雑談メインに移りつつあるこの御時世
「あのさ…………おかわりとかある?」
もっしゃもっしゃと器に入っている野菜にがっつく。
「あるっちゃあるけどもう怪我治ってるでしょ」
器を床に置き左手を動かす。
うん。痛みなく普通に動かせるぜ!
今俺は九尾と戦った黒色の部屋でサラダを食べている。原材料 薬草(この世界でトップシェアを誇るヴェドリア産らしい) ドレッシング(高級料理店 福積軒で作られ、子供から高齢者まで幅広い年齢層から人気のある一品。らしい…………まず福積軒を知らないからパッとこない)というかなり高価なサラダなのだ。
薬草の歯触りはほうれん草に近いあのヘナヘナ感で、俺はどちらかというとレタスの方が好きだ。まぁ本当のことを言うとほうれん草は味は好きなのだが食感がちょっと苦手。だからそこまで好きではない。
だがドレッシングの味は中華なんたらというピリ辛の奴で、それがアクセントとなって俺の食欲が増していき、俺のお箸が止まらないこと止まらないこと。
「いや、何気に美味しくてさ…………まぁ俺としては豆腐を入れて欲しいんだけどな」
「何言ってんだが……………薬膳に高見の美味しさを求めようなんざハンバーグを愛する子供と同じじゃないの」
……………ある程度は愛してるぜ?チャーハンよりは愛してるぜ?
「そうっすよ。この高級回復キットって高いんすよ?このバランスを崩したら不味くなるんですから」
「バランス?サラダってバランスなの?」
サラダには疎いのだ。てか料理自体疎いのだけれども
「なんかこの配合を間違えたらサラダみたいな美味しい味にならないそうっすよ。少しでも間違えたら苦虫を噛み砕くだいたような薬草本来の味になってしまうらしいっす」
……オーマイ…………なんだよ、俺ってまさか結構贅沢させて貰えてるの?
申し訳ないなぁ………………
「…………………何円だったの?あとで稼いでお返しするけど」
ベットの使用料といい薬膳といい、俺はこの世界で真面目にバイトをしなきゃならないようだ
「ああいいよいいよ。敵からかっぱらってきた物だから」
…………………聞くべきではなかった。サラダが不味く感じてきた
「……………お前さぁ、そういうことばっかりするから暴君とか呼ばれるんじゃないの?」
「ポークン?何その豚の象徴みたいな言葉は。私はどちらかというとサラブレッドに近いからホースンだよ」
「ポークとトークンを合体させるんじゃねぇ!俺が言いたいのは暴君だ![暴れる君]と書いて暴君だ!」
変な造語を考えやがって…………そういうのは選ばれた人間しかやっちゃいけないという決まりがあるのだ。俺たちのような庶民が真似ていいものではない。
「暴れる君ってなんか惜しいっすね」
「文字だけで見ると確かにそうだね。でも発音すると[あばれるきみ]だからどちらかというとキミちゃんが好きな幼馴染を見知らぬ人間に奪われそうで、必死にもがいている状態を友人が見た時の感想に近いよな」
きっとこのキミちゃんとやらは天然キャラに違いない。
パンツを見られてもなんとも思わなかった幼馴染を意識し始めると急に恥ずかしくなって、そんな時にパンチラされたらもうチョースクリーパーを極めちゃう!みたいな茶目っ気の強い女の子だろう。
