表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Face of the Surface  作者: 悟飯 粒
狩虎の章
PR
34/364

始まりの幕引き

なんで君はいつも下らないミスばっかりするんだい?愚行であることは誰が見ても分かるというのに。


俺に優しく語りかける男がいる。そいつの顔は見えないし、声はひどくいびつで、声なのかどうかも識別ができないほどだ。ただ、言葉だけははっきりと伝わりはっきりと理解できた。


なんで自分の傷口を広げるんだい?そこから得るものは何も無い、ただただ血が垂れるだけだというのに。


ポタリポタリと血の雨が降り始める


なんで相手の傷口を広げるんだい?互いの傷を舐め易くしたところで自他共の傷口はより痛むだけだというのに。


線が歪で輪郭が不安定。そもそもこの男は人間なのだろうか?姿が刻々と変わり続ける。まるで蠢くシミだ


なんで自分を否定し続けるんだい?自分の殻に閉じこもっているのは君じゃないか。


尚もその男は言葉を吐き続ける。俺の心を射抜くように吐き続ける。

そうだよ、何が悪い。俺は自分が嫌いだ。正しきことを何もしてこなかった俺が大っ嫌いだ。そして、賀川恭介は俺にそっくりで、罪に罪を重ねているその姿が俺と被るようで……………だから大っ嫌いだ。いや、彼は虐められていただけか……………それなら大っ嫌いじゃなくて嫌いに直しておこう。


なんで……………なんで…………なんで………なんで……なんで…なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで


男は言葉を吐き続ける。下らないことを下らないと言うように、感情なく言葉を吐き続ける。

俺を苛む為?いいや違う。こいつは…………ただ言いたいだけだ。責めるためでなく楽しむために、下らない事を下らないと言って楽しむために。俺はただ遊ばれているだけだ。


なんで………………………言わないんだい?


「っっっっ!!!!」




がバッ!


「おっ、気がついたね。それじゃあさっさと暴竜を倒しに行こう」


跳ね起きると目の前には真っ白い部屋が広がっていた。周りにはベットが沢山あって、左側には受付がある。そして、右側にはイリナがいる。


汗がひどい、シャツが肌にくっつく……………なんでこうも最近悪夢しか見ないんだ………気持ちの問題か?


「……………………なぁイリナ。ちょっとシャワー浴びてくるわ、汗を流したい」


なんとこのお城、シャワー室まで完備しているのだ。流石なのか何故なのかは分からないけど今の俺には助かる。


「ん?ああ、分かったよ。それじゃあここで待ってるね」


ベットから降りて、シャワー室に行く時に黒垓君を手招きする。なるべくイリナに気付かれないようにではあるが。


「……………この部屋を出た後、ある場所に飛ばして欲しい。」


あーー最悪の気分だ。このままだったら誰かに当たってしまうかもしれない。それならば……………


「何、1分で終わる用事だからさ」



15分後


「ふーー、スッキリしたー!汗もストレスも綺麗さっぱりだ!」


「……………何、君はまさかシャワーを浴びたらストレス発散できるタイプの人なの?」


あーうん。確かにそういう人いるよね。遼鋭も確かシャワーを浴びただけでストレスを発散できるとも言ってたし……………でも遼鋭ってストレスとかなさそうだなー。俺みたく悩んでることなさそうだ。


「いや、シャワー中に激しい運動をしてたんだ」


「………………それは詳しく言及しても良い方?それとも悪い方?」


あーうん。確かにそういうのをシャワー中にやる人っているらしいよね。確か遼鋭も…………っていうのは冗談だ、多分。


「………………ノーコメント」


「さ、さぁ!これから暴竜さんを倒しに行きましょうよ!」


気まずくなりつつあった空気を染島さんは大声をあげて打ち消す。


「そ、そうですね!それじゃあ黒垓君!ババッと扉を出しちゃって!」


というわけでやってきました黒色の部屋!俺が死闘を繰り広げて、仲間に殺されかけるという結末を迎えた部屋!

本当、俺はなんて気絶しやすいんだろう!てかイリナの攻撃力が高すぎるんだよ!


