前夜祭。間違えた、全灼災
「お前馬鹿なのか!?仲間を助けるためにあの毒霧の中を突っ込んだなんて!!」
周りから取り乱したような声が聞こえてくる。
はーーどうなってんだこれ。スピーカーでも隠されているのか?
「馬鹿?ああ、馬鹿さ。俺は毒霧の中をも突き進む馬鹿野郎さ!馬鹿最高!」
ビシッ!
俺は手を持ち上げる!
そして、その上げた指に雨水がポタリと落ちる。どうやら雨が降り始めたようだ。雨脚は強くなり、すぐさま土砂降りとなる。
「まぁ、そもそも毒霧になんてつっこんでねーよ。風起こして霧はどっかに飛ばしたからな。」
俺はイリナのもとに歩み寄り、光剣を拝借する。
少し、使わせてもらうぜイリナ。全く、こうやっていたいけな少女をいじめるってのは男として感心せんな。
「風!?つまりお前の魔力は風なんだな!?」
俺は振り返り、敵の集団へと向かう
スラ
そして剣を引き抜く。魔剣は紫色に、光剣は光り輝く。さて、久々に二刀流だ。つっても昨日のことなのか…………はぁ、全然時間が進まねーなー。
「どうぞご勝手に。予想外れでもガッカリするなよ?」
バシャバシャバシャと横から誰かが水溜りの水を跳ね飛ばしながら走ってくる音が聞こえる。
と思いきや別の方向からも走ってくる者もいた。
……………挟まれたか。
「しっっねぇぇええ!!」
両側から刃物が振り下ろされる!
ガギン!
すると、金属の甲高い音が響き渡る。
俺は魔剣を地面に突き刺し、足台とし上空へと逃げていた。
攻撃が単調だ、次にどう攻撃されるのかがなんとなくわかる。
「光剣第三の舞 二人羽織」
光剣は双剣へと姿を変え、俺はそれを2人に投げつける
ブスッ!!
「ぐあぁぁぁああ!!!」
そして、着地した時に魔剣を引き抜くと俺は思いっきり………
「空の一太刀」
ブン!
横に切り裂く!
魔剣から斬撃が飛び、2人を斬りながら奥の森を切断する。
ズズズンン!木が崩れ落ちる
王様の技を見てからというもの技名を考えておいたのだ。これでカッコよさアップは間違いないだろう。
「大丈夫。足首しかきってないからすぐには死なない。」
俺は2人の体から光剣を引き抜くともとの形へと戻す。
「おい、見えないところから喋ってるやつ!」
俺は走って次の相手に向かう
「聞こえてるのかどうかわからないが、手加減してたらお前らまじで全滅するぞ?」
相手は3人。いまいちよくわからないが俺と同じぐらいか、それよりも強いかといったところだ。なに、伝説の武器があるのだからなんとかなるだろう。
「いいや、これだけで十分だ。お前の力量を見させてもらったが…………なんてことはない。それならば後3分間で私達全員を倒すことなど出来ないだろうからな。策士として、戦況を見誤ることはない。」
カンカンカン!
俺は剣をさばき続ける!
ああ、くそ!なんでこうも周りの奴らは邪魔をするんだ!
「ふーーん…………ああ、あれか。あれだったのか。お前はやつだったのか。策士みたく森の奥で椅子に悠々と座っているやつは!」
「!!」
「ゴボゴボゴボ!!」
俺は水を操り、3人を囲み窒息させる。
残り………2分半。何とかなるな!
「水の魔力!…………な!?一体どういうことだ…………風の魔力じゃないのか?」
「はははっ…………それじゃあ本気で行くぞ。」
光剣が光りだすと光剣の剣先が伸びる。ざっと長さは30メートルほど。イリナには及ばないが、今はこれくらいで十分!
「いくぞ!………ふん!」
スパン!!
剣が森を綺麗に切断する!
だが誰も切られていないようだ。森の隙間から血は見えない。
…………水を踏みつけるものはいなくなった。全員、ジャンプしたな。
…………あそこで座っているやつ以外は
ダン!
俺は敵全てがジャンプしたのを確認した瞬間!策士といった男の元まで走る!
バシャバシャバシャバシャ!!!
水溜りが跳ね飛ぶ!