「[どうしたの?キミ?そんな慌てたみたいな顔をして……]友達である和子が声をかける。彼女は私の親友だ。どんなことでも気軽に話せるし、どんなことでも助けてくれる。下らないことでも真剣に聞いてくれるし、他愛ないことでも笑ってくれる。彼女がいないと私の世界は回り始めないと言っても良いぐらいに大切な存在だ。[な、なんでもないよ…………ただ、紗羅先輩には敵わないなぁと思っただけ。]紗羅先輩………フルネームは二階堂紗羅。一つ上の先輩で、テニス部に所属している。運動神経がよく、頭も良い。なのにそれをひけらかすこともなく謙虚で温和で八方美人の代名詞のような人だ。でも、時折先輩は悲しそうな目をするのだ。1人でいる時や人と会話をしている時とか。きっと何かしらのことを抱えているのだろう、ミステリアスな美人なのだ。[なるほどねぇ〜。紗羅先輩にあいつを取られそうで心配なんだ。]和子の言葉を聞いてほんの少し肩が揺れる。[あっはっは!本当キミは分かりやすいなぁ。これじゃあ殺人起こして黙秘しててもすぐにバレちゃうよ。]私の隣の席に頰杖をつきながら座る和子。からかっているように聞こえるけれど、和子の目を覗けば暖かい目を私に返してくれる。これがいつものやり取り。下らない冗談を交えながら真剣に向き合ってくれる。だから私は安心して悩みを打ち解けられるのだ。[こんな簡単な女にあいつは振り向いてくれないだろうなぁ……………]自然と心が沈んでいく。[いいじゃない、簡単で。複雑な女は確かに魅力的だけれど分かってしまったらただの女なんだからさ。そんなものよりも、いつでも当たり前のように寄り添ってあげて、どうでも良いような話を簡単にし合えるような存在の方が私は良いと思うよ。]和子は私の目をじっと見据えて、一言一言を丁寧に語る。それは私のやるせない気持ちをじわりじわりと溶かしていく。パァーーッと、彼女の言葉を聞いて目の前が開けたような気がした。この胸が空くような開放感。しがらみを捨てられたような安心感が私を満たす。[私…………頑張ってみる。私は、あいつの傍にずっと居続けたい。今までずっとそうであったようにこれからもずっと一緒に居たいんだ。]それじゃあまたね。とキミは和子に別れを告げて、慌てるように教室を後にする。慌ただしく走っていく姿はいつものキミにそっくりだ。でも、顔だけは………笑顔だけは、誰にも負けないほど光輝いた笑顔だけは………………………。彼女はこれからどこに向かうのだろうか?そんなことは決まっている。一生隣で過ごしていたい[あいつ]の元へと、彼女は笑顔で走っていくのだった……………って感じっすかね」
「んんんんんっっっっ長い!!!!!!」
凄いな!いきなり話し始めたからきっと短いのだろうとか思っていたけどよくもまぁこんなに話せたな!キミと幼馴染っていう少ないキーワードで!てか二階堂紗羅って誰だよ!名前からしてもう高貴な感じが否めないよ!
「ちなみにこの短編の題名は[キミの笑顔]です」
「くぅーー!!いいなぁ、実に良いなぁ!!そういう純愛物っていうのは胸がときめくものだね!」
あいにく俺はそういうのを書けるほど恋愛はしてないのだよ。未経験なのよ。だからリアリティも何もない胸キュンできないクソ小説になってしまう。胸キュンじゃなくて胸ドキュンだ。鉄砲で打ち抜いてしまう。どんなハードボイルドだよ。
小説を見てもらった方々を吐血させるのは申し訳が立たないのだ。
カラン
空になった薬草の器に箸を置く。
「よっしゃ食い終わったぜ!それじゃあ今後の話をしましょうか!」
腹は満ちた…………さぁ、始めましょうか
「今後の話よりも先にさっきの話をしようよ」
さっきの話とは…………ああ、九尾のこと?