「くそっ、誰かのせいで2時間も無駄にしてしまったぜ!これだと暴竜さんを倒した時には夜の9時は確実に過ぎてるな!」


「だ、大丈夫!夜はまだまだこれからだよ!」


「俺は最終日で夏休みの宿題が全然終わってない学生じゃないんだよ!夜が終わってしまうことになんの不満もないわ!」


しかし何故計画的にやらないんだ?そっちの方が圧倒的に楽だというのに……………


「まぁまぁ、それじゃあさっさと行きましょうよ。明日までの宿題終わってないんすよ」


真剣に頭を抱えながら暴竜の扉まで歩いていく黒垓君。ああ、ごめんね。イリナのせいで2時間も無駄に伸ばしてしまって


と、黒垓君には急ぎの用事がある為俺たちは暴竜カオスがいる部屋まで走ることにした


「しっかしあれだなぁ………部屋というよりかは洞窟だな。整っているとはお世辞にも言えない」


奥に行くにつれて部屋の様相はなくなって、壁はゴツゴツとしていき床は凸凹だ。


「やはりキャンプ場は綺麗な方が良いっすからね。凸凹じゃあ鍾乳洞体験みたいで気持ち悪いじゃないっすか」


「そうかな?俺は凸凹の方が良いな。冒険してるみたいで楽しいだろ?」


「私はキャンプに行ってみたいですねー。お父様がそういうのは庶民のする娯楽だって言って行かせてくれないんですよ。」


「お嬢様。何をお飲みになりますか?レモンティー、アップルティー、カモミールティー、ハロー○ティー。お好きなものをお選びください。」


「またやってるよ……………あっ、そろそろ目的地だね」


冗談を交えながら走っていると大きな門が姿を表す。


でかい!目の前に範馬○次郎がいるかのごとき威圧感だ!

全力で避けたい!


「それじゃあ誰が門を開ける?」


ソワソワとしながらイリナは問いかける


「………………イリナ、まさか門開けたいの?」


「ばっ、そんなわけないでしょ!私がまるで初めて来たレストランの扉を家族の誰よりも早く開けたいみたいな願望を持ってるわけないじゃない!」


ソワソワと辺りをキョロキョロ見続けるイリナ。………………微笑ましい


「………………イリナ。開けていいぞ」


「えっ!?本当!?……っじゃなくて!別に私は門を開けたいとかそういうのないから!煩わしいだけっていうか?可憐な私からすれば面倒くさいだけというか……………」


ジーッと門を見続けるイリナ。…………………恥ずかしがらなくたっていいじゃないか


どうしたものか…………イリナに開けさせてあげたい。あっ、そうだ


「染島さん、ちょっと黒垓君に伝えてもらいたいことが」


テレパシーで染島さんと会話をする


「はい、なんでしょうか?」


「黒垓君にジャンケンすることになったらグーを出してと伝えてください。あっ、染島さんもグーを出してください」


「分かりました〜。」


…………さて


「それじゃあジャンケンで決めないか?勝った人が扉を押すんだ、それでいいだろ?」


ジャンケンで勝てばイリナも渋々ウキウキ門を開けてくれるだろう。イリナのことだ、ジャンケンで負けるはずないし


「……………わ、分かった」


ピリッとイリナから緊張が走る…………そこまで開けたいのかイリナ!


「さ、最初はグー!ジャンケンポン!」


イリナはパーで、イリナ以外はグーをだす。

ふーー……………よかったー。


「あちゃー勝っちゃったよ!面倒くさいけど仕方ないなー、勝っちゃったからなー。」


言葉とは裏腹に笑顔なのは、心の中で微笑んでおこう。

まさかイリナにこれほどまで可愛い一面があったとは…………驚きだ。


「それじゃあ行くよ。あー面倒くさい!実に面倒くさいけど勝っちゃったからなー!」


イヤイヤ言いながら扉を押していくイリナ。


ギギギギギと扉は重い音を立てながら開いていく。

こ、これは…………


「まじかよ」


扉が開いた先には亜空間のような世界が広がっていた。一面紫色で、足場は見えないのに俺は立っている。なのに下には紫色の空間は広がっている……………気持ち悪い。三半規管が弱い俺からすればこんな所に1秒も立っていたくないほどだ。

まさにカオスの名にふさわしい。


いや、違う。俺が驚いたのはそこじゃない。部屋にではなくてある塊に驚いていたのだ。

竜らしき物体が部屋の奥に転がっていた。でもそれは竜なのだろうか?確かに翼はあるし鋭利な爪もあるけれど、上半身がドロドロに溶けている。まるで、土をも溶かす強力な熱を食らったかのようだ。

しかも中で何かが爆発したのだろうか?竜らしき何かの周りに焦げた肉片が飛び散っている。この状況を一言で表すのならば、それは[惨たらしい]が的確だ。


「こいつは酷いな……………強力な熱で溶かされたのか?」


「んーーーー…………腹立つことにね。」


イリナはすぐさま竜の元に至り、調べ始めていた


「これは……………ちっ、炎帝の仕業だね」


「……………炎帝なのか?炎の魔力を持ってる奴なんてそこかしこにいるだろ。何も炎帝だって決めつけなくても」


「いいや、炎帝だね。そもそも暴竜カオスは全か無かの法則のように、強力な一撃以外は全部ダメージにならないんだ」


溶かされた部分を触り続けるイリナ


「私が5分間貯めた魔力でもダメージを与えられるかどうかわからないほどだよ。最低でも最高幹部以上の実力は必要だと思う」


貯める?イリナの魔力って充電式なのか?


