木を隠すなら森に。木を燃やすなら彼に。
過ちというのは、どう頑張っても取り返せるものではない。過ちは過ちである。どんなに取り繕ったところで、なくす事はできないのだ。
例えばそうだな…………自分が壁だとしよう。壁である。決して趣味がいいとは言えない肌色の壁を想像してほしい。
そこに、あるシミが出来てしまった。真っ黒で真っ黒で真っ黒で………光なんか反射しえない漆黒だ。
どう思う?いや、どうする?俺ならその壁を取り替える。もしくは張り替える。
だけれど、それじゃあ俺が言いたいことに繋がらない。そこで条件を付け加えさせていただく。
[自分はその壁をひどく愛していて、まるで自分のように大切にしている。]と。
その部分を削る?おいおい、君は自分の体を削る勇気があるのかい?
張り替える?肌をめくりとるのが大好きなの?
取り替える?それはイコール自殺である。
どうすれば、何をすればシミを隠すことができるだろうか?……………実に簡単だ。考える必要なんて何もない。
その場所を塗りたくればいいんだ。とにかく塗る。色々な色で、色々な方法で、塗りたくる。白?ピンク?青?赤?緑?カッコつけてマリッジブルー?
……………なんでも使え。全てを使え。思いつく限りの全てを使え。
そうすれば黒色は見えなくなり、多彩で多様な色に覆い尽くされる。もしかしたら、元の壁よりもカッコよく見えるかもしれない。
誰よりも奇抜だから人の目を引いてしまうし、誰かの色と必ずかぶってしまうから、自分が誰でもなくなってしまう。
でも、そんなのは上っ面だ。色を剥がしていけばできたシミは露出する。どんな色で塗りたくろうが、どんな方法を使おうが、塗ったくっただけじゃあ存在そのものは消せない。
どんな綺麗に、奇抜に、派手に、多色だろうと、その裏にあるものが消えるわけではない。見えないだけ。意識をそらしているだけ。
あり続けることに変わりはない。
事情を知らないものだけだ、その壁の裏に何があるのかを。
だけれど、少しでも疑ってみろ。そいつはすぐさま壁の色を剥がすだろう。塗った本人の意思に関係なく無理やりにでも剥がすだろう。
そして「なんだ、これを隠してたのか………」と気づく。
そこから先どうなるかは俺にはわからない。「見たくないものを見てしまった」と思うのかもしれないし「ああ、こんなもの?別に隠すことのもんじゃねーだろ」と思う奴もいるかもしれない。
つまり何を言いたいかって?
やっちまったミスは隠しきれないってことだ!
「師匠………散々でしたね」
表面世界にて、俺たちは森をスタスタと歩いている。
森…………やだなぁ。
さて、まぁイリナもこの森を嫌っているのか気を紛らわすためなのか黒垓君達に今日あった話をした
「本当だよ……………いくらなんでもあれはやっちゃいけないよね。相手が無実だったわけじゃないけれど、確かにイジメをしていたけれど、自分の行いが悪いことだとは理解していたし、言ってることも正しかったからな。」
どうやら根は真面目な人だったらしい。イジメ癖があるってだけで、それ以外は多分きっと姫崎さんは俺よりも人格者だろう。
相手に、自分に「立ち向かえ」と言える人間はそうはいない。自分の行いの悪しきことを認められる人間はそうはいない。
「まぁだからと言って君が責任を負うのはおかしいと思うけれどねぇ。あれぐらいなら自分1人でなんとかするべきなんだよ」
「いや、でも、そうだとしても、やっぱりあれはやりすぎたよな………姫崎さんがあそこまで正しい人間だとは……………」
ああ、くそ。確認とればよかったよ………なんてことをやっちまったんだろうな…………
「私はいいことしたと思いますよ?どんなにいい人間だろうとやってる事はいけないですからね。それに自覚しているのなら尚更酷いじゃないですか。」
話を黙って聞いていた染島さんが口を開く。
「人としてやってはいけないことだと分かっているのに、それをやり通すなんて人として終わってます。続かないダイエットよりも性質は最悪です。」
「ダイエットを引き合いに出しますか……」
「はい。[ダイエット続かなーーい]って言っている人間が私は嫌いです。多分その人は人生でろくな努力をしてきたことがないんでしょうね。ダイエットなんて、受験とスポーツに比べたら簡単なことじゃないですか。」
