………あれ?それで良いんじゃないのか?もういっそそれで移動する?


「黒垓君。前向きながらバックできる?」


「出来るっすよ。なんならムーンウォークでもしてあげますか?3時間くれたら練習してできるようにしてきますが。」


「なぜにムーンウォークしようとしてんだよ!てか出来ないのかよ!この状況でよく練習しようと思ったな!余裕か黒垓君!」


「時間と同じで余裕は自分で作るもんすよ」


「なるほどなぁ。それじゃあ俺もそれに習おうかな。」


腰から魔剣を引き抜く


「なぁイリナ!今からスピード10連戦やろうぜ!ってなるわけねーだろうがこのやろう!」


地面に魔剣を投げつける!


「わざわざ投げるために剣引き抜いたんすか。聖剣だというのに扱いがずさんすね。」


「うるせー!こんな状況で余裕で入られるか!魔王よ?ガチ魔王よ?さっきみたいな偽物じゃなくて完璧本物正真正銘血統書つきDNA解析ですらも認められた魔王なのよ?さっきみたいに軽い気持ちでいられるわけないでしょうが!」


「………なんでこれが本物だとわかるの?」


俺にか肩を貸してもらって立っているイリナが反応する。


「なんでって……そりゃあイリナ、この攻撃を見ればすぐに誰だってわかるだろ。この規模、この破壊力。魔王以外ありえない。」


「ふーーん…………さっきの炎帝を見分けたのと言い魔王のことに関しては詳しいみたいだね。」


「しゃーないだろ。俺は魔族なんだぜ?イリナに会うよりもずっと前から魔族だったわけだ。知らないわけがないだろ」


「ふーーーん………………見たことあるの?息吹の技とか炎帝の攻撃とか」


「あるよ。てか何回も攻撃されて殺されかけたなーー…………いやーーーあいつは怒らせないほうがいいよ。躊躇なく殺しにくるから」


「え?何?顔も知ってるの?」


「あ、いや、顔は知らないな。兜被ってるから見えないんだよね。」


「ふーーん…………まっいいや。で、なんか弱点とか知ってんの?」


「弱点は………ねーな。魔力が基本的というかシンプルだからこれと言った弱点が無いんだ。だから長所も無い。まっ、あの規模まで行けば長所があろうが無かろうがどうでもいいんだけどな。」


ズゾゾゾゾゾゾ

森は今なお荒地を覆い尽くし、新緑と化していく。


「能力説明が短文であればあるほど弱点は無いもんだ。[文字が沢山ある]って言うことは言い換えれば[付け入る隙が沢山ある]ってことだ。下手に言葉を並べたらどこかで矛盾が生じるもんだ。そこに付け入ってずる賢い奴は屁理屈を言うだろ?それと同じで条件が多いっていうのは能力が限定的で、少し痛いところをつけば無力になる。」


[自然を作り操る]…………まったく、短すぎるにも程があるだろ。


「それじゃあどうするの?森の動きが止まるまで待つの?」


「待ちたいのは山々なんだが、動きが止まったらそれこそ全方向から攻撃されることになるだろうな。今息吹は森をただ作っているだけなんだ。攻撃でもなんでも無い。ただの生成。攻撃する前の準備の準備みたいなもんだ。」