「くそ!なんで分かってるんだ!…………雨か!」
「いいねいいね!その通りだ!!」
いったん水を蒸発させて、空に漂わせる。あとは適当なタイミングで水に戻せば雨となり降るから相手に疑われる心配もない。
なんて素晴らしい作戦だろうか!俺にしては結構まともな作戦じゃないか?
バシャバシャバシャ!
敵が飛んでいる間に相手のリーダーの元までなんとかしていかなくては!
斬られた木が倒れていく
グアッ
しかし空中にいる敵2人が木に糸を付着させ、ターザンのように近づいてくる。
まるでスパ○ダーマンのようだ。あの糸に捕まったら逃れることは難しいだろう。
「邪魔だどけ!」
ブシャァ!!
地面に作られた水溜りから水が伸び、2人を襲う!
が、しかし、相手はそれをかわして俺に襲いかかる!
さっきのやつらとは明らかにモノが違う!はたしてなんとかなるのだろうか!?
「くそっ!やっぱりそう上手くはいかないか!!」
カンカンカン!俺と男2人との剣戟が始まる!
ガンガン!カン!!
蜘蛛男が縦横無尽に動き回るせいで的を絞りきれない。ガードをするのでやっとだ。
かーくそっ、速い!さっきのやつらとは比べ物にならないぐらいの剣速だ!
カンカンカンかん!!
やべっ、剣を弾かれた!
ズズズズ…………光剣が棍へと姿を変える。
なんとレパートリー豊富な剣だろうか!魔剣の存在が希薄化しそうだ!
ガイン!
片方の相手の剣を弾き、すぐさま地面に先端をつけて宙へと浮く。
「はいや!!」
もう片方の相手の剣を持っている手にぶつけ、剣を落とさせる!
「ぐうっ……」
俺はその隙をついて魔剣を拾う!
なんとかはなっている!俺でもなんとかはなっている!
…………しかし、おかしいな。
「おい!声だけ星人!」
「こ、声だけ星人?」
「ああ、声だけ星人だよ声だけ星人!お前の能力は確か体に穴を開けることだろ!?なんで俺に使わないんだ!?まさか弾切れか!?」
ガギン!
くそっ!周りの奴らが邪魔すぎる!さっきみたいに全然上手くいかない!斬撃を飛ばしても当たらないし振り回してもかわされてしまう!
「…………さぁな。考えたらどうだ?」
くそっ!弾切れか!?それとも舐めきっているのか!?どちらにせよ一番厄介な攻撃をされない今のうちに畳み掛けなくては!
ブンブンブン!ドサァアアァァア!!!
戦うにつれて周辺の木々が斬り倒されていく。
急げ!急ぐんだ俺!このまま時間を無駄にするわけにはいかない!
「うおおお!!」
俺が剣を振り下ろそうとした時、何かが俺の腕にまとわりついた。そして、俺の腕の動きが止まる!
「んだこいつ!」
キン!
右手で相手の剣を弾く。
くそっ、周りが邪魔だ!どんだけ人数いるんだよ!
俺は左手に目を移す。すると俺の左手は真っ黒に染まっていた。
「ぎゃはははは!お前の腕はもらっ………」
サン!
下品に笑う俺の左手を、俺は右手の光剣を使い切り離す!
いっでぇえええ!!めっちゃいてぇ!!ああ、もげる!もげるようだ!あっ、もう腕ないんだった!てへっ☆
うあぁぁぁああ!!叫びてぇ!喉が裂ける程叫びてぇ!だけれどダメだ!ここは平然とした態度で過ごせなくては!
「…………え?」
つかなんだよこいつの能力!手を乗っ取るとか!?…………つかえねーな!!
「お前に時間をかけてられないんだ。ごめんよ」
光剣が小槌へと姿を変える。
へーーこんな能力があるのか!イリナがもったら正しくトールハンマーだな
「かっとべ!!」
ッパァン!!
手が小槌により遠くへと吹き飛ばされる!
よし!1人減った!あと2人!
カンカンカンカンカン!!
くそっ、まさかこいつらがこんなに強いなんて!時間がどんどん過ぎていく!…………あれやるか。イリナ達からもちょうどいい感じに離れたし。
「染島さん!イリナの心境はどんな感じですか!」
心の中で染島さんに語りかける。
「は、はい!えーっと、苦しそうです!」
「そうですか!それと、意識はあると思いますか!?」
「えーーっとですね………死んだように寝ています!」
「……………分かりました!」
時間がない!!もうやるしかないようだ!