「なんで倒しちゃうかなー。私の見込みでは死にかけて病院のベットで復活して戦闘力が10倍になる予定だったんだけど」
「俺はサ○ヤ人じゃないぞ。そんな簡単に戦闘力が上がったら苦労しないんだよ」
「そもそも10倍ってすごくないっすか?1.2倍ならまだしも一桁跳ね上がるのは恐ろしいっすよ」
「だよな。俺だったら何度もベ○ータにボコられた後にデ○デに回復してもらって最強の力を得ようと思うけどな」
何度も殺されかけて何度も復活する。これぞ戦闘力増強の永久機関だ。
「まぁそれは冗談だとしてさ。本当は負けた悔しさをバネにして今後から頑張ってもらおうと思ってたんだよ」
「悔しさも何も戦う前から弱すぎる宣言貰ってるからな。希望もなしに戦いに挑んでるから抱きようもないんだよ」
弱いことを確認してチャンピオンの四天王に突っ込ませてるようなもんだ。負けても「だよねぇ〜」ぐらいしか思いつかない。
「そうなんだよね。クソ弱い確証を得た上で戦わせてるのに勝っちゃったんだもの。戦闘中にレベルアップって普通する?フィクションじゃないんだからそういうのやめてよ本当に」
「仕方ないだろ。なっちゃったんだから。なっちゃったものはどうしようもない。赤コウラを投げられたらどうしようもない、腹をくくる。これと同じでそういうもんなんだって」
「なーに言ってるんすか。そこは死に物狂いで逃げましょうよ。ドリフトを連発してたらかわせるかもしれないじゃないっすか。」
染島さんに膝枕をしてもらいながら話に加わってくる黒垓君。
………………羨ましい。
「………………いや、そんな簡単にかわせると思っちゃいかんぜ?赤コウラの追尾性能はヤクザの頭と兄弟分になるぐらい難しいぞ。」
「盃かわせねー!…………じゃなくてですね。逃げきれない方のかわせないですよ」
「ああ、そうなの?……………ダメだ。例えが全然思いつかない。」
この俺としたことが例えが思いつかないなんて………………老いたな。
「相手が目を閉じながら顔を近づけてくるのをかわすぐらい難しいでしょうね」
俺が困り果てていると染島さんがフォローしてくれる。
きっとそれはキスをする場面なのかな?それなら確かにその顔をかわすなんて無理に等しいな。それが染島さんとかだったら尚更だろう
「まぁ実際。師匠がやったやり方がこの世界の下克上においての正攻法なんすよ」
「……………ほっ?一体どうした」
なんかいきなり話が変わったな
「いや。ここである程度ちゃんとした戦い方というやつを知っておいてもらわないと後々苦労しますからね。今この場を借りて説明してしまおうかなと」
「なるほどね……………まぁ俺は下剋上なんてする気はないからどうでも良いんだがな」
だがしかし知っておいて損はないだろう。小説にするときも我が物顔で説明することもできるようになるだろうしね
「まぁまぁそう言わずに。話しクオーターぐらいに聞いておいてください」
……………クオーターの部分を突っ込むべきなのだろうか…………………
「………………さっきも言ったと思いますが今回師匠が九尾を倒したように、格上を倒す正攻法は策を巡らせること。それと技の応用度を磨くことです。レベリングができないこの世界、知恵を使うぐらいしか勝機はありません。そして、技の応用度を磨くというのは………………まぁ簡単に言えば出来ることを増やすってことです。」
さっきの黒板に書いて説明をする黒垓君
「師匠の水で例えるのであれば、相手を吹き飛ばすことしかできない水なのならばゼロ距離で使えばダメージを与えられる。射出速度が上がらないのであれば、出てくる口を狭めて威力を上げる………………などといったところっすかね。」
黒板には即興で書いたとは思えないぐらい迫力に満ちた技を放つ人間の絵が描かれている。
「せんせー。質問でーす」
「はい、師匠。なんすか?」
「思ったのですが、格上のモンスターを倒しても戦闘能力が上がるとかはないのでしょうか?」
一応九尾を頑張って倒したのだ。レベルが上がっていなかったら絶望に値する
「ないです!」
「なるほど!家に帰って布団に伏してくるわ」
「まぁまぁ、そう悪いことばかりでもないっすよ?倒したモンスターを剥ぎ取れば防具の素材にもなりますし………」
「甲冑着た人型のモンスターを剥ぎ取るだと!?それってつまり追い剝ぎじゃねぇか!!!」
「追い剝ぎ?冗談はよしてくださいよ。この世は典型的な弱肉強食の世界っすよ?そんな世界で敵の素材かっぱらったって追剝ぎとは言えないんすよ。それは絶対的搾取と言うんす」
