第3弾はいつ始まるのだろうか?
俺は今廊下を右往左往して教室の中をチラチラと覗いている。
あれだ、教室の前に来たはいいけど声をかけられない状態なんだ。だって恥ずかしいじゃないか、俺が声をかけたら全員が俺の方を向くのかもしれないと考えたら声をかけれそうもない。
本当、他教室に大声で入ってこれるやつの神経どうなってんだ?図太いとか以前にないんじゃないのか?
あーもー何往復目だよ!何回俺はここで教室をチラ見しなくちゃいけないんだよ!だーっ、今だ!今ここで足よ動け!新たなる道に向かって足よ進んでくれ!お願いだ頼む!
無情にも俺の足はまたも教室の扉の前を通過してしまった
なんでだよぉぉ!お母さんそんな情けない足に育てた覚えはありませんよ!?いつもの貴方ならもっと堂々としてませんでしたか!?なんでこうも教室に入る時とかには怖気付いちゃうんだよ!!ああ、もう動け足!いけ!進め!
馬車馬の如く自分の足にムチを打つ
だがそんな事をしたところで俺の足は教室の前をうろうろとし続けるだけだ
あーーー、情けない情けない情けない!!!なんで俺の足はこうも言う事を聞いてくれないんだ!躾か?躾が足りないのか?それならもっと俺の足を痛めつけて……………
「あのーー生徒会長さんですよね?どうしたんですか?」
俺が今まさに太ももに拳を叩きつけようとした時、教室の扉付近からひょっこりと顔が出てきた。きっと俺が廊下をうろちょろしていたから気になって声をかけたのだろう
「あっ、あ、ああのぉーーで、です、ですね………………ひ、ひろみみをよんでいい、いただけませんか?」
「広耳?あいにくこの教室のほとんどの人は福耳なんだよ」
なんかレベル高いクラスだなー
「…………広耳じゃなくて宏美です……………はい。」
「あーーひろみんね。………生徒会長なんだからもっとしゃんとしないとダメじゃない。どんだけ噛めば気がすむのさ、本当に気が弱っちいんだから」
初対面の人にお説教をされてしまう生徒会長………………はぁ、情けない。
「そもそもだよ。なんで全校集会とか文化祭の時原稿見ながらスピーチするわけ?しかも読んでるのに噛むってどういうこと?」
「いや、すみません……………人前でしゃべるのが苦手で……………………」
「人前どころか私ともまともに喋れてないじゃない。全然目を合わせようとしないし…………生徒会長としては役足らずなんじゃない?」
初対面の人と目を合わせるのって苦手なんだよなぁ。いや、初対面どころか2回目も3回目でも慣れない。なんていうか目が合ったら相手に悪い気がして……………それとこいつ私のこと好きなんじゃ!?みたいな勘違いを作りたくないからだ。確かに彼女はいないけれどそんな野獣のような男だと思われるのは心外だ
「………………はい。確かにその通りです。はい。生徒会長なんていう大役、僕にはてんで不向きです。はい…………………」
「いやーーもう。なんでそうも情けないのさ。そこで認めちゃうのはあずましくないでしょうよ。」
「いや、確かにその通りなんです。…………僕なんかがやるのは間違いだったんです。ああいう大役は宏美の方がいいんですよ。宏美はああいう場で一番輝けますから」
事実、小中と宏美は学級委員長や生徒会長などをずっとしてきた。その時の宏美は確かに輝いていて、誰もが慕っていた。
誰もが宏美を尊敬していた
「……………………情けない。そうやっていつも生徒会長さんは自分を責めてばっかりなの?それじゃあ見つかるものも見つからないし、気づけるものも気付けないんじゃないのかな。実績あるのに全然自信がないもんね…………………ああ、だからひろみんはあんなことやってるのか………………………分かったよ。今から呼んでくるよ」
クルッと踵を返して教室へと向かう初対面の女の人。ああ、すっごいボコスカ言われた。俺のライフはもう残ってるのか残ってないのかギリギリのところだ。
「ただし一つ条件があるよ。それは生徒会長さんが絶対に卑屈にならないこと。いや、卑屈じゃなくて自分に自信を持って欲しい。」
忘れていたと言わんばかりに扉から顔をひょっこりと出す。
「今生徒会長さんに足りないのは自信だよ。過去に何があったのかは分からないけど、自分をちゃんと見ない人間てのは大成しないからね……………それじゃあ呼んでくるねー」
最後の捨て台詞が俺の心に静かに沈みこんでいく。
過去に向き合えか………………ずっと向き合ってるはずなのにそれは思い違いだったのだろうか?……………いや、そういうことじゃないんだろうなきっと。もっとそれなりに深い意味があるんだろう。……………そうか、そういえば俺は宏美のことについての過去を全然振り返ったことがない。きっとそのことを言っているのだろう