「染島さん!念のためイリナに覆い被さってください!これを見られたら困る!」
「分かりました!」
…………よし、やるか。
キン!
右手で相手を弾き飛ばし、相手との距離をとる!
そして、剣を地面に突き刺す!
「吹き荒れる風は灼熱のベールのごとく、降り止まぬ雨は全てを憂う聖女の涙の如し。はてさて、次に出すものは何にたとふべきにやあらむ。」
シュウウウ…………
狩虎の周りの降りしきる雨が蒸発していく。
さぁ、消えてなくなれ
ポッ
巨大なエネルギーが暴れまわったせいで森の一部が更地へと変わった。
ザリッ
「さて、残りはリーダー達だけかな………黒垓君はもう解放されているだろうからイリナは今頃勇者領で治療を受けて助かるだろうし……………どうしたもんかな?リーダーさん」
敵はほとんど倒した。倒れていた人間の数も数えた。一応全員息はしていたけれど、すぐに助けてやらないと死んでしまうだろう。
まぁ、どうでもいいんだが。
「………なんでお前らのチームは化け物ばかりなんだ」
リーダーの男が重い口を開く
「化け物?おいおい、冗談はよしてくれよ。俺は弱いから誰よりも頭を使って工夫してるだけだぞ?化け物呼ばわりされるのは遺憾だなぁ」
「…………よく言うわ。あんな規模の攻撃を簡単にやってのけるやつが化け物じゃなければ一体何が化け物なんだ?」
「さぁなぁーー俺はイリナが化け物だと思うけどな。」
チャキ
俺は剣を相手に向ける。
「だがまぁ、強くなるためならなんでもするお前らも十分に化け物だけれどな。醜怪極まりない。」
「はっ、いくらでも言え。弱く生まれ落ちてしまった俺たちにはこれぐらいしか強くなる方法がないんだ。」
「弱者の言い訳だな。自分が弱い理由を他へと押し付ける。自分が悪いことは明々白々なのに、それを全て正当化する。実につまらん。」
「ああ、そうさ。弱者さ。お前は弱者の気持ちなんてわからないだろ?強者には、力が当たり前のように備わっている。分かるわけがないのさ」
ああ、本当。なんで頭がいいやつってのは考え方をこじらせるんだ?馬鹿なのか?一周回って馬鹿なのか?
「俺は強者じゃねー。最弱者だ。だから俺は自分の失敗を誰かのせいにすることはできない。俺が足を引っ張っているのは目に見えているから、自分が強くならないといけないことを常に自覚している。自分を正当化している暇はない。間違いでしかない俺を正当化させるなど、体を一から組み立てなおすに等しい作業だ。」
最弱であるものは、常に自分のせいにする。だって、失敗しないわけがないのだ。誰よりも失敗と敗北をし続けているのだ。漫画やアニメみたく「いつか勝てる日がくるさ!」なんてことは厚かましくて言えやしない。だから俺は常に思考し続ける。間違えることを前提で、どんな間違いを犯してしまうのか、それへの対応策を考え続ける。
失敗を補うのは成功ではない。それは当然の行いであり、しないものはいないだろう。
成功は進むものである。失敗の補填は進むのではなく、後退した分の差を埋めるだけ。
失敗は成功の母?それとも成功は失敗の元?どっちでもいい。それは強者の言い分だ。最弱者にそれは当てはまらない。
「確かにこの世界では自分の能力値は上がらない。だから集団で囲んで相手をリンチする…………おいおいちょっと待てよ。その前にお前ら素振りとか筋トレとかしたのか?太刀筋が単調すぎるしまるで重みがなかった。お前らはステータスばかりを推し量って、自分のスキルを上げるのを忘れていたんだ。まずそこから始めてみたらどうだ?」
「………うるさい野郎だ。最弱者?知らねーな。お前が最弱者なのならそれに負けた俺たちは一体なんなんだ?存在すらしてないっていうのか?」
「ああそうだ。お前らのあり方は間違っている。」
剣が怪しく光り出す。
「強い弱いとか以前に、お前らは人として間違っているんだよ。」
そして、それは俺にも当てはまるのだろう。
「黙れ」
俺の言葉に反応して、リーダー格の男は腹から重たい声を出す。
「お前が俺たちの不当性をいくら語ったところで、俺たちに間違いがないのは明白。世界そのものが、世界という法則そのものが俺たちの正当性を謳っているのだから。」
リーダー格の従者と思われるものが、リーダー格の男の目の前にぽっかりと空いた穴を作り出す。
どうやらあいつが空間移動の魔力を持っていて、そこにあいつが釘を投げ込んでいたってところか。
「俺達じゃない。お前が間違っているのだ。どんなに綺麗なことを叫び続けようが、世界はそれを否定し続ける。」
俺の周りに無数の穴が現れる。1、2、〜16、17個といったところか。
「お前の動きはもう見切っている。せめてお前だけでも倒させていただこう。」
リーダー格の男の周りに釘が生成される。
俺が間違っているねぇ…………確かに俺という存在そのものは間違っているのだろう。だが…………
ビキメキゴキッ
体が作り変えられていく感覚が体を駆け巡る。
気持ち悪い。だが、この時だけは、自分が違うものに生まれ変わっているような気がして、そう思うとこの感覚も案外好きになってしまうものだ。
「…………死ね。」
ズダダダダダダダ!!!