「……………でも、ほら。火を使える最高幹部の方がいるかもしれないじゃないか。それを考えれば」


「考えても無意味だよ。竜の傷跡から見るに中から炎が爆発、もしくは膨張したんだろうね。これは炎帝の炎の特徴に酷似している。確かに炎の魔力は同じでも得意不得意の攻撃方法は分かれているんだよ」


へーーー。初めて知った!そういうのを最初に教えて欲しいものだ


「まっ、不幸中の幸いか。爪は5本だけ無事みたいだから、楽できてよかったんだけど……………」


チッ!と舌打ちをするイリナ。苛立っているのだろう、そりゃそうだ。目の敵なのだから恨まずにはいられない


「なんであいつは私の前にちょくちょく現れるの?私を逆撫でするような真似ばかりしてきやがって…………………」


ガン!!


剣があったであろう台座に思いっきり蹴りを入れるイリナ。苦虫を噛み締めたような顔で、口から真っ白な歯が見える。


………………………こうなってしまったか


「……………帰ろうイリナ。お前の苛立ちも分かるけれどさ、ここで八つ当たりしていても意味がな」


「分かる?私の気持ちが分かるっていうの?何勝手なこと言ってんのさ、君が私の何を知っているっていうの?」


俺がイリナの肩に置こうとした手を払いのけ、大きな目で俺を睨みつける。

静かにためていた怒りがまるで爆発したかのように。いままでのやるせなさ全てが何かを求めるかのように姿をあらわにする


「君は何か勘違いしてるんじゃないの?何私に馴れ馴れしく話しかけてんのさ、カイでも何でもないような奴が恋人面して話しかけないでよ」


ドン!


俺のことを突き飛ばす


どうやら俺の馴れ馴れしい一言のせいでイリナの箍が外れたようだ。まぁ、顔がそっくりでも俺はカイではないからな。カイのようにはしてやれないよな


「カイじゃないのなら君はいらない……………もしかしたら君はカイで、何とかすれば記憶が元に戻るんだ。って無理して接してきたけどもう無理。君が100%カイじゃないのなら私はもう君とは話さない」


さらに俺のことを突き飛ばす。


俺は、イリナに突きつけられた言葉をどう受け止めているのだろうか。悲しんでいるのか?それとも哀れんでいるのか?…………………悲しんでいるのだろう。だってなんだか欠伸をしたくて堪らないんだ。奥歯で噛み締めて我慢しないと止まらなそうなんだ。溢れ出しそうなんだ。喉の奥から熱い何かがこみ上げてきそうなんだ。


「それだよ、その顔なんだよ。そうやって人を労わっているような顔がカイにそっくりなんだよ。常に優しさを振りまいているところもそっくり………………なんで?なんでそんなに人に優しくできるの?なんで当たり前のように人の気持ちを理解できるの?なんでなんだよ……………………」


俺を思いっきり殴りつけるイリナ


………………やっぱり、カイが居なくなった悲しみは拭えないよな。家族ともそこまで会えず一人ぼっちがずっと続いていた。俺がカイにそっくりで、そんな救えないような僅かな希望にすがって生きてきてたのに、俺がそれを潰したもんな…………………はぁ、やっぱり俺は救えないほどの馬鹿野郎だ。