ガララッと教室の扉が開かれる。
中からは不安そうな表情の宏美が出てきた。
……………こんな表情見たことない
「……………………宏美。屋上に先に行っててくれ。話したいことがある」
宏美は頷くとそのまま屋上へと向かっていった
………………さて、俺も準備をするかな。
売店に行き、買うものを買って屋上に向かった
ガチャリ。重い扉を開くとそこには青色が広がっていた。全てが青色のようだ。気を抜けば自分が飛んだようにすら感じるほどに世界は青で満たされている
…………………だけれどそこにひとつ別の色が混ざっている。それは俺の幼馴染で運動が出来て勉強が出来る、素晴らしい輝きを放つ宏美という色だ。
「どうだ?屋上は。どこまでも澄み渡っていて綺麗だろ?」
宏美の元へと近づいていく
「そうですね………………屋上なんて小学生以来ですから、どこか新鮮な感じがします」
相変わらずこの口調か………………
「そうだな。確かにあの時以来だよな。でもあの時は夕方だったし、何より目の前が山だったからいい景色とはお世辞にも言えなかった」
俺の小学校は山の上にあったがその目の前にさらに山があったのだ。いったいどういう小学校よ
「そうですか?私は結構あの景色が好きでしたよ。夕方の時は特に綺麗でしたし」
「………………そうだな。あの日の夕日が一番綺麗だと今でも俺は思っている。………………どうよ、これ飲む?」
宏美へと軽く放り投げる
「これは、コーヒー牛乳ですか」
「何、昔を語る時のお供はコーヒー牛乳だって相場は決まってるだろ?」
過去に向き合う必要があるというのならばいくらでもしよう。今を変えることができるのならば……………何度でも、いくらでも、何回でも、何層でも見つめ続けよう
「……………さて、そんなことは置いといて。それじゃあ昔話をしましょう」
あらら無視された。やっぱり冗談は考えて言わないといけないな
「そうだな……………あれは小2の時だったか?」
いやちがうな。小学1年生の秋頃のことだ。俺は放課後遼鋭とよく遊んでいた。クラスも同じだったし、何より席が近かったってのもある。飯田と岩村。五十音順のおかげで俺と遼鋭は前後で隣だったのだ
とまぁ俺と遼鋭の馴れ初めはいいだろう。とにかくこの頃からシャイまっしぐらの俺に対して根気よく遼鋭は接してくれたおかげで俺も孤立せずに伸び伸びと遊んでいた。
そんなある日、遼鋭が1人の男の子を連れてきたのだ
「この子の名前は相内宏美って言うんだ。親の会社が同じでよく遊んでるんだ」
遼鋭の後ろで威張っているかのように腕を組んでいる男の子…………相内宏美って言うのか…………………あれ?同じ教室にはいなかったから別のクラスの子?
「オッス、オラ宏美。ワクワクすっぞ」
なぜか悟空みたいに挨拶している……………きっとドラゴ○ボールが好きなのだろう
「………………えっ、えーーっとい、飯田狩虎です……………………」
男子だからといってシャイな人間をなめないでほしい。初対面ならばどんな性別だろうと俺の気恥ずかしいっていう感情は発動するのだ!
「聞こえないなぁーー、もう一度言ってくれよー」
俺の肩に手を回し密着してくる宏美。今考えるとガキ大将みたいな接し方だ。あのゆする時の状態に近い
俺はそれに怯えるようにボソリとまた声を出す
「い、飯田狩虎です……………」
「飯田ーーー?なるほど、それじゃあ今日からお前を飯田って呼んでやる!」
……………すごくグイグイくるなー
「とまぁ互いに知り合ったことだから押し相撲でもしようよ」
「おっいいねぇー。正直僕は強いぞ?」
小学生というのは初対面だとか恥ずかしいだとか、関係性が…………なんてことは考えずに遊ぶことに夢中だ。そんなことを考えてる暇があったら遊んでたいのだ。
そして当時小学1年生の間で押し相撲が流行っていた。なぜかは分からないけれど押し相撲が流行っていたのだ。そして俺もそれにもれずみんなと混ざって遊んでいた。まぁ力がないから相手を景気よく吹き飛ばすなんてことは出来なかったけど
「それじゃあ最初は思い出を共有するために宏美と狩虎が戦ってね」
「ふっ…………ナヨナヨしてるからって手加減はしないからな?」
目を闘志で輝かせ、肩を回しながらこちらへと歩み寄ってくる
「よ、よろしく………………」
俺の宏美が向かい合う。うわっ…………身長高いなー
小学生頃は男子よりも女子の方が身長が高いものだ。発育が早いってやつだな。
まぁ俺の身長が低かったっていうのもあるんだろうけど
ああ……………怖い。高いせいでより威圧的に感じてしまう。力任せに吹き飛ばされないように祈ろう
「それではよーいスタート!」
「いっくぜー!!!」
宏美の両腕が俺の両手めがけて向かってくる!