うわーー…………可愛い顔してなんでおぞましい言葉を使ってんだ。それを言って良いのは強面か眼鏡をかけたインテリ野郎だけだ、君が冷徹な役をするのは別の次元の恐怖がある。
「殺されて搾り取られるなんて可哀想だな……………君たちに善意というのはないのか?」
「善意?あるっすよ、大いにあるっすよ。殺した相手の装備やアイテムを廃棄するのではなく惜しみなく使う。これを善意と言わずして何を善意というんすか。」
…………………頭が真っ白になった
「……………………その言葉。フ○ーザ様が良いそうだな」
ナ○ック星でドラゴ○ボールをゲットする時に言ってそう。
「〜〜〜〜っっああ、もうめんどくさい!あんたらが組み合わさると話が脱線して全然進まないよ!頼むから協力して!?お願いだからさ!」
髪を掻き毟り地面を殴りつけるイリナ。そのせいで地面にヒビが入る…………怒らせたら殺されるな
「わ、わかりました…………」
怒らせたら殺されそうな気がしたので素直に話を進めようかな。
「ふぅ…………もうね。君がレベルアップしたことは何も言わないよ。それは喜ぶべきことだからね、とやかく言及するつもりはない」
真剣な剣幕で話し始めるイリナ。いや、真剣というよりも無駄話をするな。と俺たちにプレッシャーを与えているの方が正しいだろう。脅迫である
「けれど、魔族用の剣が反応して、それが赤色になったのは見逃せない。」
ダン!
さらに床にヒビが入る
「……………君、まさか炎を使えるの?」
「………………………………」
考える人のポーズをする俺。
…………そうなるよなぁ。あーーーなるほど、うん。魔力が赤色とかそうなっちゃうよなぁ………………
「君は本当にカイなの?」
「あーー…………………ちょっとトイレタイム」
「ダメ。言ったら取ってあげるトイレタイム」
ぐぬぬぬ……………どうしたもんか。ここでイリナに疑われるのは本意ではないからなぁ
「…………………まずよ、いままでに一度でも俺は自分がカイだと名乗ったことはあるか?いいや、ないはずだ。どちらかと言うと否定してきたはずだ」
いままでずっと俺は否定し続けている。俺はカイではないと。
「それとだ、俺の力は身体強化だ。炎じゃねぇ。」
「……………はぁ?何言ってんの。」
イリナからの視線が突き刺さる
「いや、だから実は俺の力は身体強化なんだって。あとそうだな、剣もきっと魔族に反応したら赤色になるんじゃないのか?そこら辺は俺にはよく分からないけれど」
「……………はぁ、何言ってんの………」
俺の二言目にイリナは呆れてしまったようだ。目がダラーンとなっている。
「俺の身体強化はだいたい5分間ほど効果を発揮して1分間ほど使えないっていうのが内容でな。」
「ちょっ、ちょ。いきなり話し始めないでよ…………それは本当なの?」
「ん?ああ、本当だ。なんならいまから見せてもいいけど」
すくっと立ち上がろうとするがイリナに止められた
「いや、いい。多分それは事実なんだろうね……………でもさ、いまの口ぶりにからすれば自分の魔力がなんなのか、はなから知っていたようだけど」
そしてまた俺のことを睨み始めるイリナ。あーーーやだやだ。いまは疑われたくないんだよ。
「知ってたよ?別に知らないなんて一言も言ってないじゃん。」
「んなっ……………いや、さっきも知らないって言ってたじゃん!」
「さっき?…………ああ、魔剣の時の話ね。いや、だから俺はその時も自分の力がなんなのか知らないなんて一言も言っていないはずだ。勝手にイリナが話を進めていただけだ」
俺は話しながら立ち上がる。
「そ、それじゃあなんで一言も言ってくれないのさ。言ってくれれば何も疑いはしなかったのに」
「疑う?……………まぁ、何を疑われてたかわからないが。そうだな、理由を言うとするならば、[もしかしたら気付かれてしまいそうだったから]だな。」
「…………気づかれてしまう?」
「ああそうだ。俺にだって一つや二つ知られたくないことはあるんだ。人間誰しも秘密は抱えているってことだ。ましてや相手が…………………」
「ましてや相手が?」
不思議そうに俺の顔を覗いてくるイリナ。
俺は……………なんとまぁぬけぬけと……………
「…………相手がイリナみたいに美人な女性なら尚更だろうな。…………さっ、言うべきことは言ったからトイレにいかしてくれ。俺の膀胱が悲鳴をあげている」
膀胱を抑え内股になる。ああっ!漏れそうだ!もう無理!この止めどもない尿意を我慢してシリアスな顔を維持するのは無理だ!