俺の周りの空間から無数の釘が生成される!
地面は穴ぼこだらけ。というよりかは既に大きなクレーターへとなっていた。
「だけれど、俺は言わなくちゃいけないんだ。俺だからこそ言わなくちゃいけないんだ。どんな理由であろうと同族殺しは許されることではない。殺人は許されることではない。それが認められるような場所であるのなら、世界そのものが間違っていると」
ぶしゃああ!!
リーダー格と思われる男の腕を断ち切る
「うっぐっ!!!っっっっつつつ!!!」
「おいお前。人間は転移できるか?」
従者と思われるやつに尋ねる。
コクコクと頷く。
「よし、それならここら辺にいるお前らの仲間をアジトまで運んでやれ。一応は生きているが長くは保たん。早急にな」
俺はイリナ達がいた場所へと向かう。黒垓君が気を利かせてくれたら、そこで待っていてくれているだろうからね
「ん、そうそう。」
俺は立ち止まらずに、後ろのやつらに声をかける。
「今度襲撃してきたら骨も残ると思うなよ。それじゃあな。」
「お、おい」
リーダー格の男の震えた声が聞こえた。
「んだよ、傷口に触るからあまり声を出すな」
「1つだけ聞かせてくれ。」
「しかたねぇな、なんだ?1つだけだぞ」
「お前は、カイという男なのか?いや、死んだということは分かっている。しかし、イリナのパートナーのカイというものは水の魔力を操ると言われていたから………」
なんだこいつら、まさかカイの顔を知らないの?
「…………カイなら死んだ。お前らも知っているんだろ?それならつまり俺はカイじゃない。当然の帰結だ。それじゃあな」
俺はその場を後にした。
と言っても落とした魔剣を俺は探さなくてはいけない。あれーー?どこにやったかなーー。まさかさっきの衝撃で何処かにぶっ飛ばしちゃったとか?……………やばいな。史上最高の落し物だ。伝説の聖剣落としましたなんてシャレにならん!全力で探さねば!
ザッザッザッ
そうすると、俺の背後から俺に近づく足音が聞こえた。なんだなんだ、黒垓君はやっぱり気を利かせて向かいに来てくれたのか。さすがはできる中学生だ。頼りになるぜ!