なんて速さだ!こんなのまともに食らったら吹き飛ばされるのは間違いない!
……………まぁ、馬鹿正直に挑めばそうなるだろう。
ただ、筋肉が無い奴には奴なりの戦い方があるんだ
「あっ…………れ?」
宏美の手が俺の手につくと同時に俺は体をひねりながら後ろへとそらす
そもそも、押し相撲というものは力だけで勝敗が決まらないから奥深いのだ。腕相撲と比べればわかりやすい。腕相撲は単純に力を比べ合うものだから俺のようなひ弱な人間には手の届かない遊びだ。
だけれど押し相撲は違う。テクニックさえ磨ければある程度までなら対抗できるのだ!出来てしまうのだ!初期装備でティガレックスに乗り込むこともできてしまうのだ!……………ただ、やはりある程度の攻撃力がないとあるレベルからは確実にクリアができなくなってしまう。つまり筋肉もテクニックも大事。極端はよくないってことだぜ。
とまぁ俺は当時そんなこと考えてはいなかったけれど、力がないことはわかっていたから敵の攻撃をいなすことに磨きをかけた。いなしてかわして、そして隙をついてカウンターで倒すのだ。それが俺の戦闘スタイル。すだれ拳法とよく言われたものだ
パッパッパッパッ!
相内くんの攻撃を全ていなしていく!どこだろうか?どこらへんで動けばいいのかな?
「こっんの!」
一撃一撃がいなされてしまい思うようにいかないことに焦ったのだろうか、力任せに連続で手を突き出してくる
パパパパパパパパパパパ!!
やっ、やばい!威力が高すぎて肩がもってかれそう!…………しかし、この時だ。この時を待っていた。焦って無闇矢鱈に連打をしてくる状態を待っていた!この状態だと手数が多すぎて狙いが定まらないと思うかもしれないがなんてことはない、テキトウにやるということは攻撃のリズムを自分に刻み込まれたリズムに放り投げるということだ。一見不規則だが少し時間をかければその規則性を見破れる!
だからこの攻撃をあと少し耐えてカウンターを決めて勝ちだ!
……………なんてことを当時は全然考えていなかったけれど、これのようなものをなんとなくでやっていた。
「運動なんて結局はフィーリングよ」というのが光輝の口癖なのだがそんな感じだ。
「ぐっ、あっちょっ…………痛い!肩外れる!肩外れちゃうってば!」
宏美の押しの威力が強すぎて見つけるよりも先にやられてしまいそう
「大丈夫だ。あとで僕が綺麗にくっつけてやるから」
目の前の相内くんからお情けが!
「ち、違うよ…………………」
今この場面を振り返ると「ガキ大将テメー!」と言いたくなる。どんだけ勝ちたいんだよ。相手の肩外してでも勝ちたいのか
「大丈夫。後で僕が痛いの痛いの飛んでいけしてあげるから」
遼鋭からすかさずボケが!
「い、いや。そういうことじゃなくて!」
ツッコミをいれるためにほんの少し遼鋭の方を向く。
だがしかし、俺が振り向いた瞬間にほんの少しの隙を突くように相内くんが肩が痛いと言ってる人間相手に容赦ない強烈な一撃を放つ!
ブオン!
宏美が放った一撃は俺の両腕に吸い込まれるように向かってくる。
宏美も勝利を確信してか、悪どく笑っている。遼鋭は地面に木の枝を使って落書きをしている。どうやらはらぺこ青虫を書いているようだ。そして俺も……………勝利を確信して笑っていた。
宏美が一撃を出すよりも少し早く俺は手を出していたのだ。
「勝利を確信した時が相手の最も油断する時」なんて素晴らしい言葉だろうか。確かにその通りだ。敵がいなくなれば緊張する必要もない、全然ない。逆に緊張していたらお前どんだけ臆病よ。とバカにされてしまうだろう。
それを踏まえて、カウンターを決めるには[予知をして相手が来そうなところに手を置いておく]か[えげつないほどの反射神経で相手が攻撃してきた瞬間にかわして攻撃する]の2種類がある。正直後者は宏美やイリナとかの天才野郎にしか使えない技だから俺には無理だ。
だから前者を選ばざるをえないのだけれど………………まぁ普通は出来ない。そんなの出来たら苦労しないよ。
だけれど予知はできなくても誘導はできる。
まず肩が痛い旨を言う。要は今の俺にはハンデがあるぜと言いたいのだ。次に振り返っても自然な状況を作り出す。こればっかりは外部からの協力が必要だけれど、案外遼鋭は冗談好きだから適度に突っ込んでくれると考える。
そうすれば勝ちたいと思う宏美はこの隙を逃さずに攻撃をしてくることは自明の理だ。
と、かっこよく言っているが当時の俺はそんなことは考えていなかった。もうね、偶然の産物ってやつですよ。肩が痛いから早めに終わらせる手を考えていたら、遼鋭がボケて、それが結構俺のツボにはまって、振り返ってツッコミを入れようとしたら腕が勝手に前に出てしまったのだ。なぜ腕が前に出たのかと言われたら、ツッコむ時に手がお留守だったから前に出したとしか言いようがないけれど………………まぁ、とにかく運がいいことにカウンターをしてしまったのだ。
ぺたん。
僕の腕が宏美くんの胸に当たる。ノールックで手を出したから軌道がずれちゃったのか
「ああ、これじゃあ僕の反則負けだっなんでっっ!?」
「うおおおおオラァァァ!!」
グッパァン!!