「あっ、あああ!うん!黒垓君連れて行ってあげて!」
「ほいさっ!」
扉を作り、俺はその中に走って入って行った。
「はぁぁぁあ〜〜〜〜〜……………スッキリしたぁぁ」
ここは勇者領のお手洗い。床や壁が大理石で出来ていてピッカピカである。ここを汚すのはなんとなくいけない気がするが、膀胱を破裂させることよりは幾分マシだという判断で思いっきりひねり出させてもらった。
あれだな。集中してるときにはしたいと思わないけど集中力が切れると途端にしたくなる。病は気からと言うが尿意も気からだな。
「よっし黒垓君って、あれ?どうしたのさ、小便飛び散っちゃってるよ」
黄色い池が便器の外で形成されてしまっている
「いや、こういうの慣れないもので」
頬を赤らめる黒垓君
「ああ、何?黒外君はいつも社会の窓からじゃなくてベルト外してやるタイプなの?いいのに、別にそんなこと恥ずかしがらなくて。自分殺してまでトイレの仕方を変える必要ないよ」
「いや、そういうわけじゃないんすけど」
「いやいや、恥ずかしがらなくたっていいって。トイレの仕方に正しい所作なんてないんだから。自己流でし易い型を見つけ出す。それがどんな体勢だろうと、人とちがかろうがそれは恥ずべきことではないんだ。見つけ出すことに意味がある」
ズボンを全部下ろしてやってもいいじゃないか。それが一番やりやすくて一番気持ちいというのなら……………人のやり方をとやかく言うのはダメだと俺は思う。
「ぷっ……………あっはっはっ!本当師匠は面白い人ですねー!こんなくだらないことですら慰めようとするなんて………お人好しにもほどがあるっすよ!」
黒垓君は自分の能力で白色の盾を作り出すと黄色の池の部分に叩きつける。すると黄色い池は姿を消していた。
「だから貴方は人に好かれ易いのでしょう。だから貴方は人が寄り付かないのでしょう。こんな完璧な人間、オラなら絶対に近づきたくないですからね!近づきたくても!」
盾を消し洗面器まで歩く
黒垓君の横顔は笑っているのか哀れんでいるのかよく分からない曖昧な表情だ。
「俺は完全じゃないよ。不完全の塊さ…………何もできない。何も変えられない。ダメなことばかり起こしてしまう」
ジャバジャバジャバとと手を洗いながら黒垓君と話し続ける。
「今回だってきっと俺は間違えるんだろうな……………いや、もう間違えてるのかな?ははっ………………」
何故だろう……………何故こんなにも胸が空くのだろう。何故こんなにも胸が張り裂けそうなのだろう………………吐き出したら、どれだけ楽だろうか
「………………何が起ころうとも私はずっと貴方の味方ですよ」
俺が考え事をしていると黒垓君が言葉をかける
「……………え?今私って………」
「よし!それじゃあ行くとしましょうか!これから暴竜さんが待っているらしいっすからね!オラと一緒に頑張りましょう!」
振り返った時、黒垓君はニッと満面の笑みを俺に返してくれた。
というわけで真っ黒い部屋に戻り作戦会議
「作戦と言っても倒しちゃえばいいんでしょ?倒しちゃえば」
ぐてーんと床に寝そべるイリナ
「倒しちゃえばいいんでしょ?なんてこと言うのはメンツを見てからにしろ」
ぐるっと仰ぎ見る
超強いイリナさん
無生物ならなんでも飛ばせる!黒垓君
モンスターには弱い。でも対人なら負けなし!染島さん
そして多分このパーティーで最弱!狩虎君
「ほらーー!!お前以外モンスターと戦うの苦手じゃん!!対人で効果発揮する人多いじゃん!」
何この布陣!モンスター相手には確実に向かないぞ!対人部隊に近しいぞ!