電話をする為に携帯電話の電源をいれているだけのようなもの。番号なんて押してない。ただ起動しただけ。これから、電話のためにボタンを押していくのだ。


「だから今の内に後ろに下がる。黒垓君は盾を張ったまま後ろに下がるから面倒臭いかもしれないけれどそうしてもらいたいんだ。」


「ああ、なるほど。それでさっきのやつっすね。分かりました。ムーンウォークは出来ませんが頑張ってバックしましょう」


よし、どこまで後ろにさがれるかわからないが出来るだけ後ろに下がらなくては。

運が良ければ森から抜けれるかもしれないから。出来なければ…………息吹の猛攻に晒されるだけだ。


そして俺達は森が行く方向に向かって進み始めた。

言ってて思うのだが実に奇妙な状況だな、森が動いているのだから。木々が俺達を追い越していく絵面と言うのはなんとも不思議だ。

イリナは俺に背負われている。肩を貸すのもいいんだけれどイリナの足元がおぼつかなくて移動速度が遅くなるんだよね。それなら背負った方がいいでしょ。


「…………ねぇ、なんか、こう頬を赤らめるとか気まずい雰囲気にとかなったりしない?」


背負われているイリナが口を開く。


「はい?何を言ってんだイリナ。背負ってるだけでそんな気分になるわけ無いだろうが」


「いや、なんかこう肌と肌がぴったりとーーみたいな状況じゃない?それならやっぱりロマンチックな状況になるんじゃないのかなーと。」


…………肌っつうか鎧と制服なんだがな


「いやいや、なるわけないだろ。肌と肌触れ合ってないんだからな。…………まっ、胸が当たってたりしたらドキドキしたろうが悲しい事にイリナにはそこまで胸がないか………」


ゴン!!

俺の頭に鉄槌が下される


「悪かったね微乳で。私には胸美みたいな大きさがないからね…………」


イリナがいつに無く落ち込む。

胸ごときで落ち込むなんてやっぱり女性ってのはよくわからんな。ぶっちゃけ大きさとかどうでもいい。


「いいんじゃないのか?別に大きくなくても。確かにあればいいだろうけど無くても損するわけじゃないんだし。ないからといって人間性にマイナスになるわけじゃないんだから」


胸の大きさなどただのステータスだろ。しかも男を相手にするときのステータス値にしかプラスにならない。男特攻ってやつ?それならイリナは顔とモデル体型だけでもう十分だと思うんだけどな。そこに胸なんて足したら反則だろ。もはや人間から逸脱してる。まさしくイリナ科微巨乳類になってしまう。いや、巨乳類か。

しかしあれだな、巨乳の定義が分からない。それに微巨乳の定義も分からない。てか世間一般の定義もわからない。だから一応俺の中での微巨乳はB〜Cカップだという事は明言しておこう。誤解されたら困るからね、イリナの胸の大きさを。


「人間性とかじゃないよ。やっぱり女としてはあった方が良いでしょ?男の人が振り向いてくれる可能性が高いでしょ」


「…………十分に振り向かせてると思うんだがな。」


振り向くどころか押し寄せて包囲しているがな


「いやいや、あんな有象無象じゃなくて好きな人とか出来たら振り向かせられる可能性高くなるでしょ」


好きな人ねーー…………イリナのタイプってのがイマイチわからんな。カイみたいな人だって言うのなら常に敬語の真面目タイプになっちまうよなーー。俺からはかけ離れてるね。


「十分に振り向かせられると思うがな。………まっ、付き合うのはすぐだろうけど別れるのもすぐだろうな。イリナの性格についていける奴なんてこの世にいるのかどうかも怪しいところだ。」


ゴン!!

またも頭を殴られる。


「なにそれ、まさか私の性格が最悪だとでも言いたいの?」


「最悪かどうかはわからなんが少なくともワガママだろ。[このバッグ買ってくれないと私別れる!]とか言いそうだもんな」


なんか容易に想像できた。あとそうだな、愛情表現とか言って彼氏をぶん殴ってそう。その彼氏は可哀想だな


「言うか!私はあれよ?好きな人ができたら一生尽くすタイプだから」


「えぇぇーー…………そう言ってるが黒垓君はどう思う?イリナが人に奉仕してる姿とか想像できる?」


後ろ向きの黒垓君に話をふる


「そうっすねーー。人を踏みつけて[私に踏まれるなんて光栄なことよ。感謝しなさい?]とか言ってそうっすね。」


ああ、どMに対する優しね。納得納得。


「いや、そんなわけないでしょ。あれよ、シチューとかお味噌汁とかカレーとかポトフとか小籠包とか作ってあげちゃうから」


「全部液体的だな!」


しかも小籠包に関しては中に含まれちゃってるよ!


「やっぱりスープ的なのっていいよね。焼くのと違って出汁とかがガツンとくる感じでさ」


「ふむ、なるほどな。それじゃあラーメンも作れるのか?ラーメンが作れる女性って憧れるよな」


「憧れねーよ」


イリナから手厳しいツッコミ。そうかなー、俺は結構憧れるけどなー。


「まぁまぁ、言いたいことが両者共々まだまだ沢山あるでしょうがそろそろ気を引き締めましょう。いくらオラの盾で守られているからってここは敵のど真ん中っすよ?余裕ぶっこいでられるほどの状況じゃないでしょう」