僕が負けを宣言している途中に宏美くんが全力で僕の顔面を殴りつける!
「うわあぁぁぁぁあんんんん!!うわあぁぁぁぁあんんんん!!!」
吹き飛んだ僕はその場で盛大に泣きわめいた。
あの頃ってか小・中学生のころはよく泣いていた。最初の方はジャンケンに負けただけで泣いてたし……………今思うとかなりウザいな俺。
「うおおおお!!テメぇぇえ殴らせろ!!何触ってんだよ!!!」
宏美は俺を殴ろうと暴れまわっているけれど、遼鋭に抑えられていてその場でジタバタしているだけだった。
そして俺はその場でずっと泣いていて、周囲の言葉が聞こえないほど泣くことに夢中になっていた。
これが俺と宏美の馴れ初めだ。散々である。全然感動的ではない。全然冒険的ではない。確かに俺は泣いたけれど、それは痛みによるものだ。確かに土ボコリに塗れたけれどそれは殴られて吹き飛ばされたからだ
「………………なんでそこを話したんですか?」
聞いていた宏美から非難の目が……………
「いや、これがないと次に話すことが全然わからないだろ」
一応この話をしておかないと次に話す物語であまり納得がいかなくなる。うやむやになってしまう
「しかし振り返ってみるとあの時に泣いてなかったら、もしかしたらその時に勘づけてたのかもしれないよな」
あの時に泣いてなければ、怒りの原因を知ることができて、宏美が女性だということが分かって、高校の入学ガイダンスの時に気絶させられずに済んだのかもしれないよな………………クソッ、しくじったぜ
「いや、案外にわからなかったかもしれませんよ?貴方は変なところで鈍感ですから。いや、変なところと言うよりかは大切な局面で鈍感ですから」
「いやいやそれはないって。俺の勘とか半端ないよ?マリ○カートの時にハテナボックスから出てくるアイテムを当てることできるから。2回中3回は当たるから」
「驚異の150%!じゃなくてですね。そういうどうでもいい時に勘が働いて、大切な時に勘が働いてないと言ってるんです」
「マリ○カートのハテナボックスが大事じゃないと!?最下位の時とかあれでどれだけ救われるか知っているだろ!?」
「私、1位か2位にしかなったことがないですから」
出たよ、完璧野郎発言。まぁ完璧野郎だから別にそう言っても不快には思わないのだけれども。
「かもな。赤甲羅ってのは5位にお似合いだよな」
1位に赤甲羅は似合わない。1位にはバナナの方がお似合いだ
「そうですね。アイテムの記憶がほとんどバナナしかないですもの」
ああ、やっぱりか。これが1位の悲しい定めか………………アイテムでバナナしか見てないなんてマリ○カートの醍醐味がないようなもんだ。楽しいのか楽しくないのか全然わからない
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。さっさと昔話の続きをしようぜ。………もう一本コーヒー牛乳いる?」
早くしないと昼休みが終わってしまう。
「一本もらっておきますね…………それじゃあ続けましょうか。」
「うっしゃ、それじゃあ続けるぜ」
とまぁ宏美に初めて殴られてから1週間ほど経過した頃から話は始まる。ここからが本番。さっきのはお茶漬けにお湯をかけてる時みたいなものだ。ずばり余興!子供の狩虎くんの口調がちょっと大人びていたのも、頭で考えていた内容がちょっと小学1年生からは逸脱していたことすらもが余興である。ここからマジに過去を語っていく。だけれど難しいことは何もない。ただ事実を淡々と短く語っていくだけだ。そう、言わばこれからが楽しい食事の始まり始まり〜〜〜…………みたいなね。おっと、長引いちゃったらいけないな。それじゃあ真面目に語るとしましょうか。俺の、いや、僕の情けないお話を
「ねぇかこーー。宏美の機嫌があれからずっと悪いんだよー。ごめんなさいしてきてよーーー」
後ろの遼鋭くんが僕の肩を揺らす。今僕は5分休みを利用してボーッとしているんだ
「えーーー。なんでぇ……………僕寝てたいよーー」
遼鋭くんに背中をたくさんゆらされるけれど、僕は机にベターっとくっついてダラダラする