「なんとかなるって………君たち囮で私が1発強いのガツーンと決めてあげるからさ」
尚もゴロゴロし続けるイリナ。くそっ……強者の余裕とは羨ましい限りだぜ!
「…………おいおい、1人で倒せると思ってるのか?聖剣の守護者なんだからそう簡単に倒せると俺は思えないぞ」
伝説の聖剣の守護者でカオスなんて神の名を冠しているんだ。1人で倒せるぐらいならカオスさんはタウンワークでアルバイト先を探してくるべきだ。
「大丈夫だって。倒せなかったら黒垓君の力で逃げればいいんだし」
あっはっはっーと笑いながら答え続けるイリナ。なんだろう…………すごく腹立つ。
「………………まぁ倒せたとしてだ。魔剣が手に入りました。次はどうするんだ?何をするんだ?」
今後の方針も聞いておかないと小説にするときに情報が錯綜しそうだ。
「んーーーー……………くるクルセイド達を壊滅させる?」
「くるクルセイドじゃないっすよ。カスクルセイドっす。」
「いや、カースクルセイドな」
「まぁ、そのなんたらクルセイドさんを倒しちゃおう。邪魔だし」
あれ?前もこんな流れじゃなかったっけ?まぁ、きっと気のせいだろう。
「邪魔だしって……………イリナの手にかかればあんな奴らちょちょいのちょいだろ?邪魔だって思うことはないじゃないか。それにほら、昨日も俺を迎えに来てくれたからさ、あの7人の奴ら全員倒したんでしょ?軽く」
「………………………」
おっと……………急にイリナが黙り始めたぞ。
「…………師匠。それ言ったらあかんやつっす。前回敵を逃しちゃったんすよ」
おっと、後半の部分言っちゃってよかったのかな?確実に地雷踏んでないかい?まぁ、踏んでないのならいいんだけどさ
「へ、へーー。イリナでもしくじる時ってあるんだなーー」
ヒューヒュヒューヒュヒューー………さっきからイリナがずっと無言だから場の空気を変えるため、口笛を吹いて和ませよう。だがしかしあいにく俺の口笛は一つの音しか出ないのだ。だから小鳥のさえずりとはいかないけれど、車の急ブレーキ音ぐらいの足しにはなるだろう。
「それで場の空気和みますかね?私が思うにより緊迫すると思いますよ。」
…………確かにそりゃそうだ。
「………………………あっ、あーっと!あれだろ?イリナ!あのそのーー不意をつかれたとかそんな感じなんだろ?別に真面目に戦って逃したんじゃなくてなんかこう、卑怯な手を使ってきて仕方なく逃がさざるを得ない状況になったとかさ………………」
チラッと会話の節々でイリナの方を見るがずっとうつ伏せのままだ。
俺がどんなにフォローしてもイリナの無言状態は改善されない。逆に改悪されたぐらいだ。変なプライド持ってるからなーこいつ。人に変に助けられたらより落ち込むみたいな恐ろしい体質なのだろう。
「……………だよね?黒垓君。なんかこう、卑怯な手を使ってきたんでしょ?相手が。」
俺的にこの世で最も卑怯な攻撃方法は目潰しと狙撃である。もう真正面から正々堂々戦う気ないじゃないかと思うわけです。
「そうなんすよ。さすが師匠、全てお見通しとは恐れ入りますね!実は相手の1人が第二類勇者で、しかも魔力が[影]だったんすよ。」
「………………お、おう。」
イマイチぱっとこない……………常に無敵状態じゃなくて影?なんか……………地味ですな。
「おや?これの卑劣さが理解できてないんすか?この影の魔力はどんな影にも同化できるという最高のハイド能力を有しているんす」