「なんでカイはいないの?なんで私の元から消えてなくなったの?なんで私を1人にするの?絶対にいなくならないって言ってたのに………………」


俺はこの言葉を聞いた瞬間、堪えることができなくなっていた。冷たくも熱い何かが頬を伝う。

そう、夢で見ていたのだ。カイがイリナにこの言葉をしゃべる瞬間を……………俺は、俺は………………


「なんでずっと無言なのさ?何か言い返したらどう?私を慰めると思ってさ」


涙を流しながら笑うイリナ。それは、見ていて辛いものがあった。イリナの口元が不恰好に歪む。いつものように不敵に笑っていない


「…………俺は何も言えない。お前のために何かを言えるほど大した人生は送っていないし、ましてや励ましの言葉なんて俺ごときが言える身分じゃない」


「なんで!?さっきから私は君に暴力を振るっているのに優しい言葉をかけようとするの!?私を責めてよ!」


ドスン!イリナの拳が俺の腹にめり込む。でも、さっきの俺の顔面を粉々にしたほどの威力ではない。ほんの少し声が漏れる程度だ


「………………俺はお前に殴られることしか資格がない。ずっと、何も、何もかも言ってこなかったから」


そして、それをしていいのはカイだけだ。俺じゃダメだ。俺はカイの代わりにはなれない


「なんで?なんでなの?私を責めてよ!私にカイみたいな優しさをかけないでよ!」


さらに俺を殴り続けるイリナ。でも、力が全然入っていない。これじゃあただ触っているだけのようなものだ


「また…………間違えちゃう。君がカイじゃないって分かっていたのに、またすがっちゃう…………………」


俺を殴りながら泣き続けるイリナ。


「………………好きなだけ殴ってくれ、気が済むまでずっと。何かを与えられる訳じゃないけど、苛立ちぐらいなら取ってやれる」


コクコクと頷き、そしてイリナは俺を殴り続けた。



「………………私は、いつも一人ぼっちだった。男の子としゃべるのが苦手で喋るのを拒否してきたんだけど、それがお高くとまったのか女子たちから嫌われてたんだ」


30分後、気持ちが落ち着いたのか訥々と話し始めるイリナ。

彼女は今にも崩れそうで、今にも泣き出しそうなほどひどく不安定だ。


「私みたいな可愛い子が、女の子が好きな男の子を拒んで相手にしなかったら腹立つもんね」


………………ただ単純にナルシトだったから嫌われてたんじゃないの?


「いや、私はもともとこんな性格じゃないよ。カイとあってから無理矢理変えたの」


へーーー、そうだったのか


「最初は私も喋るのは拒否してたんだけど、カイが根気よく接してくれて段々と喋れるようになったんだ。」


……………俺からすれば遼鋭と宏美的な存在だったのか


「それからは君も知ってる通り色々とあってカイは死んじゃったんだけど………………」


なんでこんな話を俺はさせているのだろうか……………ただイリナが傷つくだけじゃないか。傷口を広げるだけじゃないか


「ううん。私がしたいからしてるの。そろそろこの過去とも決別しないと……………」


その言葉を言った時、イリナの顔が曇る


「……………自分の考えを押し付ける訳じゃないけどさ、過去を切り離すべきじゃないと思うぞ。」


俺は哲学が嫌いだ。いや、自分で考えるのは好きなんだけど、それを人に押し付けるのが大っ嫌いだ。人には人の考え方があってそれを無理に変える必要は全然ないと思うからだ


「ただ辛いだけだと思うよ、俺は。大切な人との思い出を捨て去るというのは」


辛すぎる思い出だって捨てようと思うと酷く悲しくなる。いや、捨てる訳にはいかないのだ。過去との決別とはただの逃げの言葉である。何者からも逃げるというただの逃避行。それならば、俺は思い出を背負わずにはいられないだろう。それが遼鋭と宏美との約束であり、俺の一生の誓いだ


「……………もう、いいんだよ。人に迷惑をかけるぐらいならキッパリと捨てるべきなんだよ。後腐れなく…………さ」


後腐れなく。ね…………

そんな悲しそうな顔で言わないでくれよ

目縁に涙をためながら言わないでくれよ

口元を歪に歪めながら言わないでくれよ

そして、最も言っちゃいけない相手に、俺に、言わないでくれよ…………………


「………………ごめん、ごめんよ、俺のせいだ…………………全て俺のせいだ………………」


なんで俺は間違ってばかりなのだろう。良かれと思うこと全てが裏目にでる。慰めることもできない、ただ謝り続けるだけだ。


「だから、これは私がしたくてしてるんだよ。君が悪い訳じゃない」


違うんだよ、俺なんだよ。俺が全て悪いんだよ………………


「本当は私も覚悟は決めてたんだ。やっぱりカイは死んでいて、ミフィー君はミフィー君なんだって………………でも、なんでだろうね。現実を目の前に突きつけられた時、認めたくなかったんだ。覚悟を決めたはずなのに………………おかしいよね」


なぜこうなってしまったのだろうか?ただ竜を倒してハッピーエンドでいいじゃないか。なぜ、こんな暗い状況になったんだ?何を間違えた?俺はいったい何を間違えた?……………決まっている、最初から全て間違ってたんだ