「今じゃなくていいんだよーー。学校終わってからでいいからさー」
それでも遼鋭くんは僕の肩を揺すり続ける。その動きと同じに僕がアウアウ言っちゃうけど、それは筋力とやらがないかららしいから僕は何も出来ないよ
「えーーー……………それならいいよーーーーー。相内くんのクラスってどこ?」
「うーんと、3組だったかな?」
「3組かーー。分かったよーー」
キーンコーンカーンコーン
鐘と同時に先生が入ってくる。
はぁーー…………次は国語かぁ。ごんぎつねの続きかな?あれの面白さがよくわからないんだよなー…………………
ノートに棒人間を書き続けてその授業。いや、まとめて言おう。その日の授業は終わった。
そもそも小・中学生の時の俺は授業がすこぶるつまらない時は(算数・数学以外のすべての教科)棒人間を描いて暇を潰していた。[暇]という文字を書いてそれを棒人間に潰させていた。棒人間に色々な武器をもたせ、色々な攻撃の仕方で暇を粉々に打ち砕いていたのだ。
これが後の[暇を撲滅しようの会]設立の動機へと繋がっていくのだが……………それはまたのお話。てかやっぱり話す気はない。全然ない。ただの中学生の遊びだから話の種にすらならない。
そんなこんなで僕の棒人間の技術は今日一日中書き続けたことにより跳ね上がり、ウキウキとした気分で帰る支度をしていたんだ。
「ねぇかこー。うわっ…………また棒人間描いてたの?本当、模写は下手なのになんでこんなに棒人間は上手に描けるの?」
ランドセル姿の遼鋭くんが後ろから僕に話しかける
「分かんないよ。なぜかは分からないけれど、棒人間だけは上手く描けるんだよねー」
今も昔も、美術と技術と音楽の成績は中の中の上といったところだ。いや、美術とかで閃くアイデアは素晴らしいんだけど、それを再現することができる腕を持っていないのだ。手先が不器用……………はぁ、こうやって俺の才能・才覚は削られていくんだな
「凄いねぇー。それはおいといて、宏美にごめんなさいした後に一緒に公園で遊ぼうって言って欲しいんだけど……………」
「えぇ…………いいけどーー、そういうのは遼鋭くんが言った方が良いんじゃないの?」
「大丈夫大丈夫。僕が言っても狩虎が言っても宏美は良いって言ってくれるんだから」
「……………う、うん。分かったよ。言っておくよ………………」
こうして僕はとぼとぼと教室を出た
はぁ…………謝るって言っても僕何も悪いことしてないんだけどなぁ…………。もしかして相内くんはダメなことをする人が嫌いなのかな?確かにそりゃ僕もダメなことをしようとは思っていなかったけれど、僕もダメなことは嫌いだけど、パンチは痛いからやっちゃダメだよ………………はぁ、嫌われてるのかなぁ僕。
ドン!
廊下で人とぶつかる
「いっ………ああ、ごめんなさい!ごめんなさい!」
こういう時、僕は深々と体を折ってお辞儀をする。考えごとして前を見ていなかった僕が悪いのだから、僕がごめんなさいをすれば良いんだから
「いでで………あっお前は確か先生に[てんさい]みたいなこと言われてたやつじゃないか!」
僕とぶつかった大きな男の子が指をこちらに向けてくる。
誰だろう?僕のことを知っているなんて…………
「てんさい?それって凄いの?」
大きな男の子の隣にいる細めの男の子が大きな男の子に尋ねる。
「よく分からないけどなんかこう…………なんていうか凄いんだよ!」
手をワッサワッサと動かしながら説明する
「へぇーーそんなに凄いのかぁ」
そして、そんな話を聞いた細めの男の子は分かったようにのんびりと返事をする。
そしてそんな感じで2人の男の子が喋っている間、僕はボケーっと聞いていた。
初対面の人とお話するのが恥ずかしいからね。
とまぁごめんなさいも言ったし、2人ともおしゃべりを楽しんでいるようだから、僕はじゃまだよね。僕も早く相内くんのクラスに行かないと日が暮れちゃうよ
こそこそと2人から離れて教室へと向かう
「やい!どこに向かおうとしてんだい!」
えぇぇ、まだからむんですか!?そろそろ僕泣いちゃいますよ!?