「いや、まぁそうなんだが君の能力が優秀すぎて俺たち何もやることがないんだよ。暇で暇で………」


「警戒!警戒をしなさいよ師匠!ここ!魔王!の!敵地!の!ど真ん中!なんすよ!」


「[の]を区切る必要はなかったんじゃないかな!?読み辛いったらありゃしないよ!」


「仕方ないじゃないすか!オラの怒りを表すにはそれが一番敵するんですから!」


「どんな怒りだよあれで表現できるもんって!」


「品詞ごとに、いや、大切なものに勝手についてくる要らないものを取り去るってことです!こんな超展開で余裕ぶっこいてる師匠の言動を切り離したいという怒りですよ!」


「具体的!いや、でもね?わかる?歩くだけなのよ?暇なんだってー!」


「だぁかぁらぁ!!警戒!警戒をしろっつってんでしょうが!!いつ森の動きが止まるかなんて分からないんすから!!特にあんたが絡んでくると言ったそばから起こるんですよ!」


ズズズ………シーーン。

森が動きを止める


「ほら!!森が動きを止めるって言ったそばから止まっちゃったじゃないすか!!どうしてくれるんすか!!これ一体どうしてくれるんすか!」


「しっ、知るか!どう考えても今のは黒垓君の言葉だよね!?俺関係ないよね!?」


俺は黒垓君にツッコミながら剣を構える。

シュシュシュ

黒垓君は盾を片手剣と大剣へと変える。そして黒外君の傍に小さな白色の球体が浮かぶ。


「君達そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!攻撃くるよ!」


「つかイリナもうそろそろ立てるだろ!お前がこんなか弱いわけがない!」


「か弱いよ私。男の人の骨なんていままで10回ぐらいしか折ったことないもん」


「屈強すぎるだろ!何をどうすればそうなるんだよ!」


「まぁまぁ、とにかく私はか弱くてね。まだ体に力が入らないんだよ。だから頑張ってよね。…………あっ、そうだ。」


イリナが俺の制服のポケットに何かを入れる。


「この前買った指輪。じつは相手の魔法の威力を下げる効果があるんだ。指にはめなくても効果あるからお守りとして持っておいてね。」


「はぁーーん……………一応意味はあったのか。」


「そうなんだよ。弱っちい君のために買ったんだけど渡すタイミング逃しちゃってさ。………まっ、今の君はある程度は強いから要らないかもしれないけど」


強いか………どうだろうな。こんな卑怯な強さが本当に強さと言えるのだろうか。


「いや、助かる。ありがたく貰っておくよ」


まぁ相手の魔力が植物へと変換されているからなんとも言えないが。


ズズズズ……………


俺達の周りの蔦が蠢き出し、俺たちへと少しづつ伸び始める。


「来るっすよ!真面目にやんないと死にますよ!」


「分かってるわ!どんだけ昔食らったと思ってんだ!」


ズァァァァア!!


全方向の蔦が襲いかかる!


くそ!水である程度遅らせれるか!?

水を俺達の周りを囲むように配置する


バシャアアアン!!

しかし蔦達はそれを容易く貫く!


おいおいおいおい…………効果抜群じゃないか。


ザンザン!

迫り来る蔦達を剣で断ち切る!

くそ、イリナが重い!置くか!?床においてしまうか!?


ズァァァァア!!

イリナのことを考えていると後ろから蔦が襲いかかってくる!


やばい!イリナが食らっちまう!


ザクザクザク!!

しかし、イリナがそれを剣で切り刻んだ。


「後ろは私がなんとかするから君は前に集中!余計な心配はしないこと!」


「………うっす!」


なぜか黒垓君が返事をする。

黒垓君はというと華麗な身のこなしで全方向からくる蔦を綺麗に斬り伏せていく。

まったく………凄いや俺の周りの奴らは


だが俺だって前にだけ集中できればある程度はなんとかなるんだ。

俺達は向かいくる蔦達を順調に斬っていく。だが正直言って相手の蔦の量は無限に等しい。敵陣の武器庫で戦ってるようなもんだ。しかも指紋認証タイプの。弾切れを狙うのは間違っている。俺達は持久戦を狙うのでなく、隙を突いて逃げなくてはならないのだ。


それに………まだ蔦でしか攻撃されていない。そろそろ………


グッグググ………

周りの木々の表面が蠢きだす。

く、来るぞ…………


ダダダダダダダダダンンン!!