………染島さんって太りにくいんだろうなぁ。ダイエットしたことがない人って分かんないんだよな、どんだけ難しいのかを。
いきなり生活習慣を変えるんだぜ?大変なんてもんじゃないだろ。
「ですが、姫崎さんの場合は全然違いますよね。ダイエットはしなくても生きていけますが、直すべき性格を正さないというのは致命的です。そういう人は、直せないのではなくて直さないんです。[面白いんだから別にいいじゃん]と思っているか[イジメられる方が悪い]と思っているものです。」
「染島さん。昔に何かありました?」
姫崎さんへの当たりが強い気がする。
「いいえ?何もないですよ。ただ、イジメをする方がどうにも気に食わなくて。弱いものしか相手をしていないところとか、征服感に酔いしれている所とかが特に…………」
「ふーーん……………まっ、俺はイジメには基本興味ないのでどうでもいいですけどね。」
「興味ないね…………もし、自分がイジメられたりしたら君はどうするの?」
「ん?そんなの簡単だろ。今回と同じ手を使う」
「へぇ、随分とまぁ叩きのめすんだね。」
「まぁな。舐められるのはどうでもいいし、イジメられるのもどうでもいいんだけれど、俺の邪魔をするのなら徹底的に排除するぞ。俺は好きなものはトコトン愛すが、嫌いなものは徹底的に排除するタイプだからな」
「極端だなぁ」
「極端で結構。嫌いな奴に好かれたくないし、好かれたい奴からはトコトンまで好かれたいだろ?」
「んーーまぁ、そうっちゃそうだけど敵を多くするのは嫌だなーー」
「敵か…………まっ、こんな性格だから俺も敵は多いんだろうな。知覚してないだけで」
敵か…………自分自身?それはないな。自分は確かに嫌いだけれど、別に敵だとは思っていない。自分なんて倒せないし攻略しようもない。やはり敵は自分以外の何かなんだろうな。何かがいまいちわからないけれど。
そもそも自分も操れないようじゃ、勝ち負け以前に勝負にすらなってない。
「敵ですか…………敵と言えば私達が相手をしなくちゃいけない方のことを、そろそろ考えないといけないですよね。」
「やだなぁ…………なんでこうも人生はハードモードなんだ。ちょっとチートを使わせてくれよ」
無敵状態を付与したい
「ダメだよ。確かにそろそろ真面目に話し合わないといけないよね。死んで天国行くぐらいならハードモードの世界で苦労してたいもの」
「イリナが天国ねぇ………」
「何さ、まさか私が地獄に行くとでも?」
「どうだかな。俺は天国とか地獄を信じてないからなんとも言えないけれど、イリナは地獄向きだと思うなぁ」
「地獄向きって…………そんなものに向き不向きがあるわけないでしょ」
「いや、イリナが鬼やってさ。虎柄の片方の肩にだけかかってる服着てさ、スカートでさ…………うん。これなら殴られてもいい。」
「何想像してるの君は………………」
ああ、いい!実にいい!セクシーなんてもんじゃないな。これはあれだ、妖艶だな。
棍棒持っても可愛く見えてしまう。その不自然さが逆に良いというのか、美少女なら何もたせても良い方向に行ってしまうというのか…………そもそも可愛ければなんでも良いのか分からんが最高だってことはわかった。
「ふふふっ、師匠もとうとう金髪の良さを分かってきたっすね。」
「いやいや、俺は元から金髪は素晴らしいって言ってるはずだ。染めてるのが気にくわないってだけで、金髪はオーケーなのよ。まっ、黒髪の方が俺は好きなんだけどな」
「ふふっ、ありがとうございますー」
染島さんが艶めかしく笑いながら感謝する。
「…………いや、なんでさ。金髪がなぜ黒髪に劣ると思ってんのさ。君の感覚狂ってんじゃないの?」
「イリナ…………狂ってるのはお前だ。黒は万物を塗りつぶす色だ。他の色を寄せ付けない圧倒的な色だ。それがなぜ金なんて色に負けるだろうか?」
「はぁ?負けるに決まってんでしょ。折り紙なら君、黒よりも金色の方が好きでしょうよ」
「いや、用途によるな。クワガタ折るなら黒色だし、金塊おるなら金色だし………」
「金色でもクワガタは折れるでしょ。君まさかムシ○ングやったことないの?」