大きな男の子は僕の肩を掴み、引き留める
「[てんさい]とか野菜とかダサいとかそういうのは知らないけれど、この大吉様にぶつかった………えーっと、おとしまえ?なんかおとうちゃうがそんなこと言ってたんだよな……………と、とにかくその[おとしまえ]みたいなのをはらってもらおうか!」
お、おとしまえ!?それは一体なんなの!?お年玉じゃなくておとしまえというのはなんなんだ!?
「そうだなぁ、俺と範人に10円ガムを10個ずつ買ってきてもらおうか」
範人くんって子は細い人かな?…………10円ガムを20個だって!?20個ってことはつまり20×10円!?えーっと………そうなると200円もするの!?高い!高すぎるよ!僕のお小遣いがなくなっちゃうよ!!
「うっ……うっく、うううううん………………うわぁアァァアンンン!!!」
小学一年生からすれば途方もない数字を聞かされてしまい、俺は盛大に泣きわめく。
何度も言うが俺は小学生の時は最高に泣き虫だった。理不尽なことを言われれば泣いてたし、小突かれただけでも泣いていたような気もする
「ちょっ、な、なんで泣くんだよ!俺そんなに悪いことしたか!?」
そして、俺が泣き始めると前の2人は狼狽え始める。小学1年生でもう既に生粋の悪みたいな奴はこの世にはいないってことだろう
「な、泣き止んでくれよーー。先生来ちゃうじゃないかーー」
大きな男の声が少し湿り始めたが、それでも精一杯あやそうと努力する
「うわぁぁあんんん!!うわぁぁあんんん!!」
だが俺にはそんなこと関係ない!泣いてる時は基本他の人の声なんて聞こえないものだ
「おいそこのでかい男。お前なに泣かせてんだよ」
僕の前の方から声が聞こえる
「ん、誰だ?…………あぁぁ、宏美だ!最近転校してきて悪いことをやってるやつにパンチをするあの宏美だ!」
に、逃げろ!と大きな男の子達は言いながら走って逃げていく
「たっく…………弱いものいじめしやがって…………ってあれ?お前は飯田じゃないか」
僕に気づいたのかこちらまで歩いてくる
「う、ううう…………ぁぁあり、ありがどう…………」
腕で目の辺りの涙を拭き取り続ける。だけれど涙は全然止まろうとしてくれない
「いいよいいよ、あんなこと。それよりハンカチ貸してやるからさ、ちゃんと泣き止んでくれよ」
ピンク色のハンカチを差し出す
「ゔっ…………ひっぐ………あ、ありがとう」
それを僕はちゃんと受け取り、それで涙を拭き取る
そして、僕が泣き止む数分間。相内くんは僕のそばで待っていてくれた
「この前はごめんなさい……………」
ぺこりとお辞儀をする
「この前?……………この前っていつの話?僕全然君に恨みはないんだけれど」
「えっ、えええーーっと…………押し相撲の時」
「ああ、あの時ね。いいよいいよ別に。あれは僕も悪かったところあるしさ」
あっはっはっはっと笑う相内くん。うーーん…………それじゃあ遼鋭くんが言ってたのはなんなんだ?
「え?それじゃあ遼鋭くんが相内くんの機嫌が悪いって言ってたんだけどそれはどうして?」
「ああ、何?まさか君は押し相撲の時のせいで僕が今まで機嫌が悪くなってたって思ってたの?はっはっはっ!そうだったら一目散に僕は君の事を殴りに向かってるよ!!」
……………一目散に殴られたような気がする
「ま、まぁとにかく。僕は君のことでは怒っていないよ。僕が不機嫌だったのはもっと別のことなんだ」
僕がじーっと相内くんを見続けていたら、相内くんはどもりだす
「別のこと?ふーーん…………相内くんみたいに強い人でも困ることってあるんだね」
「僕は強くないよ。ただ怒りっぽいだけだよ……………まぁ、僕が困ってたのはそんなことじゃないんだ。僕は屋上に行きたいんだ」
「屋上?昼休みにいけるよ」
ちなみに屋上は昼休みは開いてるけどそれ以外の時間帯は閉じているのだ。なんか危険だからとかなんとか………………
「いや、僕は昼休みはグラウンドでサッカーをするって決めてるんだ。だから行けないんだよ」
……………サッカーしなきゃいいのに
「それじゃあ放課後いくしかないけれど、どうやら鍵がかかってるぽいから行けそうにもないんだ」
……………サッカーしなきゃいいんじゃないの?