木の表面から新たな木が出現し、俺たにち向かって伸びてくる!


「きっっっやがったな!」


俺はその場で一回転して円状の斬撃を飛ばす!

ズズズズンン…………


中腹を切られた木々は俺の眼の前で崩れ落ちる。

そう、息吹の魔力の恐ろしいところははどんなところからでも自然が生まれてくることだ。木から木ができるなんて当たり前。岩からだって木が生えるし砂漠からも新たな命が作り出される。これがきっと息吹と呼ばれる所以なのだろう。


グニャグニャグニャ…………

切り倒された木々達の表面がまたも蠢きだす!

ああ、くそ!きりがねー!きりがなさすぎるぜ!


ダンダンダンダン!!


木々が至る所から突出してくるが俺はそれを斬撃を飛ばし、横に移動したりジャンプしたりしてかわしていく。


しかしなんだろうなこの違和感………俺がなんとかなっているという絶対的違和感。黒垓君とかが上手く立ち回れているのは分かる。彼は真っ当な勇者だ。俺なんかとは身体能力が桁違いだ。

なのに俺はなんでこんなに立ち回れているんだ?あいつが真面目に、いや、本気で戦っていれば俺なんてすぐに殺られているはずなのに…………あ!!


「あっんの野郎!!まさかバカなことやってんじゃねーだろうな!?」


俺は足に力を込める。

俺の体の限界はもうわかっている。だから、今から出すのは、限界のほんの少し先の力だ。いや、[速度]だ。頼む。漏れないでくれ…………


ビキッダン!!!


俺はその場を力の限り踏み、元来た道を引き返す!!

骨が少し軋んだが大丈夫だ!こんなの、あの時に比べたら全然辛くない!


前に人型の木々が立ちふさがる。ゴツゴツした鎧を着ているからきっとあいつの分身だろう。まったく………こんなの出せるようになりやがって!!なんてバカなことしてんだよ!!


「どっけ!!お前らに構っている暇はない!!」


魔剣が黒と赤色に光りだす。


ザクザク!!

木の分身達が胴体から真っ二つに斬られる


そして、俺はさらに加速する!

間に合うか!?いや、間に合ってくれ頼むから!!なんでだよ!!なんでそんなことしちまったんだよなぁ!?


「ど、どうしたのミフィー君!?」


上からイリナの心配する声が俺の耳には全然届いていなかった。

急げ急げ急げ急げ!!

なんでなんだ!!なんでなんだよぉぉ!!!


俺はさらに加速する!

足がだいぶ悲鳴をあげているがそんなこと知ったことじゃない!俺はもう二度とあんな思いしたくないんだ!目の前で、人が死んでいくような辛い思いはしたくねーんだよ!

それに比べたら足の筋肉が痛むことなんてどうでもいい!!寝れば治るんだ!!いくらでも負ってやるよ!!


蔦と木を切り裂いてひたすら前へと進んでいく。


だめだ!攻撃が全然少ない!やはりあいつは…………くそ!なんなんだ!?なんでこうなるんだよ!!


2分ほど全力で走った。

心臓と筋肉が裂けるようなとても辛い感覚が俺をずっと襲っていた。

だがそれ以上に俺の心は張り裂けていた。あいつの奇行と思いと間に合ってくれという心配が、俺の心を引っ張りそして内部から押し上げてくる。

くそっ、まだか!まだなのか!間に合うのかよこれ!!


「はぁ……はぁ………」

息が荒くなる。目の前と頭の中が真っ白だ。渦巻いているようにさえ見える。混乱というのはこういうことを言うのだろう。一点のことしか考えられない。他は何も考えれない。


ドクンドクンドクン…………

心臓が早鐘のように叩かれ続ける。もってくれ頼むから…………いや、もつだけじゃダメだ。辿り着いたとしても、それからもう一度俺に力を貸してくれ頼むから!


自分の実力というのは案外過小評価されているものだ。この速さならば狩虎たちは容易く森の中を抜け出せたろう。…………まぁ、それは息吹がまともじゃない時だけの話であるが


タタタタタンん!!


地面を踏み鳴らす!

間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え!!!