「あるわ!ちょうど俺たちの時だろムシ○ング!お前、どんだけ金かけたのか知ってるのか?万単位だぞ?千じゃねぇ、万なんだぞ?それなのに昔の俺はカードの価値をよく理解してないで保存が酷すぎて、全然売れないんだよ…………どうしてくれんだ!」
「知るか!燃やせ!」
「燃やすのはさすがにひどくないか!?数万だぞ!?イリナよ、お前は数万円分の物を焼く度胸があるのか!?」
「ええ、燃やすねぇ。燃やすともさ!場所とる無価値のものならば、私は涙を流しながらでも燃やすさ!」
「涙流すのかよ!もうちょっと潔く燃やせないのかよ!」
「うるさい!子供の頃の記憶がべったりとコベリついてるんだよ!そう簡単に燃やせるか!」
「じゃあ燃やすなよ!燃やさないで保管しておけよ!!」
「だからってね、何にも使えないカードを部屋に置くなんてスペースとって仕方ないでしょ!私のぬいぐるみ達で部屋が満たされてるんだよ!」
「知らねーーー!!いや、ごめん。やっぱ知ってるーー!!確かにお前の部屋ぬいぐるみで一杯だもんな!小学生の頃の妹を思い出したわあの部屋見たとき!」
「でしょーー!!私の部屋って小学生の頃から変わってないんだよねーー!!いや、少しは変わったかなーー!!漫画は増えてるからねー!!私の部屋は減ることはないけれど増え続けてるんだよねーー!!物が!!」
「なるほどなーー!!確かにものって捨てづらいよなーー!!断捨離できる人が羨ましいよーー!!」
「…………その会話なら大声じゃなくても良いんじゃないっすか?」
「………………かもな。んで、今俺たちはどこに向かってるんだ?息吹を倒さなきゃいけないんだろ?いや、その前に見つけなきゃいけないのか。見つける算段はできたのか?」
こんなくだらない会話をしていても俺たちはずっと歩き続けている。てか1時間ぐらい。一体全体どこに向かうってんだ。
「いや、もう正直正直探して見つけるなんて無理なんすよ。行動性はランダムですし、世界って広いですからね。北海道でノーヒントで1人の人間探すのと同じぐらい難しいですから。」
「わーーお。そいつは難しそうだ。てか不可能なんじゃないのか?」
「でしょ?なので、僕たちは張り込み作戦をすることにしました。」
「張り込み…………森がないところで?」
「そうです。森がないところで待ち続ければ、いずれ来るでしょうからね。」
ほーーー根気のある作業だな。
「しかし待ち続けるなんて途方もないこと考えたな。…………何日ぐらいでくると思う?」
「何日ですか……………まぁそうですね。運が良ければ今日にでもくると思いますがそう簡単にはうまくいかないでしょうね。1ヶ月ぐらい待つこと前提にしておいたほうがいいでしょうね。気が抜けたときに襲われたらたまったもんじゃないっすから」
「うーーむ。なるほどね…………確かにそうだな。俺がついてるときなんてまずそうそうないもんな。」
「そうっすね。ついていたら薔薇色の人生だったでしょうね。」
「薔薇色とまではいかなくても、その土の茶色ぐらいにはなれてたろうな…………まっ、それなら気長に待とうぜ。」
といっても目的地にはついてないんだけどな
「大丈夫っす。目的地まであと少しっすよ。ほら、見えてきた」
と言われたので前を見ると確かに木々の間から荒野が見える。
木々の間からだからなんとも言えないが広いんじゃないのか?
「この荒野は最近まで森だったのですが3週間前に火事で燃えてしまったんですよ。」
「……………3週間前?それってーーと…………」
「目撃者といいますか遠くから森を見ていたものが言うには、その日は天候も悪く雷が鳴るほどだったらしいです。それで、燃え移ったらすぐに駆けつけるように、見晴らしの良い高台から見張ってたんですけど、急に森の一部の木々が円状に倒れていき、その幾ばくか後に森が燃えてしまったらしいです。」
木が切られた。円状に…………雷、燃えた。見晴らしの良い高台。
「……………へぇ、それって犯人見つかってないの?」
「そうですねぇ。まず犯人が誰かもまだ分かってないようです。燃えて消火不能と分かるや否やすぐさま逃げたらしいっすからね。まったく、困った犯人ですね」
へぇ、そうなんだ。なんか心当たりがあるよーなないような気もするがまぁ、気のせいだろう!
イリナの方を見るとイリナも無表情だし…………うん。気のせいだ!