「よーう!黒垓君!迎えに来てくれたのはうれ………し………くないはやっぱり。」
俺の背後には魔剣を持った、片腕を切られたボクサーがいた。
目は血走り、俺を今すぐ殺したいと願っていることがありありとわかる。
「あーーうん。決着はついたからさ、さっさとリーダーの元に帰った方がいいんじゃないかな?そのままの姿でいるのはボクサーからすれば恥だろうし。」
片腕をなくし、剣を持っているなどボクサーとしては完全に敗北しているだろう。
しかしボクサーは剣を構えた。
はぁ…………全く。なんでこうもこいつらはプライドばっかりなんだ。
「…………それは使わない方がいい。ボクサーが自分のプライドの為に剣を使って仇討ちなんて、もう一生立ち直れなくなるぞ。」
「ふぅぅうーー!!ふぅぅうーー!!」
しかし男は荒い鼻息をあげてこちらを睨みつけている。
はぁ…………つらたん。
「忠告はしたからな。使いたければ勝手に使えばいいけど、全て自己責任だからな」
俺は背を向けてイリナ達がいた方へと歩き出す。
それを見て、男は怒りが爆発したのだろう。
「ウオォォォオォオアァアアア!!!」
という雄叫びをあげながらこちらへと走ってくる。
しかしそれはすぐに悲鳴へと変わる。
ボトリ。男の最後の腕が爛れ落ちる。
「う………わぁぁあぁああ!!!!」
痛みのせいかどうかは分からないが、男は地面をのたうちまわる。
剣の絵を握っている手が爛れ、腐り、骨へとなっていく。
全く…………自分を見失った罰だな。
俺は剣についた骨を払うと、今度こそイリナ達がいた場所へと向かった。
「よーーう、黒垓君。今回はろくな出番がなかったね。」
「やーー本当っすよね。最近オラの存在が移動のためだけに存在するお飾り野郎感が否めないっすよ。」
「いやいやいや、そんなことはないぞ。黒垓君がいなかったらこのメンバーは成り立たないと言っても過言ではないからね。君がいてこそのチームよ。」
「いや、まぁそこまで言われると照れくさいっすね。」
黒垓君はポリポリと頭をかく。
ここはイリナと染島さんが最後にたどり着いた場所。ここから黒垓君に勇者領まで送ってもらったようだ。
「いやーーでもイリナさん結構ギリだったみたいっすよ?あと何十秒か遅かったら助からなかったらしいっすからね。」
「ひゃーーー、強い奴にも悩み事はあるんだな。」
この世界じゃ弱い奴に狙われること。それが強者の悩みの種だろう。
「まぁ、今回は助かったから結果オーライじゃないすか。…………それより、今回は少し本気を出したそうじゃないっすか。」
黒垓君がニヤニヤした顔で俺を小突いてくる。
なにーー!誰から聞いたんだ…………染島さんか。
「いや、まぁな。さすがの俺でも少し怒ってしまっていたようだ。イリナの前だというのに使ってしまったよ。……情けないなぁ。」
「いやーーー見たかったなぁ。オラ、師匠が怒ったところとか見れてないっすもん。一度でいいから見させてくんないっすかね?」
「見させてやりたいのはやまやまだけれど、俺はそう簡単には怒らないぞ?」
「でしょうねぇ。安定陸塊並みに噴火しなさそうですもんね。」
「ああ、そうだ。俺が怒るのはコーヒーゼリーを奪われた時が大半だ。」
「しょっぱいっすねぇ」
「ほろ苦いの間違いだろ?」
わっはっはっと心の中で笑った後に(顔は全然笑ってない。笑えてない。つか面白くない。)俺達は黒垓君の扉を通じて勇者領に向かった。
「よーーうイリナーーー。元気?もうそろそろ退院できそうだって先生が言ってたけど…………」
「ここは大学病院じゃないよ。」
イリナからすかさずツッコミがはいる。うーーむ、もうすでに元気が戻ったようだ。
「しかしイリナでもケガする時ってあるんだなーー。驚いたよ。」
俺が毒霧を迂回している時に、染島さんからテレパシーで事情を聞かされたときは本当に驚いた。
イリナが致命傷を受けた!?そんなの1世紀に一度起こるか起こらないかの出来事じゃないのか!?と染島さんの言葉を疑ってしまうほどだった。
「私だって人間だよ。ケガする時もあれば心配する時もあるのさ。…………本当、君とはぐれた時は焦ったよ。」
イリナがやれやれと言いながら言及する。
「まさか顎ぶん殴られて気絶しているなんて思わないじゃん?ねぇみんな。」
「そうっすね。」「私は見知らぬ女性の尻でも追っかけてるかと思いました。」
「…………染島さん。そういうブラックでピンキーなギャグはやめましょう。本当、俺が女好きだと思われるの嫌なんですよ。」
「よくもまぁそんなことが言えるね。初対面の人に膝枕してもらったやつが言える言葉ではないよ」
「あっ、そうだっ。染島さん、今日俺疲れたので膝枕してください。」
「いいですよーーー。」
いいヤッホーーイ!!膝枕や!膝枕だぜ!寝るには枕が大切。枕といえば膝枕。これ、衰えることの知らない不変の定理である!