「………………見えた!!!」


森の先に草原が見えた。そこには木が一本もなく、ただただ綺麗に花と草が咲き誇っていな。いや、一本だけ、大きな大きな木が一本だけ……………


「なんでなんだよぉぉぉぉぉぉおお!!!!」


ガシっ

俺は草原の手前の木の根に足を引っ掛ける。

そして俺とイリナは転び、転がって花が咲き誇る草原へと転がり滑る!


「いててて…………どうしたのさミフィー君!!」


イリナが不思議な顔をしながら俺の顔を見る。だがそれでも、やはりイリナの方に意識を向けていられなかった。俺の意識は目の前にある一本の木に向けられていた。


「なんでだよ!なんで!なんでそんなことしてんだよ宏美!!!!」


「…………え?」


俺の目の前には一本の巨大な木がある。さっきの森にある木なんか比になるないぐらいの巨大な木だ。樹皮が立派で、雄大で、あるだけで、見るだけで生きているというのがわかるほどの木だ。脈々と命を刻んでいるかのような木だ。動物のように生きているようで…………いや、今まさに俺達と同じ土俵になろうとしてやがる。


木の中心部に宏美が埋まっていた。無数の蔦に覆われていて、今すぐにでも蔦共に埋もれてしまいそうだ。いや、木に取り込まれてしまいそうだ。


「な、なんでひろみんがいるの…………だって………」


イリナはまたも目を見広げ驚いている。


「なんでだよ!なんでそんなことしてんだよ!おまえそんなことしたら死ぬってことよくわかってるだろうが!!」


俺は落とした剣を拾い上げ木に向かって斬りかかる!

ザン!

木の表面が少し切れるが少しだけだ。しかもその傷跡はすぐさま塞がっていく。


「なんでだよ!何があったんだよ!!思いつめてたのか!?それならいくらでも俺にいえばよかったじゃねーか!!なんでだ!?なんてなんだ!!」


俺は無闇矢鱈に剣を振り回し木を斬っていく


「…………かっ、」


埋もれかけている宏美の口が開く


「宏美!?!?おい!大丈夫か!?意識あるか!?意識あるんなら返事をしてくれ!頼むから!!」


「狩虎…………なんでなんだよ」


「…………え?」


俺の剣を振るう腕が止まる。


「なんで!なんで私を見てくれないんだ!なんで私を…………なんで!女として見てくれないんだ!」


え?な、なんでいきなりそんなことを…………


「私はな!私はいつだってお前を見てきたしお前のそばにずっといた!ずっと、ずっと。ずっと!ずっと!!私はずっと思い続けた!なのになんでお前は私の方を一度だって振り向いてくれないんだよ!!」


「なんでいきなりそんなこと言うんだよ!それが一体どうしたっていうんだ!!」


「好きだったんだ!!!」


……………なぁ、え?ちょっ、頭が追いつかない……………


「好きだったんだ!!それなのにお前はイリナとずっと一緒で…………私だって、女として見られたかったんだ!!髪も伸ばしたし、お前が知ってそうな髪型にもした!そしたら私に少しぐらいは振り向いてくれるかと思ったんだ…………なのに、なのにお前は全然私を女として見ようとしない!こんなに好きなのになぜ私を見てくれないんだ!?」


「…………それじゃあ、なぜ!!なぜ男の格好をしてたんだ!!そんなことしてなかったら俺だってお前をちゃんと…………」


「だってお前、女の子と喋るの苦手だろ?私が女の格好したらお前は私に話しかけてくれないからな……………だから私はずっと男の格好をした。私はお前と、少しの間でも話していたかったんだ。例え女として見られなくても、話したかった。それに高校ぐらいから女に戻ってもお前はちゃんと私のことを見てくれると思っていたから………………」


……………そういうことだったのか


「なのになのになのにお前は!お前は!!お前はぁぁぁぁあ!!!」


バシュバシュバシュバシュ!!ドゴォォォオンンンん!!!


巨大な蔦が暴れ狂い周りの地面を吹き飛ばしていく。

そして、俺はそれを喰らい吹き飛ばされる


冗談じゃない。なんでだ?なんでそんな、俺ごときに恋をするんだ?こんな、俺のような間違いだらけの男をなぜ愛することができるんだ?なんでなんだ?なんでなんだよ!