「まぁ、そのおかげで空き地が出来たんだ。この広さなら息吹も森で埋め尽くし甲斐があるってもんだろ。」
そして俺たちは荒野へと出た。
うむ、広い。確かに広い。遠くまで見えないほど広い。てか見たくない。
「……………まぁ、言われてみれば確かにそうっすね。」
黒垓君は渋々頷く。
イリナはどこ吹く風で空き地を見ている。
染島さんは笑っている。
うーーむ、心苦しいなぁ。
てなわけで俺たちは荒野のど真ん中にしゃがみ込んで大富豪をすることになった。暇つぶしである。
「待つための手段だとはいえちょっと気を抜きすぎやしないか?」
前回確かに大富豪が出来る。とは言ったけどあれジョークだし。本当にやるとは思っていなかった。
「修行とかこの世界でやっても意味ないですし、技のスキルアップとかもう皆やりきっちゃってるじゃないっすか。なのでもう他にやることがないんすよ。」
「はぁ、何というかつまらん世界だな。暇つぶしが大富豪って………」
「別にババ抜きでも良いんですけど染島さんが有利すぎるのでね」
確かにな…………ババ抜きとかあの魔力を使えばずっと一位になれるだろう。
「はぁ、仕方ないか。これしかやるものないんだもんな……………よっし、やってやんぜ!」
「と言ってもミフィー君は一位にはなれないからね。だって私が一位になるんだから。」
「よく言うぜ。前回UNOでビリだったやつが言って良い言葉じゃないと思うがな?」
「UNOと大富豪は別物だから。私ダンクシュートのことをダークシュートと勘違いしてたぐらいに別物だから。」
「ダークシュート!?それは酷すぎやしないか!?」
「仕方ないよ。私初めてダンクシュートを聞いたのがマ○オバスケだったからね」
「それは仕方ないな。あれ、バスケであってバスケじゃないからな」
ドリブル中に相手を突き飛ばせるなんておかしいだろ!と昔の俺は思ったものだ。今はゲームにイチャモン入れるなんて未熟だぜ。とやりながら考えているものだが。
現実とゲームを合わせてしまったらダメだ。ゲームはゲーム、現実は現実。そう考えるのがベスト!
「ふっ…………それならオラの圧勝っすね。大富豪で負けたことなんて指の数×5ぐらいしかないっすからね!」
「それは腕だけ?それとも足も足す?」
「足も足すっす」
「それ君、100回負けてるじゃねーか!」
「人生で100回しか負けてないなんて誇るべきことだと思いますよ?オラは負けること前提で人生歩んでますからねぇ」
ふーーん……………消極的なお考えですな。まっ、俺が言えたことではないが。
「…………それじゃあやろうか!どんなことを言ったところで結果が全てだ!言っても伝わらない!やれば分かる!そういうもんだ!」
というわけで大富豪が始まった。
負け知らずの飯田(一位も知らない)、UNOでビリだった威勢の良いやつイリナ、心がある程度伝わる染島さん、負けた数が100だけの黒垓君。
なんともつまらなそうな大富豪が始まった!
〜〜1時間後〜〜
「弱い!弱いぜイリナー!!俺の下にいるなんて最弱極まりないぜ!」
「君の上には2人いるけどね」
試合の途中経過
俺とイリナが大抵3位と4位。黒垓君と染島さんが1位争いを続けていた
正直俺とイリナじゃ彼らに太刀打ち出来ないようだ。たっく、誰だよ。大富豪は運だって言ってたやつ…………全然勝てないんだけど。やっぱり運は二の次だな。まずは技術を磨かなければいけないようだ(てか技術ってなんだよ)
「ふっふっふっ、まさか梅雨美がこんなにも強いとは思いもしなかったっすね!ここまで熱くなれたのは久しぶりっす!」
「熱く?ダメですよそれは。戦いにおいては常にクールでなくてはいけません。冷血に、冷静に物事を見つめる。それこそが[Lord to winning]ですよ。」
熱い黒垓君とは対照的に、冷徹に微笑んでいる染島さん。
なんてカッコイイ図なんだ!これが大富豪じゃなければ携帯で撮って待ち受けにするのに!