「サッカーをしないっていうのはダメなの?」
「ダメだね、僕はこう見えてクラスのエースストライカーなんだ。僕が抜けたら他クラスとの試合が成り立たなくなる」
くそっ、屋上行きたいんだけどな……………と相内くんは小さな声で言う。顔は真剣そのものだ。くじ引きを引くときみたいな顔なんだよね
「どうしてそこまで行きたいの?屋上なんて一輪車漕ぐだけでしょ?」
屋上って一輪車と縄跳びのイメージしかない
「んっ…………まぁそうなんだけどさ。僕最近転校してきたばっかりで、いままで学校を探検してたんだよ。それでさ、屋上以外は行ったんだけど……………」
なーるほどなぁ。確かにさっきの大きな男の子も相内くんが転校生だみたいなこと言ってたもんなぁ
「あと遼鋭が夕方頃の屋上は綺麗なんだって言っててさ……………どうしても行きたいんだ。ったく遼鋭は一体どうやって屋上にいったんだ?」
なるほど……………そういうことか
「分かったよ。それじゃあ今から屋上に行こう」
「へ?今なんて言ったんだ?」
相内くんは驚いた顔をする
「だから、僕が屋上に連れて行ってあげるよ!さっきのお礼ってことでさ」
さーってと、屋上の扉の前だ。周りには一輪車とか縄跳びがブラーンとぶら下がっている
「なぁ飯田。ここまで来たのはいいけれど、この扉は鍵がかかってるんだぞ?入れるわけないって」
無駄足だと言いながら戻るように促してくる相内くん
「むだあし?僕の足は無駄じゃないよ。これがないと歩けないもの」
「いや、そういうことじゃなくてだな…………鍵かかってるんだから入れないだろ?だからここまで来る時間が無駄になったって言いたいんだ」
「へぇーそういう意味なんだ。相内くんは物知りだねー……………まぁ、むだあし?にはならないよ相内くん」
扉の前まで歩く
「だーからー。扉には鍵がかかってるだろ?どうしようもないって」
「鍵がかかってるんなら開ければいい」
ポケットから鍵を取り出す
「え?お前、まさか盗んできたの?」
「やだなぁ、違うって。これは職員室に掛けてあるのとは別物だよ」
鍵を鍵穴に差し込む
「いや、ああいうのって一本しかないんだろ?別物とか以前に本物だけしかないはずだ」
「いやいやいや。一本しかないのなら二本にすればいいんだよ。複製って言うの?そんな感じでそっくりのものを作ればいい」
まず金曜日に鍵を借り、それと同じようなものを替え玉としておいておく。複製?みたいなのはお父さんの友達の人にすごく頭が良くて手先が器用な人がいるらしいからその人にお願いしてしてもらえばいいんだ。すごく簡単
「な、なるほど…………確かにその通りだ」
「でしょ?作っちゃえばいいんだよ……………まぁ僕もこの景色が好きでね、だからわざわざ鍵を作ったりなんかしたんだ」
ガチャン
鍵は開き、重い扉は開かれる
そして、目の前に広がるのは赤色の空だ。
雲が何層にも重なり、青色と赤色と黒と白が辺りに散りばめられている。
「綺麗……………」
相内くんはその景色に見入ってるようだ
「ここよりもこっちの景色の方が綺麗だよ」
屋上のフェンスギリギリまで近寄る
「確かに僕たちの学校は山に囲まれててくるのに疲れちゃうけれど、目の前が山だから景色も良くないといえば良くないけど。山に沈んでいくお日様って綺麗だしさ、山と山の間から見える光も綺麗なんだよね」
山と山の間にはビル群があり、夜に備えて光を携えていく。ポツポツと光は灯り、山間だけが白色に輝き出す
そして、夕日は山へと吸い込まれていき、それに負けじと山を明るく照らし出す。山だからカラスも巣に帰ろうと飛んでいる。
古典的に言えばいとおかしな風景だ。
「また来たくなったら僕を呼んでよね。いくらでも開けるからさ」
相内くんは景色を眺めながらコクリと頷く
……………あっ、そういえば言うの忘れてた
「そ、そういえば遼鋭くんが一緒に公園で遊ぼうって言ってたよ」
大丈夫。きっと大丈夫。言ってとは言ってたけどいつまでとかは言ってなかったからきっと大丈夫。こんなにいうのが遅くなってしまったけれど……………まぁ遼鋭くんなら許してくれるだろう!うん!
「ん?ああ……………分かった。それじゃあ今からでも行こうか狩虎」
「え、行ってもいいの?相内くんと遼鋭くんの邪魔にならない?」
「はっはっ………何を言ってるんだか。こんな最高の景色を見せてくれたやつを邪魔だなんて到底思えないよ……………それと僕のことは相内じゃなくて宏美と呼んでくれ。苗字で呼ぶような仲じゃもうないだろう」
「え?……………本当にいいの?」
「良いって言ってるだろ?今日から僕たちは友達さ」
「とまぁ、こんな感じで俺と宏美はお友達になり、その後を楽しく過ごしましたとさ。めでたしめでたし」
話していて思ったんだけど俺はこの日に何回謝ったんだろう。
「……………途中省いてません?」
「省いたよ。ああ、省いたともさ。時間がないんだよ時間が!予鈴まであと2分だからな?省いてなかったらテストに間に合わなかったぞ!!」
まぁ、屋上に行くときの事を省いただけだから何か影響があるとかは全然ないのだからいいんだ。もうあのシーンは良いんだ
「そぉうですねぇー。あったところで貴方が恥かくだけですものね」
「……………いや、恥なんてかいてなかったから。ちょっと階段で転んだだけだから」
「階段で転んだだけ?……………まぁ、そういうことにしといてあげましょう」
キーンコーンカーンコーン
実に良いタイミングで予鈴がなる。良くやった!予鈴くん、俺は君を褒め称えるよ!