「何言ってんだよおい。」
ガシッとイリナに頭を握られる。
「痛い!痛いったら痛い!お前本当握力なんぼなの!?1000超えてんじゃないの!?」
「この世界なら………じゃなくて!なに胸美に膝枕してもらおうと思ってんの!?」
「おいちょっと待て!この世界なら………ってどういうことだよ!お前超えてんだな!?チンパンジーを超えてんだなったたたたた!!うおぉぉおお!!頭痛い!伸びる!頭が縦に伸びてしまう!」
うおおおおおお!!本当、これはやばい!今までよりも力が強い!
「…………そんなにして欲しいなら私がしようか?」
イリナがもじもじしながら呟く。
は?なに言ってんだ?
「いや、だってほら今日は君に助けてもらったわけだしお礼というか…………ご褒美というか…………」
イリナよ………お前は1つ重大なミスを犯している。
「えーーイリナの膝枕とかやだわーーー。だってイリナからは母性とか全然感じないんだもん」
「ぼ、母性?」
「ああ、母性だ。膝枕と言うのは母性がないと、たとえどんな美女がやっても癒されないものだ。」
「はぁ?私に母性がないと?」
「ああ、全然ない。どちらかというと保護するというよりも保護される方が合っている。イリナは子性のほうが強そうだ。」
わがままな子供には母性のかけらもない。
「…………ミフィー。」
イリナの目つきが変わる
…………調子に乗りすぎたか?
「は、はい………なんでしょうか。」
「そこになおれ」
「は、はい!!」
声は小さくて、活力があるわけじゃない。だけれど、気迫が大いに満ちていて、その声の振動だけで世界が揺れるんじゃないかと思えるほどの圧倒的な力を帯びていた。
やっべーー!!これは下手すると死ぬな!!
「命令だ。私に膝枕されろ。」
「え?いや、膝枕は命令されてやるものじゃ…………」
「それともお前の胴体をちぎられて私の枕にされたいのか?」
「及ばずながら!私飯田狩虎は、イリナ様の命を受け、膝枕を受けさせていただきます!それでは!!膝枕ごめん!!」
俺はイリナの膝に横になる。すると、忘れていた痛みが込み上がってくる。
ああ、くそ。切った痛みが出てきやがった。これはきっと腕が治ってきてるんだな…………ここのベッドは本当に凄い。斬られた腕でも再生してしまう。
「どう?私の膝枕の感想は」
「ああ!腕がみるみる治っていく!」
「……………膝枕は?」
「すっげーーよなーー!本当、ここのベッドは何でできてるんだ?三○結晶?」
「……………膝枕…………」
「はぁーーーしかし、ここの布団も素材がいいよなーー。コットン?ウール?ポリエステル?ようわからんけど100パーセントだろうな!」
「………………泣くよ?」
イリナが、悲しそうな顔をして俺の顔を見ながらそんなことをいう。
「………………うん。いい心地だよ。本当、素晴らしい膝枕だ。染島さんにも負けずとも劣らない………は言い過ぎか。それでも男を満たすには十分すぎる膝枕だと思うよ。」
なぜ俺はこんなに膝枕を熱く語っているのだろうか……………
「よし、そういうことなら満足するまで私に膝枕されているがいいよ。」
いや、正直もう満足なんだけど………まぁ、イリナもそこまで不快に思っていないのなら少しだけ甘えるか。手もまだ治りきってないわけだし。
というわけで俺たちは勇者領で少しの眠りについた。
Face of the Surfaceのとある一節。
ほんの少しの休息は、ほんの少しの安らぎを与える。しかし、ほんの少しの暇の後は大抵嫌なことがつきものだ。学校で言えば月曜日。会社でいえば次のより高い目標達成を決めつけられる。などなどがあるだろう。
一番辛いのは明日だ。イリナが死にかけた?大丈夫。死んでいない。ならばそこまで大変なことではない。
染島さんが傷ついた?大丈夫死んでいない。それならば大変なことではない。
狩虎の腕が千切れた?大丈夫。再生した。それならばストーリーが変わることはない。
明日だ。明日なのだ。誰もが想像するあの出来事が、明日起きるのだ。今までの全てが砂上の楼閣であったことがバレるのだ。砂上の楼閣であり、砂で作られた楼閣であったことがばれるのな。
今を休めよ気にせずに。明日になれば全てが砂に戻るのだから
カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/