「なんだろうな…………この疎外感。俺たちいらなくね?」
「そうだね。ぶっちゃけ私達が下位争いしたところで面白いわけじゃないしね」
「だからといって大富豪は4人でやるもんですから。2人だけでやったりしたらつまらな過ぎるっすよ」
「それは力が釣り合った奴らでやるもんだろ?力の差があり過ぎたら弱者はつまらな過ぎるだろ」
スポーツでバンバン点を入れられたらつまらないように、大富豪でバンバン負けたらつまらない。負けっぱなしは実につまらない。だが逆に勝ちっ放しもつまらない。極端ほどダメなものはない。ただそれだけ
「良いじゃないっすか。オラ達を楽しませるだけに大富豪してくれたって」
「最低やな。その思考は最低すぎるぜ!お友達とワイワイ楽しく全員で遊ぶってこと考えないのかい?」
「考えますけど、鬼ごっこですら鬼になる人が一定なんですから、遊びに関して差が出来るのはどうしようもないっすよ。楽しめる人は楽しめる。楽しめないやつは楽しめない。遊びは人生の尺図っす。」
「いや、黒垓君。遊びの時ぐらいはそういう人生論持ち込むのやめてくれ。こっちは楽しく遊びたいんだよ。」
なんでそんな大学教授みたいにひねたこと言うんだよ。遊びは遊びで良いじゃないか。音楽は音楽で良いじゃないか。奇跡は奇跡で良いじゃないか。そんなものを深く追求するなんて無粋以外の何物でもないぜ
「ですがこればっかりはどうしようもないですよね。ここを張ると決めてしまったからにはここで待ち続けなければいけないわけですから…………不満があってもこれ以外にやることないんですから頑張りましょうよ。今から強くなればいいんですから」
「今から強くなるって…………大富豪ってどうやれば強くなれるんですか」
「言っちゃえばパターンですよ。それでも対応出来なかったら応用するだけ。勉強と同じですよ。」
「くそー!なぜそこで勉強を引き合いに出すんだ!それじゃあ俺が出来ないのがおかしくなるじゃないか!」
「いや、まぁ、そうなんすかね?なんとも言えませんが…………まぁ頑張ってください。暇つぶし道具これしかないんすから」
「まじかーー!これはつまらない時間を送りそうだな!…………ん?」
なんだ?この、顔をしかめてしまうような、野菜を焦がしてしまったかのような臭い匂いは…………
ビュゥウ!
森の奥の方から温かな風が吹いてくる。
温かな風?…………あーーダメだ。いやな予感しかしない。
風が吹いてきた方向を見ると火柱が上がっていた。あーーーこいつはやべーぜ
「…………イリナ、逃げるぞ。」
イリナの方を振り向くとイリナは震えていた。膝を抱えてうずくまっていた。
「なんでもない、大丈夫、私なら大丈夫……………」
ボソボソと小声で囁き続けるイリナ。
くそっ…………タイミング最悪だ。
ビュゴォォォォオオォオオ!!!
火柱の数が増えていく。そしてそれは、段々とこちらへと近づいてくる。
……………あーくそ!やってらんねーなこんなクソみたいな状況!
「立てイリナ!ここにいたら奴に攻撃されるぞ!」
イリナの腕を掴み上げるが全然動く気配がない。
「大丈夫、大丈夫、私なら全然大丈夫……………」
大丈夫じゃねーだろ!こんなに震えてるのに
、目の焦点合ってないのに、大丈夫なわけねーだろ!
ダメか!まだイリナは克服しきれてないのか!この前相手の頭蓋骨を粉砕したから、もう大丈夫だと思っていたのに…………
「いいから早く立て!ここは危険になる可能性が高い!」
くそ!一体全体何がどうなってんだ!なんであいつがこっちに向かってきてるんだ!?
どうする?黒垓君の能力使ってイリナだけでもどこか別の場所に飛ばすか?
「ひゃーーーー!!ミスりましたーー!!」
森の奥からモグラの格好をした女の人が走ってくる。モグラなのに、陸上を走っている。
「土崎さん!どうしたんですか!?敵に追われてるんですか!?」
「はい!スパイしてたらバレました!」
「うおぉぉぉおお!!なんてことしてくれてんだ!!それで今あいつに追われてるんですか!?」
「はい!敵のアジトまでは掴めたのですが欲が出て色々調べてたらバレました!」
「ああ、まぁうん!俺たちのためにありがとうございます!というかここは危険なのでイリナと一緒に先にここから離脱してください!」
せっかく奴らのアジトを知ってる人間を見つけたんだ!ここで殺させるわけにはいかない!
…………いや、もう正直目的の人間は目の前に来ているんだ。敵のアジトを知る必要もないか?…………まぁ、いい。まずは彼女らの避難が先だ!