「それじゃあ教室に戻……………そうだ、最後にひとつ言いたい。なに、歩きながらで良いからさ」
座りながらじゃ授業に間に合いそうもない
「本当はこういう時にはかっこいい事を言わなきゃいけないんだけどさ。生憎キャパシティーが全然ないからそんなことは言えないし、俺のような奴にはそんな事を言う資格はない。ただ淡々と、いけしゃあしゃあと、俺が思った事をありのままに言うだけだけれど」
隣の宏美を見つめる。宏美もこっちを見ていたのだろう、目が合ってしまった
「遼鋭からは全部ひっくり返せば同じだとかよく分からないことを言われてさ、ひっくり返すには何がいいのかをずっと考えてたんだよ。まぁ結局は何も思いつかなくて昔話になっちゃったけど…………存外これが正しかったのかもしれないな」
てかめくるって何をどうめくれば分かるんだ?…………はっ、まさかスカート!?確かにめくれば素の宏美がでてくるよな!!あーっくそ!まさか遼鋭が言おうとしてたことはこれだったのか!?
「………………いや、正しくなかったのかもしれない。それは俺にはよく分からないけどさ、気づけたものも多い」
うーーん……………スカートをめくるのを今やるべきか?いや、それで保健室送りなったら俺の学業が大変なことになってしまう
「お前が何で急にイメチェンをしたのかは俺には分からない。しかもその理由を言わないということは俺には知られなくないんだろうな………………まぁ分かる。俺には頼り甲斐がないからな。」
「そういうわけじゃ……………」
「そういうわけじゃないのかもしれないし、そんなことは良いんだ。どうでもいい。頼って欲しいって訳じゃないんだ。」
うーん……………うまく言葉がまとまらない。こういう時、饒舌な奴を羨ましく思う。
「………………俺はお前がどうなろうと、何を考えていようと信じてる。だって俺は今までずっとお前に救けられてきたんだ。ずっとだずっと。この10年間、俺はお前に救けられ続けた。だからお前がどう変わろうとも、どうなろうとも正しい奴だってことは知っているんだからさ。」
泣いてる時も、泣かされてる時も、カツアゲされてる時も俺はずっと宏美に救けられてきた。あの時もだ…………………
「さっきも言った通り頼ってくれって訳じゃない。だって俺は今までお前に恩を返せたことがない、だから信用されないのも当然だ。だけど、お前がずっと俺を信用できなくても、俺はその間お前をずっと信用し続けているってことは知っておいてくれ。今じゃなくていいんだ。もし俺が信用に足る人間だと思えたのなら、その時に理由を聞かせてくれ。力になれないかもしれないけど、努力はするからさ」
カッコいいことは言えないけれど、カッコつけるぐらいなら、俺でもしてもいいよな……………よし、最後にカッコつけて締めくくろう
「最後の最後に一つ」
ガチャリと扉を開ける
「コーヒー牛乳の紙パックさ、家で洗った後に俺の家まで持ってきてくれ。ゆき○たん集めてるんだよ」
俺はその扉にカッコつけながらもたれかかる。
紙パックを洗って回収するなんて……なんて俺はエコな男だろう……………しかも[俺って実はエコなんだ]みたいなのを見事に隠して謙虚な姿をもちらつかせている………………やばいな。俺にしてはカッコつけすぎたか?
「………………最後さえなければカッコよかったんですけどね」
さっきまで穏やかな目つきだった宏美は、今じゃ軽蔑してるかのように俺を見ている……………どこをどう間違えたんだ俺は
「まっ、そこが貴方の良いところなんですけどね」
そんな言葉を残し、宏美は走ってこの場から去っていった
「……………初めてそんなこと言われたんだけど」
あーーなんていうんだ、これがギャップ萌えってやつか?……………なるほどね。確かにキュンときてしまうな。
……………ふっ、俺としたことが宏美に胸をときめかされるなんて
「あれ?ちょっと待て…………あいつ走ってたよな?」
うげ!もう1分もないじゃないか!
「おいおいおい、間に合うのか!?」
こうして俺は教室へと走り出すのであった