それに、それなら俺を傷つければ良いじゃないか!恨みがあるのは俺だろ!?誰がどう見ても俺だろ!?それなのに、なのに………なんで自分を傷つけるんだよ!いくらでも俺を殴れば良かったんだ!俺のような下らない人間はいくら殴ってもいいんだ!大切なお前を大切なお前が傷つける必要はないんだよ!!


俺は地面に背中を打ち付ける。が、そんなのはどうでもいい。俺の身体ごとき、いくらでもなる。痛みなんてどうでもいい。命に比べたら余りにも軽い代物だ。痛みはただの身体の反応物の欠片だ。生きてる証拠?んなもんじゃねーよ。ただ生きてればどうしても出てくるゴミみたいなもんだ。そんなもんで生きていることを感じる自体が間違っている。そんなんでしか生きていることを確かめられない人生、ないほうがマシだ。

喜びで人生を感じようぜ!悲しみでも、痛みでもない。…………真っ当に、生きていたいと思おうぜ!!


俺は身体を起こし、宏美に向かって歩いていく。


宏美はもう少しで身体が木に埋まってしまいそうだ。


「ちょっ、ちょっとミフィー君!一体全体何がどうなってんの!?説明してよ!!」


イリナが身体を引きずって俺の前に立ち塞がる。


「…………宏美は魔力と一体化しようとしてるんだ。」


「な、なんだ。それなら命を落とすようなこと………」


「それは勇者だけの話だ。魔族は魔力が強大すぎて、魔力に飲み込まれてしまう。そうなれば宏美は、魔力と同一化し、一生をあの木として過ごすことになる。意識も何もなく。体もなくなるだろう。ただただ意識も体もなく、生き続けるだけだ。それを生きているというのか?俺は全然思わねぇ。」


カラン

俺は魔剣を放り投げる。

こんなもの邪魔以外の何物でもない。


「ちょっ、何すかこの状況!?何があったんすか!?」


俺たちを追いかけて黒垓君が走ってくる。

遅かったな…………予想以上に森に苦戦したようだ。


「…………黒垓君。イリナを連れてこの場から離れてくれ。」


「はぁ!?何言ってんの!?私も手助けするよ!ひろみんは私の友達だから!!」


イリナは剣を地面に突き刺し、それに手をかけ起き上がる。


「ダメだ。イリナ、ここから離れてくれ。お前を死なせるわけにはいかない」


「分かったっす!」


「何言ってんの!私が死ぬわけないでしょ!そんなことより早くしないと!」


宏美の顔以外のすべてが埋まってしまった。もう…………時間がないか…………………


「黒垓君。俺が動き始めたらイリナを無理矢理にでもここからひきはなすんだ。距離はそうだな…………ここから半径5キロ以上。何が起こるかわからないからな」


「だから!私もやるって!1人より2人の方が…………」


そうか…………今日か、今日なのか……………もう少し話していたかったな……………


「イリナ…………」


「な、何さ。君がいくら言おうと私は」


「お別れだ」


ボッ………………

俺の身体が炎に包まれていく。

まったく………今回の話は駄作だな。ただただ1人の少女を傷つける話なのだから。


俺の身体が完全に炎に包まれる


「……………え?」


そして、炎が晴れ、その中からゴツゴツで、忌々しくて、ドス黒くて…………全てを傷つけてしまうような鎧を着た男が現れる。


「次会うときはちゃんと俺を殺してくれよ。」


俺はイリナの目を見てそう言い、宏美の方へと振り向く。もう、全然時間がない。


「黒垓君!早く!イリナを連れて離れろ!」


ボッッ


俺の身体が燃え上がる。


そして黒垓君は頷くとイリナを引っ張って扉へと消えていく。

俺は怖くて、イリナの方を向けない。ただ、涙は出なかった。なぜなら俺の涙はすでにこの炎で蒸発して枯れ果てているのだから。全て俺は無くしたのだから。


「今助ける。……………少し我慢してくれ」


俺の真上に5つの特大火球が現れる。1つの大きさざっと半径50メートル。

待ってろ…………すぐにそこから出してやっから。


ふん!


俺が手を下げると火の玉は木めがけて放たれる。

そして俺はすぐさま木に向かって走り出す!


ズズズズズ…………


宏美の周りから太い蔦が大量に出てくる。それは集まり巨大な一本の蔦となり、それが無数に現れる。

それは火球へと伸び、火球を貫こうとする。


そんなもんで、俺の炎が貫けるわけがない。燃え尽きろ。


ボボボ!!