「………………おかしいのは俺の方だ。なんで俺はのうのうと生きているんだろうな………俺みたいな奴は、やっぱりいらないんだろうな」


自分の存在は不要だと思ってしまう時がある。賀川恭介のように、不要なものだと認識してしまう。………………ふっ、同属嫌悪が甚だしい。これじゃあただの八つ当たりじゃないか。


「…………な…にを言ってるの?」


「………………やっぱりさ、いらないんだよ俺は。誰かの心の支えになってやれない、ただ壊すだけだ。あるべきものをただ壊すだけなんだよ。なんでだろうな…………なんでこうなるんだろうな………………なんで俺はこんなにいらないんだろうな」


手で顔を覆う。現実を見たくない。

流涙が止まらない。

嗚咽が止まらない。

震えが止まらない。

自傷が止まらない。

謝罪が止まらない。

不快が止まらない。

腐敗が止まらない。


ただひとつ止まるものがあるとすれば、俺のわずかな成長だけだ。将来への希望だけだ


「ごめん、すまん、ごめんよ、すいません、ごめんなさい。許してくれ、許さないでくれ、殴ってくれ、罵ってくれ、突き刺してくれ、折ってくれ…………」


涙も言葉も止まらない。あぁ、遼鋭達との約束すらも守れそうにない…………なんなんだ俺は……………


「俺を………………殺してくれ」


「もういいでしょ。もう……………言うのはやめて」


イリナがそっと俺を抱きしめる。


「……………君は……………誰よりも思われてるじゃない。いつも誰かに思われてるじゃない」


ポタリポタリと頭に何かが落ちる。


「…………君が消えたら誰もが悲しむ。ひろみんも委員長も翔石君も雪ちゃんも黒垓君も胸美も………………私も。」


暖かい。人の温もりというのはなんでここまで人を温めてくれるのだろうか………………この温かさにあてられて、目頭も胸も熱くてたまらない。


「もう、大切な人を失いたくないんだよ…………」


ギュッとイリナの腕にさらに力がこもる


「……………私たちは、似た者同士だね。過去に縛られてて、泣くことしか出来ない」


……………俺みたいな男が、こんなことをしていいのだろうか?……………ダメに決まっている。でも、少しくらいなら…………………


俺もそっと、イリナの腰に手をまわす。甘えたかったのだろう。救われたかったのだろう。こうしていると、少しだけ許されている気がして………………そんなのはただの幻想だと分かっていたのに


「なんで泣いたのかも、どんな思いがあったのかも私は分からない。けれど、私は君に消えてほしくないんだよ………………」


………………涙がどうしても止まらない。俺はイリナに甘えちゃいけないのに、腕に力を込めるのを止めずにはいられない。


慰めるはずが慰められている。甘えられるはずが甘えている。温もりが俺の心を優しく溶かす。ダメだって分かっている………ありえないとも思っている。俺が求めているものを、こんなかたちで得てはいけないってことも理解している。

それでも、少しぐらいはいいじゃないか…………全てを俺が壊す前に、ほんの少しの温もりを感じるぐらいなら…………

心が酷くくすぐったい。こんな形で享受出来た幸せに、俺は憐れにも安らぎを得ている。


俺とイリナは抱き合ったまま、その場でずっと座っていた。イリナの不安を取り除いたわけでも、俺が許されたわけでもない。

ただ、俺とイリナの間には妙な安心感が漂っていた……………これがずっと続けばいいのに……………そう思わずにはいられなかった。




Face of the Surfaceのとある一節


果たして罪とはなんなのだろうか。嘘をつけば罪となり、命を断てば罪となる。一寸の虫にも五分の魂と言うが、それならば人間全てが罪人になってしまう。

ただ歩いているだけで命を蹂躙する。

この世は罪だらけ。他人に嘘をつき、自分の心に嘘をつき、生きているだけで命を屠殺する。

俺が罪ならば君も罪だ。君が罪ならば貴方も罪だ。貴方が罪ならば彼女も罪だ。彼女が罪ならば彼も罪だ。

生きているだけで罪であり、あるだけで罪である。この世の全てが罪であるのであれば、俺がどんな罪を犯そうがそんなのはほんの些細なことでしかない。

だから俺は悪くない。俺が悪いのではない。この世の全てが悪いのだ。いくらでも言い続けよう、俺は悪くない。俺は悪くない、俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くな………………い。

………………救えない人間というのはこういうやつのことを言うのだろう。


第3章 始まりの幕引き end 第4章へと続く

カイが死んだあの事件とそれ以降をイリナの視点で追っていた作品。全4話約94000文字→https://ncode.syosetu.com/n6173dd/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