か、影に同化だと!?そ、それじゃあお前スカート履いた女性の影と同化したら……………ふっ、羨ましいやつめ。
「それにどうやら周りが暗ければ暗いほど身体能力が上がるらしいんすよ」
なるほどね。それは洞窟とかでは最強に近いな。ほとんど真っ暗だ。
「でもそうならイリナには問題ないでしょ。雷なんだから自分の周りを照らし続ければ」
「まぁ、そうなんすけど…………イリナさんの能力って実は長時間の使用は苦手なんすよね。」
「え!?そうだったの!?初めて知ったんだけど!!」
「放電しっぱなしってのが苦手なんすよ。一瞬一瞬で雷を放つのが最適な能力なんす」
あーー。つまり長距離走者じゃなくて短距離走者ってわけね。うん、得心した。
「まぁイリナさんの能力の弱点を言ったところで逃した理由は背後からの不意打ちだったんすけどね………………」
「ああ、直接バトルはしてないのか。……………そいつは卑怯だな。勇者として恥ずべきことだと俺は思うぞ」
完璧なる闇討ちを勇者がしていいはずがない!しかも自分に有利な環境下でだろ?ああ、ダメだ!全然かっこよくない!血潮が煮え滾るような熱い話ではない!
「そうっすよね!逃してしまったとはいえオラはやはりイリナさんの方が勇者らしいと思いますよ!」
うんうん。と頷く俺と黒垓君と染島さん。
だがしかしイリナはまだうつ伏せのままだ。
「イリナの勇者っぷりは半端ないもんな!もう格好良さとか可愛らしさとか超えてもはや雄大?偉大?なんかこう、いるだけで滲み出てくる寛大なる気配が漏れてるよね!」
起きろー!イリナ、起きてくれ!ここで起きないとドラゴンさんとの戦闘に繋がらないんだ!お願いだ!起きて!
「…………………………」
起きる気配なし!
……………仕方ない。最終手段で行こう
イリナの耳元に近づき小声でボソッと話しかける
「今起きたら景品としてコーヒー牛乳をあげよう」
くっ……………家にストックしてあるコーヒー牛乳を上げるのは癪だが致し方ない。これで話が進行するのなら安いものだ。
その言葉に反応してイリナが起き上がる。
やはりコーヒー牛乳の力は凄いな。不貞腐れたガールをも起き上がらせるとは………………まぁ当然と言えば当然の結果だ。だがしかし俺の払った代償は大きい……………今日は飲めないかもしれないな、コーヒー牛乳。
トン。俺の肩に手をおくイリナ。
なんだなんだ?感極まって俺に謝辞でもくれるのか?
そう思ったのもつかの間。イリナが右手を引き絞る。
ありゃ?これは…………………
「そんなんで女の子を釣れると思うなよ!!!!」
プン!めりっっっ!!!
イリナの放った拳は風を切り裂き俺の頬にめり込む。まるで豆腐にパンチをしてるかのようだ。
骨?そんなのイリナからすれば関係ない。当たったところからパキパキパキパキ風化した塗装のように簡単に折れていく。
そして俺はそのまま吹き飛び壁に激突した。
きっとイリナも怒りが溜まっていたのだろう。さっきのことといい敵を取り逃がしたことといい、あとは…………テストのこととかだろう。だからまぁほんの少し手加減できなかったのは仕方のないことだ。それは誰も責められない。
さて、イリナに思いっきり顔面を殴られ壁に激突した俺こと飯田狩虎君は果たして無事なのだろうか?
無事なわけがない。こうしてまたも俺は勇者領のベットに搬送されて、約二千円ほど借金を背負うのであった。