蔦は火球に触れると燃え上がりすぐさま灰へと姿を変える。


ズズズズ………

しかし火球の軌道がずれていく。

なるほど、貫くのではなくてそらすのが狙いか…………まっ、それでもそらせられるのは1本が限界だろう。残りの4個は確実にここにぶつかる!


俺は迫り来る蔦達を燃やしていき宏美を取り込もうとしている木の前までたどり着き、止まることなく上へと飛ぶ!


ボボボボボンンンン!!!

4個の火球が木に激突し、4箇所から火がのぼり周辺を燃やしていく。


ブンブンブンブン!!

それに反応して強大な木は暴れまわる。


「そうか…………痛かった。ごめんよ、我慢してく!」


俺は宏美がいる部分までジャンプし、しがみつく。

宏美はすでに完全に木に取り込まれていた。


「くっそぉぉぉお!!!間に合え!間に合え!間に合え!!」


そして俺は手を炎で覆い木を掘り進んでいく。じゃまだ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ!!!なんで木ごときが俺の邪魔をする!なんで命を吸い取る!そんなこと、お前がやっていいことじゃねぇ!!!


俺は木を掘っていく


「俺に愛して欲しかったんならそう言えよ!!俺はお前と違って気が利かないし、何でもできるってわけじゃないんだ!いえば俺だってお前のことをちゃんと女性として見たさ!なんでだよ!!1人で溜め込むのはお前には似合わねーだろ!!そう言うのは俺の役目だ!!なんでなんだよ!!」


言っている言葉に脈絡がないようだがんなことはどうでもいい。これは俺のただの独白で言い訳で、文句だ。聞いて欲しくて言ってるんじゃない。


「いつもいつもお前は俺を助けてくれてさ!!いつも誰かのために汗流してさ!俺と違って、お前は生きなきゃならないだろ!!誰の命も奪わずに、誰かを助け続けたお前は生きなきゃいけない!!そしてこれからも誰かを助けなきゃならない!!俺と違って!!俺のように人を傷つけるんじゃなくて人を助け続けろよ!!!」


俺の身体がさらに燃え上がる。

まだか!!まだ宏美は見えないのか!!


「殺させねー!!もうやなんだよ!!目の前で人が死ぬのはやなんだよ!!手が届く範囲で、目の前で、俺の手で、殺されたくも殺したくもない!!罪のない奴らが、俺と違って綺麗な奴らが殺されるのはやなんだぁぁあ!!!!!」


ピタッ


俺の手が止まる。

きた!見えた!やっと!やっと!!


「宏美!おい!宏美!!返事をしろ返事を!!」


宏美を木から引き剥がし持ち上げる。

宏美の頬を叩こうとしたが、女性相手にはそんな野蛮な真似しちゃいけないな。肩を揺らすことにした。

だが返事がない。くそっ…………


ダダダダダンンン!!

そして、主人を取られまいと巨木は俺に蔦を叩きつける。


「………………てめーごときが……………」


俺を押しつぶそうとした木が燃えて灰となる。


ザクッ!

そして、俺は腕を木に突き刺す。


「植物ごときが宏美を殺すなんて許されるわけねーだろうが!!!」


ボッ!!!!!!


巨木の全身が内部から燃え上がり、木が悶え苦しみ始める。


そして俺は腕を引き抜き、持ち上げる。宏美を片手で持ち上げ立ち上がる。

手に火が集まっていく。腕は真っ赤に燃え上がり触れたもの全てを消してしまいそうだ。


「…………………これは俺のただの怒りだ。素直に受け止める必要はない」


俺は拳を振り下ろすと、炎の刃が天より降り注ぎ木を真っ二つにする。

そして木は跡形もなく燃え尽きた。


…………受け止める必要はないと言ったんだがな………さすがに木じゃかわせないか。



俺は宏美をぎゅっと抱き寄せた。

だが涙は出なかった。どうしても泣けない。もう既に俺の涙は枯れかけているのだから。友達がここまで追い詰められていようが、イリナに自分の正体を晒し傷つけようが……………だから俺はきっと、だからこそ俺はダメなクソ人間なんだろうな。

重要関連作品

カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/

カイが死んだあの事件とそれ以降を狩虎視点で追っていった作品。全15話約60000文字→https://ncode.syosetu.com/n1982dm/

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