「ダメです!今すぐに言わせてください!追ってきてるのは炎帝ですよ!?逃げ切れるかどうかもわからない。それなら、今のうちに話しておくべきでしょう!」
炎帝という言葉が聞こえた瞬間、イリナの方がビクつく。
何やってんだ!今ここでイリナを脅かす必要なんてないだろうが!その言葉は出すな!
絶え間なく火柱が上がり続ける。どうやら相手は土崎さんが通った道を片っ端から焼いているようだ。途中で見失ったのかどうかはわからないが、隠れれる場所を根絶しているらしい。
「逃げれるんですって!黒垓君の能力はワープ能力です!あの扉をくくればすぐにこの場から逃げれるんです!」
まずいまずい!近づいてくる!まだなんだ!まだ、こんな場所ではないんだ!バレるのはまだ先じゃないと…………!
「な、なるほど。分かりました!それじゃあすぐにでも!」
「はい!すぐにでも通ってください!」
「ミフィー君危ない!!」
………危ない?
ボンンン!!!
俺の顔面に火の玉がぶつかる!
そしてそのまま狩虎は吹き飛び、岩山へと激突する!
「いやぁぁぁぁあ!!!」
イリナは悲鳴をあげる。
まただ、また私が足を引っ張って、私の大切な人を失ってしまった。しかも同じ奴の手で…………
狩虎の体は動かない。ピクリとも、スンとも動かない。まるで死んでいるかのように、まるでネジを外されたオモチャのように彼の体は動かない。
そして、イリナの体はさらに震えていた。当然だ。同じ奴の手で、同じ顔をした仲間が、同じ思いを寄せていた仲間が、殺されたのだから。
言葉は出ない。涙も出ない。ただそれらが体の震えとして表れる。
「二頭追うものは一頭をも得ず。しかし一頭だけ追ってみると案外二頭得るもんだな」
ボオォォ!!
周辺の木々が燃え上がっていく。
ズズズズズンン!
木々が倒れていく。
メシメシメシっ!!
手で触れた木に手形の窪みが作られていく。炎によってその部分だけ焼き払われたのだろう。
「スパイを追ってここまで来たら…………お仲間さんがこんなにもいるとは思いもしなかった。まぁ、もう1人、処分したけれどな」
厄災というのはいつだって、思いもよらない原因で生み出される。
蝶が1匹羽ばたいただけで起こる大竜巻。温度が上がったせいで発生するエルニーニョ現象。1つの発言で巻き起こる紛争。モグラが見つかっただけで起こる悲劇。
そして………イリナと狩虎が巡り会うという喜劇。喜劇でありながらそれはまさしく悲劇であり、だからと言って悲しみのみしかない大悲劇というものでもない。
感動?なんだそれは、そんなものたまにで十分だ。毎日見るものじゃない。
爽快感?コカ・コ○ラでも飲んでなさい。
達成感?毎日の生活がすでにタスクとルーティンに満たされている。達成感しかない。
厄災はいつだって、何かを誘発する。厄災はいつだって悲しみを生み出す。
それじゃあ今回は何を生み出す?…………簡単さ、ただただもう1つの厄災を生み出す。いや、今回は天災そのものを生み出すのか………
災害は連鎖する。悲しみは連鎖する。笑いは連鎖する。あくびも連鎖する。
全てがこの1日で明かされる。………いや、やはりそれは嘘だ。すべてなんか明かせるわけがない。どうでもいい謎はすぐバレるようにおく。見られたくない謎は全力で隠しきる。
覚悟しようぜ今日という日を。引き金はもう引かれた。狼煙はあげられた。火薬に火はもうついている。簡単な謎はここで解き明かされるだろう。謎?やはりそんなもの、あってないようなものか。
「俺の肩書きが何か分かってるよな?[炎帝]って言うんだぜ。災害そのものがわざわざ出向いてやったんだ。」
あとは爆発するだけだ。
何が?爆弾が?ああ、ある意味そうだろう。もう彼の周りには火が回っている。己の魔族の魔力がなんなのかを知っているのがばれたんだ。どんなにフォローしてもバレるのは時間の問題だろう。
それに、これじゃあ彼の夢が達成されない。
彼は、そろそろ、本気を出さなきゃいけなくなる。彼の怒りはもう、爆発寸前なのだから。
「…………楽しもうじゃないか。栄光あるてめーらの為にも!」
だからこそ、人は彼には触れない。災害に触れるなんて、賢ければ誰もしないだろう?
知らずに触れた?それは可哀想に。それならさっさと死んでくれ。触れた時点で、終わりはすでに決まっているのだから
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/




